アインズ様Lv1   作:赤紫蘇 紫

8 / 32
6話の鈴木さんのお食事の後の話、デミウルゴス版です。

※シャルティアの一人称、原作書籍のページ数が多く該当箇所が自力で見つけられないため修正が遅れています。
暫く更新優先になってしまいますが、ご了承下さい。
(特典は一期Blu-rayの小説のみ所持なので、他の特典などで出て来た物は把握が難しいです)

あと、今更ですが、「畏まりました」じゃないのは、原作みたいなしっかりとした文章ではないので自分の作風に合わせてひらがなに開いた結果です。


閑話 デミウルゴスの日記

 暦の上では、春に分類される季節。ナザリック地下大墳墓の支配者、アインズ様が呪いのアイテムによってそのお姿を変えてしまわれた。

 種族も、アンデッドから人間に変わられてしまった。その強大なお力も封じられて。今のアインズ様は、か弱いレベル1の人間なのだ。通常、成人ならば種族レベルに職業レベルの合計値のレベルになっている筈だから、今のアインズ様のレベル1、という数値がいかに常識外れなのかがわかるというものだ。

(人間で、純粋にレベル1というと……赤ん坊くらいでしょうか?)

 そう考えると、我々守護者がアインズ様に触れることの危険性が理解出来るというものだ。我々が己の命よりも大切に想い、守りたいと考えている至高の方。ただ一人、最後までナザリックに残って下さった、慈悲深き君。アインズ様は慈悲深いだけで無く、深遠なる知謀を巡らされて私などでは足元にも及ばないくらいの頭脳を持たれた素晴らしい御方。

 そんなアインズ様が、いきなりそのお力全てを失って。種族も変わられ、今の職業すら不明の状態なのだ。ナザリックの者なら、動揺せずには居られない。

 肉の体を持った、と言う事でお世継ぎを欲しがっていたアルベドやシャルティアは欲望を丸出しにした瞳でアインズ様を見つめていたし、彼女たちからアインズ様をお守りするのは困難を極めそうだ。

 そのような理由から、アインズ様にお世継ぎを作る方が良いのでは?と具申したが、断られてしまった。きっと、アインズ様には深いお考えがあるのだろうが、悔しいことに今の私にはそのお考えが理解出来ない。

 幸いにして、アインズ様は身辺警護にこの私を指名して下さった。力ではアルベドやシャルティアに劣るが、配下を使い精一杯アインズ様の玉体をお守りしようと思う。

 

 初めて宝物殿にアインズ様のお供として同行したが、その際アインズ様は私の手を引いて下さった。柔らかなその御手は、私がほんの少しでも力を入れたら壊れてしまいそうで。怖くて、動かすことが出来なかった。いつもと違い、肉の体を持ったアインズ様の御手は温かく。触れたところから、アインズ様の体温が伝わってくる。しっかりと力を入れて握っている筈なのに、とてもか弱く思えるその力に、何があってもこの私がお守りしなければ、という気持ちが強くなる。

 今まではアインズ様の方が私などよりも遥かにお強く、私がアインズ様をお守りするなどとはあまりにも烏滸がましくて口にするのも憚られたのだけれど、今ならば。そう口にしても許されるのでは無いだろうか。

 この私の全身全霊を以て、アインズ様に害をなす全ての者からアインズ様をお守りしなければ。何せ、今のアインズ様は魔法も使えなくなっている。<伝言>も使えなくなっている為、巻物も補充せねばならない。

 

 宝物殿に居たパンドラズ・アクターは、アインズ様がお造りになった存在だが大抵は宝物殿に居るため、あまり話したことは無い。今回も話はしなかったが、アインズ様と仲良く過ごしているのを見て、ほんの僅かだが嫉妬してしまった。あのように近い距離でアインズ様と話をして。直接、お褒めの言葉をいただけて。……なんと、恵まれているのか、と。

 このような事を考えるのは、本当に醜いと思うのだが。一瞬でも頭を過ってしまったことは事実で。誰にも気付かれてはいないけれど、今後はこのような考えを持たないように気をつけないといけない。

 

 そう言えば、アインズ様がナザリックにいらしてから初めて食事をなさった。その光景を間近で見られる幸運。警護者としての役得にしては過分な物かとは思ったが、アインズ様は褒美として受け取れと仰った。……嬉しかった。初めての食卓を、私と過ごして下さって。遠いあの日、ウルベルト様の傍に控えていた頃のことを思い出す。あの時のような幸せな時間が、また持てるとは思っていなかったのに。アインズ様が元に戻られるまで、私はこの幸せを噛みしめることが出来るのだ。アインズ様のお慈悲に感謝しつつ、今まで以上の忠誠を誓おうと思う。

 また、アインズ様が本日のメニューをお気に召したようだったので、料理長にそう伝えたら歓喜のあまり激しく嗚咽していた。今まではアインズ様のために腕を奮うことが出来なかったのだから、その喜びは察するに余り有る。暫くはアインズ様もお食事をなさるという事も合わせて伝えると、朝食も喜んでいただけるよう努める、と言って厨房に篭もってしまった。……他の者の食事の用意はどうするのだろうか?部下に任せっきりにするのだろうか。

 

 私は日記を付け終わると、アインズ様のベッドに視線を遣る。アインズ様は酷くお疲れのようで、本日は湯浴みもせずにお休みになった。お休みになる前に、「ひょっとしたら半日は眠っているかもしれないが、異常では無いので無理に起こさないように」と仰っていたので、アインズ様が自然に目覚めるまで見守らせていただこうと思う。

 アインズ様は、すやすやと眠っていらっしゃる。きちんと呼吸もなさっているようで、布団が僅かばかり上下に動いている。

 夜這いの危険もある為、夜は特に気が抜けない。影の悪魔と八肢刀の暗殺蟲を入口に配置し、私はアインズ様の寝室内でアインズ様を警護する。

(……何事も無ければ良いのですがね)

 昼間見た、女性二人の欲に塗れたあの瞳を思い出し、私は小さく溜息を吐いた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。