インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉   作:夜光・陽炎

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第四十六話・もう、ゴールしていいよね……

「わかった、一つだけ教える。それは……」

 

「きょうかーん!!」

 

「うわっ!?」

 

急に部屋のドアが開き、自分の隊員仲間が何人か入ってきた。

約二名ほど凪紗を羽交い絞めして拘束する。

 

「すみませーん。またやっちゃいましたー」

 

「またって……また!?壊したの!?関節部のパーツはテリケートだから整備には気をつけろってあれほど……」

 

「だーから。こうして頼んでいるんでしょう?さあさあ、早く早く」

 

「わかった、わかったから引きずるな、引きずるな!」

 

半ば強制的に引っ張られる形で部屋を出て行く凪紗。

私はそれをただ見つめる事しか出来なかった。

 

そして数秒後、自分は大切な事を聞きそびれてしまったことに気付き、我に返る。そのまっま視線を千冬教官に送ると、なぜか困ったような顔をした。

 

「その……なんだ。凪紗の奴が言うといったから、いつか言ってくれるだろう。だからその、私に頼むな」

 

「そう……ですか」

 

なんだかよく分からない気持ちになり、少し縮こまる。

その気持ちは、まるで大切なものをなくしたような気分だった。

 

「……少し、私の話の続きを言って良いか?」

 

「それは、教官の弟の話。ですか?」

 

「ああ。まあ、これはもしの話しだが」

 

「もしの?」

 

「お前が、私の弟と会ったらどうなるんだろう、という話をな」

 

「妹の方は?」

 

「円夏は……すまんが、あの子は天才だ。私の予想なら、もう少ししたら今のお前と互角だろう。それに、何より女子だからな。お前が会っても、何も感じないから意味がないぞ?」

 

「私と互角?」

 

一般人―――後から聞いて代表候補生になるほどの実力を秘めていることがわかったが―――と実力が互角とは、ずいぶんと現実味が無く、実感が涌かなかった。

教官は「今はそんな事どうでもいいな」と言うと、照れくさそうに話を始めた。

 

「一つ言っておく、もし一夏と会うことがあるならば、心は強く持った方がいい。あれは天然物の原石だ。まだ磨いていないのに、妙に女性の奥底を刺激する。油断してると……いや、惚れさせん、私が」

 

ぐふふと妙な笑みを浮かべている千冬教官を見ているうちに、なんだか心の底がもやもやしてきた。

なんだか、今ならわかる気がする。あれは―――嫉妬だった。

 

「惚れているんですか?」

 

「大当たり……と言いたいが、恋愛的なものではない。姉として見たら、可愛すぎるのだ。無意識に守ってやりたくなる」

 

それを惚れているとは言わんと小さな声で呟いたのが聞こえた。

なんだろうか。初めて教官以外の人に『羨ましい』という感情を抱いた瞬間だった。

 

織斑一夏と言う人間は、私の幻想を粉々に砕いてくれた。

しかし同時に、私に一つのヒントをくれた。

 

「自分の道を探す」

 

それが、あの男の強さなのだと知った。

 

 

 

しかし、今思い出してみると……

 

 

 

あの時、教官は何を言いたかったのか、わからない。

いつか喋ってくれると千冬教官は言ったが、あの時以降、凪紗があの事で口を開く事は一度も無かった。

 

 

                      ◆

 

 

 

「う、ぁ、っ…………ぁ」

 

ボやっとしたオレンジ色の光が、目に入ってくる。

それを理解した途端、ラウラは目を覚ました。

 

「お、気付いた?」

 

その声は聞いたことが―――いや、つい最近どころか気を失う直前に聞いた声と一致した。篠ノ之凪紗そのものの声だと気付き、衝撃で上体をパッと上げると、体に痛みが走った。

 

「いっつ………!な、凪紗?……これは一体」

 

「ああ、軽い全身筋肉痛だって。安静にしないとダメだよ」

 

