インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉   作:夜光・陽炎

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四十話……このSSもここまで来ちゃったか。……こんなに長くなるとは思わなかったよ。趣味で書き続けていたらいつの間にか日常に溶け込んだでござるの巻。

と、言うわけでこれこのままだと五十話行きそうだ。うん。最後までがんばってみよう。


第四十話・やはり言う事聞かないラウラさん

カツーン

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「う、嘘!?マジ、マジだよね!?」

 

「マジマジ!本当なんだよ!この噂、学園中で持ちきりなのよ?月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑君と交際でき―――」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃあああっ!」」」

 

月曜の朝、教室はいつもと同じくがやがやと騒がしい。

しかし、今日は一人だけ姿を見せていない。おそらく学園中で上位に入るほどの有名人。そして、その人物が教室にゆっくり、果てしなくゆっくりと向かっていた。それに気付いたのはほんの数名だった。

 

カツーン

 

「で、何の話だったんだ?俺の名前が出ていたみたいだけど」

 

「え?いや、そ、空耳じゃないの?」

 

「そうか?はっきり聞こえたんだが」

 

「き、きっと気のせいよ!うん、そう」

 

クラスはある秘密を要人物に必死に隠そうと話を逸らそうとする。その女子たちは本人が鈍感なのであまり詮索をしないことが救いになっただろう。

 

「じゃ、じゃああたしは自分のクラスに戻るから!」

 

「そ、そうですわね!もうすぐHRが始まりますし、早く席に着いたほうが良いかもしれませんわね」

 

どこかよそよそしい態度でごまかして、鈴とセシリアや女子群はその場を離れていこうとする。

一夏は不思議そうに頭をかしげるだけだったが、女子たちはただ冷や汗をかいていた。

 

しかし、その冷や汗をさらに流させる事態が発生した

 

カツーン

 

 

 

ドグシャァァァァァ!!!!!

 

 

「「「ひっ!?」」」

 

「うおあっ!?」

 

いきなりドアがぶち破られ、鉄製のドアが二等分になってしまった。その光景を見たクラス総動員は一瞬動きを止める。そして、クラスの入り口前に立っていた『鬼』に先ほどの事態とは比べ物にならないほどの冷や汗を流す事になった。

 

ほぼ手入れされておらず、ぐしゃぐしゃになった髪。充血した目。適当に着たのか、所々だらしなくなっている制服。力無く垂らしている腕。そして鬼神の如き顔。どれも、人に恐怖を与えるには十分な素材だった。

 

「……今から命じる。織斑、織斑妹、オルコット、凰、篠ノ之、出て来い。さもないと………」

 

その声はこの場の誰もがいつも聞いている声だった。その声の持ち主は

 

「な、凪紗……?ど、どうした、お前?」

 

「……(ニタァ)」

 

そう、天才と呼ばれた人物。篠ノ之凪紗だった。

彼女の知人達は、一瞬彼女の大惨事外見に、誰かわからなかったに違いあるまい。しかも、五人の姿を確認した直後に、今までに見せたことのない笑顔を皆に見せつけ、脳裏に恐怖を刻み込んだ

 

「なァ……お前等のせいで、笑いすぎて急性腰痛症になって、一日寝て過ごさなければならなかった私の気持ちがわかるか?」

 

「……え?」

 

「さらに、一日中千冬さんの説教をラウラと共に喰らった私の気持ちがわかるか?あ?」

 

「いや、お、落ち着け。あれは悪意あってやったことじゃ……」

 

「それで、お前等にも、私と同等の苦しみを味わわせる事に決めたんだ……。何にしようかなぁ……」

 

「し、篠ノ之さん……?あれは、ちょっとしたいたずら心でやって、決してわざとでは……」

 

「し、詩織?アンタらしくないよ?」

 

「そ、そうだよ。い、今更だけど、ご、ごめんなさ―――」

 

「手前等の罪を数えろ」

 

「……(あ、やばい)」←たっぷり冷や汗

 

「……(これは、逃走を強いられますわね……)」←足をじらしながら逃走準備

 

「……(ま。まさか。いたずらでここまでエスカレートするなんて……やらなきゃ良かったっ!)」←、今更過ぎる後悔

 

「……(姉さん。許してくれる、はず。私は妹だ。土下座すれば……無謀すぎる)」←ポジティブなのかネガティブなのかいまいちわからない思考

 

「……(ああ、ノリに乗ってやっちゃった。なんでやっちゃったんだろう……神様、どうかこの哀れな子羊を救ってください)」←神頼み

 

「あー。面倒だから、まずは捕まえるか」

 

その言葉で、五人の思考は完全一致した。

 

「「「「「逃げる!」」」」」

 

五人とも一斉に教室から飛び出し、それぞれの全速力で逃走を始める。

 

「まぁぁぁぁてコルァァァァァァァァァァ!!!テメエら全員縄で縛り付けて水責めとか逆えび固めとか色々まとめたフォール技コンボとかしてやらアアああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ゆ、許してくれえええええっ!!」

 

凪紗が、鬼神のような顔で五人を追い掛け回し、千冬が止めるまで校内マラソンを繰り広げていた。

 

後に女子たちから学園七不思議というカテゴリに『生徒を追い掛け回す謎の物体』として認識されたのは余談である。

 

ついでに、六人まとめて仲良く遅刻になったのは言うまでもない

 

 

 

                      ◆

 

 

「……ひどい目に遭った」

 

