インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉 作:夜光・陽炎
テスト?………ナンノコトカヨクワカラナイナー。
それでは、どうぞ。
「何……あれ………」
「おいおい……嘘だろ、アレは…………VT……」
『おおおおお!!何だアレは!スクープ、スクープだわ!今日はなんてツイているのかし『先輩!早く逃げますよ!』何を言っている!私は記者としてこの事件に付き添いで『いいから逃げますよ!学園側からも非常事態指令を表示しているんです!』待って!ちょっと待って!せめて写真だけでも、って髪引っ張らないで!い、いたたたたたたたたあああぁぁぁぁぁぁ………』
黛先輩は空気を読めないのか、それともわざとなのかはわからないが、スピーカーからはそれ以降声が途絶えてしまった。
そして、私の目の前にはシュヴァルツェア・レーゲン、否、もはや原型を止めず組んず解れつして黒い泥へと変わりその搭乗者、ラウラの全身を包み込み脈動しながら形が形成されていく物体があった。
もはやISとは言いがたいその物体に、凪紗は絶句していた。
バカな、ふざけるな、何であんなものが。
「凪、紗………私、は……っ!」
「ラウラぁっ!!」
唯一顔が露出していたが、やがてその部分も黒い泥に包み込まれてゆく。
搭乗者の体全てを包み込んだ瞬間、ビデオの高速再生のように脈動を早めると、急速に『それ』は形を成していった。
数秒間、静寂が迸る。凪紗が見たものは、今度こそ言葉も許されないものだったのだ。
そこに立っていたのは
「………暮、桜……だと?」
そう、それはこの前IS学園に襲撃したIS『ゴーレム』に似ていたが、確かに世界最強の座に君臨するIS『暮桜』だった。
頭部はフルフェイスのアーマーに覆われているが、それでも体は最小限のアーマーで包まれている。そして目の箇所には赤いラインアイ・センサー。
そしてその手に握っていたのは他でもない。それは
「初代《雪片》っ……!」
信じたくは無かった。だが、これで確実になってしまった。それは紛れも無く、千冬のデータを使ったVTシステムだった。しかも似ているというレベルではない、姿もほぼ完璧に複写しているという事は――――
「いや、それより一夏、何処だ!?」
「ここ、だ……ッ!クソ………!」
近くにあったコンクリートの瓦礫の山に埋もれていた。それを崩しながら埃だらけで現れてくる。
「こ、ほっ……なんだよ、ありゃ……」
「凪紗さん、一夏、これ一旦避難した方がいいと思う」
シャルルが唐突に口を開いた。
一旦引くだって?冗談じゃない。できるか、そんなの
「ダメだ。ここで引いたら『アレ』が何するかわからん」
「同感だシャルル。変にいなくなったら取り返しがつかなくなる可能性がある」
「で、でも……!」
その時、突如サイレンが鳴り響いた。ウウウウウウと警報が鳴り響く中でスピーカーから最大音量で放送が流れた。
『レベルC緊急事例!観客席に居る者は速やかに退避せよ!繰り返す、速やかに退避せよ!』
「今更過ぎるぞおい……ったく、なんでこんな面倒ごとばっかに巻き込まれるのか」
「愚痴言っている場合じゃないぞ凪紗……!こっちに来た!」
「避けて!」
すでに一夏とシャルルは黒い塊、暮桜の突進の回避準備をしていた。だがしかし、凪紗は違った。
「どうして、
暮桜が持っている雪片を中段に構え、横薙ぎ一閃。その攻撃は凪紗の胴体を正確に捉えていた。が
「なんで、こいつがこんなことに巻き込まれなくちゃあいけないんだよ……」
なんと凪紗は自分の胴体に直撃するはずの雪片を空中で
「なぁ、聞いてんのか腐れ研究者どもが……!!!」
ついに殺気を露わにし、掴んでいた雪片をグシャッと握りつぶした。すぐに再生されるが、その間動きは止まっていた。そこを見逃さず暮桜の腹に蹴りをぶちかます。
「っざけやがって……こんな泥人形のために……」
体をくの字に曲げている泥人形のフルフェイスに包まれた顔面に拳を突き刺し、後退させる。
だが泥人形はしぶとく姿勢を立て直し、再び雪片を握りなおして突撃。しかし今度は凪紗の右手に握られている『雪影』に受け止められ、左手の『紅桜』で雪片を弾かれる。
泥人形が弾かれた自分の得物を見ている隙に凪紗は泥人形の頭を鷲づかみにし、地面に顔を叩きつけた。
「…………」
