インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉   作:夜光・陽炎

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遅れてすいません。
今回で無人機強襲編の戦闘編は終了です。つっかれたー。二話連続で長編書くとか難しいなー……


第三十三話・終結への道(下)

――――ドッグファイト

 

空対空戦闘において、戦闘機同士が互いに機関銃・機関砲または短射程空対空ミサイルの射界に相手を捉えようと機動する空中戦闘の呼称。空中戦闘機動 (Air combat manoeuvering: ACM)の一種である。

 

この世界の兵器、インフィニット・ストラトス(Infinite Stratos)―――ISは戦闘機と違い、全方位を攻撃可能にし、戦闘機の一番の弱点「後に付かれると攻撃手段が限られる」を克服して、ISの概念にはドッグファイトという戦法がなくなりつつあった。

 

だが、それは装備によって、だ。例えば、かなり接近され、その追いかけられている方は長いライフルのようなものを持ち、相手は近接・中距離戦に特化した機体だったらどっちが有利だと思う?

 

答えは決まっている、後者の方だ。

取り回しが良くない大型ライフル一丁で高機動型、しかも対スナイパーチューンを施した機体で戦ったら勝負は見えているだろう。

 

そして今まさにそれが、IS学園校庭エリア上空で行われていた

 

「ぎゃははははははは!!ほぉら、逃げろ逃げろぉ!」

 

「………くっ」

 

紫のISが、黒いISに追い掛け回されている。

速度なら紫の方が有利なはず、だが、速度が高ければ旋回力が低い事もその証拠。

紫のIS―――イギリス製三世代型IS《サイレント・ゼフィロス》は搭乗者の「織斑円夏」を乗せ、全力でスラスターを吹かせている。しかし一向に距離は広がらない。

 

それは黒いIS《アラクネ・AS・AS仕様》の戦い方が不規則だからだ。

速度では遅れている。が、その八本脚についている砲門から火を吹かせ、こちらの動きを誘導している。さすがに弾幕をはられては避けることも出来ない。

 

最高速度で振り切れるか試してみたいものの、残念ながらそれは《的》になるだけだ。

ドックファイトで有利な点は「相手を狙いやすい」こと。不規則に動いているならばともかく、こちらは動きを制限されている。その状態で直線軌道なんてしたときには八門の砲の餌食としかならない。

 

そんな理由で、苦戦を強いられている円夏はこの状況の打対策を練っていた。

 

(――――私の体側面のギリギリを狙っている。………敵の狙いはおそらく私のIS。へたに無駄な傷をつけても駄目、ってことか………なら)

 

ある方法を思いつき、それを実行しようと急旋回する。

そのサイレント・ゼフィロスの利点、スラスターをどの方向にも向けられる。つまり、その方向を維持したまま、操縦者だけを旋回させることが可能なのだ。

 

その利点を使い、円夏は旋回したと同時に相手に大型BTライフルの照準をつける。

 

「はっ、まぁーだ気づかねぇのかぁ?てめぇはただの的になってんだよ!!」

 

こちらの行動に応じたように、足の砲門をすべて前方へと集中させる。

 

(狙い通り)

 

そう、円夏の狙いとは『誘い』だったのだ。

わざと攻撃的な行動をし、相手の攻撃を一点に集中させる。それが狙い。

 

正直、乗ってくれるかどうかは賭けだったのだが、相手の口調からすると、かなり攻撃的な性格だというのは判断できた。だからこそ賭ける価値があったのだ。

それからすぐに敵から照準を外すと、あるものを手に展開した。

 

「あぁ?なにやってんだ」

 

攻撃態勢を崩したところに疑問を持ったようだが、そんなもの関係ない。

 

空いた手に展開したそれは最新型の音響閃光手榴弾。音、閃光、衝撃の三拍子そろいの優れものだ。

その手榴弾のピンを外すと、ゴーグルを装着しすぐさま投擲。

 

最新型の形状は正八面体。普通の手榴弾とはかけ離れた形状だった

だからこそ、敵に「手榴弾」という発想をさせないであろう。

 

その効果は覿面し、敵は「なんだこれ?」と呟きながら右手で「それ」を弾き飛ばした。瞬間

 

―――キィィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイインッ!!!!!!!!