力が抜けたかのように机でうつぶせになっている凪紗。その心境の原因は、勿論千冬である。彼女が小一時間説教を浴びたのは、想像がつくだろう。

イラついたから、喧嘩吹っかけて結果的に相打ちになったのも想像がつくだろう。

 

「えーと、次の授業はISの格闘技術に関する基礎知識の応用……はー、めんどくせぇ」

 

ぶつぶつ文句を言いながらも、教科書を出して眺めている。

 

「……ん、トイレでも行って来るか」

 

少し股がむずむずしたのを感じたのか、トイレに行こうと席から立ち上がった。

時計を見ると、そんなに時間はないのでダッシュで行くしかなさそうだ。

 

教室を出たら、近くのトイレの方向へダッシュ。しかし早々拒む出来事が起こった。

 

「………」

 

曲がり角で、一夏が耳を立てている。いや、何かを覗いていた。

 

「何やってんだ、一夏」

 

「!ちょ、静かに……!」

 

「は?」

 

いきなり静かにしろと言われる。一体何を見ていたら人に会って早々そんなことを言うのだろうか。

少し気になったので、私も曲がり角の向こうを覗いて見る。

 

そこには、何かを会話しているラウラと千冬の姿があった。しかも、丁度終わったところのようだ。

 

「さて、授業が始まる。さっさと教室に戻れよ」

 

「………」

 

千冬にそういわれたラウラは気力がなさそうに押し黙ったまま、早足で去っていった。

そして足音が聞こえなくなったこと、千冬の目が二人が覗いている場所に向かった

 

「そこの二人。盗み聞きか?一夏は別に良いが、お前は感心しないな」

 

「いいのかよ」

 

「なんで私だけ……今日は厄日だよ。ちくしょう」

 

「お前が困ろうが私には関係ないがな。それと、教師の前では私語を慎め。先ほどのようにされたいのか?」

 

「あー……くそ。わかりましたよ、先生」

 

くそう。いつもこれだよ。一年間一緒にいたから私の扱い方をよく分かっていらっしゃる。頭は上がるが、強制的に押し戻される気持ちってけっこう辛いんだよ……しかも、相変わらずコンプレックスは稼動中ですね。この弟バカ

 

「何か言ったか」

 

「いいえ。別に」

 

「それと、トイレなら早く行った方がいい。間に合わなくなるぞ」

 

「あ、やばっ」

 

「わかってるって……」

 

今更のように思い出して、再度ダッシュのフォームになる。

 

「ああ、それとお前ら」

 

「「え?」」

 

「廊下は走るな――――とは言わんが、程ほどにしろよ」

 

「へいへい」

 

「りょーかい」

 

ぐるっと踵を返し、教室に向かう千冬。どうやら今回は見逃してくれたようだ。

とりあえず、再加速してトイレを目指した。

 

 

                      ◆

 

 

「「あ」」

 

ふたりそろって間抜けな声を出してしまう。時間はもう放課後。場所は第三アリーナのステージ。人物は鈴とセシリアだった。

 

「……奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けての特訓をするんだけど」

 

「あら、奇遇ですわね。わたくしもまったく同じ用件ですわ」

 

ふたりが正面からにらみ合いになる。どうやら、どちらも優勝狙いらしい。

 

「ちょうどいいわ。この前の実習でははっきり出来なかったけど。そろそろどっちが上かはっきりさせとくべきだと思うのよね。あたしは」

 

「あーら。またまた奇遇ですわ。珍しく意見が一致しました。あなたとは剣を交えても理解し合えない仲だと思っていましたのに」

 

「こっちの台詞よ」

 

二人ともISを展開し、メインウェポンを展開するや否や、それを構えて戦闘態勢に入った。

 

「いざ――――」

 

―――しかし、その間から横槍が入った。突然、二人の間に超音速の砲弾は襲来した

 

「「なっ!?」」

 

緊急回避のあと、二人は揃って襲来源の方角を見る。そこには、だた『黒』しかない機体が佇んでいた。

その機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』。登録パイロット―――

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

顔を見ているセシリアは苦虫を噛んだような表情になる。

 

「……どういうつもり?この攻撃、へたしたらアンタただ事じゃ済まさなくなっていたわよ?いい度胸ね」

 

二つに分けている《双天牙月》を肩に掲げながら、衝撃砲をラウラに照準して戦闘モードへと移行させる。

 

「ふん、貴様等がその程度でくたばるわけが無かろう。中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か……。ふっ、データで見たほうがまだ強そうではあったな」

 

いきなり挑発的な物言いに、二人の額に赤いものが浮き出る

 

「は?何?喧嘩売ってんの?わざわざそれを言いにドイツからやってきたのアンタ。物好きね」

 

「あらあら鈴さん。こちらの方は少し私たちとは感覚がずれているそうですわ。あまり理解できない頭に理解が不能な単語を投げかけても聴くことは出来なさそうですわよ」

 

ラウラのその態度や、彼女の目は人に対するような目ではない事を覚った二人は、果てしない不快感を覚えた。それでもどうにか言葉で怒りの出口を作り出そうとする。

 

が、それが更なる怒りを生み出すための種となった

 

「はっ……何を言うかと思いきや……。二人ががりで量産期一機に負けるような人材しか揃っていないなら、よっぽどの人材不足と見える。それで代表候補生気取りか?さすが数だけが取り柄がない国と、なんとも古臭い王政などやっている国は違うな」

 

プチヂッ――――

 

何かが勢いよく切れる音がして、鈴とセシリアは装備の最終セーフティーを外す。

 