本人は無意識だろうが、ラウラには適当にはぐらかしているようにしか見えなかった。

ゆっくり上体をベットに付けさせられると、痛む体に顔をゆがめながら口を開いた。

 

「私は………一体………?」

 

「うーん……。一応千冬さんに口止めされてるんだが」

 

「誰にも、話しません……」

 

その瞳には偽りは無かった。それは凪紗にも伝わったのか『はぁ』と短い溜息をつくと「……なら、いいや。」と言い、これまでのことを話し始める。

 

「VTシステム。正式名称は?」

 

「はい、ヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者の動きをトレースするシステムです。でもあれは……」

 

「説明の必要はない見たいな。そのとおり、国家条約違反の代物だ。で、それはお前のISに積まれていた、ってことだよ」

 

「…………」

 

「かなーり巧妙な手を使ってくれたよ。元々フレームと一体化していたみたいで、私でも見抜けなかった。実物見たことないからしゃーないけど。どうやら、操縦者の精神状態、機体の備蓄ダメージ、そして最後に操縦者の意思……悪く言えば願望。それらが揃ったら自動的に発動するように仕込まれていたらしい。さらにそのシステムの暴走で巨大要塞化。更に変なタイミングでナノマシンが燃料切れになったおかげで私は筋肉がズタズタになってしばらく使い物にならない」

 

よく見ると、彼女の手足は包帯によってぐるぐる巻きにされており、隣には松葉杖が置かれていた。普通なら間違いなく入院物だろう。後からわけを聴いたら、彼女はどうやら入りたくないらしい。いわく「私が入ったら色々問題で。あと個人的に不幸スポットだから」と述べていた。どこまで本気なのかわからない。

 

これらの話を聞き、ラウラの瞳から何かが溢れ出しそうになった。視線もいつの間にか俯いている。

 

「私の……せいです。……私が、あんなこと………望んだから……ッ!」

 

叶いもしない幻想を、最後まで追いかけた愚か者。

そう自分を心の中で罵った。

 

その心は凪紗にも伝わったようで、包帯だらけの腕をポンと頭に置かれたラウラは視線を上に上げる。

 

「ばーか。ラウラのせいなんかじゃないよ」

 

「で、も……私はッ」

 

思わず瞳から涙か零れ落ちる。

 

「ねぇ………あなたは何?」

 

「……ふぇ?」

 

急にわけのわからない質問をされ、頭上に?マークが出そうになった。

 

「わ、私は……。私………は……」

 

言葉の続きが思いつかなかった。

ずっとあの人であるため、あの人になるため背中を追いかけてきたのだ。いきなり自分は何だと聞かれ、言葉の先が見つからない。それを悟ったのか凪紗はニヤッと笑みを浮かべた。

 

「ちょうどいい。自分が何なのかわからないなら、探してみるといい。安心しろ、時間は死ぬまである。一生自分を見つけられないか、それとも見つけられるか、それだけの些細な違いだけどな。どうせなら死ぬまで悩み続け。元々ゴールなんてないしな」

 

「え………」

 

励ましなのかそうじゃないのかわからない厳しい言葉だったが、そこに優しさは感じ取れた。

ついに涙腺が崩壊した。

自分でも抑えきれないほどの感情が涙としては触れ続ける。ラウラの体はそれを漏らすかごとく目を押さえつけるが、それでも涙は止まらなかった。

 

「ありが………と、う、ござい……っ、ううっ………ああ……」

 

嗚咽を漏らしながら、感謝の言葉を口にするラウラ。それに応じて凪紗もボロボロの手で、赤子を慰めるように頭をなでた。

 

今日は、今までの人生で一番泣いた日かもしれない。

 

「ああ、それと―――もう盗み聞きはやめておいたほうがいいぞ?」

 

「ひっぐ………え?」

 

なぎさが唐突に振り向くと、急に変な声を誰もいない場所に投げる。

しばらくすると、ドアが何者化の手によって開かれ、そこには六名ほどの人影があった。

 

