インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉   作:夜光・陽炎

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今回は特になしです。どぞ


第四十三話・システムの謎。

シャアアアとシャワーノズルから、ちょいと温めのお湯が噴出す。

小さな穴から噴出した水滴は、その漆黒で、しかしつやのある神に当たっては地に垂れる髪に沿って床のタイルに落ちてゆく。

 

そしてまた、体全体に当たってゆく水滴群は、体のラインに沿って地面へと流れていった。噴出する水は凪紗の体を丁度言い温度で暖め、まるで人肌温度の衣に包まれる気分である。

 

「ふぅ……ああ、落ち着くわぁ~……」

 

アリーナの更衣室にあるシャワールームは、ロッカールーム式であるためかなり広めである。これはたぶん、潔癖症の多い女子に対する礼儀であろう。汗をかいたまま授業する事は中々辛いはずだろう。具体的には濡れたままの水着で椅子に座るような違和感だが、慣れれば我慢できる。

しかし、慣れない生徒もいるはずなので、その生徒に対する処置の一環……のはずだが

 

「……無駄に広いよなぁ……」

 

そう、はっきり言って無駄に広いのだ。

シャワールームのロッカールームは、視認するだけで約二十、否、三十近くある。

一体どれだけ潔癖症の生徒がいたらこんなにロッカーを取り付けたのか。全く最近の若者は我慢弱い。

 

「しかし、これだけ広いのに私ひとりしか使っていないとは……殺風景にも程があるよ」

 

まあ仕方ないといえば仕方ない。なぜなら先ほどあった試合は第六回戦。つまり一番最後の試合だ。それ以前の生徒はとっくの前にシャワーなど済んでいるだろう。そもそも使っているのかも疑わしいが。

 

「つーか、あいつ等何やってんだ。ここに入ってもう五分経つぞ……。死闘の後だからしょうがないけど」

 

幾ら必死の戦いの後だといっても、さすがに遅すぎやしないか?と思う凪紗であったが、そう思ったのもつかの間。ガチャ、という小さな音と共にヒタヒタと歩く音が聞き取れた。

 

「(この気配………)ラウラか」

 

「!……よ、よく分かりましたね、教官」

 

この独特の警戒心と気配は間違いなくラウラだった。一年も一緒に暮らせばそりゃわかる。人にはそれぞれ独特のにおいがするのでそれで判別する事もできるが、今は湿気漂う室内。臭いなど消されて判別は出来ない。なので気配で見分けたわけだが、『危機察知』とは違うのでこちらはあまり信用できる用法ではない。

せいぜいわかるのは友人や家族ぐらいである。知人まではくわしく判別することは出来ない。しようと思えばできるが。

 

「他の二人は?遅れるの?」

 

「いえ、今着ます」

 

ラウラがそう言うと、後からヒタヒタと足音がする。しかも今度は複数、間違いなく円夏と箒だった。

 

「こめんね、後れちゃって」

 

「少し着替えに手間取ってな、手が震えて上手く脱げなかったのだ」

 

どうやらまだ試合によるダメージが残っているらしく、二人の手足の周りの空気がかすかに揺れている。そんなにひどく苦戦したのだろうか。気にしても仕方ないが。

 

その後、三人とも凪紗と同じようにロッカールームに入り、バルブを捻ってシャワーオずるから水を出す。

そして凪紗自身も本題に入ろうとしていた。

 

「さて、お待ちかねの……Extra Active Evolution System。略称EAシステムの説明をする。一回しか言わないからしっかり聞けよ」

 

「「「(ごくり)」」」

 

「あんまり細かい説明もなんだから、簡単に説明する―――――あれは文字通り『急速進化』、規格外の急速成長を可能にする(・・・・・・・・・・・・・・)限定進化システムだ」

 

「き、か……?」

 

「規格外の急速成長!?」

 

「急速進化って……冗談、ではなさそうですね」

 

予想通りの反応が返ってきたことには凪紗は何も反応せず話を続けた。

 

「あー、システムの仕組みだけど、専門知識用語をただ話しても理解できないだろうからさ、今さっとまとめたものを言う。……これ、誰にも話さないでくれよ」

 