「あ、ああ、わかったわ。ミンチにして欲しいわけね。ようやくわかったわ。そんな回りくどい発言じゃあわからなかったわ」

 

「ええ、どうやらこの人、とんでもないマゾヒストのようで。お望みどおり全力で叩き潰してやりましょう」

 

「ふっ……はははっ!やる気のようだな。どうせなら二人まとめてかかってきたらどうだ?万の軍勢にたった一人で勝てるか?溶岩に小さな氷を放り込んで何かが起こるか?下らん種場などを取り合うようなメスに、この私が負ける?負けるだと?この私が?ありえない。実にありえないな。断じて負けん、負けるはずがない」

 

「……今なんていった?私には『踏んでください』としか聞こえなかったんだけど?」

 

「どうやら、随分と自信満々のようですね。しかし、この場にいない人間の侮辱までするとは、同じ欧州連合の代表候補としては恥ずかしいですわ。その口、二度と開けないようにしてやりましょう」

 

それぞれの得物を握り締め、冷たい目線でにらみ合う三人。

ラウラは両手を広げると、その口を不気味な笑みに染めた

 

「どうした?とっとと来い、能無しどもめ」

 

「……ぶっ殺す」

 

「……その額に風穴を開けてやりますわ」

 

 

 

                        ◆

 

 

「大変よ!第三アリーナで代表候補生と例の転校生が戦い合っているって話よ!」

 

「え?シャルル君のこと?」

 

「ちがう!もう一人よ。たしか、えーと……ら、ラウラなんとかだっだんだけど……」

 

「……は?」

 

ちょっと待て。今「ラウラ」って言ったよね?

 

「確か、今日は第三アリーナで特訓って……言っていたよな……」

 

先ほどの生徒の発言と自分の記憶を照合してみると、ほぼ一致した。というか、今代表候補生と争っているって言ったよな。ということは……トラブルでも起こしたのか!?

 

「っ……不味い!」

 

ISの最終調整を一旦中止し、自分の教室から飛び出す。

そして、廊下を目にも止まらぬ速度でダッシュし、箸にたどり着くと、走った勢いに乗ってガラスを破って窓から飛び出す。

 

「え!?」

 

「きゃぁーーーーーーっ!!!」

 

「ここ三階よ!?」

 

後から悲鳴が聞こえるが、今はそんな事は構わず回転しながら勢いを殺し地面に着地して、そのまま最短距離でアリーナへ向かう。

 

「もう、どいつもこいつも!人の話ぐらい聞けよな……っ!」

 

ラウラにはあれほど大人しくしろといっていたのだが、やはりこうなってしまった。

本当はラウラの監視を怠ってしまった自分の責任を咎めるべきだが、今は非常事態だ。これ以上は何も言わずに走り続ける。

 

 

 

ついにアリーナにたどり着いたと思いきや、もう大惨事の状態だった

 

観客席を包んでいるバリアには派手な傷がついており、明らかになにかの攻撃がバリアを傷付かせたのを証明している。

しかもかなりの大きさで、IS一つ分が通れるような穴が空いた痕跡が残っており、今は修復して人一人通れるような大きさだった。

 

そしてステージを見てみると、そこには激闘中の誰かの姿がはっきりと映っていた。

 

「おおおおおおおっ!!!」

 

「……阿保が」

 

「ぐあっ!」

 

一夏が振る『雪片』を、腕のブレードで難なく受け流しながら、ラウラはカウンターを食らわせている。やはり、二人には技量の差がありすぎる。

 

「やはりこの程度か。なら生かしておく価値はない、死ね」

 

そして、体勢を崩した一夏に、ラウラはその頭を狙ってレールガンを発射体勢に移した。

 

「させるかよっ!」

 

一夏が構えたレールガンを雪片で弾く。

 

「ほう。中々上手いではないか。しかし―――これはどうかな?」

 

ラウラが一夏の懐に飛びこむ。そして、その鳩尾に正拳突きを食らわせる。

 

「うぐぅっ!」

 

「追加だ、受け取れ」

 

殴った腕の装甲が一部スライドし、中から何かの駆動部があらわになる。その中が光ったと思いきや、急に一夏の体が吹っ飛んだ。

 

「つぅっ……!な、にっ!?」

 

「中々使える。さすが凪紗教官だ」

 

余裕を持った声で、一夏が少しイラつく。

吹っ飛ぶ体をスラスターをうまく使い体勢を立て直して、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い突っ込んでいく。

 

「ふん。賢い選択とは言えんな。―――それでも教官の弟子を名乗るか!」

 

ラウラも釣られたように瞬時加速を使い、一夏に突撃する。

 

「ぬおおおおおおっ!」

 

「……単細胞が。単純すぎる!」

 

ラウラは一夏の雪片をすれ違いながらかわすと、後ろに回って背中一蹴りしてガトリングの発射準備にはいった。

 

「くそっ!当たれえええっ!」

 

一夏が左腕の『雪羅』で苦し紛れの射撃をするが、素人の射撃がラウラにあたるはずも無く、何も起こらなかったかのようにかわされてしまう。

 

「死ね」

 

そして、ガトリングレールガンが発射される――――

 

「一夏っ、離れて!」

 

急にオープンチャンネルでそんな声が聞こえたかと思うと、一夏の体が弾き飛ばされた。

そして、その前に立っているのはもう一人の転校生、シャルルだった。

 

シャルルは腕にあるシールドを構える。瞬間、シールドの弾丸の雨が降り注いだ

 

「ぐううううっ!」

 

