アインズ様Lv1   作:赤紫蘇 紫

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※CV宮野真守さんでお楽しみ下さい。

ご存じの方はテニミュのドリライの宮野真守さんの動きなどを想像するとより楽しめます。
アインズ様の方の身長はアニメ版(鈴木悟より大きい)の設定でお送りしています。
書籍版ではパンドラズ・アクターとアインズ様の身長一緒って事で、鈴木さんも一緒なのかなーって妄想。

過去捏造ちょっとあり。(悟さんとギルメンがオフ会してたってのです)



宝物殿の黒歴史

 

「……人間の体は、本当に不便だな」

 自室で悟は大きく溜息を吐く。アイテムボックスから、各種耐性の指輪を探し出し填めてゆくが、それでもレベル1の体力では不安が残る。今の悟の体だと、ちょっとした毒でもあっさり死んでしまうからだ。

「デミウルゴスがダメージを与えるようなパッシブスキル持ちで無くて助かった。……一応言っておくが、呪言は使わないように気をつけろ」

 もう、意識せずにスルリと支配者ロールで喋れてしまう自分に悟は苦笑する。

(まぁ、今の俺は人間の体だし……表情で色々バレバレだから、あんまり気合い入れなくても平気だとは思うんだけどさ。そもそもNPCたちって俺たちがギルメンと素のままで話してるときの記憶がちゃんとあるみたいだし)

「勿論です、アインズ様。……私は宝物殿に行くのは初めてなのですが、やはり何か仕掛けが?」

 恭しく礼をするデミウルゴスに、そういえばそうだ、と小さく頷く。そして、アイテムボックスから指輪を取り出すとデミウルゴスに手渡した。

「まずはこれを装備しろ。宝物殿はこの指輪が無いと入ることが出来ない。また、毒の仕掛けもあるから、毒の耐性を忘れずにな」

 指輪を受け取るデミウルゴスを見遣ると、いつも比較的冷静な彼にしては珍しく、今のデミウルゴスの心情を表すかのように長い尻尾がブンブンと振られていた。

「!これは……リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン!よろしいのですか、アインズ様!」

 転移初日、アルベドに邪魔をされてデミウルゴスの手には渡らなかった物だ。ずっと欲していたそれを下賜されて、デミウルゴスの表情は歓喜に輝く。

「宝物殿はナザリックと繋がっていないからな。まずはこれで飛び、パスワードを入れて入室する。デミウルゴスは初めて向かうのだから、私の手を取れ。案内してやる」

 悟がそう言ってデミウルゴスに手を差し出すと、デミウルゴスは一瞬硬直する。

「よ、よろしいのでしょうか?今のアインズ様のレベルは……」

 デミウルゴスがそう口籠もると、悟は小さく笑って自分からデミウルゴスの手を握った。

「これなら良いだろう。デミウルゴス、手に力を入れるなよ。……<転移>」

 悟が巻物を使うと、二人は一瞬のうちに宝物殿へ移動していた。

 

 

 

「ここが宝物殿だ。パンドラズ・アクターは奥だろうな。行くぞ、デミウルゴス」

 そう言って歩き出す悟に、デミウルゴスは戸惑ったような表情をしている。……何故なら、まだ悟に手を握られたままだからだ。まるで幼子のように手を引かれるのが恥ずかしいのか、デミウルゴスの頬はほんのりと赤く染まっていた。自分の力は今の悟を傷付けると知っているから、デミウルゴスは悟の手を振り解くことも出来ずに大人しくされるがままだ。

 途中でデミウルゴスに飛行させ、毒の仕掛けをクリアしてほんの少し歩くと、パスワードの掛けられた扉がある。扉を開けると、黄色い軍服が忙しなく動き回っている姿が目に入る。悟が声を掛けるよりも早く、彼はこちらを振り向くとクルクルとまるでプリマのように回りながらこちらへやって来る。

(って、何コレ!?パンドラズ・アクター、何かいつも以上にテンションが怪しいんだけど!?)

