悟がレベル1になってから、一週間ちょっとが経過して。ナザリック内の視察も一段落したので、今後の為にレベリングを開始しようとしたのだが……。
「……デミウルゴス」
「はい、アインズ様」
「私の今のレベルで倒せる者はナザリックに存在したか……?」
そう。根本的な問題なのだが、ナザリック内のモンスターは全て今の悟よりもレベルが高いのだ。つまり、悟単独での撃破は通常ならば難しいのだが……。
「お望みとあらば、全てのシモベたちがアインズ様に倒して欲しいとひれ伏しますが……どのレベルのシモベを倒しますか?」
「……は?」
悟の予想外の答えが返ってきた。
「……現実的な問題として、だ。レベル1でも倒すことが可能なシモベは……第一階層のポップするアンデッドくらいではないのか?」
更にそう訊くと、デミウルゴスは少し思案して答える。
「理論的には魔将でも可能ですが……倒すのに掛かる時間が数日に渡ると思われますから……確かに、コツコツとレベルを上げるのならば第一階層のポップするシモベたちが現実的でしょうか。それなら数分で倒せる筈なので」
「そうか。では、午後からレベリングをしたいのだが」
悟がそう言うと、デミウルゴスは優雅に一礼する。
「かしこまりました。では、第六階層の円形闘技場にシモベたちを集めますので、念の為毒と麻痺に耐性のある装備を身に着けておいて下さい。ペストーニャも控えさせておきますので、万が一の際もすぐに治療させます」
「分かった。ではデミウルゴス、準備を頼む」
悟はそう言うと、メイドに少し休む旨伝えて寝室に下がる。
(皆が俺に倒されたがるって何!?ナザリックってドMしかいないの!?怖すぎるんだけどっ……!!)
声に出す訳にもいかず、脳内でそう叫ぶと悟はベッドの上をゴロゴロ転がって悶える。
「第一階層のポップモンスターだと、スケルトンかなぁ。でも、ポップアップモンスターでも俺に忠誠を誓ってるんだっけか?」
そんな疑問はあるが、デミウルゴスの事だ、きっと万全に整えてくれるだろう。と、そう思い悟は少し休んだ後寝室から出てメイドに装備を変える旨伝える。
装備を変えてから読書をして時間を潰していると、あっという間に昼になった。いつものように美味な昼食に舌鼓を打つ。午後のことを考えてか、普段よりやや少なめな昼食を食べ終えて食後の紅茶を楽しんでいると、デミウルゴスが午後の予定を教えてくれる。
「最初はスケルトンを倒していただきます。レベルが5程度に上がりましたら、今度はスケルトンメイジを。レベル10になったら、本日は休みましょう。急激なレベルアップはお身体に負担が掛かる可能性がありますので」
「分かった。確かに1から10でも結構なレベルアップだからな。様子を見て都度休憩を入れたいんだが、構わないか?」
悟の提案に、デミウルゴスは大きく頷く。
「勿論でございます。アインズ様のペースで成長していただければいいのですから」
「そうか。では向かうか」
悟はそう言うと、部屋から出てデミウルゴスと警護の者たちを引き連れて第六階層へ転移した。
事前にデミウルゴスが話を通していたからか、円形闘技場の客席には守護者たちが座していた。
「……デミウルゴス」
「はい、アインズ様」
「何故、守護者たちがいる?戦いにくいのだが……」
(こんなに見られてたらマジ動きにくいんだけど!!そもそも俺戦士じゃないし、けど魔法使えないから今は肉弾戦か巻物を使っての戦いくらいしか出来ないしっ……!!)
内心狼狽えまくりだが、表面上は極めて冷静にそう言えば、デミウルゴスは当然のような顔で答える。
「皆がアインズ様の勇姿を観たいと言っておりましたので」
「……レベル1の戦いなど、泥臭いばかりで勇姿などとはほど遠いのだがな……」
大きく溜息を吐きながらそう言うが、デミウルゴスは大きく頭を振る。
「そのような事はございません。アインズ様が戦っていれば、そのお姿こそが勇姿となるのですから。ささ、存分にどうぞ」
そう言われて視線を前に向けると、どことなく恥ずかしそうなスケルトンが数十体。列を成していた。
「……あれは?」
「アインズ様に一太刀頂きたいと思っているシモベたちです。アインズ様に倒されるのであれば本望だと、殆どの者たちが立候補しましたが……経験値が多そうな者たちを厳選しておりますので」
そう言われて、悟は内心ドン引きしつつもメイスを構える。一太刀といわれはしたが、スケルトンに有効なのは打撃なので装備品は鈍器……もといメイスなのだ。
「すまない、今の私では力が足りず何回か攻撃してしまうが許せ」
そう声を掛けると、スケルトンは嬉しげに頭を揺らしていた。
(……こんな善良そうなスケルトンを殴るとかめちゃくちゃ良心が痛むんだけどっ……!!)
