インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉   作:夜光・陽炎

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特に無いです。


第四十七話・朝起きたら裸の女の子がそばにいたぜ。

「……またここか」

 

気が付いたら、真っ暗な光景が視界を包んでいた。相変わらず自分の姿だけ赤い

いや、もう二度目だしそんなに驚かない。しかし、一体どうしていきなりこんな夢を見るのか。

 

「そろそろ察さなきゃならんのかね……おーい!」

 

なんか誰も来ないので、一回叫んでみる。

いつまで経っても山彦のように声は羽か言ってきたりはせず、返事こなく、ただただ虚無が広がるだけだった。

 

「……前回のようにあいつ、いないのか?聞こえてたら返事をしてくれー!」

 

同じく、返事はない。

 

「……え、ほんとに居ない?……どうすんのこれ」

 

「呼んだか」

 

「……」

 

後から声がした。いざ振り返るとなるとかなり抵抗があるが、とりあえず振り向く。

そこには、前回と同じく、自分と同じ色の者が立っていた

 

「私に気付かれず後を採ったのはお前が二人目だよ」

 

「どうでもいい。それよりどうして来た。何か用か?」

 

「用っていうか……引きこんだのはお前じゃないのか?」

 

「?………まさか、無意識のうちに入り込んできたのか」

 

「私に聞くなよ……むしろ私が聞きたいぐらいだ。ていうか、お前。前にどうせすぐに会うって言ってなかったっけ?」

 

「……いくらなんでも早すぎだ。たった三ヶ月前だぞ?」

 

「もう三ヶ月だ。いいかげんお前の正体、なんなのか教えてもらうぞ」

 

いざ相手に掴みかかろうとし、アイアンクローの予備動作を開始する。

しかしそこではっとし、動きを止めた。

 

「お前……なんで三ヶ月経ったってわかるんだ?」

 

いくら夢だろうが不思議空間だろうが、ここが現実と隔離されているのはまず間違いないだろう。だからこそ、おかしい。そんな空間に居座っている時点でおかしいが、どうしてこいつは会部での時間の流れがわかるんだ?三ヶ月経ったって自分は一言も言ってないのに。

 

といっても、こいつに対しての疑問を述べるときりがないが。

 

「ん……ああ。それはだな、私が―――だからだよ」

 

「……は?」

 

一部分がノイズかかっていてよく聞こえなかった。

 

「今何つった?」

 

「私が―――だからだといったんだが……もしかして聞こえないのか?」

 

ご名答。としか言えなかった。ノイズというか、こいつの声自体がノイズみたいなもんだが、今回ばかりは相当ひどかった。

 

「……なるほど。あいつがブロックしているのか。なら外せばいい話しだが……外したらここに入れないしな。どうする事も出来ないな」

 

「あいつ?ブロック?ここ?」

 

「どうせ教えても聞こえないだけだ。……そろそろ面会も時間切れだ。私もお前も直に戻るだろう」

 

「ちょっと待て、ここは一体」

 

「……あいつの事、悪く思うな。お前を守りたいだけなんだ」

 

「あいつ?誰のことだ!」

 

「答えは……次会った時だ。さよなら、くれぐれも死ぬなよ」

 

前回と同じく、姿も消え、声も聞こえなくなった。

そんな光景に耐えかねたのか、私は「クソッ」と呟く。

 

「……なんなんだよ!」

 

 

 

                     ◆

 

 

 

「ん………」

 

窓から入る日光が目を刺す。それを更に促すように雀の「チュンチュン」という声も目覚ましアラームの代わりになっていた。

 

「……七時、か……寝すぎた……つーわけでもないか」

 

いつもなら二時三時に起きて軽い運動とISの物理シミュレーションを行っているが、今は違った。もう五時間ほどオーバーしている。そのわけは

 

(ISの設計図作成+シュヴァルツェア・レーゲンの修理。アリーナの後片付け、さらにはぶっ壊したアリーナの弁償。円夏のISのシステム改変……死ぬほど疲れるわけだ)

 

この尋常ならざる作業を、なんとか一ヶ月で完了―――ISの作成は残っているが―――させ、つい昨日ようやくまともな休みが約束された。その後の達成感はもう幸福や至福を乗り越えていた。正直もう二度とこんなことやりたくない。

 

「うーっ……ん!はぁっ……まだ治った腕とか体とかが痛んでいるが、回復率はまあまあってとこか。……眠い」

 

