アインズ様Lv1   作:赤紫蘇 紫

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次が最終回の予定です。


穏やかな日々

 悟がレベル1になってから、早3ヶ月が経過していた。悟のレベルはユグドラシル時代のようにサクサクとは上がらず、レベル50台で頭打ちになってしまっていた。どうしても、60には届かないままだ。

(うーん……。やっぱりナザリックのアンデッドぐらいだもんなぁ、無限湧きするのって。現実だとトブの大森林のモンスターだってレベル上げに使えば枯渇するもんなぁ……気をつけないと。幾らモンスターでも絶滅させるのは後味が悪すぎるよ。俺が知らないだけで、実はレアなモンスターも存在するかもしれないし)

 と、そんな事を考えて、悟はある程度狩り尽くしてからは円形闘技場での魔法訓練メインに切り替えていた。また、実際に倒してはしまわないが、戦闘の相手にデミウルゴスの配下である魔将を借りて今のレベルでの戦闘組み立てなどを改めて学び直したり……と、色々試行錯誤していたせいもあって、今の悟は以前よりも戦闘の幅が広くなっていた。

「流石はアインズ様!レベル差をものともしない立ち回りに感服する事頻りです……!!」

 本日の対戦相手の憤怒の魔将がそう感嘆の声を上げるが、悟は苦笑いである。

「それは褒めすぎだろう。お前の本気を全く引き出せていないのだからな」

 悟がそう言えば、魔将は大きく首を左右に振る。

「そんな事はございません!現地の強者とも戦った事がありますが、アインズ様の動きはその者たちとは全く異なっております!!」

 魔将のレベルは80で、現在の悟のレベルは60弱。ユグドラシルであれば絶対に勝てない、絶望的なレベル差であった。だが、経験を積んだことによって、今の悟であれば勝てはしないけれど生還出来る程度の動きは出来るようになっている。つまり、隙を作って逃走可能なのだ。このレベル差でそれはかなり信じ難い事であった。だからこそ、魔将の賞賛の言葉だったのだが、悟は向上心が強いこともあってナザリックの者特有の過大な褒め言葉だと思っていた。

「そうか、そう思っていてくれるのなら嬉しいな」

 微笑みながら悟がそう言うと、黄色い声が上がる。アインズ様当番のメイドに、仕事の合間に悟の訓練を見に来ていたアルベドとシャルティアの声だ。相変わらず、お目付役としてマーレとコキュートス、アウラがそれぞれ二人を抑え込んでいるが、最初の頃よりは落ち着いて来たのか暴走の可能性は少なさそうであった。

「あぁ……表情豊かなアインズ様も愛おしいでありんす……!」

「あの笑顔を私だけに向けてくれたらいいのにっ……!!」

 二人して勝手なことを言っているが、もう皆慣れているのか呆れたような表情をしている。……悟と魔将の傍に控えているデミウルゴスの視線は、呆れた、というよりも警戒に満ちた物だったが。何故なら、懲りもせず二人して悟の入浴を覗こうとしたり、寝室に侵入しようとしたり……と、定期的にやらかしているからだった。アルベドは以前からアインズが不在時に寝室に入り込んでいたが、今はほぼ悟がナザリック内に居る為、より警戒が厳しくなり寝室への侵入は不可能になっていたのだ。アルベドは「アインズ様の香りを嗅がないと安眠出来ないのよ!!」と騒いでいたが、デミウルゴスはその言葉を見事にスルーし、悟の身の安全を第一に考え、悟が寝室に居なくてもメイド以外の入室を不可としていたのであった。

 シャルティアは度々夜這いを試みたが悉く失敗している。また、一度悟がスパリゾートナザリックに警護の者だけを引き連れて行った際に、どこから情報を仕入れたのか二人して覗きを試みた為、それ以降守護者を伴わないスパの利用は出来なくなったのだった。

 ……この二人の対策で、どれだけデミウルゴスに負担が掛かったのかは想像に難くない。普段は基本的には執務には関わらないパンドラズ・アクターの手を借りる程だったのだから。

「デミウルゴス」

 悟がそう呼べば、デミウルゴスはすぐに悟の傍に控える。

「今日はスパに行きたいから、女性陣を何とかしてくれ」

 と、小声で伝えると、デミウルゴスは小さく頷き円形闘技場の客席でシャルティアを抑えているアウラに視線を向ける。すると、前もって打ち合わせでもしていたのか、アウラも小さく頷いた。

