インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉 作:夜光・陽炎
「くかぁ~………くぅ~………うーん………」
「っと、ごめん、水筒落とした」
「えー、どこどこ?………あ、そっちはアイさんの……」
少しずつ覚醒していく意識の中、足に何かが当たったような感じがした。
えーと、そうだ。たしか私は臨海学校で、バスにのってそのまま熟睡して……
「どうしよう。起こしたらまずいかな?」
「たしか織斑先生といろいろもめてたらしいよね……疲れてるだろうし、起こしたらまずいね」
「……もう、起きてるよ。ん……」
目を開けても目前が真っ暗だったので目をこすってみるとなにか布のようなものが視界を遮っていることが分かった。
その布の正体を確かめてみると、それがアイマスクだということが分かった。そういえばアイマスクしていたなと今更思い出す。アイマスクを外すと、急にまぶしい照明の光が目を差し、少し涙目になった。
「ナノマシン使っててもこういうところは人間なんだよなぁ………えーと、水筒?だっけ」
目をこすりながら足元を柾食ってみると、たしかに筒のようなものがあった。それをとってぼやけている視界のなかで多分この女子が落したのだろうと適当に予想し、その方向に向かって投げる。
「わっ、と。ありがとうございます」
どうやら無事当たっているらしい。
先週の週末、いろいろあったことを覚えているだろうか。
まあ、千冬さんのあの行動は姉としてのじゃれ付きというぐらいで―――あれをじゃれ付きで処理するのもどうかと思うが―――まだいいだろう。しかし、店を破壊したことはさすがにまずかったらしく、警備員の事情聴取と弁償代の支払いをする羽目になった。逆に考えればそれだけで済んだことに少々驚いたが、詳しい話を聞いてみると負傷者は0のようだったのでそれぐらいで済んだらしい。負傷者がいたらあれでは済まなかっただろうという証だが。
もちろん、支払いはすべて私だった。向かい側のと合わせれば………大体一億弱ぐらい。あたりまえだが。細かい数はよく覚えていない。
「ああ、ちょっと二つほど聞きたいことあるけど」
「なんですか?」
「あとどれくらいで着くの?」
少し眠っていたのでここがどこら辺なのかわからなかった。
残念ながら腕時計は持っていないので速度と距離で算出することができない。こんなことなら買っておけばよかったと後悔する。
「もうトンネルにいますから、多分あと少しです。トンネルを抜けたらもう海ですもん」
まだトンネルの中らしい。どうりで照明がついているわけだ。
「ありがと。あともう一つの質問なんだけど」
「はい」
「……一夏のアホは今何やっているの?」
「?前でトランプやってますけど」
「は?トランプ?」
椅子からひょこっと顔を出して前方の席を見てみる。
そこには一か所だけやけに騒がしい場所があった。中心にはテーブル。上にはトランプ。囲んでいるのは一夏と、その他大勢。ほとんどの女子が席を立ってそこに集まっている。
「―――っしゃあ、上がり!」
「「「え~?」」」
「手がけんしてくれないの~?」
「そうだよ!三連続大富豪って織斑くん強すぎー!」
「ふはははは、大富豪で俺に勝てるわけない。あと手加減しないからな」
「「「えー!?」」」
「…………」
大富豪やってるらしい。しかも手加減なしで。
「はぁ…心配した私がバカだった………」
顔を抑えて頭を前の座席に預ける。疲労のせいでどうやら神経質になっているようだ。いかんいかん、気を静めなくては。
スーハ―スーハ―と深呼吸を繰り返している間に、誰かが「あ」とつぶやいたのが聞こえる。
「海!見えたぁっ!」
一回瞬きしている間に景色が一変し、暗いコンクリートではなく広い快晴の青空と水平線の向こう側まで続いている海が目に飛び込んだ。
トンネルを抜けたと同時に全員の視線が前方に集中し、女子がきゃあきゃあと歓声を上げる。
臨海学校初日、天気は快晴。陽光が海面を反射して目に飛び込んで普段の二倍目が痛い。
