インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉 作:夜光・陽炎
「おーっ……痛ぇ……」
Tシャツと半ズボンを着ていた凪紗はちゃぶ台と壁によりつぶされた顔面と背中を同時にさすりながら廊下を歩いていた。
結局、あの参事は後に来た山田先生の手によって無事解決された。一夏と円夏が説得したこともあってすぐに千冬は落ち着きを取り戻し、『とりあえず』は凪紗の言訳を聞いた。
結果はまあまあ。ぎりぎり納得し、その場は丸く収まった。凪紗本人からすれば被害は自分だけ、といっても全身強打ぐらいだが、なにきれいにまとめてんだという話である。
しかしぶつぶつ言っていても何も変わらないので汗を流すべくここはひと泳ぎ、と考えたので現在進行形で今別館へと向かっている。
「……何やってんだか、私」
そうぼやきながら首を軽くひねってごきっと鳴らす。
実を言うと臨海学校自体強制的なものではないため、個人的な事情でも休むことができる。その場合残った生徒は三日間休みとなり寮で暇をつぶすことになる。それ自体は学生にとって学校で授業をするよりはるかにいいと思われるだろう。私にとってもかなりいいものだった。
しかし、私はそれをしなかった。
理由はわからない。思い当たることは、単に嫌な予感がした。それだけだった。こんなくだらない理由で三日間をつぶすことになろうとは、自分でも思いもしなかった。
「はぁ………」
今日、何回かもわからないため息をつきながらトホトホと歩き続けるのであった。
しばらく歩き続けると、本館と別館をつなぐ道に出る。
すると意外な人物たちが目に入った。
「……………」
「……………」
といっても二人とも知り合い……どころかいつも会っている人。一夏に箒ちゃん。その二人だった。
こんなところで何をしているのか声をかけようと思ったが、彼ら(彼女ら)が視線を飛ばしているものを見てみると一瞬にして絶句した。
二人が目にしているのは道ばたに生えている、機械的な耳、しかもウサギの耳が生えていた。それが生物のものだったら誰もがウサギが埋まっていると勘違いするだろう。しかしこれは機械。誰かが意図的に埋めたとしか考えられない。
ついでに『引っ張ってください』と書かれた張り紙がついている。
「なあ、これって………」
「知らん、私に聞くな。関係ない」
「知らん知らん聞こえない見えない。なーんにも見えない」
現実逃避開始。即無視して通り過ぎようとした。
だってあれは――――その才能は止まるところ知れず。天才のレッテルは絶対不動。天才の中の天災。世界で一番はた迷惑な女といえばこの人だろう。みんな大好き篠ノ乃束……ほぼ、というか一〇〇%間違いなかった。
「えーと……抜くぞ」
「好きにしろ」
「引っ張りすぎるなよ」
せめて顔だけ出してくれと祈りながらもその一部終末を見届けることにした。
と考えている間に箒ちゃんはどこかに立ち去ってしまった。
二人だけ取り残された。まあ、一夏は困った顔をしながら私を見る。
「こっちみんな」
「くっ……わかったよ。俺だけでやれってことだろ……」
嫌々と一夏は地面から生えたウサミミをつかむと、思いっきり引っ張り上げた。
すぽっ。と気持ちいい音が鳴りながらウサミミはあっけなく抜けた。その下には、何もない。
一夏といえば引っ張り上げた勢いですっころんでいる。
………何も起きない。
「いや、逆に考えるんだ。何もなくてよかったと。うん」
「は、はぁ?」
何も起きなかったことに凪紗は安堵し、気を取り直して別館に向かおうとした。
しかしふと嫌な予感が頭を横切る。そういえばさきほど逆に考えたせいでいやな目にあったのを思い出した。おのれジョ○ジ……。
キイィィィイイィイィン…………。
くだらないことを考えている間に、ふと耳に空気を裂く音が入った。
何かが高速でこちらに向かってきているような音だ。まさかまさかと思いながら上空を見上げる。
と、こちらに超音速並で垂直落下してきている『人参』の姿が確認できた。速度は役マッハ5.時速にして約6,125km/h。秒速にして約1,800メートル毎秒。高度は目測で約一万二千m。計算で後六秒でこちらに激突することになる。
こんなもの直撃どころか掠っただけでも即アウトだ。そう判断した凪紗はそばにいた一夏を回し蹴りで吹き飛ばし、落ちてくる質量弾丸に備えて構える。