凪紗はもう何も喋らない。いや、もう喋る必要が無かった。その怒りは言葉にしなくても他人に伝わっていたのだから。
「凪紗の奴……こんなに怒っているのは始めてだ……」
「ど、どうして、あんなに怒っているの?」
「………」
一夏は戸惑ったが、ついに口を開いた。
「前ちょっとだけ聞いたんだが、同じ部屋だったときドイツでのことを話してくれたんだよ。確か……凪紗の奴が一番接していたのはあいつだったって話しだ。仲が良かったんだろうな、って思ったよ。だから、こうして怒っているんだ。自分がこうしてしまったから、ボーデヴィッヒの奴がこうなったのは全部自分のせいだって」
「後悔、なの……?」
「……ああ」
そして、早くも凪紗の方は事が終わろうとしていた。
「……待ってろ、今そこから出してやる」
凪紗が泥人形の中身を取り出そうとしたことに感づいたのか、黒い泥が変形して黒い槍へと変わり、凪紗目掛けて飛んでくる。
「遅い」
その攻撃を凪紗は腕を一振りするだけで弾き、弾いたそれを手で追いかけて握りつぶす。すると、本体から切り離された黒い槍は意思を失ったように泥と貸しながらべちゃっと地面に落ちる。
それを見届け、再びラウラがいるだろう胴体へと手を伸ばす。しかし
「!?」
手は何かに止められ、それ以上先に進まなかった。止められた手を見てみると―――黒い泥がまとわりついていた。
「まさか……まだ意思が――――しまっ」
それに気を取られているうちに、泥人形は反撃に出ていた。
拳を巨大化させ、凪紗の鳩尾に拳を突き刺して吹き飛ばした。
「ぐはっ!」
予想以上の力に驚愕しながら、肺が潰れるのを感じた。壁に叩きつけられ、喉から這い上がる血液を口から撒き散らし、視界が一瞬暗転する。
「あ……がっ………ぐ……」
「凪紗!」
「一夏!危ない!」
一夏が凪紗の助けに入ろうとした瞬間、黒い泥人形を中心に広範囲に地面が黒に染まる。
その黒い地面から生えてきた一本の巨大な触手のようなものが円回転して薙ぎ払われ、そこら一帯の砂を巻き上げる一撃が放たれた。一夏もその一撃に巻き込まれ、大きく吹き飛ばされた。
「一夏!――――このぉぉッ!!!」
シャルルが持っているショットガンの引き金を連続して引くが、銃口から放たれた弾丸は地面から盛り上がった泥の壁により全て防がれた。しかも泥の壁は弾丸を防ぐだけでなく、その表面から巨大な柱を生み出しシャルルの方へと撃ち出す。
シャルルは瞬時に両手の武器を捨て、柱を両手で受け止める。
だが柱はシャルルの両手を侵食して使用不能にし、シャルルの真上から第二波目の柱が落ちてきた。
シャルルはそれになす術も無く柱に押しつぶされ、柱はクレーターを作りながらスドォォンと重厚感のある音を響かせる。
少し時間が経つと柱は次第にドロドロになり、地面へと溶け込む。するとその下に居たシャルルの姿があらわになった。
シャルルはクレーターの中央で埋もれており、纏っているISのアーマーもバラバラに砕け散っている。更に口周辺には幾つか血筋が流れていた。誰がどう見ても再起不能である。
最後は凪紗。
地面から次々と生えた『全ての』巨大な触手は、しっかり凪紗の方を向き、正面の標的をロックオンしていた。
その数、百を軽く越えている。
「くそっ……手足を固定しやがって……!」
先ほど腕に付いていた泥は輪の様に変形しており、両手両足を壁にくっつけて固定している。引きちぎろうとしても液体のように変形して壊せなくなっている。
触手群の先が針のように鋭くなる。
「……因果応報か……くそったれ」
ついに、全ての触手は凪紗へと一気に放たれる。勿論、凪紗本人にはそれをかわすことも弾くことも出来ず、それを真正面から喰らった。
触手の一つ一つは凪紗の体を抉るように攻撃し、ISのシールドエネルギーが切れると触手は凪紗の体を貫く。貫いた場所からは鮮血が迸るが、しかしナノマシンの恩恵により傷は治って行く――――だが、治るスピードより早く触手の攻撃が行われ、確実に凪紗の体を削っていった。その痛みは計り知れず。
「ッッア゛ア―――――アアァァアアアアアアアアアアァァァアアアアァッッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
果てしない痛みの地獄に脳は耐え切れず凪紗の思考はついに、ショートした。