一ヶ月で約十時間も練られなかった私の苦労は途轍もないものだったろう。実はまだ寝足りないが、これ以上寝たら鬼教師が部屋にファランクス並の気迫で突撃してくるから逆に疲れる。

 

上体を起こし、軽く背伸びをしてから布団をまくろうとしたとき、ふと隣に誰かが居るのに気付いた。その人物とは……一夏だった。

 

「………」

 

まず腕を上げる前に思い出す。どうしてこいつは私と同部屋なのかを。

 

 

『―――というわけで、お前と一夏は同室だ』

 

『HU・ZA・KE・RU・NAああああああああああああああああああ!!!』

 

『ちょっ、待てよ千冬姉!どうして俺が……』

 

『不本意だが……ひっっっじょうに不本意だが……教師のほとんどがこの意見に賛成だった』

 

『意見?』

 

『篠ノ之凪紗なら織斑一夏と間違いを起こさない。だと……後で一人ずづしぼってやるか』

 

 

………思い出したくもない展開だ。畜生。まともな教師は居ないのか。皆私を何だと思ってるんだ。

 

こいつが隣に居る理由は……どうせトイレから戻った後、寝ぼけて私の布団に潜り込んだんだろう。

 

「ったく……いい年してこんなギャルゲみたいな事しやがって。おい、起き―――」

 

ふにふに

 

「……ろ?」

 

ふにゅふにゅ

 

下半身を未知の感覚が襲った。思わず言葉を止めてしまう。

 

むにむに

 

感覚がどんどん下半身から這い上がってくる。ここまで来たらもう布団を剥ぎ取る。

嫌な予感しかしなかった。

 

布団を剥ぎ取ると、そこには―――

 

「う~ん……」

 

「……ラウラ?」

 

子猫のように丸まり、自分の足に巻きついているラウラの姿が、あって……あって。

 

「……ん……教官?」

 

「なんで裸なの」

 

寝ぼけたようで目をさするラウラだったが、そんなことはどうでもいい。なぜ、なぜ一糸纏わぬ姿でこんなところにいる、というのが問題だ。

 

「なんで裸なの」

 

大事なことなので二回言いました。

 

「もう……朝ですか?」

 

「いや、女同士だから服はまだ一万歩譲っていいんだけどさ……何してんの」

 

「いえ、少々夜這いというものを」

 

「………もう、寝ようか」

 

「目が覚めませんでした?」

 

覚めたよ。思いっきり。目玉に爪楊枝埋め込まれた気分だよ。これで起きなかったらもうホモかレスリング選手だね。もちろん深い意味で。どちらにしてもまともな奴じゃあないが。

 

「ふむ、まだ七時ですね。朝食までには時間がある」

 

布団を手に取るとそれをマントのようにして自分の体を覆い被せる。一度束ねた髪をふわぁっと散らすその髪は、日光に晒されることでまるで本物の銀のように輝き……って、何を言ってるんだ私は。

 

 

まあここまではいい。別に気にしないし、前に比べれば問題でもない。今までにしてきたことに比べれば……

 

一ヶ月ほど前、あの宣言。一夏への『恋のライバル』宣言は女子の間でコンマ一秒も掛からず学校中に伝染した。

そのおかげか、『一夏は凪紗に惚れている』という根も葉もないファッキンな噂が流れた。おかげで作業中にも女子の大群から質問責めの毎日。地獄とはこのことだろう。

 

それでも違う違うて言い続けた結果、最初の頃よりは鎮静化したが、未だにその噂は流れ続けている。ほんと、いい迷惑だよファッ〇くそったれ。

 

「………はぁ」

 

しかも本当にラウラは私に惚れているようで、たとえ着替え中だろうが、風呂に入っている途中だろうが、ISの調整、エトセトラエトセトラ……終いには完全密室の部屋にも侵入してくる始末。ガンベンしてくださいほんと。どうにもならないもんか……

 

「どうしました?……まさか、ついに教官にもその気が」

 

「ないから」

 

……お、名案。

 

「ラウラ」

 

「なんですか?」

 

「私、レズは嫌いなんだ」

 

「そうですか」

 

「………」

 

流された。そんのっそいスムーズに流された。

 

「それは教官が思っているだけでしょう?」

 

「……」

 

「私は私で教官の心を掴みます」

 

いや、なんかもう……いいや。もう嫌……。

 

「大体、教官が言ってくれたんですよ。私は私で居ろと」

 

「いや、言ったけどさ……まさかここまで自我を保たれると逆にもう清々しいというか……」

 