「わ、わかった」

 

「同じく」

 

「了解」

 

「………ザッと説明すると、現在約450個以上あるコアの電子回路連結。ケーブルのようなもので、まあコアネットワークの直結といっても良い。ていうかまんまだ」

 

「直結……?」

 

「回路の連結……つまり通信系の強化ですか?」

 

「ちょっと違う。コア同士に通信させるシステムじゃないんだよなこれが……このシステムは世界中にあるコア『全て』から『戦闘経験』に関わるデータを引き出し、それを糧にして限定的な進化を可能にするシステムだ。簡単に言えば『仲間の力を借りる』みたいなもんだ」

 

「戦闘データの引き出し……!?それって……」

 

「間接的な窃盗行為ではないんですか……?」

 

「『奪う』んじゃなくてコピー。つまり『複製』だ。元々コアは全部つながった状態だから、ほかのISの戦闘データの一時的コピー&削除ぐらいわけない。つまり、このシステムの限界稼働時間が着たら全て元通り、ノーリスクハイリターンだ。どう?」

 

「どう、といわれても………」

 

「相変わらず無茶苦茶だよ、姉さん……」

 

「それが私だよ。くくく………で、ざっくりまとめてみたけど、わかった?」

 

「えーと、つまり他のISから戦闘データを借りて限定的な進化。稼動限界が来たら全て元通りで私たちのISもすべて元通り。ってこと?」

 

「正解。まあ、これが理解できなきゃどっかの馬鹿以下の脳だと判断するよ」

 

「…………」

 

「……箒ちゃん?」

 

「ち、違う!別にわからなかったわけではない!そ、そのぉ………えっと……」

 

「ああ、もういいよ。回りくどい言い方しなくていいから」

 

「うう………」

 

「……えっと、だ。実を言うと、そもそもこのシステム、まだ稼動状態にはならないはずなんだけどね………」

 

「………え?」

 

「あー、少し言い方を変えると、なんでこのシステムが起動したのか、わからないんだよね」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「……実は、ね。このシステム、量子コンピューターでの演算結果、成功率が1%以下になっていたんだ。搭乗者が最高のコンディションでも起動確率は五分五分。『科学的には不可能』な数字だったんだよね」

 

「そ、そんなに低かったの?」

 

「この低さだから、姉さんですら『理論』でしか持っていけなかった代物だ。これはその理論を『実用化』まで無理矢理こぎつけた……いや、無理矢理プログラムにしてOSにぶち込んだ。というニュアンスが正しいかな」

 

「ね、姉さんですら理論にしか………」

 

「それを無理矢理ぶち込んだ……って、かなり不安定そうだね」

 

「まあ、普通なら不安定なんだよね。『普通』なら」

 

「それって、普通じゃないって事?」

 

「………ちょいと非科学的なんだが、量子コンピューターの代わりにISコアで演算してしてみたんだ。その結果……成功率が99,8%という結果をたたき出していた。更に起動確率も八割……理解に苦しくてわけがわからない状態なんだよね」

 

「…………」

 

「気持ちはわかるよ。私だってリアルタイムで絶句したからね。科学者としては考えたくないけど、甲思ったんだ、コアネットワーク……ISコアの深層には、私たちの知らない『何か』があるのかも……ってね。オカルトでしょう?」

 

「開発者が知らない何かって……コアは凪紗が作ったんじゃないの?」

 

「そうなんだ……そうなんだけど、論理自体は束姉さんが独自に作り上げたものだよ。『作り方』は知っていても『機能』は知らない。まあ、全部わからないってわけじゃあないけどさ、たぶんコアについて一番知っているのは束姉さん。私は半分以上ぐらいしか知らないんだ。無責任な話だけど」

 

「そんな………」

 

「ま、姉さんも『全部』知っているわけではなさそうだし、別に良いんじゃない?私たちからすると、『自分』という概念がわからないみたいなものだし」

 

「か、軽すぎでしょ」

 

「……とにかく、別にそのプログラムは危険があるわけじゃあないけど、さすがに怪しまれるから使用は控えめにね。もしバレたら………どうなるんだろう?」

 