◆
「応答しろ、篠ノ之!凪紗!聞いているのかッ!―――――クソッ!繋がらない!」
「救護班!至急応援を!学園の教師は速やかに援護に!三年生はすぐに避難の手助けを!一年生は本校舎に避難、二年は避難と救助が済み次第すぐにアリーナの全シャッターを閉じてください!」
山田真耶は管制室で全ての学生と教師に支持を送っており、これ以上ない忙しさに目を回している。
「一夏!デュノア!……なんで繋がらないんだッ!!!」
ISのオープンチャンネルを使ってでも通信が繋がらないことに千冬は思わず強く押し踏みして地面に皹を入れてしまう。そして自分が肩で呼吸をしているのに気付き、近くにあった椅子に座り、深呼吸して呼吸を整えようとした。
「ッ……ステージに居る生徒と通信不能。大問題です………!」
「そんな事はわかっている!………一番問題なのはあの『泥』だ」
「そういえば、アレは一体何なんです!?急にISが溶けたと思ったら、ボーデヴィッヒさんを飲み込んでしまいましたけど……」
「……あれはヴァルキリー・トレース・システム。通称VTシステムだ。聞いたことはあるだろう」
「VTシステム……でも、あれは確か」
「ああ、国家条約違反だ。それがボーデヴィッヒのISに積まれていたんだろう。しかもかなり見つかり難い巧妙な手でな」
「じ、実物は始めて見ました。……ちょっと待ってください。という事は、ドイツは秘密裏にVTシステムを開発していたって事ですか!?」
「大丈夫だ。そこは私に知り合いが何とかしてくれる。問題は、今この状況をどうするかだ」
「だ、大丈夫ですよ!たった今教師部隊が――――」
そう言いながら山田先生はモニターを指差したが、その光景で山田先生は完全に言葉を失った。
空中から突入した部隊は全て泥の触手で打ち落とされ、地上から進入した部隊は全員地面から生えた触手に絡まれ、地面に引き擦り込まれていた。
それも突入した瞬間、である。
「そ、んな……こんなの、どうすれば……」
「最悪だ……ッ!」
そんな絶望的状況の最中、不意に通信機から声が聞こえた。
『――――倒れてい……生徒の救出……成功……』
「え!?」
「!……よし、状態は!」
その知らせに二人は飛びつき、すぐに通信機からの声を鮮明化する。
『―――はい、一人は意識もあり、ほぼ無傷です。もう一人は気絶していてISにひどいダメージを与えられましたが、命に別状はありません』
『千冬姉、俺だ!』
「一夏、無事だったか」
『ああ……シャルルもなんとか無事だ』
「それで、凪紗の奴はどうした?」
『それが……』
『かなり遠くに飛ばされたらしく。ただいま捜索中です。もうすぐ見つかる……――――――ッあ!?』
「どうした!?」
『………篠ノ之、凪紗と思われる人物は………ひどい重症です。全身傷だらけで気絶して……うっ!』
『千冬姉!今すぐ治療が必要だ!早く―――いと――――』
その時、声にノイズが入った。
「?一夏、聞こえないぞ」
『―――千――――はや―――』
「おい、どうした!返事を………切れた……!?」
「織斑先生!あの泥の物体からジャミング波が検知されました!」
「最初に通信が繋がらなかったのはそのせいかッ!」
通信機をパン!とシステム制御用の液晶ディスプレイに叩きつけ、拳を血が滲むほど強く握る。
千冬は心の底で「無事でいてくれ」と静かに祈る事しか出来なかった。
◆
「おい……きろ……!」
「………ぁ……」
かすかに耳に届く声に、凪紗はぼんやりと意識を起こす。
「聞いて……凪……起き……」
「…………ぇ……」
「――――おい!起きろって言ってんだろ!!」
その大声に、凪紗は今度こそ意識を覚醒させた。
しかし起きた途端視界が真っ赤に染まり、全身から激しい痛みが頭を刺した。
「ッっガアアアアアアアアアアッ!!!」
「うわぁっ!?」
隣から誰かの悲鳴が聞こえた。
声がしたほうに首を回すと、そこには見慣れた顔が二つ
IS解除状態の一夏とシャルルが居た
「一夏……シャルル……お前等、無事だったのか」
「う、動くな!傷が……」
「傷……?」
寝たままの姿勢で下を見てみると、そこでようやく気付いた。骨や体があらぬ方向に曲がっていることに。
体全体の肉が抉れてそこから血が噴き出し、骨は肉を突き破って外に出ている。もはや自分の体だと認識するのも困難だった。だが、ISのアーマーのおかげで受けてはマズイ場所はなんとか守られていた。