一夏の肋骨が軋むような音が聞こえたが、そんなものは気にしなかった。マッハ5の砲弾に直撃するよりははるかにマシだろう。
ここまで五秒、次の一秒で来ると予測したすぐ後に弾丸は目の前まで接近した。
その先の部分を両手でしっかりとホールド、瞬間手の骨が粉々になったがすぐに再生。さらに地面は限界までへこみボコンと音を立てながら陥没した。
「んぎぎぎぎぎっ!!!」
奥歯が割れるまでかみしめ、砲弾のごとく突進してきた人参の慣性を無理やり真逆の方向、上空方向へと変更。人参を自分の体を軸としてUターンさせ、先ほどの速度を超える速さで投げ飛ばした。
「おぉぉぉぉぉぉおおおぉらあああぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!」
その際に発生した半端ない強さのソニックウェーブで陥没した地面が再度ボコンと音を立てながら平面―――完全な平面とは言えないが―――へと戻った。
「はぁ……はぁ………」
息を荒げて膝と両手をつく。リラックスするために来てんのに何やってんだ私と思いながら一夏の方を振り返る。
「い、ってぇ………凪紗、てめ、なんで蹴った……!」
そう言いながらよろよろと立ち上がっている一夏。どうやら無事なようだ。けりの一発ではノックアウトできないらしい。昔から体は頑丈なんだよなぁと凪紗はつぶやいた。
「ふー……超音速の砲弾にぶつかるよりはマシだろ」
「だからって蹴るかよ……」
「襟首つかんでたら首折れてたぞ」
「ありがとうございます」
即座に態度が裏返り、土下座してきた。軽いというかなんというか。とりあえず天災の降臨は防げたので結果オーライとすr
「やっほー!」
……後ろで聞きたくもない声が聞こえてきた。
「ふふふんふふーん。凪っちったら束さんのラボを大気圏外に放り出しただけで束さんの降臨を防げるなんて思ってないよねー。ね?ね?今どんなお気持ちですかぁ~?」
喋るだけでウザさMAX。もちろん凪紗の答えは
「帰れ、駄兎」
「や~ん。ひどいなぁ~。実の姉でしょ?やさしくしてよぉ~」
「があああーーーっ!!腕に引っ付くなあああああああ!!つかどっから湧いた!!」
「地面に埋まってたよ。凪っちのパンツは見えなかったけどシャツの隙間からかすかにやわらかそうな乳が……むふっ」
「なにが『むふっ』だ!勝ち誇った顔するなウザい!」
ウザい口調で凪紗の腕の絡んでくる人物は間違いもなく凪紗の姉、篠ノ乃束だった。着ている青と白のワンピースがどこか童話に出てくる主人公のような分に気を出している。性格は全く真逆のお気楽者だが。
「さあさあ、凪っちの体も少しは育ったかな?げへへへへ、ボディーチェックの時間だZE☆」
ドカァァンッ!!!
「いったーーーーい!!」
「いっつ……!?このアイアンヘッドが………どうやったら手の皮が擦り切れるんだよ!?」
自分の全身に腕を這わそうとしている束を思いっきり(殺気MAX+マジ)殴ったが、逆にこっちの腕にダメージが入ってしまった。常人なら滓も残らず消し飛ぶような一撃だったのに目立った外傷は全然ない。頭からジュージューと煙が上がっているだけだった。つまりはほとんどダメージが入ってない。
「むーん……実の姉に暴力をふるうとは、いけないんだZO♪ぶいぶい」
「もう黙ってよ……」
あきらめ半分でそういう。もちろんこの姉が黙るわけないとはわかっている。
「え、えっと、どうも束さん。お久しぶりです」
「あー!うんうん、久しぶりーいっくん。えーと五年ぶりだっけ?」
「え、ええと……」
「大体八年だ」
「あ、そうそう」
一夏自身は束とそんなに会っていない。最後にあったのは束がラボに籠る前、大体八年前だったはずだ。凪紗は結構近々からあっていたのでそんなに久しぶりというわけではない。
「それよりさ、箒ちゃん見なかった?さっき一緒にいたよね?」
「姉さんを避けて遠くに行ったよ」
「ちょ………!?」
「あ、やっぱしー?んじゃさっそく、この箒ちゃん探知機で探索探索ぅー!」
一夏が持っていたウサミミをとると、束ねはダウジングのようにしてそれを持つ。
残念ながら凪紗がそんなことを許すバズもなく取り付け型EMP電磁パルス発生装置を展開させてダウジングに張り付ける。ついでに言うとこれは同化現象を起こさせるので外すには機械語と壊すしかない。
「あー!何するのさ凪っちー!プンプン!」
