インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉 作:夜光・陽炎
「ふふははははっ、今日はいい天気だな」
「あはは、そうですね……」
週末の日曜。天気は快晴。全然良くない。むしろ嵐でも直撃すればよかったのに。
来週からは臨海学校の準備とかあって、他の者たちはショッピングやら水着を買いに行くやらをしている。
そして、この私、篠ノ之凪紗は二人の女性と街に繰り出ている。その女性二人とは。
「何だ凪紗、気分でも悪いのか?」
鬼教師もとい織斑千冬と。
「え、ええと……本当に私が来ても良かったのですか?」
通称おっぱい山田真耶先生だった。
どうしてこの二人と街に来ているのかというと、それは今週の金曜日に時がさかのぼる。
私は、良い夢を見ていた。
「ははははは、ははははは」
ああ、花畑が見える。ニルヴァーナが見えるよ父さん。
「お~い。こっちだぞ~」
アレは神様かな?はははは、久しぶりだなぁ……お~い、元気かー。
「頭、あーたーま!」
頭?
―――ドグシャァァァァァァン!!
突如の轟音と頭上への衝撃で目前の絢爛な光景が全て闇に変わる。良い夢も台無しになった。
「ぃってえええええええええええなああああああああああああああああああ!!!!」
「授業中ずっと寝てたお前が何を言うかああああああああああああ!!!!」
衝撃の原因は、千冬さんだった。どうやら出席薄で私のアイアンヘットをぶっ叩いたらしい。頭から煙がシューシューと煙が上がっている。
……は?寝てた?
「全く、学校の始まりから終わりまで寝る奴がいるか!何度声を掛けても起こらないわ、ちょっかい出しても起きないわ、三十撃目の会心の一撃でようやく目が覚めたかと思いきやいきなり文句を言うわ。授業態度が悪いにも程があるわ!」
「い、いや、それは悪いと思っているんですけど……」
あまりの睡眠不足のせいで約七時間ぶっ通して快眠していたらしい。しかし、これはひどい起こし方と言わざる得ない。おかげで頭が割れそうに痛い。
「つか、三十撃?そんなに叩いたの!?」
「二十九撃目までは軽くだったが、お前の安眠顔を見てイラ付いたから少し本気出した」
「殺す気!?」
「自業自得だ。どうせ、HR中も寝てたのだろう」
ぐぅの音も出ない。とはまさにこのことである。しかし寝たくて寝たわけじゃあないんだけどね。ああ、頭痛い。
「一ヶ月間絶え間なく仕事を回してくれた誰かさんのおかげでね。というか、今日って通常授業の日だったんじゃ」
「お前も仮には生徒だろう。少しは真面目に授業を受けたらどうなんだ」
「全部知ってて詰まんないんですよ……知ってて言っているんですか?それとも知らないんですか?」
「……はぁぁぁ……貴様という奴は。……まあいい。それより話を聞いていなかった馬鹿者に知らせがある」
誰が馬鹿だ誰が。
しかし、HR中話を聞いていないというのは本当であり、さすがに情報無しでは私も行動することが出来ない。ここは大人しく話を聞こう。これ以上面倒ごとにするのは御免だ。
「来週から校外実習期間だ。はっきり言えば臨海学校だ」
なるほど、最近女子が盛り上がっていたのはそのせいか……って、ああ、思い出した。先週から知らせが来たんだっけ。と、記憶が徐々に修復されていく。
「確か、三日間あるんでしたっけ?」
「ああ、一日目は自由時間。二日目は各種装備試験運用、三日目は自由時間だ」
「ふぅん……勿論私が作った装備は―――」
「ダメだ」
即答された。しかも否定。
「なんで」
「どうせ、変なものでも持ってくるんだろう?未知の粒子射出砲とか、大陸間弾道ミサイルを改造して大気圏外スペースデブリ撃墜用にしたものとか。間違ってもろくなものはない」
「違うけど当たってるし………。まあ危険なものに変わりはないし、あなたがそう言うならそうしますよ、先生」
「わかったならいい。このあと仕事があるからな……ああ、それと」
「なんですか」
教室を出ようとした千冬が急に踵を返し、こちらを向いた。
「水着は持っているな」
「持ってません」
「………何?」
「持ってません」
「………どうして」
どうして、といわれた。