「ではアインズ様、私が先導致します」

 デミウルゴスの言葉に悟は頷くと、客席の守護者に視線を向ける。

「今日の訓練はこれで終わりだ。お前たちも持ち場に戻れ。休みの者はきちんと身体を休め、明日以降の職務に支障が出ないようにな」

「はいっ!!」

 守護者全員がそう声を揃えて返事をしたのを確認し、悟は円形闘技場を後にしたのだった。

 

 

 

 そんな風に、穏やかな日々が続いているが……悟は内心焦っていた。

(いや、長いでしょ3ヶ月って……!!不死者の頃ならともかくさ、人間の身体にとっての3ヶ月って結構な月日だよ!?)

 異形種には寿命が無いが、人間にはある。それも、悟が焦る要因の一つであった。いずれ戻るにしても、それが何ヶ月後、何年後になるのかすら不明な状態で、レベルも60に届かないままナザリックの内部でだけ生活する。それはとても平和で何の危険も無い日々だけれど、悟はそれだけでは満足出来なかった。

(今までは俺が不死者で死の支配者だったから、殺されなければ永遠を生きる前提で色々考えてたけど……寿命がある種族、しかも短命の部類の人間になっちゃったんだから今後のことも考え直さないとダメかなぁ……)

 例えば、世継ぎの問題。これも、寿命のある人間なら儲けないといけないだろう。ナザリックのNPCが忠誠を誓うのは、至高の四十一人だけだ。だからこそ、その血を受け継いだ子供の存在はとても重要なのだが……。

(別に、アルベドとシャルティアのどちらかからしか選べないって訳でも無いんだけど……多分俺が外部の人間とかを選んだらヤバイ事になりそうだしなぁ)

 人間になった今、悟には若干だがそういった欲もある。ただ、肉食系女子二人に襲われた経験が、悟を臆病にさせていたのだった。喪男かつ童貞の悟からしたら、いきなりの行為よりも先ずは恋愛をしたい!といった気持ちが強かったのだ。

(確かに、見た目だけなら二人とも美人だけどさ……友達の創造した子だと思うと、恋愛的な目では見られないんだよなぁ。あと、やっぱり時々怖いしっ……!!)

 寝室のベッドの上でゴロゴロしながら、悟はつらつらとそんな事を考えていた。人間になってから、睡眠時に寝室に誰かが居ると安眠出来ないから、という理由でアインズ様当番のメイドを寝室から移動して貰う事に成功したので、寝室は完全に悟のプライベートスペースとなっていた。

(この身体は、確かに便利なんだよな。骨の身体より感覚も鋭敏だし、飲食もちゃんと出来て睡眠も取れる。アインズだった頃より、精神的な充足感も強い。けど……強くなきゃ、皆を守れない)

「……レベル足りないけど、死者の書とかも試すべきなのかなぁ……」

 スキルツリーに進化図も、まだ覚えている。その条件も。けれど。

(今の俺がアイテムを使って種族変更したとして。元の死の支配者に戻れる保証が無いんだよな……)

 そう思うと、自然と溜息が漏れた。

「世界が平和で、ナザリックに敵が居ないのなら……こんな生活が続くのも悪くは無いんだけどなぁ……」

 悟の偽らざる本音が、スルリと口から出た。もしナザリックの誰かがその言葉を聞いていたのなら、全力でその願いを叶えたに違いない。けれど、完全な私室である寝室での悟の言葉は、誰も聞いていない。勿論、警護として扉の外には八肢刀の暗殺蟲を始め様々なシモベたちが寝室を守っているが……用心深い悟は、既に<静寂>に<施錠>を使用済みだ。万が一にも、本音をナザリックの者に聞かれないようにとの配慮だった。

(リアルにあったのは、偽りの平和だった。今のコレも、考えようによってはソレと同じかもしれないけど……少なくとも、俺の知る限りはナザリックだけは平和だからな……。仲間の残してくれたナザリックとNPCたち。それだけが、俺が守るべきものだから。……だから、それ以外なんてどうなったって構わないんだけど)

 死の支配者であった頃から、一貫して変わらない悟のその考え。しかしそれは、力があってこそ叶えられる願いで。今の悟が叶えようと思っても難しいものだった。

(……半年。もし、半年経っても戻れなかったら。その時は……)

 密かにそう決意して。悟は眠りについた。

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