 

耳を刺す爆音と共に、盛大な閃光が周りの景色を包む。

円夏は事前にゴーグルを装着しているからむ次、音はさすがに無効化できなかったが、手榴弾の近くにいたオータムは双とも行かない

 

「きゃあああああああああああああっ!!!あああああああああああああああああ!!!!!目ええっ!目がアアアアアああああああああああああああぁぁぁあああああ!!!!」

 

フェイスカバーを外し、目と耳を押さえながら絶叫していた。

 

おそらく至近距離からモニター越しに閃光を食らったのだろう。それも計算どおりだ。すぐさまその隙を利用し、下の林に降下して隠れる。

 

ここなら見つけにくいし、こちらからはライフルで狙い撃てる。絶好の環境に持ち込むのが円夏のスタイル。

 

正直言うと前振りがすこしエグイ気がするが、していなかったらこっちがやられていた。仕方ないだろう。

 

そして、林も中をゆっくりと移動し、敵から距離を離していった。

 

 

 

 

「あああああっ!!アアアアアア………くぁぁぁぁ………っ―――――ぁぁぁぁあああの餓鬼いいいぃいいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!遊ばれてからっていい気になりやがってエエエええええエエエ!!ぶっ殺す!!跡形も無くなるぐらいにぐちゃぐちゃにしてぶっ殺してやる!!!!もう任務なんて関係ねぇ……!!アジトに連れ帰って、指切り落として、手足ももぎ取って、これ以上ないくらいの屈辱を浴びせながら衰弱させて、ミンチになるまで叩き潰してやる!!!」

 

 

もはや、「狂気の塊」と化していたオータムは、自分の目的を忘れ、ただ「殺す」をインプットさせた機械になってしまっていた。

 

「っ……ぅぁああああああ!!起動しろ、さっさと起きやがれ!『スナイプ・センサー』ぁぁああっ!!!」

 

やけくそ気味に叫ぶと、袋状の背後ユニットが開放され、少しずつ内部があらわになる。

 

その内部からは、黒い球があった。なんの装飾もない、真っ黒な球。

だが、一瞬だけ光のラインが走り、その線に沿って装甲が外されてゆく。その内部からは、正二十面体の青く光る物体が浮いていた。

 

青色に発光する物体は、徐々に光を増して行き、最高潮まで到達したとき――――

 

――――ウウウォオオォォォォォォォォオオォォン………

 

そんな音と共に、青いソニックウェーブを広がった。

 

「………見つけたあぁぁぁあああ!」

 

フェイスカバーを掛け直したオータムの視界に何かが映ったのか、急に奇声を上げる。

 

「……いや、ただ追いかけるだけじゃものたりねぇ…………あはははははっ、いーことおもいつーいた。アジトには連れ帰れねぇが、なぁ~?」

 

 

そして、静かに林へと降下していくのであった。

 

 

 

 

「…………なんとか、まいたかな……?少し、休まないと」

 

円夏はISを装着したまま、そこら辺の木に背中を預ける。

 

彼女の精神は疲労している。

クラス代表決定戦よりはマシだが、それは相手が相手だったので仕方ないとしても、この疲労はかなりのものだった。

 

当たり前だ、高速機動操縦を連続試行し、さらに満遍なく飛んでくる弾に気を配りながら相手の動きを読んでいたのだから。

 

ビットも出すのを考えたが、これ以上の負担は得策ではないと思い、使わなかったのもこれが理由だ。

 

「……それにしても、あの人何……?いきなり「死ね」なんて…………とにかく、あの人は私が一人でどうこうなる相手じゃない。一刻も早く皆と合流しないと」

 

そう言いながら立ち上がり、自分のISの状態を見るためにステータスウィンドウを表示する。

 

「……スラスター熱量、基準値の2%オーバー……冷却したいけど、冷却剤が無いし、出力を抑えながら……いや、追いつかれたらダメだし……」

 

ウィンドウをいじりながら歩いていると、ふと目の前に何かが写った。

それは、まるで蜘蛛の糸のように細く、光っていた。

 

「これは……?こんなところに……いや、そもそもこんな季節に蜘蛛なんて出現するはずが―――」

 

その糸を辿ってみると、隣の木につながっていた。

やはり季節外れに出現した蜘蛛か、と思ったが、さらにその糸はどこかにつながっていた。

 

その糸はまた隣の木に、そしてその糸もまた隣の木へと続いていた。

 

おかしい、蜘蛛という生物はそんな何もか考えずに糸を張り巡らせる生物ではない。

 

嫌な予感がした。ハイパーセンサーのマイクロウェーブセンサーを起動させ、周囲五百メートルの物体の形すべてを捕らえる。

 

「………ぇ?」

 

無意識にそんな声が漏れた。

目の前の光景が信じられなかったのだ。その光景は―――

 

 

――――自分の周りに無数の糸が張り巡らされているという光景だった

 