理由は簡単。私にとっては水泳など必要でないのである。ぶっちゃけ泳いだ事なんて数えた事ぐらいしかないし中学の頃持っていた水着もスクール水着だったから学校以外では使わなかった。正直海にも行った事が無い。
はっきり言えば、必要ないのである。
「……と、いうわけです」
「呆れたぞ。まあ、現実的な範疇だからまだ良いがな。……仕方ない、買いに行くぞ」
「は?」
「週末、予定が空いている。私も水着を持っていないからな。ちょうどいい」
「いやいやいや。なんで私があんたと一緒に水議会に行かなきゃならないんですか」
「嫌なのか」
「はい」
「…………」
急に無言になり、教室から出かけていた足をひょいと戻してこちらに近づいてくる。……鬼の鏡像を背中に浮かべて。
「え、え?え!?」
頭をガシッとつかまれ首を固定される。
「ほうほうほう。つまり、私と一緒に居たくない訳だ。大丈夫だ、いますぐその願いはかなえられる」
「え、ちょ、それ意味違……」
「YESかOKで応えろ。週末は空いているな?」
「……YES」
「よし。ついてこい」
「……ら、ラジャー……」
「ついでに聞きますけど」
「何だ?」
「コジマは……駄目か?」
「………コジマは……まずい……」
こうして私は、無理矢理週末ショッピングに付き合わされることになった。
……気が進まなかったが、こうして唯一の癒し、山田先生と一緒に居られるだけでまだマシだとつくづく思う。もし山田先生が居なかったら、私と千冬さんの間の空気はブラックホールより黒いものと化しただろう。
「――おい、話を聞いているのか」
「え?ああ、はい」
「ほう、じゃあ私は今なんと言った?」
「……えーと、おい、話を聞いているのか。と」
「……聞いていなかったんだな」
コンマ一秒で生み出したとんちは呆れられた。いや、この人をイラ付かせないだけ及第点ってとこだが。
「まあいい。山田先生、私たちが行く店はどこでしたか?」
「ああ、はい!」
山田先生は高級風のボストンバックから駅前のショッピングモール《レゾナンス》の案内地図を取り出して「えーとえーと」と今から行く予定の水着売り場を探している。
今のうちに《レゾナンス》の情報を整理しておこう。
このショッピングモール《レゾナンス》は交通網の中心であり、電車に地下鉄、バスとタクシーと市民の交通手段が全て揃った場所である。更に市の何処からでもアクセス可能、またその逆も可能という万能さ。しかも周囲の地下街とつながっているし、売店は勿論、高級レストラン、ファミレス―――秘密裏にバーもあるらしい――に、その中は欧・中・和を問わずに完備。衣服も海外の一流ブランドまで揃っているという稀に見る化物級のショッピングモールだ。最近のショッピングモールは進化したな。
「ああ、ありました!ここです、えーと……ショッピングモールの二階の水着売り場の……え、えーと、も、モンスーン……え、えと、あれ?」
なぜか店の呼び名に苦労しているようで、さっきから行ったり黙ったりを繰り返している。仕方ないから私が直接見て読もうと近づこうとしたとき、不意に誰かがこちらに走ってくる気配がした。
嫌な予感がした。案の定、近づいてきた気配、もとい男は山田戦士絵のポストンバックをひったぐっては知り過ぎ去っていった。
「は、へ……ふぇ!?」
山田先生がそのことにようやく気付き、バックを盗んだ男を追いかけようとするも見事にずっこけ、頭から地面に突っ込んだ。
ひったぐり犯はそのことを幸運に思ったのかどんどん人ごみの中にまぎれていく。
「山田先生、大丈夫ですか?」
地面に顔をうずめている山田先生に千冬さんが近づき顔を上げさせる。
「は、はいぃぃ……そ、それよりバックが……」
転んで顔をぶつけた山田先生は涙目になっており、今にも泣き出しそうだった。
そのうちにもひったくり犯はもはや人ごみの中にまぎれており視認することはほぼ不可能だった。
しかし、千冬さんは呆れ顔で。
「はぁ……おい凪紗、早く捕まえろ」
普通ならもう捉えることが出来ないのに、平然とそう呟いた。
そんな言葉に、私は。
「へいへい。つかまえりゃいいでしょう?意識があるかは保障しませんけど」
同じく平然とそう返した。
私は目を閉じて視界に一切の光を無くす。