そうは言えど、経験値には代えられない。悟は心の葛藤を隠しながらメイスを振り上げた。
(意外と、重っ……!!)
振り上げたはいいが、自力で振り下ろすまでもなく、重力に引かれてメイスがスケルトンの頭部に落下する。
「あ」
ガコン!と、大きな音がして。頭蓋骨が砕け散る。すると、残った身体も一気に塵になった。そして、その刹那、流れ込んできた経験値。
「……っ……!」
頭がクラクラとして、咄嗟に膝をつく。すると、デミウルゴスとペストーニャが慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
「だ、いじょうぶだ……!レベルアップ酔いをしただけだから、少し落ち着け」
何とかそれだけ言うと、悟はフラフラと立ち上がる。
「ですがアインズ様!」
「いや、本当なんだ。1から2が多分劇的なだけであって、次のレベルに上がるときはこんな風にはならないだろうから安心してくれ」
悟はそう言うと、再び立ち上がりスケルトンに立ち向かう。
「すまない、私の経験値となってくれ」
そう話し掛けると、スケルトンは嬉しそうにコクコクと頭を振っていた。
「あぁ……。スケルトン相手に一生懸命なアインズ様も愛おしいでありんす……!」
ハァハァと隣で息を荒げるシャルティアを、アウラは必死に抑える。
「見てる分にはいいけど、手は絶対に出さないでよ!?それが条件でアインズ様の勇姿を見て良いってデミウルゴスから許可貰ったんだから!」
「アインズ様が愛らしいのには同意するけど……私の扱い酷くないかしら?何でシャルティアはアウラだけなのに、私はマーレとコキュートス二人がかりな訳!?」
不満そうにそう漏らすアルベドに、マーレは締め付ける蔦をギュッと強くして言う。
「じ、自業自得なんじゃないですか?」
「全テ自分ノ行イノセイダロウ。拝見デキルダケデモアリガタイト思エ」
前科があるアルベドに、マーレとコキュートスはやや辛辣だ。
そんなアルベドとシャルティアを、セバスがプレアデスを率いて監視している。勿論、本気になった二人に勝てはしないが、足止めと伝達は出来る。
「アインズ様にもレベル1の頃はあったんだよねぇ……そう思うと今レベル上げを見られるのってすごく貴重だよね」
アウラはシャルティアを抑えながらも、視線は悟に向いている。悟はたどたどしい動きで10体目のスケルトンを倒して、丁度レベルが5になったところだった。まだスケルトンの行列は続いている。
「デミウルゴス。今レベル5になったんだが……この行列はどうする?」
まだ30体程のスケルトンが行列している。当初の予定では、レベル5になったらスケルトンメイジが相手だった筈だが……。
「そうですね。アインズ様さえよろしければ、全員倒していただけますか?厳選したスケルトンですので、経験値も通常の者よりも高いですから。何でしたらスケルトンメイジは明日に回しても構いませんので」
そう言われて、悟は素直に頷く。
「そうだな、せっかく志願してくれた者たちだ。全て私の経験値とすることで供養とすることにしよう」
ポップアップモンスターは幾らでも再生するが、同一個体では無い。だからこそ、悟は今ここに居るスケルトンたちの意志を尊重しようと思ったのだ。
最初の頃よりはメイスを振るのも楽になっていたから、一撃で屠る。レベルアップで体力も増したのか、サクサクとスケルトンを倒してゆく。悟はものの十分もしないうちに残りのスケルトンを全て倒しきっていた。
「……レベル11、か。予定より増えたな」
「お疲れ様でした、アインズ様。結局休憩もお取りになりませんでしたし、今日は早めにお戻りになってはいかがでしょうか」
デミウルゴスにそう言われて、悟は自分がぶっ通しでレベル上げをしていたことに気付く。
「そうだな……。汗もかいたし、早めに風呂に入って休むとしよう」
そう言うと悟は観客席の皆に向かって声を掛ける。
「お前たちももう戻れ。明日以降は通常業務に戻るように」
遠回しに、明日は来るな、という意味を込めてそう言えば、皆が名残惜しそうにしながらも頷く。それを見届けてから、悟はデミウルゴスと護衛を引き連れて自室へ戻ったのだった。