 

左右前後は当然、上までもが糸だらけになっていた。

なぜ、今まで感知できなかったのであろうか、それはすぐにわかった

 

「透明、なの……?これ、全部?」

 

そう、ほぼ透明の糸なのであったのだ。見えるはずが無い。例えるなら透明度が強すぎるガラスのようなものだ。それを遠くから見たらわかるだろうか、否だ。見えるはずも無い

 

至近距離だからこそ見えた、完全に警戒心を解いていたとはいえ、裏をかかれてしまった。

 

「い、一体誰がこんなことを……」

 

「私だよ」

 

「―――-!?」

 

光学迷彩。忘れていた、相手は自分の姿を任意に隠す事が出来る。

エネルギーを大量に消費するなら、もう使ってこないと思っていた、だが違った。

 

「誰も予備の『バッテリー』がないとは言ってねぇぜ?――――考えが甘すぎんだよぉ!お嬢様ぁぁあ!!!!」

 

右の脇腹から急に衝撃が走り、吹き飛ばされた。

そのまま地面に激突するかと思ったが、そうも行かなかった。

 

「いっ………!これ、は……!?」

 

何かに受け止められる感触だった。だが、後には何も無い。いや、見えていないだけだ。実際には不可視の糸があるはず、だが糸ならそのまま切れるはずだ。

 

「ざぁんねぇんでしたぁ~?その糸は特別製でな、伸縮性と粘着性の高い素材で生成されてんだ。まさに姿も特徴も蜘蛛だよ、趣味が悪いぜアメ公さんたち!ひゃはははははは!!」

 

「うっ………動、けっ……!」

 

手足を動かそうとしても、逆に絡まれる。

状況は最悪。その状況を踏破できる作戦が、思いつかなかった。

 

「お~い?また私に一矢報いてみせろよ?さっきみたいにぎゃあああああって言わせて見ろよ?なぁ?」

 

「この、外道……!」

 

「外道結構、とっくの昔に道はずれてんだ。……さてぇ!楽しいパーティーといきましょうや。さっき私がしたような悲鳴を上げて見せろや、ああ゛ぁあア゛あアぁ!?」

 

完全にキレている。もはや手が付けられないぐらいに。

 

「きけけかきかっかけけけけけ……!まずは、そうだな……そのISを外してもらおうか。傷が付けられねぇ」

 

「誰が、外すもんですか!」

 

そういうと、相手は狂気に満ちた笑みを見せる。背筋にイヤなものが走った

 

「お願いじゃねぇ、命令してんだよ。もっとも、聞くはずないってのは、わかってんだけどなぁ……なら、私自身が外させるしかねぇだろうよ?」

 

そういって、敵はゆっくりと近づき、右手に見たことも無い四本足の装置を展開していた

 

「あ、名乗るの忘れてたなぁ?私はオータムってんだ。冥土の土産に覚えていろ」

 

大きさは目安四十センチ弱。駆動音を響かせてその足が開き、胸部に取り付けられる

 

「自分のISとの別れの挨拶はすんだか?キエハハヒハハハハ!!」

 

「どういう、こと?」

 

「知るはずねえよな?―――テメェのISとだよ!」

 

「なっ――――!!」

 

最後まで言いきれず、体中に電流が迸った。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

身を引きちぎられそうな激痛、それが前進に走っている。だが、どうしてか気絶まではしない

 

「ひゃははははははは!!!いいぞぉ、いい声だ!!」

 

オータムの奇声が余計に恐怖心を嗅ぎ立て、円夏の目からは涙が出る。

 

「きけけけけ……短い間だったが、楽しませてもらったよ」

 

電流が収まり、装置のロックが外れる。しかし、一向に身動きは取れない状態であった。

そんな状況でも、一つの違和感を感じ取る事が出来た。体が急に重くなったのだ。

 

体重の増加?そんな生やさしいものではない。

自分の体を見回すと

 

「……無い、ISが……どうし、て?」

 

ISスーツだけを残して、さっきまで纏っていたアーマーなどが一掃されている。

体が重く感じたのは、きっとPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の効果がなくなったからだろう。

 

しかし、どうしてという疑問が頭に残った。

自分はISを解除していない、そもそもこんな状況で盾を捨てる行為は自殺同然。

なら、一体何が自分の身に起こったというのだ

 

「お前さんの大切な相棒は、ここにあるぜ?」

 

「う、うそ……!?」

 

オータムと自称した敵が持っていたのは、黒く真っ黒い球体であった。

それは、紛れも無い、ISのコアである。

 