「プログラム目当てに世界中から狙われるのではないでしょうか」

 

「ラウラ、少しは場を和らげる精神を実につけたほうが良いよ」

 

「え?」

 

「なんでもない―――――話は以上。すまんが私はもう上がらせてもらうよ」

 

バルブを絞めてシャワーを止め、ドアにかけられていたタオルを首にかけながら、シャワー室を出て行こうとする。

しかし、出て行く寸前一瞬立ち止まって「あ」と、何かを思い出したような声を出して三人の方に振り返った。

 

「言い忘れていたけど、EAシステム、一日一回しか使えないから。肝に銘じて置けよー」

 

「ちょ……なんでそんな大事な事を最後に言うのよ!」

 

「ごめんごめん」

 

今度こそ、シャワールームのドアを閉じて出て行き、シャワーを浴びていた二人も軽く汗を流し、後に続くようにシャワールームを出て行った。

 

しかし、残り一人―――ラウラは一向に出て行かず、何故か俯きながら棒立ちになり、シャワーから出た水滴にに叩かれている。しかも、自分の拳を血の滲むまで握り締めて。

 

 

「これで、私はまだ強くなれる―――――また一歩、あの人に近づいたっ………!」

 

 

搾り出すような声が、室内に響く。

その顔は、本人も一度も出したことのない、凶悪で、そして無邪気な、笑顔だった。

 

 

 

 

                      ◆

 

 

 

第二回戦の翌日。

朝から何か放送で、ペアの三組が誰と戦うかが発表された。

その結果は、なんと凪紗、ラウラペアの方が一戦多いことになった。一夏たちも自分の予想が外れたことに少し驚いていたが、戦力的に考えてみるとおかしくはないだろう。

一年最強のペアなのだから体力を削った方がフェアだという意見が教師たちの中で流れたのか。今考えてもどうしようもないから、特に反対もなく凪紗たちは受け入れた。

 

まあ、というわけで、午後から始まった一年部のトーナメント準決勝なのだが、その前に凪紗たちはビットの待機室で少し問題を発見してしまった。

 

「やばいな………」

 

「何か、問題でも?」

 

「ああ、制御系等と操作系統の回路がイカレちまってる………これじゃあまともに動かせないよ」

 

どうやら、先日使ったEAシステムの反動か、それとも今までのツケが来たのか。コアを接続している電気回路の一部がごっそりショートしてしまっていた。

 

原因は色々あるが、一番の問題は電子回路の交換。凪紗でもあと数ヶ月は持つだろうと思ったパーツが一瞬にしてダメになってしまった。ラウラの反応速度にあまりついていけなかったのも問題だと思われたが、やはり原因はEAシステムの急激の負荷のせいだろうと推測した。

 

「そんな………それでは、次の試合はどうすれば」

 

「ごめん、私も気付かなかったのが問題だった。前例がないから仕方ないといえば仕方ないけど、昨晩調べておけばこんな問題は起こらなかったよ。ごめんね、ラウラ」

 

「い、いえ、私も悪いのです。自分の機体の状態もしっかり把握できませんでしたから」

 

「しっかし、どうするんだこれ……」

 

「パーツ交換では何とかできませんか?」

 

「したいのは山々なんだけど、この前の整備で予備の回路部品は使いきっちゃったんだ……試合まであと十五分。こりゃ簡易整備しか出来ないよ」

 

「こればかりは、どうしようもないんですね……」

 

二人の周りの空気が重くなる。

「はぁ」と凪紗は溜息をつくと、仕方ないように千冬に携帯で電話をかける。

 

『何の用だ』

 

「第一声がそれかよ……」

 

『用がないなら切るぞ』

 

「わーっ!切るな切るな!時間無いんだから!」

 

『っ……わかったから大声を出すな……それで、何の用だ。二十文字以内で答えろ』

 

「ラウラのISが故障して出場不能になりました。だから一旦ラウラを外して私だけでも出場できませんかね?」

 

『二十文字以内で答えろといったろう。……待て、少し審判に言ってみる』

 

「頼みますよ」

 

それからしばらく、電話から声も出なくなった。

その間に、ラウラがなぜ自分を外したのかを聞いてくる

 