そして光の変わりに周りにある全ての、声、音、空気の振動、そして臭いを判別した。
声は聞いてないから除去、音はこの人ごみの中では不利になるのでこれも除去、空気の振動も同様、あとは臭い。先ほど山田先生にぶつかった男は、ぶつかった山田先生の『服』に特有のにおいを残している。なら、山田先生からにおっている香水の臭いを排除し、山田先生本人の臭いも排除する。後に残ったのはきつい汗の刺激臭。しかしそれは個人特有の代物だ、検地できる範囲の約一k内に居るずべての人間の体臭と一致させてみれば、いずれは臭いの持ち主が見つかるはず。
…………見つけた。
かなり時間を食ってしまったが、まだ仕事は終わっていない。一致した臭いの発生場所を記憶の地図と配合。瞬時に居場所を突き止める。
意外と簡単な場所に居た。ここから正面の約二百メートル離れた人ごみの中。正面なら話は早い。
私は右手を肩の高さまで上げ、親指と人差し指を伸ばし、中指、薬指、小指を曲げて手の平にくっつける。そう、銃のフォルムにように。
そして人差し指を小さくグルンと回し、小さな円の形を作る。
すると、その中心に小さな空気圧縮弾が出来上がる。そう、この仕草は周りの空気をかき集めるための仕草だったのである。しかも小さな円の内側にある空気だけはなく、その周囲の空気も吸い取り、小さな空間収縮を発生させた。周りに少しだけ風が発生して、自分の髪がなびく。
「―――ばーん」
そう声を放つと、圧縮弾はまっすぐ飛んでいく。
放たれた弾は人ごみの隙間を通り、何事も無かったかのように進んでいく。その弾は、ただある人物にまっすぐ飛んでいくように計算された弾だったのだ。
勿論その弾は目標に到達、バックの中身をあさっていたひったくり犯の後頭部を強くたたき、コンクリート製の地面に顔を勢いあまりぶつけてクレーターを作ってしまった。
「これは、お返し。といったところかな?」
ひったくり犯の周りに野次馬ができていたが、気にせず鍵分けて進み、コンクリートに顔を埋めている男の前に出る。
男のボサッとした髪を掴むと、乱暴に吊り上げてみる。
「がっ……」
鼻から血が垂れていた。当然、あれだけの速度で鼻をぶつければ鼻血も出るだろう。しかし鼻は折れていないらしく、血も黒くは―――頚動脈から出る血は大抵黒ずんでいる―――無かった。
「山田先生、千冬さん。そこら辺に居る警備員を呼んでください。すぐに」
「は、はいぃ……」
「荒っぽいマネはするなよ」
釘を刺しながら千冬さんたちはすぐに警備員を呼びにいく。
そこに目をつけたのか、髪をつかまれていた男は急に暴れだし、私の手を振り解こうとこちらに向かってパンチしてきた。
その拳は私にとって半端無く遅く、まるでハイスピードカメラで子供のパンチを限界まで遅くさせたような感じだった。
そんなパンチ、受け止めてハンマーロックするのには難も無かった。
「いっ、たたたたたたたぁっ!!」
そしてそのまま頭を地面に再度叩きつける。鼻血がひどくならないようにちゃんと顔は横向きにしておいた。
ついでに野次馬どもは「おー」と歓声を上げている。
「く、そぉ……なんで、こんなガキが……」
「相手を間違えただけだ。心配ない、数十日豚箱にぶち込まれるだけだからな」
改めて男の姿を見てみる。
見た目はさほど変わりは無い、強いて言えば筋肉質の三十代後半の男性だった。
と、特に特徴が無いのは、腕のシャツの袖を捲ってみた時までだった。
男脳では傷だらけで、いかにもふだんから喧嘩や面倒沙汰を起こしている雰囲気が漂っていた。確かに普段からそんなことやっているなら盗みなどやるだろう。
「てめ、え……いい加減、離せや……!」
「断るね。どの口が言ってんのか」
「く、くく……やっぱ、女尊男卑なこのクソッタレな世界のせいか、最近はガキまで正義の味方ごっこときた……このクソッタレ……」
「いい加減黙ってろよおっさん。痛い思いはしたくないだろ」
「ちっ……このバケモノが……」
その言葉で、少し腕の力が無意識に強まり、手が男の腕に食い込む。
「…………」
「お、おい!て、てめえなにしやがる!は、はな、離せ!クソッ、や、やめ―――ぎゃあああああああっ!!」
「誰が、『バケモノ』だって?」
男の腕は、変な方向に曲がっていた。