「こんなもの開発する暇あったらもう少し役に立ちそうなものを開発しようよ……」
「ふっふーん、束さんは自分の役に立ちそうなものしか開発しないのだー」
「自慢げに言われても………あ、一夏、お前は先に行ってろ。私はこのバカと話があるから」
「え?あ、ああ……」
特に何の疑問も抱かなかったらしく、一夏はそのまま男子用更衣室へと入り――一瞬女子更衣室のほうを見ていたよう気がしたが――見えなくなってしまった。
周りに誰もいないことを悟ると、凪紗はここから本題と気持ちを切り替え、気構えた。
「―――で、私が頼んだ素材、持ってきた?」
「もっちろん。ちゃんと用意してるよ」
そう言って束は右手をスカートの中に突っ込むと、中から小さな半透明結晶二つを取り出した。形は正六面体。全くの不純物を含んでいないことから完全結晶と呼ばれるものだとわかる。そしてまた、スカートを弄ると、今度は八つの細長い、全長約十センチの直方体を取り出した。
「はい、超高振動ナノマテリアルクリスタル二つと、小型ハドロン粒子加速器八つ。あとは―――」
手に持っている物をすべて地面に置くと、束は右手を挙げて指をパチンと鳴らす。すると、後ろに光が集まり、白銀色の巨大な正六面体を形作っていく。
整形が完了したら、巨大な塊は大きな音を響かせ地面に落ちた。
「えーと、半液体金属マティエール・レズュレクシオン……だっけ?」
「自分で名前付けたくせに忘れないでよ」
半液体金属、略称MR。束しか製作できない世界で唯一の金属である。製造方法は秘匿。性質は細々しゃべっていると長くなるので省くが、簡潔に言えば電流を流すことで液体と固体の性質を切り替えさせて持たせることができ、伸縮自在。さらに強度はダイアモンド並と汎用性(コストは除く)は文句なしのトップ。しかしこの金属の存在は凪紗と束しか知らない。実にもったいない産物である。
ちなみに意味は『復活の物質』というものである。これの意味することは後ほど。さらにいうと名づけ親は束である。中二全開である。
「ま、これだけあれば十分そうだよ……っと。余っても私の方で保管しておくから」
「おっけーおっけー」
束がMRを展開させた時と同じく、凪紗は指をパチンと鳴らして渡された物質たちをすべて量子化した。いや、転送させた、というのが正しい。行先は現在代用のISを開発している秘密ラボ、その開発室内部だった。
「というか、来るとは聞いたけどなんでもう少しまともな出現の仕方をしないかな。ねぇ」
「えー?それじゃインパクトに欠けて面白くなーい」
「その余興に付き合わされる人のことも考えろよ……」
全くこの姉は……と凪紗はあきらめ気味になった。
別に凪紗は束を嫌ってはいない。といっても好きでもない。家族としては少し問題だろうが無理もない、凪紗は『転生者』という存在なのだから。(といっても本人もたまに忘れるのだが)
簡単にたとえると、いきなり他人を連れてきて「今日からこの子が姉ですよ」と言われたようなものである。もちろん信用ならないし、警戒もする。しかもあちらは本性を全く見せないのだ。そのせいで十年以上も警戒心を解けられていない状態となってしまった。もちろん現在も。
しかしそれでも最低限の信頼はしている。あくまで最低限、なのだが。こちらに危害を加えるようなことをしなければ決して敵対はしないだろう。
「……で、これからどうするの?ローエングリーンに帰るの?」
「いやいや、束さんもこれから海に行ってみんなと楽しい泳ぎと盗撮をぐへひひょるヒヒへ」
バコン!と凪紗は束の脳天に軽いチョップをする。普通の人間でなかったら頭がい骨陥没物だろうが。
「いたぁーーーい!なんで凪っちは人の頭を何度も殴るの?」
「姉さんが馬鹿だからだよ」
「え~?束さんは天才なんだけどなぁー」
「天災の間違いでしょ。とりあえず来るな、できれば今日はおとなしくラボに帰るか飛行船に戻って。姉さんが見つかったら大事とかそういうレベルじゃないから」
束は世界指名手配されている(厳密には凪紗も同じだが。日本に滞在していること自体ごく一部の国《日本、ドイツ、アメリカ(一部人間というか一人)》しか知らない)ので、まず見つかったら通報ものだろう。しかしこの超人が安々と捕まるとは思えないが、後々面倒なことになるのだ。できれば外部の人間との接触はできれば避けてほしいと凪紗は強く願った。
「むふふん。束さんはそう安々と見つからないよーん――――ばいば~い」