信じられないのほどの威力と連射速度で、どんどんシールドが削られていく。

 

「きゃあっ!」

 

ついにシールドが壊れ、弾をモロに受けたシャルルは後ろに吹き飛ぶ。

 

「シャルル!てめえぇぇ!!」

 

再度一夏が突っ込んで行くが、急にラウラの正面で静止してしまった

そして、ラウラは眼帯をいつの間にか外している。さらにその目で一夏を凝視していた

 

「な、なんだ、これ!?体が……動かねぇっ……!」

 

体のどこにも力を入れても動かない。まるで、硬い石に閉じ込められたような感覚だった。

 

「くくく。貴様はやはり弱い、この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も雑魚に等しい。―――今度こそ消えろ」

 

肩のガトリングレールガンが回転し、どんどん回転を早めていく。

 

 

―――しかし、いきなりその回転は止まった。

 

「何ッ!?」

 

しかも、一夏だけではなく、ラウラも体が動かなくなっていた。

 

「これは……一体」

 

 

 

 

 

 

「……何やってんだ、お前等」

 

急に二人の間に誰かが割り込む。

 

「凪紗……!おまっ、一体何処から……」

 

その人物は、二人にとっては意外な人物だった。しかも、その姿は生身、制服姿のままだった。

ISどころかスーツさえ装着していないし、両手には何も持っていなかった。特に変わったところといえば、右手に普段見ないグローブをつけていたところだけである。

 

「やれやれ。これだから馬鹿弟子たちは。お前等を相手にしていると疲れるよ」

 

「きょうか……凪紗。これは、一体……?」

 

「やっぱ見えるか。ま、当然だな」

 

ラウラは何もない自分の周りに視線を送ると、凪紗は察したような反応を見せる。勿論、一夏には何も見えていないわけで

 

「えっと……一体何を話しているんだ?」

 

「ああ、これだよ、これ」

 

凪紗は自分の右手を指す。そして一瞬だが、ラウラの体を縛っていた『それ』は光で反射し一夏にも少しだけ見えた。

 

「まさか…糸、ワイヤーか?」

 

「そーだよ。初めて使うもんにしては結構いいなこれ」

 

「初めてって……つくづく人間離れしてんな……」

 

「そんな事はどうでもいい。この状況、説明してもらうぞ」

 

「………」

 

その言葉に、ラウラは一切反応しない。反応してはいけないと思ったのか、それとも返す言葉もないのか。

 

「で、千冬さん。さっきからなに見ているんですか?」

 

「え?千冬姉!?」

 

いつの間にか近くまで来ていた千冬。自分の気配を殺して近づくとは、一体何がしたいのだろう。

 

「……やれやれ、これだから餓鬼の相手は……模擬戦をやるのは構わない。がしかし、アリーナのシールドを破壊するのは、すこしやりすぎだと思うぞ?弟よ」

 

「いや、でも……」

 

「わかっている。しかし、この状況は教師として黙認しかねる。戦いの決着を付けたければ、月末のトーナメントで好き放題暴れる事だな」

 

「……わかりました」

 

ラウラは俯いたまま小さく返事をして、ISの装着状態を解除する。アーマーは光の粒子となり虚空へと消え去った。

 

「一夏、デュノア、お前たちもそれでいいな?」

 

「あ、ああ……」

 

「はい」

 

二人の言葉を聞いて、千冬は凪紗の方へと向き直る

 

「……それで、なぜこうなったかは見当つくか?」

 

「いえ、特に思い当たるふしは無いんですけど……強いて言うなら、私たちがここに留まっている理由かもしれない『原因』を、排除したかったのかもしれませんね」

 

「……そうか。全て私たちの責任、か。怒らないのか?あいつがこんなことをしたのを」

 

「まぁ、ラウラの性格ですし、こんなことで一々怒っていたら胃に穴が空きますよ。ホント」

 

「それは冗談か本気かわからないな」

 

そこで会話を切り、千冬は改めてアリーナ内の全生徒に向けて言い放った

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する!解散!」

 

 

パンッ!と鋭い音が、虚しい空に響くのであった。

 

 

 

 

 

                       ◆

 

 

「―――んで、まんまと挑発に乗らされてこのザマってわけか」

 

「いや、まぁ……」

 

「…感情的になりすぎましたわね」

 

場所は保健室、時間は先ほどの一見から一時間ほど経過していた。

ベットの上では打撲の治療をして包帯を巻かれた鈴とセシリアが悔しそうな顔で俯いている。

 

「べ、別に、助けてくれなくても平気だったし」

 

「あのままやっていれば勝っていましたわ」

 

「……その強がりは呆れを通り越して苦笑いを覚えるよ」

 

よく言うよ。シールドを危険域まで減らしといて。しかし、この事は二人が無事だったからいいが、万が一死傷でもしたら冗談でも笑えない。

 

「お前等なぁ……。いや、でも別にたいした怪我じゃなくて良かったんだか」

 

「こんなの怪我のうちには入らな―――いっつっ!」

 

「そもそもこうやってベットで大人しくしていられるわけな―――いたっ!」

 

「アホ。けが人は大人しくしていろ。それに一夏、お前も私が介入していなきゃかなりやばかったぞ?」

 

「ああ、自覚はしている。正直白蓮のあの使い方は俺の判断ミスだしな」

 

「自覚していればいい。その方が私も安心だ」

 

どうやら話しを聞けばこの馬鹿は白蓮を最大出力で、しかも零落百夜も含めエネルギー消費類の機構を出力全開で運用したらしい。そんな状態でよく三分以上持ったものだ

 