「教官、なぜ私を外したのですか!私は訓練機にでも乗っていれば……」

 

「残念ながら、後十分。訓練機を貸してくれといってもすぐに吐かせられないと思うし、何よりあなたの『パートナー』はその子だけでしょう?その子を裏切るような真似はしないでよね」

 

「しかし……」

 

「それに、あなたの相手は一夏たちだけじゃないのか?今無理に戦って異常を出したらどうするの?」

 

「……わかり、ました」

 

「わかればよろしい。――――あ、丁度戻ってきた見たいだな」

 

『おい、聴いているのか』

 

「聞いてますよ。ちょっと話があっただけです」

 

『まあいい。審判に話が取れた。お前が言うように、ボーデヴィッヒは一時的にペアから外れることになった。ただし、今から代わりも見つけられないので、お前一人で戦う事になる。いいな?』

 

「いいなって……冗談で言っているんですか?」

 

『そういう意味ではない。あまり相手を痛めつけるな(・・・・・・・・・・・・・)と言っているんだ』

 

「……はいはい。それでは、そろそろ行かなければならないので。切りますよ」

 

『くれぐれも、けが人は出さないようにな』

 

最後まで物騒な事を言い張る千冬を無視して電話を切り、ISを展開してビットのカタパルトへと足を掛ける。

 

「教官。ご武運を」

 

「ありがとう。――――『黒桜』、発進!」

 

カタパルトのロックが外れ、装甲版の上に居る黒桜をステージまで射出する。

そして、そのステージにはISに乗っている女子が二人、空中に漂っていた

 

相手のペアは「一人だけ?」という声を漏らしていたが、その瞬間、急にスピーカーからアナウンスが流れた。

 

『緊急報告です。現在、藍更、ボーデヴィッヒペア中、ISが機能不全になり一時的にラウラ・ボーデヴィッヒは棄権』

 

という放送が流れ、相手は凪紗を見て驚愕している。たぶん、一人で二人に挑む精神が異常だと思っているのだろう。他の生徒なら両者とも棄権しているはずなのに。

 

「ま、そういうわけだよ。二対一だけど、本気でやって構わないから」

 

首をゴキゴキ鳴らしながら軽い挑発を送る凪紗。それでも相手は引け目を感じるようで、何かと迷っているように見える。

ついでに言うと、対戦ペアは双子のようだ。しかし似ているのは顔だけで、髪の色は全く違った。

なんとなく無口そうな子は銀色、なんか普通な子は紺色だった。どうすれば一卵性で髪の色が違えるんだよ。

 

 

「こっちは二人よ。降参するなら、今のうちだけど?」

 

「あー……いや、これでもまだハンデが足りていないんだよなぁ……降参はしないよ」

 

「は、ハンデ?」

 

「いやぁ……まぁ、こっちだけズルして無敵みたいな物だしな……悪いけど、私はこの刀だけでいかせて貰うよ」

 

そう言いながら、凪紗は腰から『雪影』と『紅桜』を引き抜いた。

そして、全身から所々発光したと思いきや、それ以外の武装全てが収納される。

 

「しょ、正気なの?たださえ二対一なのに……まだハンデをつけるつもり……?」

 

「フラン……この人、私たち、舐めてる」

 

「いや、舐めているわけじゃあないんだけど………単に武装を減らしたかっただけだよ。姑息な手は使いたくないからね」

 

「そうなの?まあ、別にあなたの勝手だし、私たちも勝ちやすくなるから別に」

 

「勝ちやすく、ねぇ………」

 

正直この二人がこの化物に勝てるとは思えないが、なにかと凪紗は二人が可哀想に見えた。なぜだろう、弱いもの虐めをやっている気がする。

 

話はそれぐらいにし、正面の二人は自分の武器、無口な子はサブマシンガンとダガー、フランと呼ばれた子は近接ブレードを構える。

 

私も雪影と紅桜を粒子散布状態(攻撃可能状態)にし、構えた。

 

 

『それでは、トーナメント第三回戦準決勝、開始!』

 

 

「いきますよ、ヘレン!」

 