 ドン引きした顔で呆然とそれを見つめる悟に、パンドラズ・アクターはやたらと芝居がかった仕草で礼をする。

「我が麗しの創造主アインズ様!本日はどのようなご用件で?随分と懐かしいお姿でいらっしゃいますが」

(うわあああああああ!!!!もう、何で今は沈静化されないかな!?恥ずかしくて、このままだと俺死んじゃう!!麗しいって何!?俺普通の一般人!!しかもこの世界的には五枚目だよ!?)

 真っ赤になった頬を押さえようとして、自分がまだデミウルゴスの手を引いたままだった事に気付き、悟は更に混乱する。だが、それでも必死に口を開く。

「……あぁ、パンドラズ・アクター。お前もよくこの姿で私だとわかるな?に、しても懐かしいとは?この姿をお前に見せたことはあったか?」

 表情は恥ずかしげな物なのに、口調はいつもの支配者のもの、というとてもチグハグなものだったけれど、パンドラズ・アクターもデミウルゴスもそれには突っ込まない。

「おや?お忘れですか?アインズ様が私をお造りになられた際に、こちらにいらしていたウルベルト様と画像のデータをやり取りしていたではありませんか。アインズ様とウルベルト様の……」

「待て!パンドラズ・アクター!!」

 パンドラズ・アクターの発言を慌てて途中で遮る。傍らに居るデミウルゴスには、聞かせたくないと思ったからだ。

(あーーーーー!!!!オフ会の写真かーーーーー!!てか、パンドラズ・アクターよく覚えてたな、そんな昔の事!!)

 パンドラズ・アクターにリアルバレしていたという驚愕の事実に、悟は今度は頭を抱えた。赤かった顔は、あっという間に元の色に戻っていた。

(……ごめん、ウルベルトさん。ウルベルトさんまで巻き込んで!!)

「パンドラズ・アクター。ちょっとこっちに来い。デミウルゴスは、ここで待機だ。わかったな?」

「ハッ!ここでアインズ様のお帰りをお待ちしています」

 そう言ってその場に跪くデミウルゴスを視界の端に入れつつも、悟はパンドラズ・アクターの手を引いて例の壁の付近へ向かう。悟としては、ズルズルと引きずって行きたかったのだが……何分、今の悟はレベル1。レベル100のパンドラズ・アクターを引きずるなんて無理なのだ。パンドラズ・アクターはまるで躾の良く出来た犬のように、大人しく悟について行く。壁際に行くと、悟は非力なレベル1の体でありながらもパンドラズ・アクターを思い切り壁に押し付けた。パンドラズ・アクターの後頭部が壁に派手にぶつかったのか、ドン、というよりはドゴン、と派手に音がしたが、悟は気にしない。

「ぁっ。また、ドン?」

「……いいか。パンドラズ・アクター」

 前回と同様に、期せずして壁ドンになってしまっていたが、今の悟にはそれを気にする余裕など一切無い。

(てか、もう嫌だよ!!壁ドンの相手がこいつとかね!?全然ロマンチックじゃないし!!何でパンドラズ・アクターは嬉しそうにしてるんだよ!!)

 小首を傾げて悟を見つめるパンドラズ・アクターに、どうしようもなく脱力しながらも悟は更に続ける。

「ア、アインズ様?一体どうなさったのです?」

「……そのデータ、まだここにあったりするか?」

 悟のその言葉に、パンドラズ・アクターはあぁ、と小さく言うとポン、と手を叩く。

「勿論です!至高の御方の貴重なお姿の収められたデータ。大切に保管してありますとも!」

 ビシィッ!と効果音が聞こえそうな敬礼をされて、悟はその場で崩れ落ちそうになるのを必死で堪える。

「……俺の前では敬礼は止めような、って言っただろ?頼むから、それは直そうな?」

 もはや、素の悟なのかアインズなのかわからない口調とトーンでそう言って、悟はパンドラズ・アクターを睨み付ける。だが、アインズの時よりも背が小さいので迫力はあまりない。

「我が神のお望みとあらば!!」

「あー、うん、ドイツ語は止めたんだな。偉いぞパンドラズ・アクター」

(日本語で言われても恥ずかしい台詞には変わりないけどな!!)

