インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉 作:夜光・陽炎
???「激流に身を任せるんだ…」
時間はあっという場に過ぎ、現在午後の七時半。大広間を三つ繋げた大宴会場で、私たちは夕食をとっていた。ついでに全員浴衣姿で、どうやらこの旅館は『食事のときは浴衣着用』らしい。
「うん、うまい。さすがIS学園だ、夕食に刺身とはなんと豪勢な」
「……ああ、そうだな」
今現在、私の頭からはズキンズキンと頭痛がほとばしっている。原因は言わずもかな。キレて血管がぶちぎれて拡張してしまったからであろう。たぶん千冬さんも同じ目にあっているだろうが。
「えっと、凪紗、大丈夫?」
そう言いながらシャルロットは一夏の影からひょこっと顔を出して話しかけてくる。まあ、余計な心配をかけてもなんなので適当にごまかすことにした。
「うん、大丈夫だから。心配しないで」
「いや、でもビーチでのあれ以来からずっとこんな調子だろお前」
あれとは千冬さんとのガチンコバトルのことだろうか。
「気にすんな。あれぐらいでへこたれねぇよ」
「お前がだいじょうぶなら俺は別にいいが……刺身、食べねえのかよ」
「あ、あの……」
「あ?」
急に右隣から声がした。見た目は金髪ロール、当然セシリア・オルコットであった。なにやら困ったような顔をしている。ついでにセシリアの右隣が一夏で、その右隣がシャルロットだ。つまりは、私と一夏はセシリアを挟んで会話していたのだ。
「わたくしを挟んで会話されると、その……反応に困るといいますか、何をすればいいのかわかりません」
「あー……別に何もしなくていいと思うよ」
「そ、そうですか…」
すぐに会話が終わると、セシリアは橋を握ったままプルプルと震えている。更にその顔からは血の気が引くように青くなりかけていた。
「あのさ」
「な、なんですの?」
「正座つらいなら私みたいに安座すれば?」
「い、いえっ!イギリス人たるもの、礼儀はしっかり通させてもらいますッ!」
「無理しなくてもいいんだけどなー……」
めんどくさいやつだと私はダラーンと首をぶら下げる。なぜ安座しているのかって?行儀?そんなもん子供のころにどっかに置いて来ちまったよ。
「箸の使い方は?」
「い、今覚えましゅ……」
「………そ」
まあとりあえず、いつか臨界点に到達するからスルーするとして、私は小さなテーブルを凝視してメニューを確かめてみる。メニューは刺身と小鍋。そして山菜のお浸し。そして刺身の魚。若干ピンク色を含んでいるが……なんの魚だろうか。
「一夏、この魚なんなのかわかるか?メニュー表見てなかったから知らないんだが」
「ああ、カワハギっつう魚だよ。希望が少なくて歯ごたえもよくて煮付け、刺身、フライ、干物なんかにも使われる万能食材」
「ああ、あの皮が簡単にはぎとれる魚ね。食性はゴカイ、貝類、甲殻類にウニなんかも食べる。北海道から東シナ海まで生息していて南のほうが生息数は高く水深50mから浅い砂底と岩礁が混じるような環境に生息する。夜は海藻などを口にくわえ、つかまって眠る習性がある奴。旬は本来は夏だけど、秋から冬にかけて第二の旬があって一年通して漁獲される。だけど口が小さくて餌を削り取るように食べるから釣り人にはあたりが伝わりにくくて釣り上げるのは妙に難しいテクニックが所望されるけど近年はベテランが増えてきたから昔ほど高級じゃなくなって―――」
「も、もういい。もういいから!長ぇよ話!」
「えぇ?まだあるぞ、なんでこいつが甲殻類を食べられるのかというと、こいつは変に口が堅くて力づくで噛み砕いて食べちまうんだ。でもさっき言ったウニやら貝やらよりクラゲを好むのが分かっていて最近ではクラゲを餌にして捕まえる漁法が試されていて―――」
「もういいって!どんだけカワハギについて語ってんだ!」
「ならカワハギ科の話をしよう。カワハギ科は役102種あってな、その中でもウマヅラハギ属とウスバハギ属ってのがあってウマヅラハギはカワハギよりも顔が長くて馬を連想させることからウマヅラハギって名前が―――」
「あー!うっせえええ!!もういいから食えお前!」