しかしこんな状態でも痛みが少なかった。いや、感覚が薄れてきているといっても良いだろう。
そんな惨状を見て、凪紗はようやく自分の状態を理解した。
「……こんなになってまで……生きたいと思うのか、私……」
「と、とりあえず応急処置を……」
「辞めとけ……逆に傷が広がるし。このザマじゃあ応急処置なんて……意味、無いぞ」
「で、でも……」
「そうだな……輸血パックか……止血剤を体に打ってくれ。大量出血で失血死は勘弁だ」
「あ、あるわけ無いだろ、そんなの!」
「……使え」
何もない空間からいきなり皮袋が出現し、ポトッと一夏の前に落下する。
一夏が皮袋を開いてみると、そこには止血剤と輸血パック。モルヒネまであった。
「緊急用の、救急パックだ……早く、しろ」
「で、でも俺、注射器使ったことなんて」
「いいから早く!―――ごぼっ、がっ……!刺して打てばいい……!何処でもいいから、早くしろ!」
「わ、わかった!」
一夏はすぐに注射器のキャップを外すと、それを比較的無傷な首の部分へと刺して、薬品を注射した。
「っ……へたくそ」
「しょ、しょうがないだろ!……お前、本当に生きているのか?」
「少なくとも、な……次、輸血パック。説明書あるからそれ読め」
「あ、ああ」
輸血パックに予め付いていた静脈針のキャップを取ったのはいいものを、何処に刺すのか戸惑っていたな凪紗は見るに耐えかねて「もういい」と言った。
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ……大分減ってるが、ナノマシンがなんとか血を運んでいる。心肺機能が低下したから、体調を……自動管理し始めたんだろう」
「……なんかわからんが、とりあえず大丈夫だってことだな」
一夏は何の事かはさっぱりわからなかったが、大丈夫らしいということなのでほっと胸をなでおろした。
よく見ると、体の筋肉も少しずつ形を成形されていっている事にも気が付いた。
「……私が気絶している間に、何があった」
「ああ、それなんだが……実は俺にもよく分からん」
「……はぁ?」
「いや、あの黒い奴の薙ぎ払い攻撃で俺が吹き飛ばされただろ?その時見事観客席の保護壁をぶち破って中に放り込まれたんだ。ちょっと気絶していて、起きたら教師たちがあのデカブツと戦っていた、ってわけさ」
「………デカブツ?何の事だ」
「……自分で見たほうが早い」
一夏に援助されながら、なんとか治りかけている上体を起こすと、おそらく自分が入って来ただろう視界の正面にあったぽっかり空いた穴からステージの様子が全て目に入った。
地面一帯は黒に染まっており、そこには地面の中に引きずり込まれている教師たち。空中には苦戦中の教師たちが居た。
そして一夏の目線はステージ中央。そこには―――
―――とても生物とは呼べない、巨大な『肉塊』がそこに鎮座していた。
「……え?」
「話によると、俺たちとの通信が拒絶した後、あの泥人形が急に変色した地面を吸い込んで、あんな化物になったって話だ」
「……自己防衛機能が働いて、インプットされたデータを逆手にとって自衛機能を強化したのか……!」
「悪い冗談としか思えないだろ。……とにかく、もう俺達の手には負えない。ここは先生たちにまかせて」
「………なあ、一夏。お前、展開装甲の使用、可能になったよな」
「……冗談はよせよ。あんなもんに適うわけ無いだろ!」
「もうアレは教師の手にも負えない。今何とかしないと皆死ぬぞ!」
「それは………」
「いいから答えろ。後何秒だ」
「……すまん。あれはもう五秒持たない……」
「なら、僕のを使って」
「え!?」
その声は、聞き覚えがあった。
一夏のすぐ後、一夏もそれに気付き振り返る。そこには気を取り戻した、シャルルの姿があった。
「シャルル、気が付いたのか!」
「うん。話は聞こえたよ――――って、凪紗さん!?だ、大丈夫なの、それ!?」
「ああ、大丈夫だから、早く先を話してくれ」
「う、うん……普通のISなら無理だけど、僕のリヴァイブならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」
「本当か!?」
「確かに、理論上は可能だ。したという記録は無いけど、試す価値ならある」