「わかっている……!」

 

ヘレンと呼ばれた子は光栄でサブマシンガンを乱射。フランは近接ブレードを持ち突っ込んでくる。

 

「へえ、よく出来た連携パターンじゃないか。それなら―――――」

 

雪影を一閃。すると、斬撃がエネルギー波へと変わり、迫り来るサブマシンガンの弾を片っ端から叩き落す。そしてその向かう先にはヘレン。咄嗟に回避したが、回避した場所に追撃に放たれた紅桜のレーザーが現れた

 

「なっ!?」

 

そしてそのままクリーンヒット。あたり場所が悪かったのかシールドがかなり減る。

フランは被弾したヘレンに気をとられ、目の前まで近づいた凪紗に気付かず、雪影による攻撃を受けてしまった。しかもエネルギー波により追撃が出され、予想していたよりもはるかに深いダメージだった。

 

 

「大切な後衛がやられれば前衛も気がとられる。しっかり覚えて置けよ……」

 

「くっ……短時間でこんな……!」

 

「……これは、苦戦」

 

「ようやく気付いたか―――――ま、もう遅いけどね」

 

「え」

 

零点瞬時加速による無加速からのMAXスピード。急な超加速により二人は一瞬目の前から消えた凪紗の行方がわからなくなる。だが、その真実に気付く前に―――

 

「残念。下でした」

 

下方。フランの懐の真下で、右手にある刀を腕のばねを利用して限界まで引き絞っている凪紗の姿があった。

 

「しまっ―――」

 

「遅い。『一角・瞬刀』」

 

技の呟きと共に出されたのは突き。それもただの突きではなかった。

その一撃は腕の捻りを限界まで絞りつくして回転を加えた一撃であり、強力なスクリューを起こしながらフランの鳩尾に突き刺さった。

 

更に、この一撃の威力は半端ではないようで、ステージの中心から端の壁まで吹き飛ばされ、激突したコンクリートの壁にぶつかって巨大なクレーターを作り上げる。

 

「がっ……は……」

 

壁から崩れ落ちるも、よろよろと膝をガクつきながら立ち上がったが、その様子はまるで生まれたての子じかのように弱りきっている。このまま放置もかわいそうなので、凪紗は紅桜をフランへと向ける。

 

「はぁ……これだから他人を相手にするのは嫌なんだよ。胸糞悪い」

 

「フラン、避けて!」

 

紅桜の剣先から高出力レーザーを何十発もぶっ放す。

その剣先から放たれたレーザーは一撃一撃が途轍もない威力で、当たった先の壁が木っ端微塵に変わる。そんな射撃の雨を受けたフランのエネルギーは勿論残っているはずも無く、巻き上がられたコンクリートの粉塵の中で、パタンと大の字にぶっ倒れた。

 

「……んで、どうする?降参する?」

 

「誰が、降参なんて!」

 

「あ、そう……はぁ、面倒だ」

 

考える余裕をヘレンは削がれていた。二対一でもかなわない相手に、一人で勝てるわけが無い。そんな事を考える事も出来ないほど焦っていた。

 

サブマシンガンを乱射しながら凪紗に突撃。サブマシンガンも当てるつもりは無く、ただの牽制として撃ったものだが少しでも当たってくれれば助かるという甘い考えが通じる相手でもないので、近づいた弾丸は全て雪影による特殊攻撃によって叩き落された。

 

しかし驚愕する余裕も無いのですぐさまダガーを投擲。

 

「感情に身をゆだねると、身を滅ぼすよ?」

 

左手の紅桜を鞘にしまうと、手ぶらの左手にナイフを三つほど展開して指で挟む。

そのナイフを飛来しているダガーに向けて投擲して、一発でダガーを叩き落す。その刹那、爆破。

 

「な……え……」

 

「特殊C4爆薬入りのナイフって言えばわかりやすい?」

 

驚愕するヘレンの隙を見逃さず、残りのナイフを全て投擲。回転しながらヘレンの身へと迫る。

 

「くっ………!」

 