全員が席に戻ると皆が一斉に窓を開けて、そこから潮風がゆっくりと入ってくる。海の匂いが感じ取られ、なんともいい雰囲気を出している。
「お、やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」
「普段見ないからな。盛り上がるだろうよ」
「ん?凪紗、起きてたのか?」
私は立ち上がって一夏の席のほうまで近づいていた。
理由は……単に暇だった。
「ついさっき、な。お前が大富豪で「ふはははは」とか言ったあたりからか?」
「一夏って女子に全然手加減しないんだ。最初は手加減したけど」
「シャルロットって一夏の隣だったの?」
今初めて知ったと少し驚く。はっと気づくと後ろから殺気がこもった視線が放たれていた。主に代表候補性組から。
後ろからの殺気をなんとかスルーしながらも、シャルロットが何気なく左手首に銀色のブレスレットをしていることに気付いた。シャルロットのISは首のペンダントなのでISである可能性はなし。となると
「シャルロット、妙にそれ見つめているけど、どうかしたの?」
「あ、うん、これはね」
「ああ、俺がプレゼントしてやったんだ。というか、そんなに豪華なものじゃないのにそんなに気に入ってるのか?」
「う、うん。だって……からのプレゼントだし」
「え?なんだって?」
「なんでもないよ!?なんでもないから!」
大体予測通り、一夏からのプレゼントらしい。つーか私が事情聴取受けてる間にイチャイチャしやがってからにこのリア充どもめが………。
「凪紗?どうした?」
「……なんでもない。……どうせならもう少し高いやつ買ってやればよかったのに」
「俺はお前みたいに千万単位の金を使えるような奴じゃねえよ」
「違うわ。私が言いたいのは………まあいっか。これ以上やったら後ろの女子の嫉妬がやばいことになりそうだだし」
「は?」
後ろを見てみると女子たちの目線がやばいことになっている。まるで自分に向けられているようで少々冷や汗をかいた。
「まったく、シャルロットさんたら朝からやたらとご機嫌ですね」
通路を挟んで向こう、嫉妬の念をうまく隠しているセシリアが不機嫌そうな顔で話しかけてくる。さすがにこれを見てポーカーフェイスにはなれない様である。
「まさか、急にいなくなったと思ったら似たりで抜け駆けして……くぬ」
「あー、その、なんだ。セシリアにもまた今度買ってあげるから、機嫌直してくれ」
その言葉で不機嫌だったセシリアの表情が歓喜の極みにまで変わった。さすが天然ジゴロ。女の機嫌を直すのに一分足らずである。
「ほ、本当ですの?」
「本当だよ。疑ってんのか?」
「いえ、それならいいんです。……ふふっ」
本人は無表情になって喜びを隠そうとしているようだが、全然隠れてなくに顔が「勝った」という字が書かれている。お前はいったい何と戦って……ああ、戦っているのか。
「ま、あんま高いのは無理だけどな」
「別に、一夏さんにそこまで求めてはいませんわよ」
「あ、地味にひでぇ」
とりあえずは満足したのか微笑しながら引き下がった。しかし、まあ、シャルロット顔がどんどん不機嫌になっていっているのに気付いてやれないのかこいつは。
さらによく見ると、周りの女子たちが「プレゼント」とつぶやいている。たぶん、というか確実に自分もプレゼントをもらいたいとでも思っているのだろう。………あとでこいつにクレジットカードを与えておこう。
「ぐふっ、ぐふふふふっ……」
「……ん?」
近くから突然不敵、というより、よからぬ企みをしているような奴が出すような笑いが聞こえてくる。それを出している人物は、声のトーンですぐに分かった。同時に納得してしまった。
声の発生源はセシリアの隣、そこに座っていたラウラから発せられていたものだった。顔を俯かせながら「ぐふっ、ぐひっ」と不気味な笑いを繰り返しつぶやいている。
「ふ、ふふふっ、フゥーハハハっ………」
「ラウラ―……おーい」
近くによって目の前で手をぶらぶらさせても反応がない。完全に自分の世界に潜り込んでいる。
どうしようかと少々悩むと、すぐにいい案が思い浮かぶ。すぐに実行してみた