「……ちぇ、わかったよ。ついでにウマヅラハギはわさびよりポン酢で食ったほうがうまいらしい」
「そ、それは勉強になった」
そんなくだらなくて長い長い話を終わらせ、私はカワハギをわさびにつけて一口。わさびの苦味と刺激臭が味覚と嗅覚を同時についてなんというデンジャラスな味と匂いが染みついて―――
「ごふっ……!」
むせる。
「?なんだお前、わさび苦手なのか?」
「あっ、ああっ……初めて知った……ごほっ、ぐふっ……」
かなりむせながらも言葉を発する。正直に言えば十六年間の人生で初めてわさびを食べた。むせる、というか苦い、辛い、NG。日本人だからわさびが食べられるって?のんのんのん、日本人でもわさびが食べられないやつもいるのさ。私みたいに。
なんとかコップ一杯の水を一気飲み。しかし苦味はごまかせたが辛さはごまかせるどころか増している(※ぬるめの水を飲むと辛さは増します。なのでちゃんと冷やされた冷水か牛乳を飲みましょう。ちなみに小学生も知っていると思いますが辛味というのは『味』ではなく『刺激』なのでよだれとかドッポドッポ出ます。好きな子の前で辛い物を食べるときは注意してNE☆)。
「うー……頭痛が増してるような気がする。はぁー……もうやだ。部屋で休みたい……」
「凪紗、わさびってそんなに辛いの?」
と、一夏の影からシャルロットの声が聞こえてくる。
「いや、辛いというより苦味と辛味がベストマッチングして絶妙に気持ち悪い味を吐き出していると表現していいかな」
「へぇー、じゃあ食べてみよ」
ぱくっ
「え?ちょっとま、シャル、お前まさか」
「………つっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!?????」
急に声にならない悲鳴が聞こえて振り向いてみると、案の定シャルロットは鼻と口を抑えて涙目になりもだえ苦しんでおり、一夏に介抱されている。何やっているんだこの子……。
「だ、大丈夫か?」
「ら、らいじょぶっ……!」
もはや声さえまともに出ないのか鼻声で喋っていた。しかも無理して笑顔になって―――というか苦笑に近いものだったが―――涙を流している。
「な、なんひょいうは……独特の、風味があっひぇ……お、いしい、よ?」
「む、無理すんな、ほら、水」
「あ、ありひゃと……う」
一夏は氷が入った冷水をシャルに私背中をポンポンと叩いている。いや、嘔吐じゃないんだから対処法違うだろと突っ込みたいところだがシャルロット自身は喜んでいるからいいのか……な?
「っ………うぅ………」
今度はお前かセッシ―。さっきからうめき声をあげて苦しんでいるような顔をしている。見ているこっちが苦しいよ。箸は二つまとめてぐっと握ったまま。食事もままならないらしい。
「大丈夫かセシリア?顔色が真青だぞ?」
「だ、ぃじょうぶ……ですわ……これぐらい」
うん、大丈夫じゃないね。後で太ももにマッサージしてあげないと確実に痛くなるな、これ。つーか、そんなにできないのか……正座。
次第にセシリアの手はようやく前に進み出し、台の上の味噌汁の容器を手に取った。しかし味噌汁の表面はたくさんの波紋ができていて一発で震えているとわかる。もうそれ以前からわかっていたが。
「ぃ……ただ、きます………」
ずずっ、と少しずつ味噌汁を口に含んでいく。だがもんのずっっっっこい手こずっており、味噌汁は歩ほとんど減っていなかった。
そして容器を口から外して一言感想。
「お、おいしぃ……です、わ………ね……」
こちらも無理して笑顔になっているが、正座からくる苦しみのせいで笑顔は台無しになっていた。なんで外国人ってこんなに面倒なんだろう。文化の違いかな。それとも本人の性格ゆえに、か。
「せ、セシリア?無理しないで向こうのテーブル席に行ったほうがいいんじゃ……」
「へっ、平気ですわ………。この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、これぐらい……」