安全に防ぐ手段が無い事を悟ったヘレンは、持っていたサブマシンガンを前に突き出して盾代わりにすることで直撃を免れる。

しかし安心する事も出来なく、即座にサブマシンガンを前方へ投げ捨てる。

 

投げた直後、ナイフから光が放出され、爆発した。

 

「………!」

 

爆発した後は、目の前が巻き起こった粉塵に包まれる。

これなら相手も見えず、無駄に手出しは出来ないはず――――だった。

 

「っ………!」

 

突如、粉塵の中から水平な斬撃が飛んできた。しかもかなりの広範囲。

目が見えずとも、下手な鉄砲でも数撃てば当たるという言葉がある。あれは広範囲に攻撃をしかけることで相手が何処にいようが構わずダメージを与えるという戦略だ。

実に原始的だが、それでも十分に効果はある。

 

ヘレンは突如の不意打ちに反応できるはずも無く、その一撃はヘレンの腹を正確に捉え、飲み込んだ。

 

「ぎっ、あ………ッ!」

 

かなり合ったはずのシールドが、一気に半分も減らされた事に恐怖を覚える。

更にその恐怖心をかぎたてるように、粉塵が風圧で消え去る。

 

――――だが、そこに凪紗の姿はいなかった。

 

「ど、何処!?何処に……」

 

自分の懐か?と思い下を向いてみても誰もいない。なら上か?しかし先ほどと同様。

何処を見てみても、凪紗の姿は無かった。それが更なる焦りにつながって、心拍数を上がらせる。

 

「………」

 

不意に、自分の後ろから品が巻き上がっている事に気がついた。

後を見てみると――――しっかりと、その姿が見えた。

 

黒い刀、雪影を右手で逆手に持ち、更にその雪影から大量の粒子が放出されており、その先の地面は高圧のウォーターカッターに斬られたような断面があった。

 

「恨みは無いけど、私も勝ちあがらなくちゃあいけないんだよ。あの子の期待を裏切らないためにね」

 

「う、ぁ………」

 

「さようなら、可愛いお嬢さん」

 

逆手に持っていた雪影を放し、浮いている間に左手で順手に持ち変える。

そして巨大な粒子を纏った雪影の斬り上げにより、凪紗の前には巨大な光柱が出来上がる。

 

 

 

―――ヘレンと言う少女は、恐怖を覚えながらその光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

二回戦を勝利で治めた私たちは(私だけだが)その対戦相手である二人に一応謝っておこうと少しだけ話をした。

因みに、ラウラもさきほどまでいたのだが、何故か「先に整備室へ行っています」と早々に立ち去ってしまった。どうやら対戦相手には興味を示さなかったらしい。

 

 

ま、さきほど謝罪も終わり、今整備室に向かったのだが。

 

「はっ!所詮その程度なら、貴様は只の教官のお荷物だと言うのだな!恥を知れ!」

 

「うっせぇ!てめえが俺の何がわかる!こっちだって日々努力してがんばってんだ!お前のそんな上から物を見る態度にはもういい加減イラつくんだよ!」

 

「下のものに上から物を見て何が悪い!貴様こそそんなに文句があるのなら実力で示したらどうだ!」

 

「ぐぬぬぬ………!」

 

「いぎぎぎぎ……!」

 

「……何やってんだお前等」

 

整備室に入った途端これだった。

いつもながらの犬猿の仲は直らないらしく、何があったのかもわからないまま口げんかはエスカレートする。

 

「ああ、いいぜ!決勝戦なんて待ってられねえ。今ここで直々に叩き潰してやる!」

 

「はっ!意気込み結構。返り討ちにあうのが目に見えているな!」

 

「寝言は寝て言えやコラァアアアアアアアアアアア!!」

 

「こっちの台詞だこのドクサレDTがアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ドカン!