「好きな人に格好悪いところ見られたから、恥ずかしいんだよ」

 

「ん?」

 

「……シャルル君、円夏、それはダブーだよ」

 

シャルルと円夏が飲み物を買って戻ってきた。そのとき色々問題な発言をしたが、やはり一夏は偶然にも、偶然にも聞き取れなかったようで「?」という顔をしていた

 

勿論、それ以外の人物はきちんと聞き取れたようで

 

「な、ななな何を言っているのか、全っ然わかんないわね!こここここれだから過信な人は、こここ困るのよね!」

 

「べ、べべべっ別にわたくしはっ!そ、そういうのではなくて自分のプライドのために!や、やったのですわ!勘違いしないで貰いますっ!?」

 

あからさまな反応をし、さらに顔が赤くなっている。これだから色恋ってやつは……対処が面倒だ

 

「はい、烏龍茶と紅茶。これ飲んで落ち着いて。ね?」

 

「ふ、ふんっ!」

 

「不本意ですが、頂きますわ!」

 

鈴とセシリアは飲み物をひったくるように受け取って、キャップをパキパキッと勢いよく開けてすぐに飲み干す。一気飲みって体に悪いって知ってる?

 

「はい、緑茶」

 

「あ、うん。ありがと」

 

私も円夏から「オー〇、お茶」というロゴが入ったペットボトルを受け取る。そしてキャップを開けて少しだけ飲む。

 

「あ、先生も落ち着いたら帰っていいって言ってるし、しばらく休んだら―――」

 

ドドドドドドドドッ………!

 

「……え?地鳴り?」

 

「な、何の音だこれ?」

 

一見地鳴りのような音だが、その音は廊下の方から聞こえてきている。しかもだんだんと音は大きくなってきていて、明らかに近づいてきている証拠であった。

 

ドカーン!と保健室のドアが吹っ飛ぶ。そしてそのドアは私の隣を横切って保健室の窓から外に飛び出していったのであった。

 

「織斑君!」

 

「デュノア君!」

 

入ってきたのは予想通り女子群。まるでバーゲンセールのおばさんたちみたいに津波のように押しかけてくる。

しかも、後の男子二人(一人女子)を私ごと囲み、思わず持っていたペットボトルを落としてしまった。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「ど、どうしたのみんな……お、落ち着いて!」

 

「「「「これ!」」」」

 

女子一同が出してきたのは学内の緊急報告知文が書かれた申込書だった。

その内容を見て「あー、なるほど」と私はつい納得してしまう

 

「えーと、なになに……」

 

「『今日開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うために二人組みで参加を必須とする。なお、ペアが出来なかったものには抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』―――」

 

「ああ、そこまででいいから!とにかくっ!」

 

そして間という間から伸びてくる手。かるーいホラーゲームをしている気分になる

 

「「「私と組んでください!」」」

 

もう予想していた単語かばっちり出るもんだから、かなり呆れる。っつーか、優勝したら交際できるんだから、強力なパートナーと組むという選択肢は無かったのか?

 

「え、えっと……」

 

シャルルは困ったようにおろおろとしている。当然だ。彼、いや、彼女は男装した女子なのだから、誰かと組んでその人に招待がバレるというのは非常にマズイ。万が一説得に成功しても、女子の情報網は伊達ではない。もし誰かに聞かれでもしたら一瞬で情報が広がってしまうだろう。

 

「あー、みんな、悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれないか?」

 

一夏が急にそう言い放つ。なるほど、もう正体は知っているらしいな

 

「まあ、そういうことなら……」

 

「他の女子と組まれるよりはいいし……」

 

「男同士ってのいもなにかと花が……ごほんごほん」

 

最後がおかしかったような機が下が、深く考えるのは辞めた。とりあえず、納得してくれたよで、皆「仕方ない」と呟きながら保健室を去っていった

 

「ふう……」

 

「あ、あの、一夏―――」

 

「一夏っ!」

 

「一夏さんっ!」

 

なにか言おうとしたシャルルを置いてけぼりにして、ベットから二人が飛び出してきた

 

「あ、あたしと組みなさいよ!幼馴染でしょうが!」

 

「いえ、ここはクラスメイトとしてわたくしが!」

 

「ダメだ」

「ダメですよ」

 

二人の頭を掴み、ベットへと押し戻す。

正直恋のためなら火の中水の中という馬鹿どもが外科したまま戦闘など、逆に体をもっと壊しそうで心配―――ん?

 

「って、うわ!?」

 

突然とこからともなく山田先生が現れ、少しビビった。さすがは元日本代表候補といったところか

 

「お二人にISの状態をさっきチェックしてみましたが、ダメージレベルがCを超えていました。糖分は修理に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」

 

「そ、それなら詩織に直してもらえば―――」

 

「残念ながら、整備室は教師の許可がないと入れないんだよね」

 

「うっ、マジ?」

 

「マジ、そうですよね?山田先生」

 

「そうです。仮にできたとしても、お二人の体ではまともにISを操作することもできませんよ?」

 

「それに、IS基礎理論の備蓄経験についての注意事項第三条。『ISは戦闘経験を含むすべての経験を備蓄する事で、より進化した状態へと自らを移行させる。その備蓄経験を損傷時の稼動も含まれ、ISのダメージがレベルCを超えた状態で起動させるとその不完全な状態での特殊エネルギーパイパスを構築してしまうため、それらは逆に平常時での稼動に悪影響を及ぼす事がある』。わかってるよね?」