「さっきお前に取り付けたのはなぁ、剥離剤(リムーバー)つってよぉ?ISの強制解除できるもんなんだよ。レアな装置だったぜ?」

 

そう言い、円夏の体に蹴りを入れてくる

 

「がはっ………!」

 

「ほらほらどうした?さっきまでの威勢はどこいったんだよ?ええ?」

 

「ふ、ざ……」

 

「あ?なんだって?」

 

「ふざけ、ないで……っ!」

 

必死に抗う円夏は、奥歯を思いっきり食いしばりながら糸を引きちぎろうとする。

 

「あなたに……あなたたちなんかに、他人のISを奪う資格なんて無い……!」

 

「は?何言ってんだ?」

 

「そのISは、私が一年間、ずっと肌身離さず一緒に居た。互いの気持ちを理解して、一緒に戦ってきた私の『友達』を、あなたなんかに奪う資格なんて、あるはずがない!!!」

 

必死に叫ぶ。悔しい、その気持ちが渦巻く。

ISが無ければ、自分なんて少し強いぐらいの学生だ。そんな自分個人に、力なんてあるはずが無い。

自分の無力感を滲ませながら、抗う

 

「ひ、ひへひゃはははははははは!!!こりゃ笑っちまう……!まさかISを『友達』呼ばわりするやつがいたなんてよぉ。はひひへへははははは!!」

 

「こ、のっ………!!!」

 

「さよならだ、餓鬼。恨むんなら、自分の運命を恨みな」

 

「っ………!」

 

そして、オータムの拳が円夏の腹に当たり、今まで一本たりとも千切れなかった糸は円夏と共に千切れ、吹っ飛ぶ。

 

何十メートルか飛んだ直後、背中から木にぶつかり、滑り落ちた。

頭からは血が流れ、腕も変な方向に折れ曲がっている。

 

「………ぁ………ぇ……」

 

意識は薄れ掛けている。

そして、オータムが目の前に現れ、手に持っている銃を、円夏の頭に向けた。

 

「…に、……ゃ……ぉ、ね…………」

 

最後に、自分の姉と兄の名前を言う気力も無く、目蓋ももう少しで閉じる

そして、オータムがトリガーを引く

 

 

刹那、白い閃光が、こちらへ向かっていた。

 

 

「何っ!?」

 

驚愕したオータムは、上を見上げる。

そこにいたのは、紛れも無く、世界大会で何度も目撃した機体。白く、そして黒の内部装甲が目立っている。

 

「……お姉……ちゃ、ん…………?」

 

「まさか……世界最強(ブリュンヒルデ)かよっ!?」

 

警戒心をMAXまで引き上げ、その場から距離を取る。

刹那、白い機体がゆっくりと降りてきた。

 

そして、完全に地面に足が付いた頃には視線をオータムに向けている。殺意が籠った目線で

 

「……きさまが『亡国機業(ファントム・タスク)』の強奪部隊か。なるほどな………私の妹に何をした………!!!!」

 

一瞬、背筋に何かがゾクッと走ったが、冷静になり相手を観察する。

相手が使っているのは間違いなく『モンド・グロッソ』―――世界大会で優勝したIS、暮桜(くれざくら)だろう。少し細部に違いが見られたが、自分の記憶が曖昧なのでどうだってよかった

 

「は、はは。まさか、あんたが直々に出てくるとは思わなかったよ。出てくるといっても、間に合うとも思わなかったがな」

 

「質問に答えろ、答えなければ、殺す」

 

「――――!」

 

その言葉には、本物の殺意がこめられていた。覚悟も出来ていない奴が「殺す」といっても何も感じないが、最強はこの言葉には実現できるだけの実力がある。

 

「答えないのか?ならば―――」

 

「ま、待て待て!私はただISを奪っただけだ!」

 

あせったのか、バカ正直に答えてしまった。それが仇となり

 

「『だけ』だと?なら、この姿は何だ?」

 

奪っただけならまだ良い。だが、円夏の体は全体に満遍なく傷が付いており、だけという単語で済まされることではなかった

 

「ふざけるなよ……?貴様の悪趣味だけでこんなに傷付けられ、その姉が黙っていると思うか……!?」

 

鬼の鏡像に化したのような、明確な怒りで顔がゆがんでいた。

 

「っ……!この戦闘は避けるしかねぇ……光学迷彩、起動!」

 

叫んだと同時に、周囲の空間がゆがむ。そして、光を屈折し終わるときには、オータムの姿は見えなくなっていた。

 