「ん?え?あれ?」
急に束が光に包まれたかと思うと、光が収まった瞬間束はもういなかった。あるのはかすかな残り香のみ。このギミックの正体を知ったものは束に間違いなく『神出鬼没の鬼才』とかのあだ名をつけるだろう。
「ちっ………量子化転移か空間転送か……あるいは自分を高次元に移動させた……はぁ……つくづく天才だよ、まったく」
少々面倒な姉に頭を抱えながら、凪紗はまた歩を進めるのであった。
◆
更衣室から出ると、まるで向かい入れるように日差しか出迎えてくれた。感想は
「あー……あちぃ……」
思わず額を抑える。凪紗は今更のように自分が暑いのを苦手としていたことを思い出した。
全身の穴という穴から汗が噴出して気持ち悪さ最高である。
「こんなことならパラソルでも持ってくればよかった……あーちくしょ」
凪紗が来ている水着……というより防護スーツはウェットスーツ、と呼ばれるものだった。書類はスプリングという半ズボン型で半袖。なぜうぜっとスーツを着たかというと、まあ、強い日差しが嫌いという理由であろうというか見せる奴もないのにビキニとか着ている意味ないだろと凪紗は思った。一夏?ああ、どうでもいい。
「砂あっつ……!いっつ……貝殻刺さった……!」
さんざんである。もう部屋に帰っていいかな。
いやいや、ここまで来たのだ、さあ行こう海へ。洗い流そうこの不快感を。いざ、しゅっぱーと思って走り出したその時、目の前に腕が置かれている事に気付いた。回避しようとしたが、なぜかあちらから反応不能の速度でラリアットというものを放っていた。え?私が回避不能?少なくとも超音速の一撃―――
「ふん!!」
「ぷふぉおおおおおぉぉおおおっ!??!?!」
ラリアットにより顔面を強打。更に後頭部を熱々の砂に激突させ走った勢いで砂をえぐりながら前進した。体の向きからして後退だが。
凪紗は砂に埋まった頭をすぽっと抜くと、自分に反応不能のラリアットを食らわせた人物の方に振り向く。―――その人物は永劫ただ一人しかいないだろう、もちろん、世界最強の称号『ブリュンヒルデ』の名を持つ織斑千冬だった。というかこんな一撃を繰り出せるものなどこの人ぐらいしかいない。
「何すんですかちょっとぉっ!!!!」
いきなり何してんだオラぁ!?と凪紗は千冬に問う。いきなり拳をふるってくるとは本気で果たし状でも送ってきてんのかと凪紗は額に青筋を浮かべた。
「黙ってろビッチが」
「誰がビッチだよ!?」
殴られた上にビッチ扱いである。凪紗は額に二個目の青筋が出た。
「あっちをみろ」
「は?」
千冬が指さす方向を凪紗は向く。しかし、何もなかった。
「何もない」
「だから何ですか!?」
いよいよ本気でキレかかった。
「まあ、冗談はさておき」
「冗談かよ」
「お前、準備体操を忘れてるだろう」
「で?」
「だから、しろと言っているんだ」
「だからってラリアットするか普通!?」
「まあ、水に流せ」
「流せるかあああああああ!!」
確かに、準備体操は忘れていた。だがしかし、これは自業自得というものに入るのだろうか。否、否だ。入ったらそれこそなんなんだ。
といっても、さすがに攣って溺れてはいおしまいとはなりたくないので、軽く手足を伸ばして背を伸ばす。ゴギゴキッと骨が鳴り幾分楽になると気を取り直して海に飛び込もうとした。
しかし。
「って、あれ?千冬さん?なんであんたここにいるんだ?」
そう、教師たる者仕事はどうしたと疑問ができる。
「ああ、私は少し自由時間をもらってな――――あ、山田先生、こっちです」
そういえば水着―――ビキニでかなり露出具合が高く、なんだが胸を強調しているような水着だった―――を着ていることに気付く。たしかに自由時間なら仕方ないと凪紗は納得した、と同時に「しかしラリアットはないだろラリアットは」と根に持つ。
「す、すみませぇ~ん!遅れましたー!」
「……って山田せ………なっ……」
千冬の後ろからこちらに向かってきた山田先生の大きく揺れる胸……豊富なたゆみをついつい凝視してしまった。そして千冬のもを交互に見ているとなぜか「負けた」とつぶやきかけてしまう。
「ふっ………」
心情察せられた千冬に嘲笑いされた。
「なんで笑ってるんだよ!?」
「いや、本能が『嘲笑え』とささやいてきてな。抗えなかった」
「抗えよ!?」
自分は貧乳ではないと主張しつつもなぜか貧乳と勘違いされてしまう。悲しい運命にとらわれ―――うわなにをするやm