腕は折れていないが、腕の関節と肩の肉が少々しぼんでいる。原因は、関節を無理矢理外したのだ。力ずくで。
「や、やめ、てくれえっ!!」
「誰が私のことを気安く呼べって言った?誰が、私のことを『バケモノ』呼ばわりしていいって言った?」
「た、たの、ゆ、るして―――があああああああっ!!」
関節が外れた腕を引っ張り上げ、肉をねじる。その瞬間男の腕に激痛が走って、男は悶絶している。
「おい、もう一度言え。私のことをなんて言った?」
「ひ、あ、ぎ、がぁっ………お、ねがいだぁ……ゆるしてくれっ……!」
「……屑が」
そう言い放ち、私はねじっていた腕を離す。
その後、警備員を連れてきた千冬さんが到着した。我に戻った私は髪をくしゃくしゃとかき混ぜて黙っていたが、千冬さんは状況を察したのか警備員に犯人を連れて行かせ、野次馬群を抜けて私を山田先生のいるベンチに腰を付けさせる。
ついでに山田先生のバックはちゃんと拾っておいたので返してあげた。
「あ、あのー……藍更さん、どうしたんですか?」
「……ああ、その」
山田先生は街中にいるから気を使って偽名を使ってくれていた。同時に今の私の落ち込みっぷりを心配したのか声も掛けてくれた。
しかし、質問の答えが中々決まらなかったのであれやこれやしてると、千冬さんが口を開いた。
「私から説明しよう……こいつは赤の他人から悪口を言われるとキレるのだ。簡単にな」
「え、そ、そうなんですか?」
「え、あ、えっと……はい」
嘘……とは言わないが、半分は間違いである。正確には他人に―――特に知らない奴や嫌いな奴―――にバケモノ呼ばわりされるとマジとまでは行かないが軽くキレる。
「へーぇ……藍更さんって意外と子供っぽいんですね」
「い、いやぁ……そうですね」
声が震えさせながらもなんとか誤魔化す。
色々ありながらも、私たちはショッピングモール内部へと足を運ばせた。
………のはよかったのだが
「………………」
「………………」
駅前のそばに、怪しげな影、しかも二つがあった。
ひとりは躍動的なツインテール、もう一人は高級さを漂わせる金髪ロール。すごく見覚えがあった。見覚えどころかその二人を知っていた。出来ればこのままスルーしていきたい。
つまり、鈴とセシリアであった。
「……あのさあ」
「……なんですの?」
「……あれ、手ぇ握ってない?」
「……握ってますわね」
近くにいる私たちに気付かないのか、引きずった笑顔で人ごみの中を見つめるふたり。鈴が持っていたであろうペットボトルがぐしゃぐしゃに握りつぶされていて、蓋がパン!と弾け飛んでいた。
「そっか、あっぱりそっか。あたしの見間違いでもなく、白昼夢でもなく、蜃気楼でもなく、そっか、そうなんだ。――――ぶっ殺す!Fucking KILL youuuuuuuuu!!!」
半端無く汚いスランクを街中で絶叫しながら拳にISを部分展開して今にもパーティーを始めそうな勢いだ。衝撃砲発射までのタイムラグはほとんどないだろう。
さすがに街中でそんなもん発射されるとこちらが困るので、とりあえず頬にパンチをかました。
「ぶげらっ!」
腑抜けた声を出しながら壁に顔を埋め込ませる鈴。そこでセシリアも我に返ったようで私たちにようやく気付いた。ようやく。
「え、えっ!?鈴さん!?―――って、お、織斑先生と、し……じゃなかった、藍更さんまでどうしたんですか揃いも揃って?」
「わ、私も居ます~!」
私居ますアピールする山田先生をバックに、鈴の頭を壁から引っこ抜く。
引っこ抜いたところまでは良かったんだが、完全に白目を剥いていて起きる気配が無い。しょうがない、強引な手段でいくか。
「ふぅぅぅぅぅ……ドォォォォォォォラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!!!」
気合の入った叫びと共に鈴の両頬に超高速ビンタ。パパパパパパパパと気持ち言い音が連続して響く。
「ぷっ。ちょ、お、おき、きた、か、うべっ!!」
「アァァァァアタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!!!」
なんか楽しくなってきたので少しスピードアップ。良いリズムだ!