 

「も、もちろんですわ……とても、とっても不本意ですが!今回はトーナメント参加は事態します……」

 

「あたしも事態します……はぁ……」

 

「ま、逆にそれを利用して損傷状態で特殊な状態にするためのパイパスを構築させる人もいるけどね。例えば、ダメージレベルがAになっても正常稼動できるようするとか」

 

これをしたのが私なのだがね。HAHAHA、笑えん。

ちなみにレベルAはもう内部装甲しか残っていない状態を指す。(外部装甲が全部なくなり、損傷状態が90%)そもそもほとんど起こりえない状態だが

ついでに人間で表すと『骨だけ』状態。そんなんで動けるのが不思議だよ

 

「でもさ。結局どんな挑発をされたらこうなるんだよ?」

 

「ああ、それは私も気になった。想像はつくけど」

 

「え、いや、それは……」

 

「えっと、女のプライドを、侮辱されたから……ですわね」

 

「代表となりえる人物がそんな安っぽい挑発にまんまと鳴らされたのが問題だと思うんだよね私は」

 

「うぐっ……」

 

「い、痛いところを突っつきますわね……」

 

「くくく。私、お前たちに触ってもいないんだけど?本当に痛いところを突っつくのは……」

 

つんと、鈴とセシリアの肩を軽く突っつく

 

「「いっ……!!」」

 

「……そんなに痛かった?」

 

「あ、アンタの力は並じゃないんだからっ……!手加減してよね……」

 

「あ、あどで……おぼえていていらっしゃい……」

 

「あ、そう。朝の二の舞になるけどいいの?」

 

「「(ぴくっ!)」」

 

今更思い出したようで急に丸くなる。全く、私もあの二の舞になるのだけは勘弁だ

そして、今ある重要な事を思い出した。

 

「あ、円夏」

 

「え?な、なに?」

 

「はい、パース」

 

私はポケットから出した『ロザリオ』を、円夏へと投げ渡す

 

「え、ちょっと!?」

 

それをなんとかキャッチした円夏は慌てていたのか転びそうになる。しかし、前に壁があったのでなんとかパンチラとか絵ギャル毛特有のM字開脚を免れたようだ

 

「え、えっと、これは……?」

 

「ISだよ。円夏の新しいIS」

 

「……え?こ、これが?でも、ISって、初期化状態だと装飾具にならないんじゃ……」

 

「私を何だと思っているんだい?前、コアネットワークからちょっと円夏のISの情報を引き出したんだよね」

 

「え!?」

 

「ほら、わかっているとは思うけど、ISってのは全部つながっているんだよね。それを利用して、ネットワークの奥底に眠っていた廃棄データをサルベージしたんだ。その結果がこれ、ってわけ」

 

「な、なんか無茶苦茶な気が……」

 

「こまけーこたぁいーんだよ。結論だけを見ていえば、それが円夏の新しいパートナー、ってことになる」

 

「これが、私の………ありがとう、凪紗」

 

「いいよ、こうなったのは私にも責任があるし」

 

「でも、本当にありがとう」

 

「その言葉をもらえただけで、十分だよ。それと、そのISの名前は『ホワイト・グリント』。覚えててね」

 

「ホワイトグリント……白い閃光、か……」

 

円夏は気に入ったように、ギューッとロザリオを握り締める

その顔は、以前の顔より明るいような気がした

 

                    ◆

 

 

「………」

 

「……ふう」

 

夕食後、部屋に入るなり思い空気が漂った。

それでも私は気にすることなく着替えを始める。

 

「……その、凪紗……」

 

「ん?何?」

 

「……怒って、いないんですか?」

 

「ああ……別に。仕方ないって思ったし」

 

「命令を背かれるのに、何の疑問も思わないんですか!?」

 

「命令って……私はもう教官なんて立場じゃないって言ったでしょう?あれは単なる頼みだよ。それを破ろうが守ろうが、ラウラの勝手だしね。私に怒る権利はないよ」

 

「っ……あなたは、変わった」

 

「……そりゃ、人なんて少し時間が経てば変わるよ」

 

「……私が知っている篠ノ之凪紗は、もっと厳しくて、強くて、私の………っ、憧れです。それは、こうしている今も変わりません」

 

「………」

 

「……あなたは、一体何をしたいんですか?」

 

『……お前は、何がしたい?』

 

一ヶ月前の、謎の夢での声が脳で再生された。

自分は今、何をやっているのだろうか。今まで単に感まかせで魚いて、今まで全然目標を決めていない。何も思わず、生きてきた。気まぐれに生きてきた。それでいいと思った。しかし、それは――――

 

「っ………!」

 

急に頭が痛くなり、着掛けていたTシャツから手を離して頭を押さえる。

 

「あっ……くそっ……!」

 

『こんな力に、意味なんて、ない』

 

「…………!」

 

先ほどと同じく、声が再生される。

それは、長い間忘れていたようで、どこか懐かしい。しかし、その言葉と共に、急に頭が真っ白になっていった。

 

「教官!大丈夫ですか!教官!」

 

ラウラが方を揺すって、ようやく我を取り戻した。

 

「………え?えっと、私は……何を?」

 

先ほどのことを思い出せずにうーんと頭を抱えていると、ラウラからまたまた言葉を投げかけられた。

 

「大丈夫……ですよね?凪紗?」

 

「あ、うん、大丈夫……かな?」

 

自分でもよく分からず、とりあえずTシャツを下ろす。

 

「ラウラ、私何秒ぐらいこうしてた?」

 

「何秒って……一分近く声を掛けても返事が無かったではないですか。最初は無視されていると思いましたけど、徐々に様子がおかしいことに気付いて……」

 

「ああ、ごめん。心配かけて」

 

「本当に、何かあったかと思いましたよ!敵に毒でも盛られたのかと……」

 

毒って、それは考えすぎだろう。って言っちゃダメだよね。この状況じゃ。

しかし、本当に名に考えていたのか忘れてしまった。………忘れたって事はそんなに重要な事じゃないのか?……ま、いっか

 

「うーん……ラウラもそろそろ着替えたら?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「は?」

 

少し矛盾したような発言に口を開いた。待て、「はい」って了承だよね?大丈夫はもう済んでいるって事は……あれ?