もうあきれ返って顔を手で押さえていると、ふと隣から声がした。

 

「……ったく、朝っぱらから騒々しいな……誰だよ」

 

「バカ!空気呼んで……ああもう!」

 

「なんだ―――よぶっ!?」

 

さすがにラウラの今の姿を見せるわけにもいかないので、すぐさま頭をベットに埋め込ませる。

 

「んんんんん!!!んんーーーーーっ!!!」

 

「ラウラ!早く出て!」

 

「しかし、私はまだ目的を果たしていないです!」

 

「そーゆー問題じゃねえええええええ!!!」

 

「ぷはっ――――殺す気かテメエ!!――――って、え?」

 

「ちょ、今やったら―――」

 

ついに押さえていた一夏も凪紗の体を弾き飛ばし、呼吸を取り返そうとする。

しかし先ほどの拘束よりもさらなる追撃が一夏の体を襲ってきた。

 

なんと、ラウラが、一夏の顔に向かってライダーキックを繰り出したのだ。―――纏っていた布団を脱いで。

その時、一夏の視線が何処に向かっていたのかは、知る由がない。

 

「ぶげらっ!!」

 

ラウラのライダーキックは見事に一夏の顔面に突き刺さり、少し食い込む。

更にその足を使って大跳躍!天井を蹴り再び一夏に蹴りを喰らわせる。しかも今度はストンピングである。

 

「ごあっ!!」

 

その蹴りはまたまた見事に腹に食い込む。うわ、痛そう。

 

「ふふふ……ライバルは殴るもの」

 

「恋のライバルって、言ってなかったか……?てゆーか、それ違うライバル……」

 

ツッコムところそこかよ。

と考えていると、ラウラは今度は一夏の胴体に馬乗りになった。

 

その図は、完全にアレだった

 

「よし、これで体は押さえた!あとは顔面を殴るだけ」

 

「お、おい!隠せ!隠せーッ!」

 

手で目を隠そうにも胴体ごと腕を押さえつけられているので無理。目を瞑ろうとしてもラウラからの拳を回避しようとするならば無理。視線を逸らすのも同様。逃げ道はない。

 

「た、助けてくれ凪紗ああッ!!」

 

「……すまんが、弟子を傷つけるわけにはいかないのでナ」

 

「俺は傷付いて良いのかよ!?」

 

「うん」

 

「即答!?」

 

半分は本当。半分はただこいつが困っているところを高みの見物したいだけである。さて、こいつはどんな展開が……

 

「一夏!起きていないのか!」

 

 

コンコンとドア方面から音が鳴る。……あー、これは

 

「入るぞ、一夏。姉さんも、早く起きて支度を――――」

 

「あ」

 

「げ」

 

「む?」

 

入ってきたのは、箒ちゃん。

そしてこの惨状を見るなり、ピキリ、と顔どころか全身が固まる。

 

一番凝視しているのは一夏がラウラに馬乗りにされているところ。他人から見たらこれはかなり不味い絵図になっているだろう。

 

不意に、プチッという音がしたような気がしてきた。

 

そこで箒ちゃんは竹刀……ではなく、真剣を抜刀し正面に構える。

 

「ちょ、おま、なんで真剣!?」

 

「一夏ぁぁぁ?なにをしている?」

 

笑っていた。しかし目が笑っていない。

 

「ち、違う!これは色々事情が―――」

 

「問答無用!!事情などどうせまともなものではないだろう!大人しく成敗されろ!」

 

「だああああ!!!なんで朝っぱらから命の危険に晒されなきゃなんねんだよ畜生!!」

 

「日ごろの行いのせいじゃない?」

 

「お前は助けろおおおおおおお!!!箒!やめろ!バカ!気を早めるな!!」

 

「誰がバカだ誰が!この大馬鹿者が!成仏しろおおおおおおおッ!!!」

 

「ぎゃああああああ!ヘルプミイイイイイイイイイイイ!!!」

 

言語道断とはまさにこのこと。箒ちゃんは刀を頭上に構え、完全に唐竹割りの準備をしていた。鋭く光るその刀は、一瞬血だらけの赤い刀に見えた……のは気のせいだと思う。しかし、これは当たれば怪我なんて生やさしいものではない、胴体分裂だな、文字通り。

 

「大首頂戴いいいいいいいいい!!!」

 

シュイイイイインと鋭く研ぎ澄まされた音が聞こえる。

―――がしかし、その刃は寸前のところで止められていた。ラウラの手によって

 

「白刃取りだと!?」

 