「けど!」
ビシッとシャルルが一夏と凪紗を指差して言う。普段のシャルルにしては珍しく、その言葉には力がこもっていた。
「約束して。絶対に負けないって」
「勿論だ。ここまで来たんだ、絶対に勝つ!」
「失敗=死だからな。こんなところでくたばってたまるかっての」
「やっぱり、二人は二人だね。僕は戦う事は出来ないけど、信じてるよ---リヴァイブのコア・バイパスを開放。エネルギーの流出を許可。―――四分の一しかないけど、受け取って!」
「おう、わかった!」
シャルルの首のネックレス・トップから伸びた輝く糸がガントレット状態の白蓮へと繋がれた。そこからエネルギーが流れ込むのがわかる。
「……………」
糸が途切れると、一夏がはっとしたように白蓮を見回す。
「完了。これでリヴァイブの持つエネルギーは全て渡したよ」
「完全開放形態……あと三十秒可能」
「それだけあれば、十分だッ」
今度は凪紗の番だった。ボロボロの足で立ち上がると、何も無い空中に手を伸ばす。
すると、手を伸ばした先に蓋に付いた小さな試験管が出現した。
蓋を開けて、それを何のためらいも無く口へと運ぶ。
「うぐっ……お……ッ!!」
「お、おい、どうした!」
「だ、いじょうぶだッ……ツ゛ッ、ッああああ゛あああ゛ああああッッッ!!!」
ミシリと音がすると、一瞬感覚が全て無くなり視界も白と黒二色だけとなる。次いて全身の骨が異様な音を立て、全身の筋肉が悲鳴を上げながら膨らむ。体が痙攣し、血液が沸騰するような錯覚に襲われ、何かが体を食いむさぼるような感覚。肺がベコンと音を立て凹む。そして----凪紗本人も驚愕するような超高速再生が始まった
血が全て噴出し一時失血。すぐに体内から新しい血液が生み出され体全体を回り、続いて折れた骨は根元から排除され肉の外にはじき出され、すぐに新しい骨が再構成される。傷付き潰れた臓器は体にぽっかり空いた穴から這い出て、その奥から新しい臓器が生み出され、ぐちゃぐちゃになった筋繊維と神経はナノマシンにより無理矢理元の位置へと組み変えられる。最後に、体を構築していた全ての細胞は死滅しながら超速再生して生き返る。
おそろしい速度で死滅と再生を繰り返したその代償は、底なしの不快感で償わされる。
「ぐっ、お、がっ、おえええ゛ええ゛ぇぇぇえええ゛え゛ええっ!!」
「ほ、本当に大丈夫なのかよ!」
「凪紗さん………?無理は、しない方が」
「お、えっ……うっ……NMCA薬(Nano machine compulsion activation の略)、改善の余地、ありだな……けほっ………おえっ」
体が熱い、吐き気もするし、悪寒も悪心もする。だが生きている。手も動く、足も動く。
「黒桜、『金色桜』は後何秒使える」
『―――約三十セコンド。使用した場合、ダメージレベルが再生不可能域に達します』
「……使ってもいいのか?」
『Yes、My master』
「……ありがとう」
「いけるか?」
「ああ、きっかり三十秒。チャンスは一度」
「ラストチャンス、というわけか。いいぜ、やってやるよ」
「準備はいいな---」
『モード転換・貯蔵粒子を全開放し『金色桜』形体へと移行します』
「ああ。白蓮、展開---」
『システム起動・《完全開放形態》へと移行します』
黒桜の装甲が全てパージされ、その中にあった金色の装甲が同色の粒子と共に現れる。ギィィィィィンと駆動音が響き、装甲表面から放電。これで黒桜本来の力を最大限に引き出すことが出来る。
白蓮は全身の装甲が一部開き、その間から光が噴き出す。機動力、駆動力、馬力、全てが上昇し、搭乗者も、今までよりクリアーな感覚に包まれた。
「「―――行くぞ!」」
二人とも同時に地を蹴り、空へと舞い上がった。
凪紗がすぐにプライベート・チャンネルを開き、一夏の脳内に作戦を叩き込む。
『いいか、十五秒で救出。私があいつを引きつけるから速攻で懐に飛び込んで腹を切り裂け』
『もし、ボーデヴィッヒの奴に当たったら』
『それは無い。ISは操縦者の保護を重要視しているからな。利口な奴なら重要部分は深核部分に作るはずだ』
『わかった、全力で切り裂く!』
『ゼロで突っ込め――――3,2,1,0!!』
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