耳元に口を置いて静かに囁くように、ちょいと色気を出してから
「I love you……」
ついでに息を「フ~」とかけると、ラウラはすごい勢いで席から飛び上がって耳を抑えた。挙動不審になりながら右のほうを見る。一瞬ありえないものを見るかのような表情になり、次に頬を染めた。
「え、あ、え、いや、え、う、きょ、え?」
完全に焦っていて目線と手を泳がせている。ふむ、ちょいとインパクトありすぎたか。
「どう?目は覚めた?」
「え、と………教官、さっきのは?」
「ああ、うーんと………冗談?」
「……そうですか」
先ほどの囁きが冗談だとわかるとすぐにショボーンとした顔になりながら椅子に戻った。そんなにショックだったのか黒いオーラが周りを漂っている。
「い、いや、違うから。好きだよ?ラウラのことは」
「ほ、本当ですか!?」
ガバッと先ほどとは比べ物にならないぐらいの速度で立ち上がってきた。その勢いに押されながらもどうにか機嫌を損ねないように弁解する。
「あー……LOVEじゃなくてlikeのほうだけど」
「………そ、そうですか」
若干モチベーションが下がり気味だったが、さきほどよりは機嫌はいいようで少しにやけている。そこによからぬ妄想が含まれていなければいいのだが。
まあこんなところで一息ついて自分の席に戻る。仮眠をとって疲労は減ったはずだが、先ほどの騒ぎのせいで疲労が上乗せされたようで少々ため息をつく。
「はー……こいつらといると飽きないんだが、どうも疲れる」
今回の臨海学校で少しは肉体疲労を改善したいところだが、
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ―――――…………」
千冬さんの言葉で全員がそれに従う。同時に重圧の籠った視線が私に贈られた。
……どうやら、目的を達成するのは困難かもしれない。
体が重くなっていくような錯覚を感じながら、私は渋々頭をかくことしかできなかった。
少ししてバスは何事もなく目的地の旅館に着いた。四台のバスからIS学園一年生が蟻のようにわらわらと出てきて整列した。
「それでは、今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
『よろしくお願いします』
千冬さんの言葉の後、全員(ただし私除く)で挨拶する。どうやらこの旅館には毎年お世話になっているらしく―――毎年といってもIS学園が設立されたのは大体10年前だが―――着物姿の女将さんが丁重にお辞儀をした。
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
さすが女将といったところか、笑顔を絶やさずしっかりとした声でまだ二十代のような若々しさを漂わせている。といってもさすがに十歳のころから旅館に努めてはいないだろうから、歳はだいたい三十ぐらいだろうか。さきほどの「今年の一年生も」という言葉からして二、三年しか女将をしているよには思えなかったので少なくとも五年以上はやっているのだろう。すべて予測なので確信はないが。
「あら、あちらが噂の……」
女将の視線が列の一番後ろ、一夏のほうへと向かった。
「ええ、その……今年は一人男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、お構いなく。それに、結構いい子みたいですね。体つきもしっかりしているし」
「自慢の弟ですから。ほら、お前も挨拶をしろ」
前に出た一夏は女将さんに向かって頭を下げて短く自己紹介をした。
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「ふふっ、こちらもよろしくお願いします。清州景子です」
そういって女将さん―――清州さんはまたお辞儀をする。先ほどと同じく乱れもない完璧なお辞儀だった。対して一夏は背筋をピーンとのばして固まっている。一発で緊張しているとわかった。