夕飯の席は入ってきた『順』によって決定される。つまり……女子たちによる取り合い合戦が繰り広げられたので。単純に言えば競争。私は一夏の次に来たのでまあまあな速さだったが、別に私は早めに来ていただけで―――本来は一夏の隣だったが、セシリアに泣いて頼まれて譲ったのはいい思い出になりそうだ―――別に一夏のそばを狙っていたわけではない。
「一夏、女の子にはいろいろあるんだよ」
「そうなのか」
「そうなの」
「そうなんだよ」
そーゆこと、と話はまとまった。のはいいものを、セッシ―は相変わらず味噌汁飲むことだけでも難儀している。
「う、ぅっ………ぐぅっ……」
とはいうものを、セシリアはもう我慢の限界のようにうめき声をあげていた。しかも箸は見事に刺身を空振りしており、もうつかむ気力さえないのか、途中で止まりピクピクと痙攣している。
「セシリア」
「移動は、しませんわ……」
もう完全に意地になっているようで、これ以上やったら確実に数分は歩けなくなるだろう。なんで女子はこんなにも面倒なんだ……。
「しかし食事が進まないだろ。食べさせてやろうか?前シャル―――」
「い、一夏っ!!」
「あ」
「あ?」
シャルが、なんだって?と問いかけようとしたが、
「そっ、それは本当ですの!?」
セシリアの見事な食いつきっぷりで言葉が遮られてしまった。
まあ、察するに、前に一夏はシャルロットに何かを食べさせたようだった。シャルロットは外国人だから仕方ないとして―――今はもう慣れたようだが―――いったいどんな空気になったのかあいつに問い詰めてやりたい。のは山々だが、シャルロットに全力で拒否されるのでやめるとしよう。
「えーと、あのときのシャル体調―――」
「―――しょ、食事を食べさせてくれるというのはッ!」
「え?……そこ?……う、うん、別にいいぞ?もう限界だし?足もかなりしびれているだろうし?なにより料理が冷めちまうだろ?魚は新鮮一番だしな?」
なぜか全文疑問形で発言していた。誰に同意を求めているのだろうか。
「そ、そうですわね!え、ええ、ええ!せっかくの料理が傷んでしまっては勿体ないですし、シェフに申し訳ございませんからね!」
「そ、そうだよな」
セシリアの疲弊はどこに行ったのだろうか。猛アタックに対し一夏は気迫に少々押されながらもなんとか返事をしたように見えた。ていうかほんとにさっきまでの疲労はどこに消し飛んだんだ。
「では、お、お願いしますわ」
「ああ、じゃ、わさびは少しっと」
一夏は橋を受取ってセシリアの皿から刺身をとり、わさびをほんの少しだけ盛り付けた。
「えーと………あーん」
「あ、あーん」
……これは何の茶番だ?
とセシリアの口に刺身が入る。刹那
「あああーーーーーっ!!!セシリアずるい!!抜け駆け禁止よ!」
「なっ……カップルの特権「あーんでたべさせる」だとっ………」
「ズルい!インチキ!イカサマ!!ペテンよペテン!!」
ぎゃーぎゃーと女子たちが騒ぎ出し、こちらに文句を飛ばしてくる。まそりゃ気づくよね。並んで座ってるわけだし。
「ず、ずるくありません!席の隣の特権です!」
「それがずるいって言ってんのよ!」
「ブーブー!織斑君私も!」
「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」
そんな声が絶えずに放たれていた。私は願う。静かに食べさせてくれ。頭に響くから。
「URYYYYYYYYYYYYYYYYYY……………」
その声に、
全員が凍り付く。
「お……」
「織斑……」
「……先生?」
織斑先生もとい、織斑千冬は席からゆらりと立ちあがり、こちらに灼眼を向けていた。全力でこっちみんなと言いたくなるその顔に、全員の心には『恐怖』という釘が刺され、一夏の周りに群がっていた女子たちは即座に自分たちの席に行く。ところが、中には食堂を抜けだしたものもいた。
「ふ、ふふふ……ふははは………ふはははははっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!」
「……何してんだ、アンタ」
「WRYYYYYYYY………よくも、私の、一夏に、手を出したなああああああああああああ???」
「やっぱりか」
この人がこんな行動に出る理由は多分というか確実に自分の所有物、一夏に手を出されたことだろう。所有物というのはアレだが、この人の場合はそんな認識なのだ。そうなんだよ。