「ふっ、勝手にライバルを殺されては困るな」

 

「くぬぬ……」

 

ISを展開しないでそのまま生身での白刃取り。その正確さは見事としか言いようが無かった。箒ちゃんの腕力はかなりものだったはずなのだが、幾ら引っ張っても押してもびくともしない。ラウラの腕力の凄さがにじみ出ていた。

 

「た、助かった……ありがとう、ラウラ」

 

「貴様に礼を言われる筋合いはない。ただここで死なれてもなんだ、教官が退屈だ」

 

「……そ、そうか」

 

「それに、私は貴様のことが嫌いではない。むしろライバルとしては好感が持てる」

 

「え!?」

 

「ほう」

 

ラウラから放たれた意外な言葉に、私は驚く。微かながらも好感度はあるようだ。なら、いつか私から一夏に矛先が向いていくだろうと信じ、その時をゆったり……できそうもないが、待とう。

 

―――そこで、二度目のプチッという音が聞こえた。

 

「うがあああああああああ!!」

 

「おわっ!?」

 

気合で無理矢理白刃取りをキャンセルさせる箒ちゃん。なんたる馬鹿力。

 

「迅速一刀流……!二の型三番!」

 

「……あ」

 

「『咲乱桜如(さきみだれおうじょう)』!咲き乱れる桜の如し!!」

 

「ちょっと待てエエエエエエエエエ!!」

 

 

ドガアアアアアン!!と、響き渡る轟音。

その日、1025室は色々あって壁がくり貫けたという。

 

凪紗&一夏は後で修理申請を行いに行った。そして、怒られた。

 

 

 

 

                       ◆

 

 

 

「………」

 

「……ふぅ」

 

時は過ぎ、場所も変わって学園の一年寮食堂。あの朝からの波乱万丈きわまるトラブルをなんとか乗り越えた私は、食欲もほぼわかずただカツサンド一口で腹いっぱいもなにやら。

 

そしてなぜか隣にはラウラ、正面にはその他のトラブル関係者二人。

 

「箒ちゃん」

 

「……何だ、姉さん」

 

「……抜刀術、今後非常時以外禁止ね」

 

「な、なぜだ!」

 

なぜだといわれてもね、あの惨状を二度も繰り返す気は無い。というか一歩間違えたらほんとに手を汚すからNG。これも箒ちゃんのためだよ

 

「いや、日常的にあの人外範疇技を使うつもり?」

 

「そ、そんなつもりはないが……」

 

「ならいいでしょう?私も苦い唾を飲み込んで箒ちゃんにあれを教えたんだから、このぐらいのお願いは聞いてくれるよね?」

 

「……昇進する」

 

「まったく、女の嫉妬であんなもんぶっ放したらそのうちほんとに死人が出るんじゃないかとひやひやするよ」

 

「し、嫉妬ではない!」

 

じゃあなんなんだよと突っ込んだら負けであろう。しかしいささか問題でもあり、このままでは本当に死人が出る。しばらくは制限させて―――というか二度と使わないで欲しいというのがいささか本音であるが―――力のセーブのしかたを学ばせなければそのうちやばい事になるだろう。何で教えたのかな私。

 

「教官、教官」

 

「ん?」

 

肩をポンポンと叩いてくるラウラ。その視線は私の食べかけのサンドに向いている。

ああ、なるほど。

 

「別に、食べていいよ?」

 

「本当ですか!ありがとうございます」

 

そう言い、すぐさまカツサンドを手にとって楽しそうにむしゃぶりつくラウラ。

なんか「間接キッス」と聞こえたが、気のせいだろう。気のせいだろう。

 

「………」

 

「(もぐもぐ)」

 

……ま、この笑顔が見れただけでよしとするか。

 

「わああっ!ち、遅刻っ……遅刻するっ……!」

 

と、不意にかわいらしい声が聞こえてきた。

声の主はかなり域を荒げておりあせっているのが見て取れる。その証拠に忙しそうに食堂に駆け込んできて、余っている定食からとりあえず少なそうなものを手に取っている。

 

「おはよう、シャルロット」

 

「あ、みんな、おはよう」

 

一夏はちょうど自分の所の席が空いていたので、手招きして呼び寄せた。

しかし、真面目っ子のシャルロットが遅刻するとは、良い夢でも見たのかと予想するが、さすがにそれはないなと取り消す。あの子はよほどの事がない限り二度寝するような子じゃない……と思う。

 

「どうしたんだ?シャルロットが遅刻なんて、今日は雨でも降るのか?」

 