「逃がすか、八型七《千里双閃(せんりそうせん)》」

 

腰の鞘から光速抜刀。千冬の目前に二本の線が直線に地面を走る。

だが、その軌道は止まる事知らず、周りの大気や地面を抉りながら衝撃波を発し、直線状の物体を薙ぎ払った。その射程は焼く12キロ、千里とは程遠いが凄まじい長さだ。

 

しかし、目的のオータムに当たった様子も無く、ただ破壊音が響いただけであった

 

「……くっ、逃がしたか。―――円夏、大丈夫か!?」

 

当たっていない事を確認し、即座に方向転換。地面に倒れている円夏を静かに抱き寄せる。

 

「……おね、えちゃん……私……IS、を……」

 

「もう何も喋るな。傷に触る」

 

「この、ままじゃ、お兄ちゃん……まで」

 

「何!?」

 

円夏の口から予想外の言葉が漏れた。驚愕を隠せないまま、素直に話を聞く

 

「私の、情報が漏れたのなら……お兄ちゃんの情報もある、はず。……っ…!……お兄ちゃんのISは、凪紗が直接手に……かけたISだから、狙われる可能性が、たか、い……だか、ら……はぁっ……はあっ……ッ、だから、早くお兄ちゃんの所に、行って……!」

 

「だがそれではお前が―――」

 

「大丈夫、だから……早く。お兄ちゃんが、殺され、る。おね、がい……だか、ら……」

 

それだけを言い残し、円夏は意識を失った。

だが、素直に行くわけにも行かない。骨折したのなら、内出血もしているはず。放置するわけには行かない

 

仕方なく、山田先生にISのプライベートチャンネルで連絡をする。

 

接続音が鳴ると、頭から声が聞こえた

 

『はい、こちら山田真耶です』

 

「山田先生、至急こちらに向かってくれ」

 

『え?織斑先生?話が唐突すぎて意図がつかめないのですが……』

 

「円夏が負傷した。今の居場所は学生寮付近校庭、三番エリアだ。急いでくれ」

 

『織斑さんが負傷!?ひどい状態なんですか!?』

 

「ああ、かなりひどい。片腕骨折、肋骨も皹が入ってるだろう。できるだけ揺らさないで運んでくれ」

 

『―――!わかりました。至急、応援に向かいます!』

 

その言葉が最後に、プライベートチャンネルを切る

山田先生は授業のときは若干腑抜けているが、いざとなったら頼りになる。

 

ちらっと円夏の方を見た千冬は、そのまま宙に浮き、スラスターの火を噴かせた。

だが、その行く手を阻むものが居た

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

ISに乗った者が三人、行く手を阻んでいた。

どうやら、こちらを仕留める気満々らしい。こちらは一刻を争うというのに、はた迷惑な敵だ

 

「どけ、と行っても聞きそうに無いな」

 

「……悪いが、その後ろに居るパイロットの後始末と、貴様を行かせるわけには行かない」

 

「そうか、なら―――」

 

千冬は丸い球体を左手に展開する。そして、それを円夏の方へと落とした。

落ちたそれは、円夏を守るように、周囲にバリアのようなものを展開する。

 

「束特製のシールド発生装置だ。取っていたんでな、使わせてもらった」

 

「……なら、貴様の足止めを優先するしかないな」

 

「そういうことになる。だが、私は生半可な実力で倒せるほど甘くないぞ?」

 

「承知だ」

 

千冬は鼻で笑い、右手に持っている《雪片》を正面に構える。

 

 

「倒すという考えは捨てたほうが良いぞ?なにせ、お前らの前に立っているのは、世界で最初に最強の名を手にした女、なのだからな」

 

 

 

 

 

                ◆     ◆     ◆

 

 

 

 

「うおおおおああああああ!!!」

 

「ぐっ……!なんて馬鹿力なの!?」

 

スコールと一夏は、鍔迫り合いを繰り広げていた

さきほどまで怖気づいていた様子はとこにいってしまったのか、今となっては威勢は満々である。

 

「うりゃあああっ!!」

 

「―――くそっ!」

 

鍔迫り合いに負け、物理ブレードが上空に弾き飛ばされるスコール。

 

すぐに武器を展開しようとするが、一夏が裂きに動いた

なんと、弾き飛ばした瞬間、隙を見せずに体当たりしてきた。原始的な手だが、スコールの体制が確かに崩れる。

 

崩れたと同時に手に持っていた雪片弐型・改での逆袈裟。

右脇腹から左肩まで刀が通った。ふつうなら斬り裂かれているだろうが、シールドで防御しているので物理的には無傷。

だが、シールドエネルギーが大幅に減ったのは確かだ。

 