「ま、待ってくださいまし!私はその、食事が進まなかっただけで、一夏さんに食べさせてもらったんですっ!だから別に手を出してなど―――」
「地獄逝き☆決☆定☆―――
これから貴様はなんの手助けも受けず、ただひたすら、死ぬだけだ。
どこまで、もがき苦しむか見せてもらおう。
死 ぬ が よ い」
「帰れよ」
「うるさい!本当は……本当は私もやってもらいたかったんだぞッ!!それなのにあんな小娘に先をとられるなんて………不覚ッ!一生の不覚ッ!!」
「いやほんと帰れよアンタ」
「黙れぃ!―――というわけで一夏、お姉ちゃんにもあーんをしてくれ」
「え?あ、………ああ」
唐突すぎる願いに戸惑いながらも、一夏は自分の箸に持ち替えて刺身を食べさせてやる。
そのあとはそれはそれはまあまあ至福な顔をしている。まったく大人というより子供っぽいというか。
「これでビールがあったら最高なんだが……」
「おい教師」
「冗談だ。生徒の前でするか」
「裏を返せば生徒がいなければやってたということだよな」
「…………」
図星のように黙る千冬。どうやらマジだったらしい。
別に公然で酒を飲むのはかまわんが、後ろから先ほどの発言を聞いた山田先生がこちらに鋭い視線を飛ばしてくる。生徒の前どころか仕事中はお酒NGらしい。あとで、いや、先ほどこっ酷く怒られたからもうさすがに懲りただろう。懲りてくれ、懲りてください。
「つーか、アンタなんで昼私に喧嘩売ったんだ。あのせいでこっちは頭痛がひどいぞおい」
「は?喧嘩?…………」
「まさか……忘れたっていうんじゃないだろうな?」
あの超剛速球バレーボールのせいでこっちは骨折(もう治ったが)してさらにはイナズマキックもどきでいろいろマズイことになりかけたんだ。まさか記憶のフォルダからもう削除されていることはさすがに単細胞の千冬さんでもないだろう。
「……ああ、あのビーチバレーか」
「自覚、あったんすか……」
「なんで喧嘩を売ったかって?それはな――――合法的にお前を負かすチャンスだと―――」
「おいてめ待てやコルゥアアアアアアア!!」
結局それかと憤怒する。なんでいつもいつもこの人は私に喧嘩をぶっかけてくるのだろうといつもいつも思う。……半分は私だが。
「あれ合法じゃねぇよ!?試合じゃないし?反則してるし?マッハ並の球投げるし?どれもこれも合法じゃねぇだろ!!」
「まあまあ、キレるな。私は心が広いからな。土下座したら許してやらんでも―――」
「狭いよ!?つか吹っかけてきたのはそっちだろ!」
「まあまあ、そう怒るな。土下座―――」
「二回も言うなッ!!」
もうこの人嫌。誰か代わって。神様もうこんな世界嫌です。ブラコン&シスコンのサイコパス冥王ド腐れ野郎とつるむのともう嫌。オレガナニヲシタッテイウンダー。
「というわけでオルコット改めクロワッサン」
「クロワッサン!?」
「ん?ならロールパンのほうがよかったか?」
「同じですわよ!?」
「どうだっていいだろう賞味期限切れ」
「ちょっ、ひどくなってません!?」
「消費期限になってないだけましと思え。いいか?――――一夏に手ぇ出したら……キルユー……デキマース………OK?」
「お、OK………」
もはや後ろにスタ○ド出しそうな勢いでセシリアにメンチ切っている千冬さん。いい加減子離れ――親じゃねーけど――したほうがいいと思う。社会的にも。
「あ、そうだセシリア」
「な、なんですの?一夏さん」
「えーと、俺の姉が迷惑かけちゃった代わりになんだけど………あとで部屋に来てくれよ」
「…………………は?」
「―――え?」
おい待て。
「後で部屋に……それは、まさ、か………」
「おいまてセッシー、それはお前の勘違」
「はい!わかりました!じゅ、準備がありますので少々お時間をいただきます!」
「え?準備?」
遅かった………。公開しなければいいのだが。
「ああ、何を食べても美味ですわ」
そういって完全に気力が全開になり刺身や鍋をパクパクと食べ始めている。足のしびれ大丈夫なのかよ………。
その後はあれやこれやと話をして、私は他の生徒と笑いを飛ばしあいながら鍋を味わい、いつの間にか満腹になるまで食べていた。