そこには、代表候補生三名と、あの織斑一夏、さらに元ペアのシャルル・デュノアまでいた。最後に見えたのは、織斑千冬だ。

 

「あ、あはは……バレちゃった?」

 

「バレちゃった?じゃないよ。そこの金髪ロールとチャイナガールがいる時点で気配消してもモロバレだっつーの。呼吸音も聞こえたし。私の索敵スキル舐めんなよ」

 

「「あたし(わたくし)のせいなの?(ですか?)」」

 

「相変わらず実用性のないものを習得してやがって……」

 

ラウラは状況の飲み込めずにポカーンと口を開けていた。

そんなラウラの事も気にせず、皆は着々と話を進める。

 

「いつからいたの」

 

「確か……『探してみるといい』って所からかな?ちょっとボーデヴィッヒの様子を見に行こうとしたらお前と会話していたんだ。興味深かったから一緒に来ていた皆とそのまま」

 

「盗み聞きしていたわけだ」

 

「いや、別にそんなつもりは無かったんだが」

 

「ま、別にお前等の勝手だけどさ。千冬さんは何しに来たんだ?」

 

「ああ、大分凹んでいると予想してな、帰られても話し相手が少なくなるので励ましでもするか、と思ったが、お前に先を越されていた。というところだ」

 

「ぷっ、先越されてやーんの」

 

「……よし、屋上に来い」

 

軽い挑発のつもりが、まんまと乗られて千冬が腕の袖を捲る。

それを一夏と円夏が察したのかすぐに腕を引っ張って引きとめる。

 

「わーっ!わーっ!辞めろ千冬姉!病人がいるんだぞ!」

 

「そ、そうだよ!こんなところで二人が暴れたら命がいくつあっても足りないよ!」

 

「グルルルルル……命拾いしたな」

 

千冬はまるで野獣にでもなったように唸り声を上げながら「ち」と短く舌打ちする。さすがに彼女も両腕が使い物にならない状態の凪紗とは争いたくなかったのだろう。意外と早く大人しくなった。

 

「いいかしらボーデヴィッヒさん。わたくしはあなたとは戦いましたが負けてません……あれは鈴さんが邪魔になったからであって」

 

「ちょっと何言ってんのよ!あんたのほうが邪魔だったじゃない!」

 

「鈴さんは何でもかんでも突撃するから後衛が大変なんですよ!少しは連携のためのプロセスを理解して」

 

「知らないわよ!あんたに気遣うほどあたしは優しい女じゃないわッ!」

 

「なっ……やはりあなたとは相容れないようですわね。やはりあなたの方から叩き潰してあげます……!」

 

「喧嘩じょーとー。生身じゃあ勝負にならないからハンデをあげるわ。ISで掛かってきてもいいのよ?ぷぷっ」

 

「なんですってぇ………このーっ!」

 

「ぎゃー!髪引っ張るなー!」

 

ラウラに話をしにきたつもりか、その本人を置いて争いを始めた二人。もはやなにがなんだかわからなくなって、頭が情報処理し切れていない。

事態の説明を求めようと凪紗の方へ顔を向けたラウラだったが、その先にあった顔は楽しそうにニヤニヤと笑っていた。

 

「な?飽きないでしょ、ここは」

 

「え?え?」

 

「あ、ボーデヴィッヒさん。のどか渇いてない?」

 

「いや、えーっと……はい」

 

シャルルから渡されたお茶を只受け取ると、シャルルはニコっと笑って返した。

なんというか、騒がしい。そそして、なんだか懐かしい。

 

「……昔のシュヴァルツェ・ハーゼそっくりでしょ?なんだか悪くないって気持ちになるよ」

 

「そう、ですね。………」

 

他人と触れ合う機会がほとんどないラウラにとって、この賑やかさは珍しく、斬新だった。なんだか口物がほころびそうになる。

 

「つーか、一夏お前、『ガラドボルグ』ってなんだよ。中二引きずってんのか?現役なのか?」

 