「お、ぶへっ、し、死ぬ、って――――――ちょっとおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「あ、起きた」
やっと起きたのか鈴は私の両手を掴んでビンタを止めた。
鈴の頬は赤く膨らんでおり、そうとう打撃を喰らったように見える。誰がこんなひどい事を……
「あんたでしょうがああああああああ!!!」
「どうして心読んでるんだよ」
「どうしたもこうしたも、アンタあたしを殺す気!?本当に死ぬところだったわよ!」
「え~?結構いい音出してたよ?」
「関係ないでしょうが!!」
渾身のボケに渾身の突っ込み。ふむ、将来芸能人の才能に目覚めるな。
と、どうでもいい話しは置いといて鈴は頬をさすりながらようやく訪ねてきた。
「ったくぅ……なんでアンタがここに居るのよ―――って、千冬さん!?」
「誰が名前で呼べといった」
「す、すいません。って、違う違う。ほんとなんでここに居るのよ詩織」
「わ、わたしもいまふ~!」
「ああ、ちょっと水着が無くて。買いに着たんだ」
「………もう、私って何のためにここに……」
「ふ~ん。確かにアンタ泳いでそうなイメージ無いもんね。私は中国で結構泳いだけどさ」
「……中国って下水道とか平気で海に流しているようなイメージがあるんだけど」
「バッカ。それはたちの悪い連中が処理をめんどくさがってそうしているだけよ。それに私が泳いだのは海じゃなくて田舎の湖よ」
「ああ、ならいいや――――で、お前等はどうしてここにいるんだ?買い物しに来たわけじゃなさそうなんだが」
「それは、えっと………」
「鈴さん、急がないと見失いますよ?」
「わ、わかってるわよ!ええと、実は―――」
「―――私のライバルを尾行していたのだ」
「え?」
「え?」
「え?」
いきなり視界外から声を掛けられ、驚いて声の持ち主を探す。
案外近くに、というか私の真後ろ、背後に立っていた。そこに立っていたのは、忘れたくても忘れられない者。銀髪と朱色の瞳の持ち主、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
というか、幾ら油断していたとはいえ私の後ろを取れるのはラウラか円夏ぐらいの者―――本気の私の背後を取れるのは千冬さんぐらい―――だけだから、案外予想は出来ていたが。
「あ、アンタ、いつの間に!?」
「ああ、それはだな―――」
「―――ちょっと、ラウラー!いきなり居なくならないでよー!」
そう言ってこちらに向かってきたのは、私の第三弟子。千冬さん似のふわっとした髪、間違いなく織斑円夏だ。なんという偶然だろう。いつもの面子が軽々と揃ってしまった。
「ちょうどいい。円夏、説明してくれ」
「え?一体何を―――って、みんな!?お姉ちゃんまで、ここで一体何を………」
「偶然会ったのだ。私がどうしてここに居るかと説明を受けてな。変わりに説明してやってくれ」
「いや、えっと……いきなりすぎて困るよ……」
「そうか、では仕方ない。私が説明しよう。私がここに居るのは偶然見かけた教官を尾行して教官の好みの女子を―――」
「スタアアアアアアアアップ!!それ以上言うな!!円夏、説明して!」
「え、あ、うん。えっと……私ってほとんど泳いだ事無くて、水着を買おうと着たんだ。ちょうどルームメイトになったラウラも一緒に行く事になって……」
「最初はどうでもいいた思ったが、後々教官も行くとわかったのでな。すぐに行く事を決意した」
「どこで知ったんだよっ………!」
どこでそんな情報を手に入れたんだと思ったが、そういえば教室で千冬さんと話していたときかなりの大声だったからどこかの女子に聞かれたかと今更ながらに後悔する。
「この情報を仕入れるのに二万クレジットを支払った甲斐があったというものだ」
買収したらしい、しかも二万払って。
「そ、それで、お姉ちゃんたちはどうしてここに居るの?」
「それは円夏と一緒だよ」
「水着を買いに着たの?じゃあ丁度良かった、一緒に行こうよ」
「あ、それは」