とりあえず凪紗はくぬぬとしか言えなかったのであった。
「あ、藍更さんもすぐに大きくなりますから!ね?」
「……胸の成長は十五で止まるらしいですよ」
「え、あ、ああの……あきらめない心が肝心ですよ!」
「……説得力皆無です」
「え、ええ?」
とりあえず励ましはもらった―――そんなに応えてはいないが―――ので、まあこの話は置いておくことにした。それでも凪紗は山田先生の母乳を見つめている。悪いか。
「きゃあああああああっ!!」
「「「!?」」」
三人が変な雑談をしていると、不意にどこからか悲鳴が発せられた。三人とも声の発生源へと駆け寄る。どうやら声を出したのは女子生徒の誰かだったようで「痴漢か?」と思ったがそもそも貸し切りなのでそれはない。じゃあなんだと思い事情を聴こうと女子生徒に尋ねた。
「とうした悲鳴を上げて?」
「お、織斑先生……!山田先生!凰さんが……」
「鈴が、どうかしたの?」
「なんか、溺れちゃったみたいで……さっき織斑君が、砂浜まで引き上げて……」
言いたいことは大体わかった。つまり泳いでいたら何らかのアクシデントのせいで足を攣ってしまい行動不能に。そのまま溺れて溺死するかと思いきや間一髪で一夏が救助。現在浜辺に運び込んだというわけだった。
「今どこに?」
「えっと、ここですけど……」
確かに人混みが集まって何かを守るようにして囲んでいる。なるほどと凪紗は思いながら人混みをかぎ分けて進む。
すると、中心部に一夏と鈴が見えて、一夏もこちらに気付いたようでこちらに顔を向けてくる。
「凪紗、いたのか!」
「ああ。で、鈴の様子は?」
「えっと、なんかここに来る途中までは意識があったんだけど、急に気絶したみたいで」
「は?来る途中は意識会ったのか?」
「あ、ああ」
これは少し怪しいなと思った凪紗は次の行動に出た。
まず鈴に駆け寄ってしゃがみ、一応脈拍を確認。異常はないと確認すると、次は耳元で「おーい」と声をかけてみる。反応はない。……いや、睫毛が少し動いたような気がした。いよいよ怪しくなってきた。
最後に瞳孔確認。気絶しているならば瞳孔が5㎜以上に開いているはず。それ以下だったら意識はあるってことだ。結果は……案の定だった。目即で4㎜以下。フリだ。
なんのためにこんなことしているのかは安易に想像できた。まあご察しの通りだろう。とにかく、このまま芝居を続けさせてしまうといろいろ都合が悪い。大事になる前にさっさと片を付けるために手っ取り早い手段をとることにした。
「鈴……自業自得だからな」
鈴の腹中央に手を添える。それはまるで瓦割りでもやるかのような予備動作だった。しかしこの一撃は瓦など塵も残らず消し飛ぶ一撃だろう。
もちろん、くらったら確実に病院逝きだと鈴は悟った。当然反応は
「うわあぁぁぁっ!!ストップ!わかった、フリだから、起きてるからストップ!」
「よろしい」
素早く上体を上げて自白した。当然といえば当然だろう。マウストゥマウスのために何か月も入院するのは彼女としても勘弁被りたいものだから。
「ったく、大事にさせるなよな……面倒なのはこっちもなんだから」
「わ、悪かったわね。時に乙女は犠牲を払ってでも男をキャッチしたいものなのよ」
「だから周りを巻き込むなっつーの……はい、芝居はおしまい。解散、フリだから大丈夫ー」
「なんだフリかー」
「きっと一夏くんのファーストキッ……いや、なんでもない」
「あーびっくりした―。フリならいいや」
意外と女子生徒たちは心が広かったらしく―――というか一夏の初めてが奪われなかったからか―――すぐさま遊び場へ戻り、遊戯を再び始め始めた。
鈴はさすがにもう懲りたのか頭をポリポリとかいて安座しており、うーんと何かを考えていた。
「えーと、なんか、ごめん、大事にしちゃって」
「いや、俺はお前が無事なだけで十分だよ。何かあったら安心して眠れないし」
「そ、その、ありが―――」
周りがいい雰囲気になろうとした、直前黒いオーラが侵入し一気にぶち壊してくれた。正体はもちろん織斑千冬。憤怒している理由は聞くまでもないだろう。
「貴様ァ……よくもこんな策略で一夏の初めてを奪おうとしたなァ……」
「え、いや、待って」
もちろん千冬が待つわけがなく、鈴の頭にアイアンクローを炸裂させた。とんでもない、というか感じたこともない痛みが鈴の頭を襲う。まるで頭がブレス機につぶされるようだった。まんまだが。