「な、か、ち、ちげぇよ!ただその……なんとなく必殺技に名称って付けたくなるだろ?」

 

「それ、かっこつけてるだろ」

 

「それを言ったらお前は抜刀術技に名称つけてんだろうが!」

 

「あれは私の流派の決まりだ。技には必ず名前をつけなきゃならないんだよ」

 

「何じゃそりゃ……」

 

「私に聞くな。初代に聞け」

 

「生きてねぇだろ!」

 

「伝説じゃあ、弟子に技を伝えて山にこもったらしいから、運がよければまだ生きてんじゃない?私の祖父の父も今年で百三十歳だけど、まだピンピンして生きてるって話だよ?あったことは無いけど」

 

「お前の家系は化物か!」

 

「そうだよ」

 

「…………」

 

こんな状況を経験した事は無かった。誰かと私情を話し、友人として接する。これは、今まで自分はやった事のないことだ。そのせいか、今心臓はどきどきと音が聞こえるまでに鼓動は大きくなっていた。

 

「あの………」

 

その異変に気付いたのか、シャルルが口を開ける。

 

「ボーデヴィッヒさんもそろそろ疲れてきてるみたいだよ。皆そろそろお邪魔しないと」

 

「そ、そうだな。ちょっと騒がしくしすぎちまった」

 

「ごめんねボーデヴィッヒさん。今帰るから。体に気をつけてね」

 

「ふん、わたくしとの決闘まで精々体を休めている事ですわ」

 

「あたしとの決着が先だけどね」

 

「鈴さんなんて、ちょちょいのちょいで―――」

 

「お前等、喧嘩なら出て行ってからやれ。邪魔だ」

 

「く、首!くるし!」

 

「お、織斑先生、ひっぱ、ぐえっ」

 

「それじゃあ、二人とも。お邪魔しました」

 

まるで嵐でも過ぎ去って言ったかのように、六人が立ち去った後の部屋には沈黙と静寂が漂った。

その唐突で、可笑しな光景に、ラウラはついに噴き出してしまった。

 

「ふふ……は、ははっ」

 

「ん、珍しいね。ラウラが戦い以外で笑うなんて」

 

「いえ、少し、可笑しくて。自分が、こんなところにいる事が」

 

そう。数日前までは、こんな平和ボケしたところなどすぐに立ち去っても良いと思った。しかし、今は違う。なんだか、ここもいいような気がしてきた。いてもいいような気がしてきた。溶け込んでしまったのだ、この場所に。

 

「……教官」

 

「なぁ~に?」

 

椅子の背もたれに掛かり、ゆっくり背伸びしながら気の抜けた返事をする凪紗。しかし、次の質問でその声は完全にかき消された。

 

「一年ほど前……教官に聞きました。強くなるには、どうすればいいかって」

 

「…………」

 

返事はしなかった。ただ、長い沈黙が発せられるだけだったが、ラウラはそれをわかっていながら言葉を続けた。

 

「教えてください。あの言葉の続きを」

 

「…………」

 

返事はない。

が、少しおもいつめたような顔をして、俯きながらこめかみを押さえ込むと。「もう、潮時か」と呟いて顔を上げた。

 

「心の枷、って知ってる?」

 

「いいえ。初めて聞く言葉です」

 

「………別の言葉で言うと、自己抑制ってやつ。欲求不満を我慢したり、感情を抑えるためのもの。と思って」

 

「それが、どうかしたんですか?」

 

「ラウラ、変なことを聞くけど、あなたはどうして人が法律を守っているか知ってる?」

 

「それは、してはいけない事だからです」

 

「違う」

 

「え」

 

「人が法律を守ろうとしているのはね、子供の頃から『教え込まれた』からだよ。子供は親が『してはいけない』といったものはしない。それほど精神が成長していないからね。他人の言う事にはしっかり従う。恐怖に潰されやすい。戦争好きの変態どもにはさそかし楽しいおもちゃだっただろうさ。アフリカの紛争地帯にいる少年兵みたいにね」

 