「い、え、いや、えと、……その、寝坊、しちゃって……」

 

「へ~え。シャルロットも寝坊なんてするんだ。なんか良い夢でも見たの?」

 

「………」

 

「……何で黙るの」

 

図星、図星らしい。まさか、とそれはないないと思ったがまさかだったとは……。

 

「ま、まあいかがわしい夢なんて見ない限り二度寝なんて」

 

「………」

 

「…………なんか、ごめん」

 

二度目の図星。これに関してはノーコメントと行こう。

 

「まあ、良いんだけどさ。凪紗、お前朝食済んだのに教室行かないのか?」

 

「ん?ああ、いや変な夢見てさ。考え事してた」

 

「変な夢?」

 

まあ他の人に話しても別に何かが変わるわけでもないので、今は「あんま覚えてないわ」と流す。

しかし、本当にアレはなんだったのか。まともなキーワードもないので予想もできやしない。一体全体なにがどうなっているのやら。

 

それでも最低限のヒントを得られたわけだし、なんとか屋って聞かなければと気合を入れなおす。ここで立ち止まっていても何の意味もない。

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「……ん、予鈴か?」

 

「うわっ!やばい、急がねぇと!―――って、あれ」

 

慌てて立ち上がったのは一夏一人、私以外の全員はもうすでに食堂を出て猛ダッシュしていた。

 

「おい!待て!置いていくな!今日は千冬姉のSHRで……凪紗!お前は何のん気してんだよ!」

 

あの人のHRに遅刻するとは、即ちイコールこの世の終わりである。大げさだと思うが、実際遅れた生徒がスペシャル訓練コースを受けてたとか。まあ、身内に超甘いあの人なら罰は軽減すると思うが、多少きつい罰は与えられるだろう。

 

……私にいたってはリアルガチバトルになる危険性があるが。

 

「私はまだ死にたくない」

 

「右に同じく」

 

「ごめんね一夏」

 

「ぬあああ!!待てえええい!!」

 

そう叫びながら一夏はすぐさま食堂を脱出し、三人を追いかけていった。

 

「さーてと……サボりますか」

 

「やはりな」

 

「え」

 

声の出所を探る。それはすぐ目の前の食堂の出入り口にあった。

この声は私の勘違いでなければ―――

 

「……千冬さん。あんた、HRは?」

 

「少し遅れさせた。貴様がサボるかもしれないからな。様子を見に着たが、まさか本当にサボろうとするとはな」

 

手をゴキゴキと鳴らす千冬。

その光景を目の当たりにした私は全身から冷や汗が流れる。

 

「い、いやぁ……ちょっとしたジョークですよジョーク」

 

「ほほう。それでは、その軽い口をすこし重くしてやろう」

 

なんで逆効果になってんだ

 

「………」

 

「覚悟は」

 

「NO」

 

「OK。you ara KILL!」

 

「なんでだよ!」

 

神速で突っ込んでくる千冬をスライディング股抜きで回避。すぐに起き上がり全力逃走をはじめる。

 

「待て貴様ああああああッ!!今日こそはお縄にかかれ!!」

 

「断る!あんたに捕まったら何されるかわかったもんじゃない!」

 

「大丈夫だ!少し頭蓋骨を砕くだけだ!」

 

「殺す気かあああああああ!?」

 

「そうだあああああああ!!」

 

「開き直るなああああああああ!!!」

 

 

そして今日私は、鬼教師、またの名をラスボスの織斑千冬教師と鬼ごっこをし、本鈴がなるまで学園の敷地内を逃げ回った。

 

……終いには捕まって教室まで連行された。

 

 

 

 

 

おまけ(というか前回の後日談)

 

あらすじ

 

VTシステム暴走事件の夜。

凪紗は少し風呂にでも入ろうか、と思って部屋のシャワーを使おうとしたが、なぜか蛇口が壊れておりしかたなく入るのを諦めようとしたが、ちょうど今日から大浴場が使用できるという知らせを聞き、ゆっくり風呂に浸かろうとしていた。

 

 

 

 

ガララという音を響かせスライド式のドアを開ける。

すると、その奥から暖かい蒸気、というより煙が流れてくる。

 

「……まあ、予想通りというか、なんというか」

 

予想していたとはいえ、女子、女子女子女子。女子だらけだった。

その人数はたぶん五十ぐらいにまで達しており、普通の風呂屋だったら少し苦しいものである。が、そこはさすが国立というところもあり、あと五十入っても大丈夫なぐらいのでかさだった。