 羞恥で死にそうになっている悟には、パンドラズ・アクターが悟に褒められて嬉しそうにしているのに気付く余裕も無い。

「で、だ。私やその他のギルドメンバーの情報に関しては一切の開示を禁ずる。私以外の者に、データを見せたり渡したりしてはならない。……わかったな?」

「わかりましたぁ!アインズ様っ!!」」

 キッとパンドラズ・アクターを睨み付けながらそう言うと、相変わらずの派手な動きでパンドラズ・アクターは了承の意を示す。

「……あぁ。うん、元気なのはよいことだな、うん……」

 既に突っ込む気力も無く。疲れ果てた悟はそう言う。羞恥のあまり、壁に付いた手はぷるぷると震えていた。

「で、アインズ様。こちらへ来た御用向きは一体?」

「そうだ、忘れるところだった。とりあえずデミウルゴスの所に戻ってから話をしよう。一人で待たせては可哀想だからな」

 そう言うと悟はパンドラズ・アクターに背を向けてデミウルゴスの待機している場所へと戻った。

「待たせたな、デミウルゴス。さて、パンドラズ・アクターよ。実はだな、他の面々には既に伝えてあるのだが……呪いのアイテムで私の種族が人間になってしまってな。レベルも1まで落ちているから、宝物殿にある人間用の装備で一番良い物を出して欲しい。恐らくだが、今の私は種族レベルも1で職業レベルも1だろうからな、それでも装備出来る物を探すのだ。種族が変わってしまったのでな、職業が何なのかも不明なんだが。ランクとしては、伝説級以上が望ましいが……我がギルドは異形種しか居ないしな、あまり質の良い装備は無いかもしれない」

 悟のその言葉に、パンドラズ・アクターは一瞬固まったかと思うと、この世の終わりのような声を出す。

「……!おぉ……!なんと言う事……!なぁんという運命の悪戯!!至高の御方の輝ける崇高な魂がそんなにも脆弱な肉体に閉じ込められてしまうなんて……!」

(……何か、もう色々疲れて突っ込めないけど……何だろう、このミュージカルめいた動き……パンドラズ・アクターなりに悲しんでる、ってのは伝わってくるんだけど、なんか、なんかっ……!!!!!!何か?俺に対する羞恥プレイなのか!?ああああもう勘弁してくれよ!!)

 目の前に居るパンドラズ・アクターは、片膝をつき姫に忠誠を誓う騎士のような格好で喋っている。……勿論、その捧げ先は悟だ。じわり、と滲む冷や汗を感じながら、悟はさりげなくパンドラズ・アクターから視線を逸らして一歩後ずさった。

「……あー、まぁ、そんな訳だ。いつ頃装備は見つかる?」

「はいっ!今日は難しいと思いますが……明日の正午には、アインズ様のお部屋にお持ち出来るかと!!」

 いつもの癖で敬礼をしようとして、慌てて止めたが踵はカッと鳴らされて。パンドラズ・アクターのその様子にも、悟は微妙に羞恥を感じていた。

(あぁ……本当に、アンデッドの鎮静効果って偉大だ……)

 そう実感しつつ、悟はデミウルゴスに視線を向ける。

「そういう訳だ。デミウルゴス、明日まで私は自室で過ごす。お前も警護として控えるがいい。戻るぞ。ほら、手を出せ」

「は、はい」

 戸惑いながらも素直に手を出してくるデミウルゴスの手を取ると、悟は転移の巻物を使って自室に戻った。


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