「それか心の枷、というものなんですか」

 

「うん。一番の例を挙げると、アメリカだ。アメリカで犯罪が多いのは銃の市販だけが原因だけじゃない。スラムにいる浮浪児がやってはいけないこととやっていいことの区別が付かないからだ。これでわかりやすいだろう?」

 

「子供のうちから学習しないと、枷と言うものは生まれないんですか?」

 

「正確には違う。ちゃんと教え込まれれば、途中からでも立て直せる。それがまともな教育だったらの話しだけどな。話が少しずれたね。……んで、たまに、生まれつきその枷の歯止めが利かない『天才』ってのが生まれるもんだ」

 

「まさか………」

 

「枷が利かないって事は、それほど好奇心、探究心が大きいってこと。そしてごぐ一部の稀に、とんでもない奴が現れる可能性がある。それは好奇心なんかじゃない。もっと凶悪な、『偽善者』だ」

 

そこで、もうラウラからは何も返事か聞こえなくなっていた。

 

「私は、偽善を振りかざす最低野郎だ。……昔な、私、人を殺しかけたんだよ。正義を盾にしてな。相手はテロリストの群れだった。だから容赦しなかった。傷つけた脅した暴力を振るった。でも、それが悪と気付くまでずっと善を利用して、気にも病まなかった。………それを続けた結果が、このザマだ」

 

「教官……」

 

「気付いたときにはもう、私は『化物』に成り果てていた。他人事のように、事を斬り捨てた罰だったんだろうな。もう、後戻りも何も出来ないところまで行っていたんだ。もう、罪悪感で一杯だよ。今だって………可笑しいだろう?これが強さの秘訣だ。笑ってくれ、これがお前のあこがれた者の『素』だ。私は元から、お前を導く資格なんて無かった。………今の今までやってきた事は、罪の償いと、綺麗事を並べた薄汚い人生だ」

 

「そんなこと、ないです」

 

「………へ?」

 

ラウラは、どうしてこんなことを言ったのかはわからない。けど、口が勝手に動いていた。もう見ているだけは嫌だ、と。

 

「気付いているじゃないですか。自分が間違っていたって。たとえ、教官が今までしてきた事がただの綺麗事だとしても、私にとっては希望でした。あなたは言ってくれました。『何度でも転んで、何度でも立ち上がればいい』……それは、只の上っ面の言葉だったんですか!?あなたはそんな卑怯な人間なんですか!?………やめてください。お願いですから……自分を捨てないでください。私と同じように………」

 

「…………ラウラ」

 

いつの間にか、その部屋には静寂が広がっていた。

その静けさの中から、凪紗はそっとラウラを両手で抱き寄せた。

 

「いやぁ……参ったよ。まさかラウラに慰められるとは………慰めに来たのに、逆になっちゃったね」

 

「……凪紗?」

 

「ほんと……ごめん。けどね、罪ってのは償えないんだ。もう………だから、一生背負っていくと決めた。それだけは譲れない。……心配かけたね」

 

ラウラは顔を上げると、少しだけ笑みを浮かべた凪紗の顔があった

その顔には、嬉しさや驚きがあったが、奥には謝罪の気持ちがあるように思えた。こんな顔をするのは本人も初めてだろう。

 

「本当に……ごめんね。………」

 

少しだけ目を閉じ、心を切り替えたように表情が変わる。

それはいつもの凪紗の顔だった。

 

「さて、もう戻らないと。皆が待ってる」

 

凪紗は席を立って、ベットから離れる。その姿は、何かが吹っ切れたような感じだった。

 

「ああ、後」

 

「?」

 

「傷はすぐに治るだろうから、先に部屋に戻ってて。ちょいと風呂に入りたくなった」

 

「了解です!」

 

元気がいい返事を聞いた凪紗は、もう振り返る事はなくその場を立ち去った。

 

 

 

 

「やっぱり、聞いてたんですか」

 

「……ああ」

 

ドアの前で、最小ボリュームで言葉を交し合う二人

 