しかも、雪片で使用できる単一仕様能力《零落百夜》で絶対防御を使用することを強いられ、普通よりさらにシールドエネルギーが損耗している。

 

「……これ以上の損耗は、厳しいわね」

 

「大人しく捕まるなら、傷はつけないぞ」

 

「紳士的な考えね。―――残念ながら、それは出来ないわ」

 

「……なら、力ずくでねじ伏せる!」

 

「単細胞な人は嫌いだわ。手加減しているのに、調子に乗って」

 

「え?」

 

「わからないの?手加減しているのよ。その機体にあまり傷をつけるわけには行かないの。破壊ならすぐに片付けられるのに、相手はまるで「自分の方が強い」「俺なら勝てる」なんて考えているのだから、笑ってしまいそうになったわ。男ってほんと、単純」

 

「な……」

 

呆然としていた。

べつに侮辱されたからではない。今まで手加減されていたという事実を知ったからだ。

 

一夏は本気で行った。けど、相手は手加減している。もし、殺傷OKなら自分はどうなっていただろうか。

 

―――いや、考えちゃいけない。相手が俺に傷を付けられないのなら、こっちが有利だ

 

そう考え、正面に居る相手に思いっきり突っ込む。

だが、一瞬だけ、一瞬だけだが、相手が冷たい目でこちらを見ていること気が付いた

 

瞬間、鳩尾に衝撃を感じた。

その衝撃を起こしているのは何を隠そう、敵の膝蹴りだった

 

「ぐっ…はぁっ……!」

 

「別に、あなたを傷付けたらダメ、とは言っていないけど?――――その猛攻劇は終わりよ」

 

そう言い、もう一回膝蹴りを食らわせてきた。

 

「ぐおっ……!あっ……!」

 

「ふっ……!」

 

上空に飛ばされたかと思うと、そのまま腹に連続スタンプ――――という表現はおかしいだろうか、具体的にはける勢いで上昇しながら、その勢いで再度蹴りをを入れてくる。しかも、蹴りはアーマーが無い部分だけを狙っている。そのせいか、シールドもかなりの勢いで減らされていった

 

「終わりよ」

 

「くそ、がっ……!」

 

反撃を試みた。が、強い衝撃により手に持っていた雪片は吹き飛ばされる

その原因は、相手がいつの間にか展開していたアサルトライフルだった

 

そして、その方向から自分の眉間を狙っている事に気が付いた

引き金を引いたことが認識できた、ドンと破裂音と共に自分の頭が後に弾き飛ばされる。

 

「が………」

 

脳が揺さぶられ、意識が飛ぶ。

 

―――ああ。また自分は、誰かを守る事も出来ないんだな

 

そう思った、目蓋を閉じ、静かに自分の意識を消えさせた

 

 

アリーナ付近に落下した一夏の様子を見るべく、同じ位置に降下したスコール。

 

「……これでいいわ。後は、オータムからの連絡を待つだけね」

 

一夏に近づき、周りを見渡して誰もいないことを確認すると。膝を付いてIS解除状態になった一夏の右腕のガントレットを外す。

 

そして、持っている銃を一夏の眉間へ向ける。

先ほどの攻撃で額から血が出ているが、さすがは絶対防御と褒めたい。至近距離からのライフル弾を防ぐとは。

 

だが、今の一夏は生身の状態。今度こそ頭は粉々に砕け散るだろう。

 

「……天国に行ければいいわね」

 

そんな台詞を吐き、トリガーを引く。寸前のところで、邪魔が入った

 

横から急にレーザーが通り、ライフルの機関部に見事命中。スコールは後ずさりし、その発生源を凝視する。

 

「残念ながら、殺させはしませんわ」

 

青いIS―――データによると、イギリスの試作機体、《ブルー・ティアーズ》だ。

その手に持っている大型ライフルで自分の武器を破壊されたのだと思う。

 

さらに、隣に三人ぐらい生身の人間がいたのに気が付いた。

 

ツインテールの少女に黒い髪のポニーテール。さらに、何の髪飾りもしていない黒髪ロングの少女がいた。

黒髪ロングの少女はポニーテールの少女に肩を貸してもらっており、ボロボロのISスーツ姿だった。ツインテールの少女は先ほどスコール自身が倒したので、すぐにISのパイロットだとわかる。

 

「………箒ちゃん。もういいよ」

 

「姉さん。それでは傷が、立つのに精一杯なのだろう!?」

 