 

といっても、さすがに息苦しいが。

 

「………うん。小さくはない。普通だ、私」

 

小さいって何が?と思った奴ちょっとこっち来い。怒るから。

 

……どうでもいい冗談はともかく、まずはおなじみ(?)の体流しから。

まず蛇口のところに行き、近くの桶に水を溜める。ボタン押し式なので押し続けなくてもOK。さすが現代、便利なものが山ほどある。

 

水を溜めた桶を、頭上に掲げてくるんと回転させ中身を頭にぶちまける。

それを何度かやり、シャンプーで軽く頭を洗う。

 

「シャンプーって目に入るから嫌なんだよなぁ……くおっ!」

 

言ったそばからだよ。

目に鋭い痛みが走り、すぐに水で顔を洗う。ああ、これだから嫌なんだ。

 

その後頭の泡を水で流し、ボディーソープで体を洗って湯船大に浸かろうとする。が

 

「……人、集まりすぎだろう」

 

大体三十人ぐらい密集していた。目測で約四千九百平方メートルあるとはいえ、さすがにこの大衆の中に入るのは中々勇気が必要だった。

 

しかし浴場に来て湯船に浸からないのはさすがに邪道と感じたので、嫌々湯船に浸かる。

 

「……あー……気持ちいいぃぃぃ~~………」

 

思わず顔がほころぶ。

体から銭湯による疲労が吹っ飛んでゆくのを感じた。さすがに物理的な筋肉痛や腕の傷は治らないもの、それでも十点満点を付けられる気持ちよさだった。

 

「あら、篠ノ之さん?来ていましたの」

 

「へ?」

 

きょろきょろと首を回してみると、声の主が見つかった。

髪は束ねているが、その髪の色は間違いなく金色。私の知り合いに金髪などごく限られているので、すぐに誰だかわかる。

 

「ああ、セシリアか」

 

イギリスの代表候補生。セシリア・オルコットだ。別名セッシー。または金髪ロール。機嫌が悪いときは後者で呼んでいる。

そあ与太話は置いといて、ここでは少し奇妙な出会いだった。

 

「……というか、今日はご自慢のバスルームじゃないんだね」

 

「ええ。せっかく大浴場が開放されたんですもの。使わないと損ですわ」

 

「道理に沿ってるねぇ……。ま、こんなに人が多いとは思わなかったんだが」

 

「同感ですわ。本国では広いバスルームでも一人で浸かれましたのに」

 

そこまで厚待遇だったのかと呟く。まあ代表候補生だしそのぐらいはするよね。逆にいえば代表はその比じゃないということだが。

 

「……そういえば、篠ノ之さん。一つ気になる事がありまして」

 

「何?」

 

「……いえ、面に向かって言うのもなんですが……どうして代表にならなかったのですか?」

 

「は?」

 

急に何を言い出すかと思いきや、これまた意外な質問だった。

確かに、同じ代表候補生としては気になる事だろう。

 

「あなたの実力なら、今すぐにでも代表になれたはず。なのにどうしてという疑問が前々から湧きまして。この際良い機会だから言ってみましたの」

 

「なるほど。ま、別に黙るような事でもないし、言っても良いよ」

 

しぶしぶ首の骨を鳴らしながら、話を始める。実を言うとそんな大層な理由でもなかった。

 

「私は代表候補生になったのは、政府からの間接的な支援が受けられるからだよ」

 

「支援を?」

 

「ああ、私っていろんな部品を作るだろう?だからこそ支援が必要だったんだよ。資源供給という支援がね」

 

「なるほど。素材無しではさすがの篠ノ之さんでもISは作れなかった、ということですね」

 

「逆に無から作れたら怖いわ。……ま、そういう理由さ。代表にならなかったのは、あいつらの手ごまにはなりたくなかった。それだけだ」

 

「でも、それでは接待も限定されるのでは?」

 

「ふっ、私を何だと思ってる?一応外国にもつながりを持っているぞ」

 

「え?」

 

「ドイツのIS開発研究所本部、アメリカの(ファヌエル・)(ヴァルハス・)(ラージエス・)(ウィンスト)社(三十六話で触れたISスーツ会社。間接的だかIS装備、装甲、モデル開発にも関わっている)の社長にも一応線を持ってる。後者は太いとは言えんが、それでもデータ交換との対価いう形で希少素材を提供してくれるビジネスライク仲間さ」

 

「嫌な仲間ですわね」

 

「だろ?私もあいつは嫌いだ」

 