 

「ひふぶっ!?!?」

 

「ほげあっ!?!?」

 

私の放った『空打』で二人とも何メートルか吹き飛び、そのまま鉄製壁にぶち当たる。

しかし崩れ落ちる事は無い。なぜなら『継続』して空打を放って常時叩きつけているのだから

 

……ていうかなんで喧嘩してんだこいつら

 

よく見たらシャルルもいるし、どうやら彼女も止められないほどの口げんかだったようだ。

 

「な、ぎ、さ………っ!ちょ、こ、ろす気か……!」

 

「教、官……この束縛を、と、いて……くだっ……!」

 

「……ったく、世話の焼けるやつ等だよ」

 

突き出していた手を降ろし、同時にラウラと一夏も地面に叩きつけられる。

少し加減が狂ったのか、二人とも異常なほどに苦しんでいる。この技未だにコントロールが難しいんだよな……強力すぎて練習もできやしないわ

 

「く、く……この程度を耐えられないとは、それでも教官の弟子か?」

 

「て、てめえこそ、俺より苦しんでいたじゃねえか!」

 

「お前の目は節穴か?どこがそんなふうに見えたんだ?」

 

「な、んだとコラァァァ!!」

 

「ほう、やる気か!」

 

「上等だこのドチビのドクサレクソガキャアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「やってみろよぶち殺してやるからなぁアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「……お前等、そろそろやめねえと――――個人指導してやるぞ(ぶっ殺すぞ)?」

 

「「ひっ………!!」」

 

少々の殺気を放ってようやく大人しくなった二人は、凪紗の前で正座をさせられる。

 

「さて、どうしてこんな喧嘩になったのか、教えてもらおうか?」

 

「そ、それは……こいつがいきなり喧嘩吹っかけてきたから……」

 

「違います教官。この者がいきなり脇腹を突いてきたからやり返したまでです!」

 

「はぁ!?あれはちょっとぶつかっただけだだろ!何記録改ざんしてんだテメエ!」

 

「元はといえば貴様からだろう!それもぶつかったのに一言も言わないで立ち去ろうとした貴様も悪い!」

 

「お前が鼻で笑ったからだろーが!俺は余計なストレス溜めないためにスルーしたんだよ!」

 

「それが失礼だというのだ!」

 

「人の気にしている事を平然と公言するお前は失礼じゃないって言うのかよ!」

 

 

「お・ま・え・ら?」

 

ゴキゴキと手の骨を鳴らす。こいつらドンだけ仲悪けりゃこんなすぐに喧嘩出来るんだ

 

 

「「………はい」」

 

だめだ。こいつ等じゃあ話しにならない。

仕方ないので最終兵器、シャルルさんを呼んだ。というかこれしかなかった。

 

「シャルル=サン。何でこいつ等はこんなことしてたの?」

 

「あれ?最初か片言……気のせいか。えっと、実は……」

 

最初の言葉はスルーしてくれちゃったようで、とりあえずここまでの経緯を全て私に話してくれた。

 

「なるほど、決勝に向けてISを整備しようとしてラウラにばったり。お互い無視していたら偶然一夏がラウラに当たって何故か喧嘩勃発。殴り合いに発展しようとしたところで私が来たわけだな」

 

「えと、その通りです……」

 

「どうです?この男に非があるでしょう!」

 

「結論だけを言うと……どっちも悪いわ馬鹿弟子どもが!!」

 

「「う……」」

 

「まったくどうしてお前等はこうして何回も何回も問題を起こそうとするんだ!私でもこんなに問題勃発寸前になったことはないぞ!だいたいお前等は少しは周りを見習ってちょっとだけでも良いから仲良くしようとかそういう気持ちを持って相手に接してそれでもダメだったら良いけどお前等一度も和解しようとしていないし、お前等関係の問題の後片付けを負かされる私の身にもなれ!あと一夏はなんでこんなにこんなに衝突して調子に乗っては物をぶっ壊したり何でもかんでもほぼ実力行使だったりするわけだ!?暴力はドラ〇もんの秘密道具じゃねぇんだよ!わかってんのおい!あとラウラ!お前今日までは見逃していたけどなんでおとなしくしようとしないの?ねえ、なんで?これでもう何回目だ!?少しぶつかったぐらいでなんで挑発するの?ねえぇ?なんでかなっぁぁぁぁぁぁ!!!!確かに私は千冬さんと仲良くは無いけどそれは六年間のコミュニケーションの末での結果だよ!仲良くしようとしても意見が対極になっちまうんだよ!わかるかこの似たもの同士もどめ!私も確かに暴力行使したりするけどそれは相手が暴力を使うときだけであってお前等みたいにどーでもいい喧嘩にこんな暴力ふるって被害出すためにお前等を鍛えたわけじゃないんだよわかる?ねえ、わかるか?話し聞いてんのかこの問題児どもがァァァァァァァァ!!!!お前等は少し大人しくして明日の決勝まで機会をまとうとしないのか?そんなことを我慢する根性も無いのか?ちょっとぐらい人の話を聞いてそれに少しぐらい従ったらどうだこのアーパー野郎どもがアアアアアアアアアアアアアア!!!!!―-――――-はぁ、はぁ、はぁ………!」