◆
「あー、さっぱりー………はぁああああ………」
食後に温泉。ぜいたくすぎる待遇に包まれながらも、私のストレスはマッハでたまる一方だった。温泉は露天風呂、海を一望できるし湯加減はばっちり。だけどさ………
「人数が多すぎて蒸し暑すぎだろう……」
そのせいで余分な汗までかいてしまい、体内から水分が急激に失われていく気分はいいものではない。
まあここで愚痴っても仕方ない。水に濡れた髪をタオルで拭きながら自分の部屋、教員室とラベルが貼られた部屋の戸を開けた。
「ん、んっ………ふぅ………」
「ふっ、ふっ………はぁ……」
なんだろうなこの台詞。映像を見せなければ確実にA○と勘違いしそうな声は。
「はっ、ふっ……あれ?凪紗、風呂行ってたのか?」
「ああ、つか、何、やってんの?」
「見ればわかるだろう、マッサージだ。……うーん、一夏、もう少し上を」
「りょーかい」
冗談はやめておいて。二人がやっていたのはマッサージらしかった。親指で背中を押しているのを見る限り、ツボ押しマッサージらしい。
「くっ、硬い………こってるなぁ、千冬姉」
「誰かさんのせいで暴れてしまったからな。はぁ」
「それこっちの台詞」
そんなこんなでマッサージを終えたらしく、一夏は手を放して手をブランブランさせている。よっぽどこってたのだろうか。しかし私には関係のないことなのでテーブルに置いてあったコップに水を注いで一口。乾いたのどが潤ってくる。
「おい、お前もやるか?」
「は?どうして私が」
別に体にひどい疲れがあるわけでもない。むしろ精神的なカウンセリングを頼みたいほどだ。そして何よりあの人が見ている前でやるて視線が大変なことになるかもしれない。
「ふぅ………私は別にいいぞ?これ以上疲れを溜まらせたくないからな」
許可が出た。………え?
「ど、どういう風の吹き回しですか?」
「せっかくマッサージしたのにまた疲れが溜まってはしようがない。さすがにつらいからな。お前の相手は」
「そう思うなら最初から挑むなよな……」
「なんか言ったか?」
「いいえ。別に」
小声で言った文句は聞き取らなかったらしい。とゆーか二度目だけどそれ私の台詞。あんたの相手のほうがよっぽど疲れるよ。
「ほらほら、早く横になれ。俺の指が大丈夫な内に」
「へいへーい」
そう促されて、敷かれた布団に横になり、背中を上に向けた。
途端、背中に何かが押し付けられる感触。
瞬間、ゴリッと何かが体内で音がした。同時に痛み。
「おぐっ……ちょっ」
いきなりの痛みで音を上げてしまった。いやでもゴリッはないでしょ。
「あ、すまん、硬すぎたから思わず力入れすぎた」
「ど、んだけ硬かったんだよッ!?」
自分の懲りが溜まりすぎていたのか、とんでもなく硬かったらしい。しかしどんだけ力入れれば尾根が軋むんだと言ってやりたい。が、マッサージしてもらっている身分なので、今はやめておこう。
「んじゃ、次はここ、っと」
「んあっ!?ま、いや、ちょっとそこは―――」
「よいしょ、っと」
「いっっっ!………や、やめ」
「大丈夫だって。すぐに良くなるから」
「そういう問題じゃ――――んんっ!っつぅっ!?」
一夏のマッサージで体が痙攣し始め、全身の力が抜けた。脱力のツボでも押されたのかと思うぐらい力が入らなかった。
「けっこう溜まってるな………ほっ!」
「い、ぃいっ、ぁあぁっ!ま、待って!そこはだ、めっぁ!?」
最後の抵抗空しく、体がしびれ始めた。なんだこれは!どうすればいいのだっ!
―――ふと背後に、気配を感じた。
「お、い……ちょっと待て」
「うん?どうした?もうすぐで終わるから」
「違う……千冬さん。向うに」
「ああ、わかっている」
と、言った途端に立ち上がり、ドシドシと部屋の戸に近づいた。そして―――
パンッ!!!
「「「「「へぶっ!!」」」」」
戸をぶち破った音と一緒に誰かの悲鳴が聞こえた。
向うにいたのは―――セシリア、鈴、ラウラ、箒ちゃん、円夏。5人だった。そして5人とも引き摺った顔でこちらを見ている。
とりあえず一言。
「何をしているか、馬鹿者どもが」
「何してんの、お前ら?」
千冬さんと私の声が見事にハモった。