「いいから、鈴ちゃんを連れて遠くに……セシリア、一夏を背負って逃げて」

 

「でも、あなたは今ISを使えない状態じゃ」

 

「……いいんだ。今は、一夏を逃がすことだけに集中してくれ」

 

「……わかりました」

 

どうやら、黒髪ロングの少女がリーダー的な存在らしい。

指揮どおり、箒はそのまま鈴を担いだまま逃げ、セシリアは一夏を抱くと、上空に上昇しながら逃走した。

 

「……スコール・ミューゼル、だな」

 

「―――!?」

 

自分の本名を呼ばれたことに驚愕する。ただの女子高生に名前を呼ばれるほど、情報は漏れていないはずだ。ならどうして

 

「元軍隊の特殊部隊教官でな、その時に少しお前らのことは調べていたんだ」

 

「軍隊……?日本は自衛隊じゃないのかしら?」

 

「外国……ドイツに行ってたんだよ。その時に、ね」

 

どうやら、黒髪の少女は喋るのもままならないらしい。体中血だらけで、傷も無数にあった。一体何があったというのだろうか。

 

「ふぅぅぅっ……大人しく捕まる気は無い?それと、その手に持っているのも返却してくださると助かるんだけど」

 

「無いわね、こっちは目的を果たした。後は帰還するだけよ」

 

「そうか……なら、殺すしかなさそうだな」

 

「殺す?その状態で?ISも装着せずに?」

 

「……お前を道連れにするぐらいの気力は残っているさ……得物はこいつで十分だ」

 

後の空間から、一本の棒が飛び出してきた。

それを掴んで取り出すと、シィィンという重い音と共に、その鋭利な刃を見せる

 

「カタナ……そんなので私を相手に出来るとでも?」

 

「舐めんなよ、愛刀《月光》。お前を殺るには十分すぎる」

 

「……何を言っているのかはわからないけど、刀が銃に勝てるわけ無いでしょう」

 

サブマシンガンを展開、正面に構えてフルオートで撃つ。

そして、少女はバラバラに―――ならなかった

 

手に持つ刀で、全ての弾丸を《斬った》。まるでアニメに出てくるヒーローのように。

 

「…………」

 

スコールは呆然とする。死ななかった事と、全ての弾丸を防いだ事に。

そんなのが出来る人間が存在するとは思えなかった。だが、今目の前で起きている。

 

「珍しい?出来る奴ならあと何人かいると思うけど」

 

「………冗談でしょう?」

 

「どうでもいいでしょ、そんな事は。で、続けるの?あんた相手じゃ、私もさすがにバテるけど」

 

「逃げたいわね。目的は果たしたし」

 

「逃がすと思う?」

 

「……あなたが飛べたらの話しだけどね」

 

スコールは上昇する。

さすがに人間が飛べるわけが無い。そんなわけが無い。そう思った。

しかし、そんな期待は裏切られる。

 

急に相手がこちらに飛んできたのだ、体には推進器などどこにも見当たらない。だが、人間の脚力と呼ぶには異常すぎる。

 

でも、再度上昇すればいい話だと思った。そして、またその考えは消え失せる事になった。

 

上空で、自分と合わせて加速したのだ。明らかに人間業では無い。空中でジャンプするなど、一体どこのアクションゲームだというのだ

 

「……はあああっ!!」

 

「があああっ!!!」

 

刃が左肩に当たり、力任せで地表へと吹き飛ばされる。

さらにあちらも謎の移動手段でこちらへと加速し、追撃をかけてくる。

腹に突きを喰らい、さらに落下速度が増す。

 

その勢いに身を任せ、地面に自分より一回り大きいクレーターを作ることになった。

 

「かっ……!」

 

衝撃で肺の空気が押し出され、潰された肺が空気を吸おうと口から空気を吸い込む。

だが、それを相手が許さない。

 

相手は手に持っている刀を両手に持ち、逆手持ちに変えてこちらの体に乗り、胸部を刺してきた

 

「があああああああっ!!」

 

「ふぅぅぅっ……!はぁっ……!」

 

シールドエネルギーの残量メーターがかなりの勢いで数を減らしてゆく。このままではまずい。

右手に持っているガントレットを投げ捨て、その手にコンバットナイフを展開する。

 

「させるか!」

 

手に持ったナイフは刀によって弾き飛ばされるが、想定内―――いや、作戦通りだ。

 

「残念、でした……!」

 

「な―――」

 

左手には、ハンドガンを握られていた。

油断していた相手はかわす術が無く、スコールはそのまま引き金を引いた。

 