「い、いたたたたたぁ!?」
「久々にキレッチマッタヨォ………ちょっと来てくれるとうれしいんだがねェ………」
「久々っていうかあんた常時キレてるだろ」
「ダマッテロヤァ。ちょいと話をしようぜ、大人のなぁ……」
「つーか一夏の初めてあんたがもうとっくの昔に奪ってんだろ」
「知ってるわそんなこと。私が許せないのは一夏を狙っていることだ」
「ちょ、痛い痛い痛い!」
「え?何の話をしてんだ三人とも」
「朴念仁は黙ってろ」
「ええ?」
「ま、まあまあまあ。織斑先生、落ち着きましょう?」
修羅場、いや阿修羅場になりかけていたこの場を、なんと山田先生はどーどーと暴れ馬をな場めるようにして千冬を止める。
「くっ……ここは山田先生に免じて許してやろう。次はないぞ!」
なんか悪役の捨て台詞のようなセリフを言い、鈴をつかんでいた手を緩める。山田先生GJ。というかこれで千冬さんの暴走を抑えられるとは。山田先生、いったい何者なんだ……。
「ま、鈴は休んでてよ。どこかを攣ったのは本当でしょう?」
「え、どうして攣ったと思ったの?」
「いや、溺れる原因って大体それだし」
「へ、へえ、そうなんだ」
どうやら図星だったらしく、声が若干芝居がかっている。凪紗にとってはどうでもいいことだが。この後鈴がちょっと疲れたらしく、休憩に売店へ行くといった。その割には疾走していたが。
なぜか山田先生もついていったが、鈴の速度についていけず一回ずっこけた。涙目になりながら鈴を追いかけていく姿は子供っぽかったといえる。しかしストッパーがいなくなったのはきつい。
「ところで一夏、お前女子だらけなのに、しかも水着姿直視してよく平気だな」
「いや、もうなんか……慣れた」
「……慣れるもんなのか?弾が聞いたら本当に殺しにかかってくるぞ?」
「うはぁ……やりそう」
「どころで一夏、これをどう思う?」
と、急に会話に割り込んできたのは千冬だった。更に一安津に様々なポーズをとって自分の水着を見せてくる。セクシーといえばセクシーだが、この人の場合本省のせいで台無しというかなんというか。
「え、ええと、似合ってる、んじゃないか?」
「もう少し具体的な感想がほしいのだが」
「いや、まあ……セクシーだよ?うん」
「ふ、ふふっ……もう襲われる一歩手前か」
全力で言わせてもらう。ねーよ。
「あ、一夏、ここにいたんだ」
「お姉ちゃんまで」
「ん?」
ふと、聞きなれた声が聞こえた。振り向くと、そこにはシャルロットと……円夏と
「ん?なんだそのバスタオルお化けは」
「……なんだそれは。古代エジプト遺産のピラミット発掘ミイラの一つか?」
なんかミイラみたいにバスタオルにぐるぐる巻きになっていた何かがシャルロットの隣にあった。胸元や腰ならまだ理解できただろうがこのくそ熱いなかで厚着などする奴ほとんどいないだろう。しかしなんかちっこい。
「ほら、大丈夫だから。出てきなってば」
「だ、だい、大丈夫かどうかは私が決める……くぅ」
またまた聞きなれた声が聞こえた。多分最近一番聞きなれた声だろう。
「えっと……もしかして、ラウラ?」
そうミイラもどきに声をかけた瞬間、ラウラ(仮)は全身がビクッと震えさせた。これどういう状況なんだ。
「ほーら、せっかく私が選んであげたんだから」
「ほら、勇気出して」
「ま、ままま、待て。私にも心の準備がある、だから五分だけ……」
「もう、早く出てこないと凪紗行っちゃうよ?」
「はいはい、早く早く」
「ううっ……」
そうラウラは二人に促されてかまったような声を出す。よほど見られたくないのだろうか。見られたくないものほどなんか見たいのだが……。と、凪紗の好奇心が刺激された。
瞬間、凪紗は手の骨をゴキゴキと鳴らしながらラウラに近づいた。
「きょ、教官……?ま、待ってください。これは一種の精神集中というもので」
「えーい、まどろっこしい!私が剥いでくれるわ!」
「え、ええ?ま、ちょっと待って……!お願いですからきょうか―――あっ」
ラウラを包んでいるバスタオルをまとめてぐわしっとつかむと、一気に剥いだ。刹那、陽光に照らされた水着姿のラウラが瞳に映し出された。だがその水着が少し異常で、一見するとランジェリーという下着に似ていた。さらにいつもなんもつけていない神は左右にツインテールとして束ねており、正直に言えば、なんか、人形のようだった。具体的に言えば、かわいい。