 

「中に、寝巻きを着ています――――これで、問題ありません」

 

制服のボタンを外しただけで、寝巻きの黒いタンクトップをあらわになった。そして、下はハーフパンツ。つくつく機能性を重視したスタイルである

 

「あー……うん。気にしたら負けだ」

 

「え?何か問題でも?」

 

「いや、なんでもない。とりあえず、私が先にシャワーを浴び――――」

 

トントン

 

「……変なタイミングで来客だなおい」

 

ぶつぶつ言いながらも、ドアを開ける。そこには

 

「……一夏か。なんか用か?」

 

「貴様、よくも我々の陣地に入り込んだな?」

 

「物騒なこというなよ……。まぁ、その用なんだが」

 

「用件なら早く言え。そして追い出す」

 

「……こほん。えー……実は、シャルルっがお前に話があるってよ」

 

「は?シャルルが?」

 

「ああ、そうなんだ。できれば来てくれって言ってたけど、本人の同意が優先だってさ。どうする?」

 

「………」

 

話?………自分の正体に関する事か?それは相手ももうわかっているだろうし、念には念をということか?

 

「………わかった。行くよ」

 

「ああ、なら早く俺の部屋に―――」

 

「い、いけません教か……じゃなかった、凪紗!」

 

「はい?」

 

「これは罠です!きっと、こいつを含めた獣が教官の体を狙い―――」

 

「あーもー。違うから。つーか、ていうか、もう教官って呼んでるしさっき訂正した意味ないでしょうが……。とりあえず、先にシャワー浴びてて」

 

「わ、わかりました……おい貴様!教官に手を出したら私が殺す!」

 

「いや、そもそも手を出せるような相手じゃないんだが。こっちが殺されるよ……」

 

「なんだって?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

もう聞こえているんだがな。しかしどうでもいい。私はさっさと部屋に向かう事にした。

 

 

 

 

「ふあぁー………んで、用って何?」

 

ぶらぶらと部屋にたどり着いてすぐさまベットに腰掛ける。どっちのベットでもいいんだが、あいつのベットは嫌だな。どうでもいいが

 

「一夏、周りに誰もいないよね?」

 

「ああ、仮にいたとしても大丈夫だ。この部屋は完全防音性らしいし、ドアさえ……ドアさえ開けなければな」

 

なにかお思い出したように凹む一夏。ああ、あのときか。千冬さんに襲われたときの

実はアレ、裸にひん剥かれて沿い寝させられただけなんだと。それでもトラウマを植えつけるのには十分な威力みたいだったが

 

「一夏?どうしたの?」

 

「……なんでもない。とりあえず、話を進めてくれ」

 

「ああ、うん。えっとね、今回篠ノ之さんにきてもらったのは他でもない。僕が男装をしている理由を説明しようとね……正体は知っていても、わけは知らないはずだし……」

 

「あー、うん……凪紗でいいよ」

 

なんか苗字で呼ばれるのも変な感じしてきたので、名前で呼んでもらうことにする。正直、混乱して頭ごっぢゃになりそうだよ

 

「ありがとう。……その、僕が男装しているのは、実家からの命令なんだよ」

 

「……実家、ねぇ……」

 

ほんとはもう知っているが、今変に怪しまれても説明つかないので、というか信じられそうにも無いので大人しく話を聞くことにする。眠たい

 

「実家って言うと、あの大手会社のデュノア社だよね?」

 

「そう。僕の父がそこの社長。ってのは知っていると思うよ。で、その人から直接の命令なんだよ」

 

「ま、予想はしていたよ。誰かの命令じゃないかってぐらいは。好き好んでこんなことするやつはいないしね………で、そんなことを親がやらせるとは、到底思えないな。やらせるなら部下ぐらいで十分じゃないか」

 

「……僕の方が色々サポートしやすいんだろうね。社長の息子とあれば、色々恩恵もあるし、デュノアとつながっていても不思議はないし」

 

「なるほどね……でも、そんな事をわざわざ自分の子供にやらせるわけがわからないんだよね。こんなリスクまで犯して」

 

「……僕はね、愛人の子なんだよ」

 

わかってはいたが、いざ生で言われると重みが違う。しかも、この言葉で空気がドンと重くなった

 

「……詳しい経緯は省くけと、色々あって僕はデュノア社のテストパイロットをやることになってね。そのつながりで今回の任務を課せられたんだ。参っちゃうよ」

 

「……それで?」

 

「あ、ごめん。―――それでね、僕がデュノア社のテストパイロットをしてから少し経ってね、デュノア社は経営危機に陥ったの」

 

「……世界第三位のシェアを持つデュノア社が、ずいぶん堕ちたね」

 