「くっ!」

 

だが、ギリギリで見切ったのか、体の銃身を無理矢理ずらす事で、直撃は免れた

しかし、完全にはかわせなかった。放たれた銃弾は、相手の右腕を引き千切りながら吹き飛ばした。その傷口からは大量の血液が噴出す。

 

「くああああああああっ!!!」

 

痛みに悶絶しながらスコールの体の上から転がり落ちる。

その隙に、弾き飛ばされたナイフを拾い上げ、相手の首を絞めてそこら辺の木に叩きつける。

 

「がっ……!」

 

「質問に答えなさい。あなたは何者?」

 

「……滑稽だな。知ってどうする……」

 

「そう、教える気は無いのね。なら―――」

 

手に持っているナイフを、相手の脇腹に刺す

 

「があああああああああっ!!!」

 

「答えなさい。名前は」

 

「っ……!誰が喋るか……!」

 

刺したままのナイフをグリグリと回す。そうすると、血液が大量にあふれ出す

 

「ぎっ……あ……!」

 

「失血死したくないでしょう?早く答えなさい」

 

「……凪紗、だ」

 

「苗字は」

 

「………篠ノ之。これで、わかったか?」

 

「篠ノ之、凪紗…………――――まさか!?」

 

「ようやく気付いたか――――おらぁっ!!」

 

「くあっ!」

 

鳩尾に蹴りを喰らい、吹き飛ばされる。ISごと吹き飛ばすとは、並の脚力ではない事を先ほどの現象で理解したが、まさかこれほどとは

 

「ふぅ……ふぅ……苦労させるよ……」

 

体中血だらけになりながらも、一夏のガントレットを回収する。

 

「ま、さか……あなたが篠ノ之凪紗、だというの……!?」

 

「そうだよ。悪い?」

 

スコールは何かを考えるように頭を抱える。

口を開いたかと思うと

 

「………仕方ないわね。帰還するわ」

 

スコールはゆっくりと上昇をはじめ、闘争を開始しようとした。当然、凪紗は見過ごせるはずも無く。

 

「待て!」

 

「さようなら。また会えると良いわね」

 

さらに加速し、スコールはどんどん小さくなっていく。

そして、ついには見えなくなった

 

「………あー、疲れたぁ……」

 

ISのプライベートチャンネルで、千冬に連絡をかける

 

『もしもし、凪紗か?』

 

「はぁ……今まで現れないで何やってたんですか」

 

『いや、まぁ、それについてはすまないと思っている。しかし、円夏が襲われて、それを助けにいってな……』

 

「そう、ですか……一夏は無事です。ISも取り返しましたし、そっちは?」

 

『……コアごと奪われてしまった。イギリス本国に連絡しなければならないだろう。死なないだけまだマシだがな』

 

「……まあ、急に上空が静かになったんですが、何かしましたか?」

 

『ああ、三人を鹵獲した。気絶しているが』

 

「一件落着、ですか、ね。……疲れました」

 

『そうか、後で迎えに行く。休んでいろ』

 

「……わかりました。それでは」

 

通信を切ると、先ほど叩きつけられた木に背中を預ける。

 

「……ああ、結局逃がしちゃったよ。まったく……本能(あんの)野郎、こんなになるまで暴れやがって。おかげで十分に行動できないし、右腕持って行かれたよ……しかもあんな状態で秘奥義なんぞ使いやがって……」

 

今の状態に不満を抱きながら、右腕の手当てをする。

できるのは応急処置ぐらいだが、血を止めるぐらいは出来る

 

傷に止血剤を注射しバンテージを巻き、最後に口を使って縛る。

ナイフが刺さった傷は止血剤とモルヒネを注射しておく。副作用が大変だが、今は我慢だ

 

携帯注射器(シレット)持っておいて助かったよ。活性化した後のナノマシンはスリープモードに入るのが難点だな………傷も癒えないし――――ああ、貧血気味かな、目眩が……し、て……き………」

 

ドサッと地面に横たわる。

さすがに血を流しすぎた、致死量寸前まで血を流せばそうなる。ナノマシンによる恩恵が無ければこうも無力なのかと思う。いや、ナノマシンだけではないが

 

「寒い、なぁ………あー……もう力入んないや……寝る……」

 

そう呟き、静かに熟睡するのであった。

 

 

 

 




右腕、吹っ飛びました。
いや、治りますけどね。でもトカゲ見たいに会えるのはマジ勘弁。

後日談含めて次で終わりです。次話から一気に短くなりますが、逆に今までが長すぎたんや………ww

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