 

「ご、ご苦労様……水飲む?」

 

「ああ、ありがとうシャルル――――ふぅぅぅっ………」

 

長いながーい説明(というより愚痴)を馬鹿弟子に送り、なんとか言い切った。

そしてこの愚痴を聞いた二人は正座したまま涙目になっている

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「許してください許してください許してください許してください」

 

よっぽど恐怖したのか土下座までしてくる。

しかもまだ謝罪を口ずさんでいて、やめろと言うまでとめる気配が無い。

 

「あ~……もうつかれた。お前等も謝罪してないでさっさと自分のやる事やれ」

 

「「ありがとうございますありがとうございますありがとうございます」」

 

「るっせぇ!!」

 

「「すみませんすみませんすみません」」

 

プチッ

 

「おげふっ!」

 

「ぶべらっ!」

 

精神が病んだ状態みたいだったので、二人とも土下座をしている状態から頭を踏む。かなり思いっきり。

 

「いてて……あれ、俺一体何を……?」

 

「ううっ……なぜ、私は?」

 

「精神が戻ったか……ほら、一夏はさっさと行け」

 

「え?いや、え?」

 

「シャルル、もう整備は終わってるよね?」

 

「うん。簡易な物だったからすぐに終わったよ」

 

「よし、なら出て行け」

 

「ま、ちょおおおおお!!」

 

整備室のドアから一夏を放り出す。

というかこれ以上騒ぎになっても(私が)困るので、できればラウラから離して置きたいのだ。

 

「えーと……僕もお邪魔するよ」

 

と、続いてシャルルも出て行く。

 

……はぁ、やっと静かになった。

 

「あの、教官?」

 

「……なんだ」

 

「……いえ、えっと……ISの整備……その」

 

「ああ、わかった、わーったからそんなに怖がるな。あーもう、なんでこうなるのか……」

 

もうやだこれ……。とにかく気を取り直してシュヴァルツェア・レーゲンの修理を開始する。

 

というか回路系が全部ぶっ壊れているのでパーツ交換しか修理方法が無い。

しょうがないので一度全ての電子回路を外す。

 

「えーと、プリント基板……フォトリングラフィでかなり作成しなきゃなぁ……夜をすごす事になるよ。くくく……神は私を休ませてくれないのか。あのクソ野郎、くじ引き感覚で人をこんな世界に送りやがって……」

 

「教官?一体何を?」

 

「うん?ああ、集積回路を作ってるんだよ。一から作らなきゃならないから徹夜だろうね。別に構わんが」

 

「す、すみません……私のせいで」

 

「いや、いいよ別に。しっかし、毎回こうなるならEAシステムにも規制を入れないとな」

 

「え!?使えないんですか!?」

 

「あ、いや……別にそんな事は無いけど。ただデータを集めるコアを四百個から百個ぐらいに変えるだけだよ。仕事が多い……」

 

「そ、そうですか。よかった……」

 

何故か涙目になってまで執着するラウラ。しかし不味い。何回もこんなことをするなど死んでも嫌なので早々に対策をすることにした。

 

気の遠くなるような作業量だったが、それでもなんとか気力を振り絞って作業を進める。

 

 

……神、もし恨むならあんたを恨むよ。

 

 

神「いや、私何もしていないぞ」

 

 

そのとき聞こえた声は、どこかで聞いたことのある声だった。たぶん

 

 

 

 

 

 




神がちょくちょく出てきていますが、これは付箋では……ないかも?たぶんないです
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