「それじゃあみなさん、お部屋のほうにどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらを利用なさってくださいな。場所が分からなければいつでも従業員に聞いてください」
女子一同(私を除く)は、はーいと返事をするとすぐさま旅館の中へと向かう。泳ぐ前にまずは荷物を置かなければ始まらないと思ったのだろう。
初日は自由時間なので午後の六時までは遊ぼうが食事をしようが何してもいいらしく、食事は旅館で各自とるようにと言われている。
とりあえず、私も部屋に行こうと一覧の紙を取り出して広げる。片っ端から見ていくと名前が………なかった。
「ん?印刷ミスか?」
裏を見ても何も書いてない。他に部屋の場所を知る方法は……あるにはあるのだが、できれば実行したくない。しかし背に腹は代えられない。
仕方なく、教員の千冬さんに聞こうと近づいた。しかし
「…………何か用か」
途端、完全に警戒の眼差しでこちらを見てきた。だからやりたくなかったんだ………
「……一覧に私の名前が書いていないんですが」
「廊下にでも寝るんじゃないのか」
「………」
自分の額に青筋が浮き出るのがわかった。
「空き部屋は?」
「無い。貸し切りで人数もぎりぎりだからな。ついでに教員室は三人部屋だが、一夏と円夏が来る予定でな、埋まっている」
「おとなしく廊下で寝てろってことですか」
「…………」
「……はぁぁぁぁぁぁ」
深いため息をつきながら踵を返す。ここで面倒を起こしても本当に面倒なだけだ。自分のためにも、ここはおとなしく引き下がろう。
「……待て」
急に呼び止められて、振り返る。
「なんですか」
「いや、意外に簡単と引き下がるものでな。何か企んで」
「いないですよ。家族部屋に他人が入って水差すのもどーかと思っただけです。面倒事はおこしたくないですし、ほんとにただ単に休みたいだけですしね。廊下でも寝られれば十分でしょう」
ぶーらぶらと足を運ばせて、女将さんに物置でも空いていませんかと聞きに行こうとしたら、急に肩をつかまれた。と思ったら今度は腕を引っ張られて引き摺られるような形になる。
「は?は!?」
突然なんだと顔を上げたら、顔をそらしている千冬さんの姿が映る。
「……不本意だが、困っている『生徒』を見過ごすもの後味が悪いのでな。三人部屋だが四人くらいは寝られるだろう」
「いや、でも」
「……まったく、そんな態度を取られたらこちらに罪悪感が生まれただろうが……!どうしてくれる」
「…………」
ああ、そうか。つまりこの人は罪悪感でこんなことしているのか。と思うのもつかの間。この人がそんな感情で動くほどお人よしとは思えない。つまり
「……デレたか」
「うるさい黙れ殺すぞ」
千冬さんが急につかんでいた手を放す。引き摺られていた形なので私は支えを失ってしまい顔をビターンと床にたたきつけてしまった形になった。
「いっつつ……放すなら放すって言ってからやってくださいよ」
「貴様が悪い」
図星かよと心の中でつぶやきながら顔をさすって立ち上がる。
今度は引き摺られていくことなく千冬さんについていき、ドアに『教員室』と書かれたドアで千冬さんと私は立ち止った。
「入ってろ、私は残りの二人を連れてくる」
「場所とかわかるんですか?」
「部屋が分からないからまだエントランスホールあたりにいるのだろう。大声で呼びかければすぐにわかる」
「……意外とまともな答えですね」
「貴様が何を想像したのかは知らんが、あとで覚えてろよ」
なんか後でいやな目にあいそうな予感がした。そんな私のことも気にとどめず、千冬さんはそのまま部屋を離れてエントランスに行ってしまう。
「………どうしよっかなー」
と独り言をつぶやいてみるがもちろん答える奴はいない。つか居たら怖いわ。
とにかくまずは荷物を置くべきと思い、ドアの引き戸をスライドさせると部屋の中の様子が窺えた。
部屋の装飾は簡素なもので特に派手なものではなく、平凡な畳部屋だ。しかしどこか茶の間のような雰囲気を出している。家具はシンプルなタンスにテーブルとイス。あとはちゃぶ台とその上に乗った急須に茶筒……ちゃぶ台?