「くっ……やはりそのような顔をするのですか……笑うなら笑ってください……」
今自分がどんな顔をしているのかはわからないが相当にやにやしていたらしい。不意にくくくという笑いが漏れた。
「ね?おかしいところなんてないよね?」
「うん、確かにかわいいなー。妹にしたいぐらいだよ」
「へくちっ」
「な、う、しゃ、社交辞令ならいりません……」
「いや、俺から見てもかわいいぞ?」
一夏の一言で、ラウラの目が光った。
「貴様に言われてもうれしくないわっ!」
「え?ぶほぉっ!?」
級すぎる不意打ちに対応しきれず、一安津はラウラのボディーブローをまともにくらって杯の空気を一部吐き出してしまった。ガクッと膝をつく。
「り、理不尽だっ………」
「ふ、ふん、自業自得だ!」
「理不尽っ………!」
頭を砂浜に打ち付けて苦しそうにつぶやく。たしかに理不尽だが、仕方ないね。ラウラだしね。
「僕たちが言っても全然信じないんだよ。なんでだろうね」
「あ、ちなみに水着は私たちがセットしたよ」
「だと思ったよ。ラウラがあんなもの選ぶわけないし………うーん、二人も水着にあってるよ」
「えへへ、ありがと」
円夏の水着はタンクトップ・ビキニという物のようで、上はタンクトップ、下はスパッツと背パレード型である。色は藍色を主体としており、他は黒水色で幾何学模様を作っている。凪紗は数秒凝視していると、円夏はそれに気づき本能的に左腕で胸のあたりを隠した。
「え、な、なに?」
「いやぁ……私とそんなに変わらないなぁ、と」
「なんかすごく失礼なことを言われたような気がする」
「私もすごく失礼なことを言われたような気がするよ」
二人は言い合い続けると拉致が明かないと感じいったん話を止めた。そして振り向いてみるとまだ変なことをやっている一夏とラウラがみえた。
「お、俺は率直な感想を言っただけであってな……」
「だ、黙れっ!貴様にかわいいといわれる筋合いはない!」
「そういう割にはなんか顔赤くねぇか?やっぱりはずかしいから―――」
「ええい!うるさいうるさいうるさい!」
「何やってんだお前ら……」
恥ずかしいのかうれしいのかわからない表情をしているラウラはなぜかバスタオルで胸元を隠しており、やはり恥ずかしいのかと思われる。少なくとも一夏というライバル……に言われても単に恥ずかしいだけであるようだ。
「ほら、もういいから。あっそびましょー」
「ひっ!?」
とりあえず凪紗はラウラを落ち着かせようと肩に手を置いた。瞬間、全身がビクンと震えすぐにラウラは凪紗の手を振りほどき距離を置いた。
「えっと……どうかしたの?」
さすがに過敏すぎると思い、凪紗は説明を求めた。
「い、いえ……あの、この姿で人前に出るのはその……初めてで……その……幾分と敏感になっているといいますか………その」
「……恥ずかしいの?」
「ち、違いますっ!私は単に慣れていないだけであって………えっと……」
「あ、ああ、わかった、わかったから落ち着いて」
結論。単にこの状況に混乱しているだけであるようだ。それがちょと異常反応なのだが。
「ま、ラウラはいつもかわいいから、自信もっていいと思うよ?」
「か、かっ………わ……」
(……あれ?なんかフィニッシュ決めたような気がするんだが……)
その言葉に、ラウラは狼狽してしまい言葉を失っていた。
さすがに今のは言い過ぎたかと凪紗は心配になりこめかみに手を当てる。なんとか誤解を解くべきか?いや、失敗したら逆効果だし、リスクが高い。
と、そんなことを考えていたら、遠くにいた女子生徒三人がこちらに向かってきた。
「おっりむらくーん」
「さっきの約束!ビーチバレーしよっ!」
「わーい、おりむーおりむー、やろーやろー。バンバーン」
気が抜けたような声、そんな声を発するのはひとりぐらいのものだろう。そんな声を発しながら近づいてきたのは本音とその他モブ女子二人だった。
「って、お前そんな約束いつの間にしていたんだ?」
一夏は砂浜から立ち上がり、尻についた砂をパッパとはたく。
「たぶん、お前が来る前だと思う」
「ふーん。お前、ビーチバレーなんてできたっけ?」
「バレーなら中学と高校の授業で少しな。お前もやったろ」
「ああ、あのレベル低い授業ね」
「それ、織斑君にパース」
ボールを持っていた女子がベシンとボールをサーブしてこちらに渡してくる。一夏はそれを受取ろうとしたが―――
パアァァァン!!