「吹っ切れたのか」

 

「ええ。でも、まだ終わってません」

 

 

 

 

 

「―――私を取り戻すまでは」

 

 

 

 

 

 

                      ◆

 

 

 

翌日

 

 

「あー…………」

 

「どうした、死んだような目をして」

 

朝のホームルーム間近の時間に、背もたれに限界までのしかかっていて、肩甲骨がほぼUの字に曲がっている凪紗の隣に一夏が来ている。席に座ってろ、という言葉を発する気力さえないのか、体を元に戻し、机にうつぶせになる。

 

「お前、わかってないだろ」

 

「は?何が?」

 

「ISの修理………」

 

そこまで言われて一夏は「ああ、そうか」と掌に拳をポンと置く。

 

「ラウラの分も……私のは修復不可能だし、新しく作らないと……設計図の製作……事件の後処理に、反省文をレポート五十枚分書かされるし……絶望しかかないよ」

 

「反省文?あれ、俺十枚だったぞ?」

 

「私が首謀者だから五倍になったんだよ………!いつか恨み殺してやるあのクソ教師……!どうするんだよ。一ヶ月は不休不眠で働かなきゃならないんだぞ………」

 

「同じISを作ればいいじゃねーか」

 

「……残念ながら一度作ったら設計図は処分する主義でな。コピーも残ってないし、もう新しく作るしかないよ………」

 

「どんまい」

 

「………はぁぁぁぁ………」

 

宇宙の果てまで届くような深い深い溜息をし、早速作業を開始しようと投影モニターを出したが、誰かが教室に入ってきたことにより、その手はすぐに止まった。

 

「み、みなさん、おはようぞざいます」

 

山田先生だった。あと台詞を噛んでいる。

 

「何ですか先生。朝起きたら親が自分の隠したテストを見つけて朝っぱらから小うるさい説教を小一時間聞かされて学校に遅刻したような人みたいなテンションで」

 

「たとえが凄くリアルでびっくりしました………残念ながら違います藍更さん。あと、子供じゃないんですから、そんな事でテンションは下がりませんよ!」

 

「いや、子供を例えに出しているんですが……」

 

あんたは子供の頃が無かったのかい。と突っ込みたくなったが、どうにもそんなテンションじゃないので諦める。のはいいが、なんだろう、すっごい嫌な予感がする。

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生と言いますか、戸籍の書き換えと言いますか、すでにみなさん知っているというか………ええと……」

 

案の定、その予感は当たっていた。しかも嫌な方向にどストライク。仮病とか言ってごまかして休めばよかったと、後から後悔した。

 

転校生?違う。気配でもうわかる。しかも服装が違う事含めて。それを理解したせいか、頭痛が発生した。

 

「じゃあ、入ってきてください」

 

「失礼します」

 

もう声で確定だ。周りの何人かも察したのか、青ざめた顔をする。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めて、よろしくお願いします」

 

スカート姿のシャルルは、いや、シャルロットは、礼儀正しく頭を下げる。

その姿は、まるで……いや、もう考える気も失せた

 

「ええと、デュノア君は、デュノアさんでした。……ということになります。はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立てなおす作業が必要になります……」

 

ああ、そうですか。

 

「え?デュノア君って、女……?」

 

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったのね!」

 

「ちっ……せっかくBえ……いや、これ以上語るまい」

 

「って、織斑君。どうしてだってことは……」

 

「ちょっとまって!昨日男子が浴場使ってたわよね」

 

ああ、使ってた。

 

よく見れば、周りに約二人ほどがさ目に見えぬ殺気を放っていた。

 

次に、パァァァァン!!と半端ない勢いでドアが開かれる。というかぶち抜かれた。

 

「一夏アアアアァァァァァアアアア!!」

 

ISを着た鈴が、顔を真っ赤、否、真っ黒にして登場した。その背後には怒りの炎があがっている。

……現実的に見たら、衝撃砲のチャージを最大まで引き絞っていた。やばい、教室ごと吹き飛ばすつもりだ。

 