一夏が雪片のトリガーを引き薬莢を三つを度イジェクターから弾き出す。追加でスラスター周辺の空間も、エネルギーの高圧縮の熱により光がゆがみ始めた。
「バーストッ!!」
それらの動作が完了した直後、瞬時加速と雪片による超加速が行われ、ロケット弾と化しながら巨大な肉塊に接近する。
あと二十五秒。
凪紗は両手に持った雪影と紅桜を無差別に振り、周囲の触手を全て破壊する。
それに反応したのか、接近中の一夏は放っておいて全ての注意が自分に向いたのを凪紗は感じた。
(ファーストフェイズは成功、あとは……)
三百六十度全ての方向から触手の突撃、泥での射撃、薙ぎ払い、柱による挟み撃ち攻撃、壁によるサンドイッチ、全ての攻撃が一点に放たれた。
「私が持ち堪えるだけだな!――――十三の九番、《|天津日高日子波限建鵜草葺不合命《あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと》》」
二つの刀を鞘にしまうと、雪影だけを掴み居合の姿勢になる。
そして小さな技の呟きと共に放たれたのは、剣撃の
あと二十秒。
「邪魔を、するなァァッ!!」
エネルギーの放出をやめた雪片を、残りエネルギーを全て使って刀身を今できる限界まで延ばす。結果、約二十メートルの長刀が出来上がり、自身に向かってきた触手を他もろとも全て叩ききる。
邪魔者がいなくなったのを確認すると、一夏はまた前進を始める。
あと十八秒。
やっと懐に飛び込むと一夏は一気に雪片を短くする。
短くなった雪片を使い、肉塊の『腹』と呼べそうなところを切り裂こうとする。しかし
「なッ!?絡み付いてきやがった!」
肉塊の腹に刺した雪片が、周辺の泥から出現した触手に絡み取られる。
その触手は持っている一夏の手にも届きそうだった。
「邪魔すんなって……言ってるだろうがあああああああああああああああ!!」
一夏は雪羅のマガジンを抜き取ってパージすると、現在雪片に装填されているマガジンをぶっこ抜き、手に持っていたマガジンを叩き込む。
同時にトリガーを連発。ただし、刀身を延ばすのが目的ではない。その大量のエネルギーを超高圧縮することで、刀身の温度を飛躍的に上昇させることが目的だった。
予想通り、雪片の刀身が今までより輝いたと思ったら、急に絡み付いていた触手がバーナーにでもあぶられて解け始めたような氷のようにジュウジュウと音を立てながら解け始めた。
もう力がなくなっている事に気付いた一夏は、火事場の馬鹿力というものだろうか。物凄い力で肉塊の腹を地表に達するまで切り裂いた。
「よし!」
「よくやった!」
あと十五秒。
「私が突入する、お前は外で待ってろ!」
「ああ!――――って、え?」
一夏の疑問には耳も貸さず、凪紗はそのまま切り裂いた腹から肉塊の内部へと入っていった。
勿論、目標がいなくなった事により、触手たちの標的は残った一人へと変更された。
「……ちょっと待てえええええええ!!おまっ、押し付けやが―――おわっ!」
地面から急襲してきた触手の攻撃をなんとか回避すると、再び空高くに舞い戻る。
「くそー……絶対助けろよ。凪紗!」
◆
暗闇の中に居た。
きっと、自分は罰を受けたのだろう。力を求めた代償なのだろう。
目を少しだけ開けると、やはり何も見えなかった。光が入ってきてないのだろう。
「そうか……もう、私に光は無いのだな」
小さく呟くと、一気に力が抜けた。
もう、死んでもいいと思った。この愚かな餓鬼には、ふさわしい末路だ。
「もう一度だけ、顔が見てみたかった」
最後に、自分の憧れの人の姿を思い浮かべる。
最後に見たあの人の顔は、悲しみに満ち溢れていた。
「あれは……私に向けたものなんだろうか」
違う、あの人はそんな人ではない。
「………」
もう言葉も出ない。
(そうだ、きっと私という存在を作ってしまったがために……)
自分はつくづく出来損ないだと思う。
だって、自分が好きな人をも、悲しませてしまったのだから。
だから
「せめて……誰にも迷惑をかけず。一人で……」
「させないよ」
「……え?」
正面から声がした。
次に、光が入ってきた。
「一人で死ぬなんて。悲しすぎるでしょ?」
さっきまでもう合う事は二度とないと思った人物が、今目の前に立っていた。そして、手も伸ばしてきている。
「凪紗……どうして、ここに……」