「なんでちゃぶ台?」
と疑問を口に出してしまった。いや、別にちゃぶ台自体はおかしくはない。しかしテーブルがあるのになんでちゃぶ台を?と思ってしまった
まあ、些細なことはどうでもいいかと担いでいたショルダーバッグを投げると、バッグはボスっと音を立てながら地面に着地した。
「しっかし、暑いなー。夏だから当たり前だけど………制服脱いだほうがいいな」
ジンジン日光が空気を暖め、むさっとした空気が体周りを包んで蒸し暑い。正直に言うと暑いのは嫌いだ、誰もがそう思うだろうが。
ボタンをはずして制服を脱ぐとその下にあるTシャツがあらわになる。これで少しは楽になるかと思いきや、さらにむわっっとした空気が肌を撫でて不快感を加速させる。下半身も汗でびっしょりになっており、もう嫌と思う。仕方なくズボンを脱ぐ。パンツを期待していた視聴者には悪いが、残念ながら半ズボンを着ているのでそれはない。
汗でびっしょりになっている制服を投げ出して少しは楽になった……が、やはり汗は止まらない。ちゃぶ台にあったエアコンのリモコンをとって電源ボタンを押してみる。
が、一向に電源は入らない。
「ちょ、壊れて……あー、あっつ……」
真夏にエアコンが壊れているとか、もうクレームものだろう。くそう、後で従業員に行って直してもらおう。
そう考えている間にも気温はどんどん上がっていく。体感温度だが。ついでに日光が部屋の半分以上を照らしているせいで畳も熱い。日蔭に入ろうとしてもほとんどないしどうしても頭が出てしまうという絶妙に感じ悪い角度を日光が刺している。
「くそあつっ………Tシャツ脱ごう。すぐ脱ごう。あとズボンも」
もう暑さのせいで判断力がにぶってきているのか、自分でも驚愕するような行動に出てしまっていた。
Tシャツを脱ごうと裾に手をかけ、腰のあたりまでもっていった。
その瞬間。
「おーい凪紗、先に行くなら行くって言ってから………え?」
「あ」
最悪のタイミングでドアを開けてきたのは、一夏、だった。
「お兄ちゃん、ノックしないで入るのはどうかと思うよ。まあ、凪紗なら問題ないとお、も………う」
続いてはいったのは、円夏。
二人と目が合った。その場にいる全員が硬直する。
「二人とも、あまりはしゃぐと危ない………ん?何をしている」
そして次なる最悪。織斑千冬がこの場に加わってしまった。
目が合う。
「……あのー、私、悪くないからね。不可抗力だからね」
この後に起こることを予想して涙しながらも、弁解の余地はあると思い言ってみたが。
「き」
き?
「きっさまああああぁぁぁぁぁあああ!!やはり一夏への色仕掛けが目的かああああぁぁああああ!!」
「いや、なんで私がこいつにそんなことしなきゃならないんだよ!」
余地なんてなかったです、ほんと。
千冬さんは私の言訳を聞く気もないようで、ドシドシと部屋に上がり込んでくると部屋の中央にあったちゃぶ台を思いっきり―――蹴った。
ものすごい回転をしながら来ると思ったが、どうやらちゃぶ台の『芯』を蹴っていたらしく回転せず、面が空気を押しながら化け物じみた速度で向かってきた。
しかしこの程度の速度なら回避できる、と踏んで地を蹴った。
がしかし、不幸が身に訪れた。暑すぎて地面に水溜りのようにたまった汗が油としての機能を働かせ、私は―――盛大に足を滑らせた。さらに不幸なことに背中は地面につかず空中滞空している。背中がついていればまだ回避の可能性があったろう。完全に回避不能だった。
―――どうする、空打で体をはじくか?いや、壁が壊れる。じゃあちゃぶ台を蹴って、いや、一夏たちが巻き込まれるかもしれない。じゃあ……そうだ―――
ついに方法が思い浮かんだ。頭をフル回転させた末に思い付いた方法。それは
―――逆に考えるんだ。当たっちゃってもいいさと。
頭にジョー○の顔が浮かぶ。
っていいわけあるかあああああああああああああ!!!!
「ぶほぉおっ!!!」
顔面どころか体全体をちゃぶ台にたたきつけながら滑空し、後ろの壁に背中含めた全身をたたきつけた。
つまり、サンドイッチ状態である。
抗うすべもなく、私の意識は地の底に落ちた。
………ぶっちゃけ失神した。
この時私は全力でちゃぶ台とこの暑さを呪っただろう。………たぶん。