円夏と千冬さんが一緒にいるとあの人が何を仕出かすかわかったもんじゃない。即刻断ろうとしたが。
「―――勿論だ我が天使よ。うんうん」
「んっ、お姉ちゃんくっつき過ぎだよ!」
遅かった。
仕方ない。ここしばらくこの人は兄弟姉妹として接せることが出来なかったからせめて今ぐらい好きにさせてもいいだろう。
さて、肝心の本題だが。
「ラウラ、この二人がその……一夏を尾行してたって、本当?」
「はい、この目でしっかりと」
そう言って左目の眼帯を捲り上げて金色の瞳―――ヴォーダン・オージェを見せる。この目はナノマシンによって擬似ハイパーセンサー機能を与えられた。本気になればそこら辺に居る虫の挙動さえ見抜くことが出来るであろう。だからこそラウラの言葉には信頼性があった。
……ライバルが誰か断定できたのはラウラがいつも一夏のことをそう言っているからであったおかげだろう。認めたくは無かったが。
「……で、その本人たちはどう説明する気?」
「「………」」
視線を二人に向けると、二人とも同時に体をビクンと振るわせる。
どうやらもう言い逃れで着ない事を悟ったのか、簡単に話してくれた。
「……シャルロットと一夏が一緒に水着を買い物に行ったみたいで、それを尾行したのよ」
「なんだと!?」
過剰反応の千冬さんはスルーして話を続けさせる。
「で、ちょっと気になったから追いかけてたってわけ」
「ふーん。セシリアも同じく?」
「はい。異論はありません。がしかし、もう見失ったみたいで、尾行も終わりですわね」
「いや、そうでもないぞ」
「へ?」
私は鼻を震えさせると、瞬時に臭いをかぎ分ける。正直あいつの臭いはかぎたくなかったが、仕方が無い。私もあいつらが何をやっているか少し気になるからちょっと尾行ごっこに参加したくなったのだ。ついでに後の人が殺気たっぷりの目線でこちらを向いているのでやらなかったら色々まずい。
「うーん………二階の、水着コーナー……みたいだね。ちょっと香水の臭いがするけど、まあいいか。行くの?行かないの?」
「―――行くに決まってるでしょ!」
「―――行くに決まってますわ!」
「―――行くに決まってるわ!!」
千冬さん、鈴、セシリアは揃って同じ答えだった。当然といえば当然だが。
後の円夏は呆れており、ラウラは光った目でこちらを見ている。山田先生は図面に向かって何かをぶつぶつと呟いていた。
……これはもう行かないとだめだろう。そうしないとこの三人が問題を起こすに違いない。
「凪紗……じゃなかった。詩織、私たち、色々不幸体質だね」
「円夏……ほんと、どうしてこんなことになったんだろう」
「教官、早く行きましょう。教官?」
こんな状況に「はぁ」と短い溜息をつきながら箸って二回への階段を駆け上がっている三人を遠目に見る。
本当にどうしてこんなことになってしまったのだろうか。
「……わかったよ、私も行く。―――山田先生」
「どうせ私なんて、どうせ私なんて……」
「山田先生!」
「―――は、はいぃぃぃ!!!」
驚いてしゃがんでいる姿勢から一気に跳ね上がる山田ティーチャー。
どうやら恐怖心で落ち込み気分が完全に吹っ飛んだらしく、さっきまでの私なんてオーラが完全になくなっていた。
「ほら、行きますよ」
「え……は、はい!―――きゃっ」
こちらに来るように促したが、相当あせっていたらしく足を滑らせてこちらに倒れてくる。
差し伸べた手も間に合わず、そのまま私は山田ティーチャーの大きな膨らみの下敷きになって倒れた。
「ほう、これは中々の上物だな」
「ラウラ、もしかして狙ってる?」
「なにをだ?」
「……なんでもない」
ラウラと円夏のそんなやり取りが聞こえたが、そんな事は顔にのしかかっている感触のせいで耳に入らなかった。
「………」
「――あ、す、すいません!すいません!今すぐどきますから!」
山田先生はすぐに謝って覆いかぶさっている私から退いたが、私は少しの間呆然としていた。
そんな私にラウラが拠ってきて。
「教官、感想は?」
「……すごく……大きいです……」