「あなたはまだ終わってはいない。終わってはいけない。だから、行こう」
「でも、私は……」
光が入ってきたことにより、自分が居た空間が鮮明に見えてきた。
周りは黒く、凹凸も無い丸い空間。そして自分は、手足を後にあった壁に縛られ、まるで十字架に縛られた罪人のようだった。これでは手も伸ばせない。
「大丈夫。信じて、手を伸ばして」
「信じて………」
ダメだ、自分はここでいなくなるべきだ
違う、私は。生きたい。そう、生きたい。だから、せめて
「っ……ぁ」
自分の思いに応えたように、壁がするりとラウラの拘束を解いた。
支えを失った私は、重力の赴くままに体をゆだねると、凪紗の体にすっぽりと入った。
どうやら、自分は腐っても自分らしい。
「な、ぎさ……っ、ぁああ、うあああああっ……!」
思わず、両目から涙が溢れる。
それは凪紗の惨状を見てしまったから、それとも今まで流していない涙が流れたのかはわからない。でも、涙が流れた。
「よしよし。よくできました………さて、もう出ないと、そろそろやばそうだ」
中核を失った成果、周りの空間が少しずつ解け始めていた。
「っす、ううっ……」
「さあ、いよいよラストスパートだ」
凪紗は私の体を抱えたまま、自分で作ったらしい空洞の道を逆戻りする。
すると、外の光が見えた。
そこでは、宿敵とも言える相手が待ち構えていた。
最後に見た光はなくなっており、得物も鞘に閉まっている。
「触手の攻撃が止んだと思ったら、やったんだな」
「ああ、全部。な」
「………」
「?どうした」
「いえ、その………」
なぜか照れくさくて言えなかった。只一言、「ごめん」と言いたかったのに。どうしてもこの男の前では言えない。
「さぁ、帰ろうか」
「俺も、もう疲れた」
「はい……その、あ、ありが―――」
そのとき、異変が起こった。
急に立っていた空洞の周囲から、触手が伸びてきたのだ。そう、まだ終わってはいなかった。
「まずっ―――一夏!」
「うわっ!」
急な浮遊感。そして背中に衝撃
その間に目を瞑っていたからよく分からなかったが、どうやら自分は投げ飛ばされたらしい。
瞑った目を開けてみると。
「………嘘だ」
触手に絡みつかれた、凪紗の姿があった。
「私を、かばって……」
「一、夏ッ!」
「凪紗!今助け―――」
「やめろ!」
「なっ!?」
「今お前が助けようとしたら、こいつはお前まで引きずり込んでしまう……!ラウラを抱えて遠くに避難しろ!」
「でも!」
「早く!」
「ッ……わかった」
「何!?」
この男は、了承してしまった。認められなかった。
「や、めろ!凪紗を見捨てる気か貴様!!」
「俺も助けたいんだ!でも、あいつはそんな事望んでない!」
「だが、方法なら幾らでもあるだろう!」
「それが思いつかないから言ってるんだッ!」
「ラウラ……」
「凪紗!」
自分は必死に首を横に振る。手を伸ばすが届かない。
「必ず、帰ってくるから」
「駄目だ!!」
そこまで言うと、凪紗は奥に引きずりこまれ、肉塊の腹に出来た空洞も、切り裂かれた傷もなくなってしまった。
「凪紗ッ、凪紗ァッ!うわあああああああああああああああああああ!!!!!」
その現象を否定すべく、私はただ、叫ぶことしか出来なかった
「くがッ………!最後の悪あがきってわけか……!」
凪紗は絡み付いてきた触手を引きちぎろうとしたが、予想通り千切れない。
「こんなにやっかいな相手は初めてだ……そうだ、コア。ISコアを………ッ!」
先ほどの空間に向けて歩むを進めようとする。だが、触手群がそれを許すはずも無く、凪紗の四肢を全力で引っ張ってくる。
「ぐ、おあああああああああ!!」
その制止さえも振り切って、少しずつ歩みを進める。
今度は壁までもが邪魔をしてきて、真横にある壁が手を飲み込んできた。
「それでも!」
関係ないかの様に歩みを進める。
今度は足
「それでも!」
スラスターを全開にし、少しずづ全身。
ついにスラスター
「ううおおおおおお!!!」
足も、手も、飲み込まれたまま無理矢理引っ張って進む。
ついには、先ほどの部屋に到着した。
光が無くても、ハイパーセンサーでわかる。
一番奥の、ラウラが拘束されていた場所に、小さな黒い球体がそこにあった。
「コア……違う」
一瞬、本物かと思ったが、違った。