色々関係ないことを愚痴るが、まあセシリアには関係ないことだ。

そんな感じで小話をしながら風呂に使っていると、またまた奇妙な出会い。

 

「おー、詩織じゃん」

 

「……鈴か」

 

私を詩織と呼ぶのはこの学園には一人しか存在しない。それは勿論旧友の鈴である。

 

「……え、なんでセシリアがいるのよ」

 

「わたくしがいてはダメですの?」

 

「いや、てっきりバスに浸かって「おほほほ」とか甲高い笑い声を響かせていると思ったんだけど」

 

「そうですか。鈴さんが普段わたくしのことをどう思ってるか理解しました」

 

「逆に今まで理解してなかったの?」

 

二人の間で火花が散る。

なんでだろう。私が知っている中で一番仲が悪いのはこの二人だ。恋のライバルという事もあるが、それ以外にも理由があるらしく、本人たちに聞いてみたところ「「気が合わない」」それだけだった。

 

「そういえば鈴さん。少々質問が」

 

「なによ。どうせ『どうしてそんなに胸が小さいんですの?ある意味才能ですわね。ほほほ!』とか言うんでしょ!?悪かったわね小さくて!好きで小さいんじゃないわよ!」

 

「……まだ何も言っていないんですが」

 

「っさい!……で、なによ質問って」

 

「ああ、そうでした。質問というのは、鈴さんはどうして篠ノ之さんのことを『詩織』と呼ぶのですか?偽名ではありませんでしたっけ?」

 

「ああ、それね」

 

「えっと……単に呼び慣れたからよ。三年近くそう呼んでるし」

 

「篠ノ之さんは抵抗は無いんですの?」

 

「ないよ。好きに呼べって言ってるし。なんせ中学時代に『デビルシスターズ』って二つ名で呼ばれた仲だしね」

 

「は?デビ……」

 

「一緒に不良集団を撃退したりしたのよ。その姿が悪魔みたいだからって付いたあだ名がデビルシスターズ。今聞いてみると変なネーミングセンスよね」

 

「喜んでたから背中を踏みつけたり壁に埋め込ませたりケツバットしただけなんだけどね、どこが悪魔なんだか」

 

はははと共に笑う私と鈴。その姿にセシリアは少し引いた。

全く、悪意の塊であると自分でも思っている。二人はダークプリ〇ュアってか?笑えないよ。

 

「あれ、姉さん」

 

「いつもの顔だね」

 

「今度は箒ちゃんと円夏か」

 

言った事と同じことを思う。今日はついているのかついてないのか。

 

「………」

 

「ん?なんだ」

 

「どうしたの鈴ちゃん?」

 

鈴の顔を見てみると、まるで死んだ魚のような目でセシリアと箒の胸の豊作を交互に見ている。一瞬だが殺意が感じられた。

 

「ねえ、なにこの面子。虐め?私に対する虐めなの?」

 

「お、落ち着け鈴」

 

「そうですわ、貧乳はステータスだと誰かが」

 

「うっさいわハゲ!これだからデカ乳はっ!少しは分けなさいよぉぉッ!!」

 

「ギャーーッ!胸を掴まないでください!!」

 

「昼間の返しだボケーッ!!」

 

「風呂場で暴れるなよな……」

 

泥沼の戦いをしている二人は放っておいて、私は箒ちゃんの隣に来る。

 

「姉さん……何処を見ているんだ?」

 

「いや、少し箒ちゃんの夕張メロンを………」

 

ちょっとしたギャグのつもりだったが、急に箒ちゃんは俯いて「だから来たくなかったんだ……」と呟いている。どうやら本人にとってこの大型白玉はちょっとしたコンプレックスらしい。

 

「凪紗……」

 

「ごめんごめん。冗談だよ」

 

「……うん」

 

意外とマジで凹んでいたらしい。

つかコンプレックス抱いてんなら少しは分けてくれ。

 

「しかし、人に見られるのが嫌ならなんで大浴場なんかに来たのさ」

 

「姉さんが入っていったって聞いたから、少しは家族で入ろうと、な。二人で風呂に入ったのはいつぶりだろうな」

 

「……もう十年も入ってないのか」

 

昔少しだけ一緒に入った記憶がある。だがそれは六歳のとき。そんなに体格も大差なかったときだ。

六歳までの頃しか風呂に入れなかったのには理由がある。その頃に私が始めたのは本格的なISの研究。その頃の家族関係はズタズタに引き裂かれていた頃だ。最後に入ったときの様子、一言で言うと無言の極みである。