急に横から何者かの手が飛び出し、空気が破裂するほどのキャッチを披露した。当然千冬なのだが、その様子が少しおかしかった。
腕から欠陥が浮き出て、目は赤く光っており、一般人でも只者ではないと感じ取れるようなオーラをまとっていた。更に凶悪な笑いを浮かべている。
「お前たち、ここはルール確認として私が先にプレイしてもいいだろうか。もちろん一対一だから犠牲者は一人で済むぞ?」
「う~ん?いいですよー」
「「は、はい………」」
今犠牲者といったが気のせいなような気がした。
そして千冬はゆっくりと凪紗のほうを向く。
「どうだ、私と……殺らないか?」
「遠慮しま」
「拒否権は、無い」
「…………」
ガシッと頭をつかまれ、砂のコートまで引き摺られる。他の女子生徒はもうすでに避難済みだった。
そして千冬は凪紗は片方のコートに放り込み、自分はもう片方のコートに立った。
「ふふふふふ………じゃあ、簡単ルールだ。タッチは三回、しかしスパイクは何度でも許可する。十点取ったら勝ちだ。ついでに、どちらかが行動不能になったらその場で決着とする」
「おいちょっとまて、それルール確認の試合じゃ」
「行くぞオラアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
凪紗の反論も聞かず、千冬はボールを上空に放り投げ、拳で『思いっきり』スパイクを放った。ボールが原型をとどめず破裂寸前になるまで形がゆがむ。
「ちょ、生徒に全力出すとか教師のすることかよ!?」
そう言いながら凪紗は両腕を組んで三角の形にし、千冬の剛速球を受け止める。そのとき、腕からバギゴキと不快な音がした。しかしすぐに修復される。
パァァァァァンッとボールはおかしな形になりながらもしっかり相手ゴールへと送り込まれる。こんなものをあと九回も続けるのかと絶句していた。そのとき、
「はっはぁぁぁぁ!!まだまだァ!!」
なんと、千冬は、『オーバーヘッドキック』を繰り出していた。明らかに反則である。が、千冬は気にとどめずボールを蹴ってきた。
「まっ、それ反則ぅぅぅぅっ!!」
「勝てばよかろうなのだああああああああああああああ!!!」
「なんじゃそりゃあ!?」
もうルールとか関係なく、凪紗は腕をクロスさせて放たれたボールをガードした。そして受け止めた刹那ボールどころか腕がおかしな形になり、ベギバギと先ほどよりもひどい音が脳内に響く。そしてついにボールは耐久できる臨界点を突破し、その身を破裂させた。
後に残ったのは、ボールの皮と皆の耳に届いたキィィンという高周波だけ。
凪紗の額の青い血管から、血か噴出した。
「……と、いうわけだ。皆もケガをしないように遊んでくれ」
「なにが「と、いうわけだ」だコラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!ふっざけんなあああああああああ!!!」
「いいではないか、ちょっとしたお茶目だと思ってくれ」
パン、と血管が破裂した。
「……ああ、キレっちまったよ、完ッ全にキレッチマッタヨォ………今日という今日こそどっちが上か白黒はっきりつけようやアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「上等だ糞餓鬼いぃぃぃいいいいいい!!言訳などできないほどにボッコボコにしてやらぁああああああ!!」
凪紗はコートを飛び越え、さらにコートの網を蹴って二弾ジャンプする。千冬は両手を合わせてわきに構える。
「スゥゥゥパァァァァァアアアアアアアアアアアア!!イナズマアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「キィィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイック!!!!!」
「ヴィイイイイイイイイイイイイイイタアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ああ、もう慣れちゃったね、二人の喧嘩」
「うん、まあ、いつものことだし。いいよね」
「「「ねー」」」
もはやこの人知外の喧嘩に慣れてしまった女子生徒(一夏含む)は自分たちの持ち場で普段通り遊んでいるのであった。
やはり二人とも山田先生に止められた。
いつもどおりのオチ、僕は突然立ち上がり言った、「もーうーオチーがーないんだよぉぉぉぉぉ!」
くだらない茶番ですた。