色が少し違うのだ。ISのコアは確かに黒色だが、これは違う。なんというか、黒の色合いが違う。そう、まるで周りの黒い泥のように
「まさか……ダミーか!?」
原因はわからないが、何らかの問題が起きて本物のコアは使用不可能になったのか、ダミーが作られていた。
とにかく、ダミーだとわかったらもう容赦は無しだ
「手も足も出ない?それは大きな間違いだ………まだ口があるじゃないか」
その言葉どおり、凪紗はダミーコアに噛み付いた。
その時ミシリと音がして、その音に反応したのか触手が全力で制止してくる。
具体的には、手足の骨を折られた。
「!?!?!?!?!?!?!」
思わず叫び声を上げそうになる
だが、コアを放すわけにも行かない。
このままでは持久戦になる。そう思った凪紗は、コアを接続部ごと引きちぎって思いっきり後退した。
触手も凪紗の事を引っ張っていたので、その引っ張る勢いも足された。結果的に出口に近づいた。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!」
皮肉にも、入るときは前に進む事に努力していたのに、今度は後に行く事に努力している。
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
入ってきたときの入り口と思われる部分を、思いっきり突き破る。
すると眩しい日差しが目を刺した。
針状になっている触手に包囲されているという光景と共に
「………(やべ)」
手も足も使用不能。更に身動きも取れないという絶体絶命の状況。
まずい。かなりまずい
「ふんぬうううううううう!!!」
急いでダミーコアを噛み砕こうとし、それに反応したかの様に触手群は私の体に向かってくる。
針状の触手が目前に到達した。
直後、その触手群は光に貫かれた。
「え」
思わず口の力が抜け、発生源の方に頭を向ける。
そこには、純白のISと呼べるものが鎮座していた。
「…………まほか?(円夏?)」
「なんとか間に合った。かな?」
そう。ホワイト・グリントからの援護だったのだ。先ほどの閃光は
「凪紗!」
同時にもう一個の白いIS、白蓮が近づいてくる。
「凪紗、やっぱり無事だったんだな!」
「……はは(ああ)」
今度は私の坂田と言うかのように歯に力を込める。
もうコア全体に皹が入った。そしてついに耐え切れなくなり――――砕けた。
刹那、手足に掛かっていた力が解け、するりと手足が抜ける。
支えも無くなり空中に放り出されるが、PICを使いその場で停止する事で滞空。
「ぺっ、ぺっ………!」
口の中の破片を吐き出し、残っていたダミーコア接続部を容赦なく引っ張る。
そう、引っ張り出されたのはダミーコアとよく似た、丸い黒球だった
それを器用にキャッチすると、量子空間に収納した
「やっぱり、コアと接続して演算能力と処理機能を借りていたか。ちょろいもんだな」
「凪紗、最後にやる事は」
「ああ。円夏も!」
「了解。全力全開の火力を」
それぞれが、最高威力の攻撃を繰り出す準備をする。
「十三の型八番………《
居合の構えを取る。それは、今もっている技の中でも最大級の威力を誇るものだった。
「雪片、カートリッジフルバースト」
雪片を頭上に構える。
マガジンを満タンのものに取り替えると、薬室内に次々と薬莢を送りこみ、撃鉄を炸裂。全ての薬莢を排出し終えると、以前一回しか使っていなかった巨大な《光柱》が練成される。
「ウェポン、フルオープン!」
現在持っている全ての武装が空中に出現、そして全部がフルパワーモードに設定されている。
そして本人の手には大型ブラズマブラスター。こちらも同じく設定されている
準備は整った。
「《
「喰らって砕けろ、《
「
超極大エネルギーと巨大質量の衝突。
その均衡はいとも簡単に崩れ、巨大な肉塊はこの世から塵一つ残らず消滅しようとする。
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】
周囲に居た人々には怪物が最後に上げた断末魔が、心に深く刻まれた。
結局、長くなってしまった………orz。
まあ色々ありましたけど、とりあえずこの作品を続けられて良かったです。
……長くなってしまったが故に誤字脱字があるかも知れませんが、生暖かい目で見てください。(笑)
TU☆I☆KI
誤字修正しました。