「理由は……大体察していると思うから省略するよ。それで、フランスは欧米連合の総合防衛計画『イグニッション・プラン』から省かれているからね、第三世代型の開発は急務だったんだ。国防のためもあるけど資本力で負ける国が最初のアトバンテージを取れないと悲惨なことになるんだよ」

 

「………(眠い)話を推測するに、第三世代の開発のヒントを得るためにこの学園にやってきた。というところかな」

 

「半分は合ってる。けど、ヒントはちょっと間違っているけど、ある意味間違ってはいないかな?でも、話は大体わかったみたいだね」

 

「ああ、あなたの話からすると、どーせ日本の第三世代型のデータをパクリに来たんでしょ。男子に変装したのは広告塔かねての一夏への接触リスクを激減させるため。同じ男子とあれば、接触も容易だし」

 

「うん。全部読まれちゃってるみたいだね。さすが天才と呼ばれるだけあるよ。それで、昨日正体もばれちゃって、本国に帰ろうかと思ったけど、一夏が引きとめてくれたんだ」

 

「へえ~……一夏、お前まさか惚れたのか?」

 

「ちっ、ちげぇよ!からかうなよな!」

 

「へいへい……で、それを私に話してどうするんだ?同情でもしてもらうのか?」

 

「それは、その……」

 

「それは俺から離してもらっていいか」

 

「え、でも一夏……」

 

「心配するな。……凪紗、頼みたいことは他でもない、第三世代型のデータを、シャルルに譲ってくれないか?」

 

「は?」

 

「少しだけでも……ヒントでもいい。とにかく、シャルルを助けたいんだ。それでなんとかできない――-」

 

「断る」

 

「か……って、え?」

 

「……あのなぁ、一つ数億ぐらいしそうなデータをそう易々と渡すと思うか?」

 

「で、でも、お前にも情ってもんが……」

 

「甘ったれるな!!」

 

「っ……!」

 

「……お前の悪い癖だ。自分ひとりで詰まったときはいつも他人頼り。しかもほぼ私だ。お前は私に頼るぐらいしか脳が無いのか?その頭はなんだ、考えるためにあるんじゃないのか!残念ながら私はそいつを助けないし、助けたくもない。そんなに助けたいんなら、一人でやれ」

 

「なっ……そ、そいつって、言いすぎだろ!」

 

「誰をどう呼ぼうが人の勝手だ。あとな、たまには自分でなんとかしないとって思わないのか?そんなに他人を頼って楽しいか?そんなんだからお前はいつまで弱いんだ!」

 

「……そうだよ……」

 

「………言うならもっとはっきり言え。でかい声で、私の耳にも届くようにな」

 

「……そうだよ!俺は、弱くて、他人に頼らないと生きていけない弱虫だ。望み一つまともに叶えられない弱虫だ。だからなんだよ、他人に頼るのはいけないのか!なんでもかんでも一人でやらなくちゃいけないのかよ!だからこうして強くなろうとしてんだ!だけど、結局何も変わらない……っ!人一人守れないクソ野郎だよ……けどな、諦めないのは出来る、転んだなら何度でも立ち上がって、何度でも食いついてみせる。たとえ死んでもだ!」

 

「なら、ここで証明してみろ。死んでも立ち上がるってことを」

 

「ああ……遠慮は、しねええええええええ!!!!!!」

 

ついに耐え切れなくなったように、一夏が思いっきり拳を振りかぶった。そして、正面に居る凪紗の頬へと一直線に向かう。そして―――

 

ドガッ!

 

「………え!?」

 

その拳は、確かに凪紗の頬へと突き刺さった。それは一夏本人でも予想外の事だった。きっと避けてカウンターをぶつけてくるかと思ったからだ。

 

「……ったく。結構いいパンチするようになったな。歯に皹でも入っているんじゃないだろうな……これ」

 

「な、なんで、避けなかったんだよ……」

 

「言ったろ。『証明してみろ』って。端から避けるつもりはなかったよ」

 

「……えっと、大丈夫、だよな」

 

「ああ、大丈夫だ。お前の覚悟も十分伝わった………お返しだ」

 

「え?」

 

ドグガァッ!!!

 

凪紗の拳は一瞬音速の壁をつきぬけ、一夏の頬を完全に捉えていた。

予想通りに拳は突き刺さり、一夏は体が回転しながら吹っ飛んで地面にうなだれる。そしてそのまま気を失った。

 

「ったく、無駄に硬い体なんだから。傷一つ負ってない」

 

「い、一夏!?……気絶しちゃってる」

 

「あー、ごめんごめん。ついついムキになっちゃったよ。悪いけど、看病してもらえる?」

 

「それは別にいいけど……あ、どこいくの?」

 

「帰る。後、あなたは助けないから。この野郎が守るって言ったしね」

 

「まさか……それを言わせるために?」

 

「さあ?どうだろうね」

 

そしてそのまま凪紗は一夏の部屋を出るのであった。

部屋を出た途端、急に鼻から血が出て、それを押さえつけるように鼻をつまむ

 

「あーくそ。ホントにいいパンチするようになったじゃん、あいつ。私に流血させるとは……あー、頬いてぇ」

 

ぶらぶらしながら、誰もいない廊下を歩き続けるのであった

 

 

 

 

 

 




なんだかんだ一週間ぶりの更新でしたが、いかがだったでしょうか。
この調子なら、更新は周一になりそうですね。まあ「嫌だ」という方がいれば、もう少し投稿速度を速めようかと思います。文字数は少なくなるけど。
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