 

「……こうして銭湯みたいな風呂に入ったのは今日が初めてだよ」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、子供の頃は家で済ませたからさ。隠居生活しているときも基本外には出なかったんだ。だから、銭湯みたいな場所に来たのは今日が初めてなんだよ」

 

「そうだったのか……うん?姉さん。銭湯には一度も行ってなかったんだよな」

 

「?そうだけど」

 

「じゃあなんで銭湯の雰囲気を知っているんだ?」

 

「……あ」

 

自分が思わず口を滑らしたことに気付く。

マズイ。ここで気付かれたら、もう元の生活には戻れない。そう直感した私は瞬時に言い分を考える。

 

「し、写真で見たんだよ。ネットに写真画像なんて幾らでも転がっているからね。興味もあったから情報を集めてた頃があったんだ」

 

「そうか。なら知っててもおかしくないな」

 

「なんか怪しいけど……まあ、凪紗が私たちに隠し事をしているのはいつもだしね。別にいっか」

 

(危ない危ない)

 

なんとか納得してくれたらしい。いや、納得してくれなきゃ困るんだが。

 

「しかし姉さん。包帯を巻きながら風呂に入るのはどうかと思うのだが」

 

「あ……ごめん。これは見せたら不味い傷なんだ」

 

「そんなにひどいの?」

 

「うん。しばらくはまともに動かせない」

 

本当に見せたら不味い傷なのだ。少なくとも生徒が居る場所で見せるようなものではない。

具体的には、肉がズタズタになって柔らかくなっている。骨はかろうじで見えないにしろ、耐性の無い者に見せたら確実に悲鳴を上げる傷である。止血剤と痛み止めを大量に打ってあるから出血と痛覚(というか感覚)はないが、さすがにこの傷で入るのは不味かったか。

 

「そんな黒い話は置いといて……円夏、今日はおいしいところもって行ってくれたね」

 

「え?いや、あの……」

 

「実はタイミング狙ってたんじゃないの~?このこの」

 

肘で脇腹を突っつくと、苦笑で返された。相手も冗談だとはわかっているので当然といえば当然だが

 

「ご、ごめん。ほんとに着いた時は凪紗があの泥から顔を出したあたりだったんだよ」

 

「つまり、クイックドロウ+超精密射撃+マルチロックショットを成功させたの?」

 

「自慢じゃないけど、ね」

 

正直に言えば、円夏は射撃の天才である。

後に聞けば、IS無しでの精密射撃は9,500フィート(約2,896メートル)〔使用ライフルはアキュラシー・インターナショナル社開発の対物ライフル アキュラシーインターナショナル AW50〕。ぶっちゃけ生身での狙撃世界最長記録を塗り替えた張本人である。更にスコープ無しでも三百メートル以内のものは全て命中(人間ならヘットショット)という二代目シモ・ヘイヘのような超人である。更に更に銃器ならほぼ全ての種類を扱えるというチートスペック。たぶんイギリス最強の人間だろう。私にも負けてないんじゃないかな。

 

「ほんと、兄より優れた妹だよ」

 

「そう?近接戦では勝った事が無いんだけど……」

 

「遠距離に持ち込めば瞬殺でしょう?……性格も誰に似たのか」

 

「あはは………」

 

二度目の苦笑。ほんと、優しいところは誰に似たのか。千冬さん?……いや、ないない。絶対に。アレが優しいなら山田先生は聖人を通り越して聖母だよ。

 

 

と、軽いジョークを念じたところで、大浴場の曇り防止ガラスを使用した掛け時計を見て見ると、もう一時間も経っていた。話しているととことん時間間隔が鈍る。

 

「さて、私はそろそろ上がるかな」

 

「え?早くない?」

 

「そうだぞ姉さん。少なくとも二時間は浸かっていないと」

 

「いや、いい。良い気分転換になったし。私は風呂に入ろうがないらなかろうが変わらないよ」

 

「「え?」」

 

「ま、気にしないで。また明日~」

 

そのまま風呂から出て、何事も無かったかのようにその場を立ち去る私であった。

残った二人は凪紗の言葉の意味がわからず、「?」と考え込むだけであった。

 

 

 

「鈴さん!いいかげんにしてくださいまし!!」

 

「うがああああ!!貧乳の恐ろしさ、とくと身に染み込ませてやるわあああッ!!」

 

「い、いやーーーーーッ!!」

 

 

ついでに二人はまだ争っていた。

 

 

 

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