「死ねど畜生ーーーーーーーッッ!!!」

 

「女の子がそんな言葉ぎやああああああああああああああああっ!!!」

 

一夏よ、懺悔は今。……もう遅いが。

 

―――ズトオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

 

「ひっひっふー!ひっひっふーッ!」

 

衝撃砲は山を吹き飛ばしたかめは〇波ごとく生徒を机ごと吹き飛ばした。ただし、私だけは不動(机は吹き飛ばされているが)で椅子含めて一ミリも動いていなかった。というか移動したくも無かった。

 

さて、衝撃砲着弾地点は巨大なクレーターが出来てるはずだ……あいつ、無茶しやがって……

 

「はーっ、はーっ、はーっ……!え、俺生きてる……俺生きてる!?」

 

煙の中から、一夏の声がした。どうやらケチャップよろしく肉ミンチにはならなかったらしい。

 

そして衝撃砲の着弾地点といえば―――着弾したのは、間一髪、かどうかはわからないが、一夏とラウラの間に入り込んだのは。ラウラだった

 

よく見たら、腕だけISを展開しており、その正面にはゆがんだ空間。どうやらAICで衝撃砲を無効化したらしい。たぶん、腕部の片方だけは修復が出来たのだろう。

 

「おい貴様」

 

「お、俺?」

 

「貴様以外の誰がいる」

 

ラウラはそういうと、いきなり一夏の胸倉を掴み、持ち上げた。

 

「まったく、貴様にはここでしなれては困る。決着が付いていないからな」

 

「あ、ああ。助かった」

 

「それに死因が痴話喧嘩だと?笑えんな」

 

「……反論できません」

 

「……まあいい。私は貴様に用があってここに着た」

 

「よ、用?」

 

そして、廊下にも聞こえそうな大声で、こう宣言した

 

「今日から貴様を、恋のライバルとして認めよう!!」

 

 

 

「は?」

 

「は?」

 

「「「「は?」」」」

 

 

………

 

 

「……あの、ラウラ、さん?今、なんと?」

 

「聞こえなかったのか?恋のライバルだと言ったのだ」

 

 

………

 

 

「……え?ナンノコイ?ニシキゴイ?」

 

「教官とのだ」

 

「………は?」

 

 

………

 

 

「は、はは……」

 

ナニヲイッテイルノカナコノバカハ。ワケガワカラナイヨ。

 

「あのー、いったいどんな考察でそんな結果に導かれたのでしょうか?」

 

考察じゃなくて絞殺してやろうか?

 

「もちろん、理由はある。かすかにしか覚えていないが、貴様と教官のコンビネーションは完璧だった。そして何より信頼深い。……そして何より、貴様は教官の前で赤面していた!」

 

「それだけ?」

 

「そうだ!」

 

 

 

「馬鹿かお前はアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

ついにストレスと理性のタカがはずれ、肺から限界まで搾り取られて出された大声は、衝撃波を作り、全ての方向に放たれたッ!

 

 

ドカアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!

 

 

本日二度目の、しかも教室の壁を崩壊させる轟音は、一組のほぼ全生徒にトラウマを作り、更にそのせいで今日は全員欠席となった。

 

 

「……なんだこれは」

 

千冬が来たときには、もう遅かった。

 

 

 

 

 




予定通りの更新。できたZE☆

まあ今回はシリアルとギャグを織り交ぜた回です。そのせいで温度差がかなり激しいです。

さて、ラウラさんが勘違いして恋のライバル(鯉じゃないよ)になっちゃいましたけど、どーすんだこれ……。そしてこのオチである。


まあ、こんな話は置いといて、これが本題です。
実は、学校での宿題とか色々済ませなければならない事がかなりあります。ので、来週から更新ペースがかなり落ちるでしょう。大体二週間に一、二回程度でしょうか。すみませんが、あしからずご了承ください。


というか、『黒桜』壊れちゃったよ……これどーしよ
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