インフィニット・ストラトス 転生者は双子の姉 作:夜光・陽炎
「では、現状を説明する」
旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間では、八人の専用機持ちと教師陣が集められた。
照明を落とした薄暗い部屋にある高原は、大型の空中ディスプレイから放たれている青い光だけだった。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS
いきなりの異常事態説明に、凪紗除く専用機持ちは面食らって困惑してしまう。しかし、やはり凪紗の顔は苦難の表情だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ千冬姉!なんだよ軍用ISって、聞いたこともないぞ!?」
「当たり前だ、国の代表候補ぐらいにしかその存在は表に出されていないからな」
「あ、アラスカ条約は……」
「アラスカ条約というのは、軍事転用が可能になったISの取引などを規制すると同時に、ISの技術を独占的に保有していた日本への情報開示とその共有を定めた協定……
「な、う…………」
頭を抱えて自分の記憶を甦らせてみる一夏。たしかに見た内容は、そう書いてあった。だれも、兵器運用してはいけないとは言っていない。
一夏はそれをどう思っているのか確かめるために、一度全員の顔を覗いてみる。
そこには、真剣な顔をしたものの顔があるだけだった。
だがしかし、箒は少々ぽかんとした顔だった。それもそうだろう、今さっき専用機を与えられたばかりなのだから。いきなり「これ使って戦場に出て」と言われて「はい」と即答で返すような肝でもなければ。この状況にも疑問を覚えるはずだ。
「少々話がずれたな……その後、衛星による追跡の結果、シルバリオ・ゴスペルとグレイ・アポカリプス、以後福音と黙示録とし、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後、学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」
淡々と言葉をつづける千冬。その次の言葉は皆、思ってもみないことだった。
「教員は学園の訓練機を使用して空域および海域の封鎖をおこなう。よって、本作戦の要は専用機持ちだ」
「は、はあ!?」
思わず驚愕の言葉が一夏からこぼれる。しかし千冬は気にも留めず、いや、気にも留められず、そのまま言葉をつづける。
「それでは本作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はい」
さっそく手を上げたのはセシリア。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。ただし、これらは二か国の最重要機密事項だ。決して口外するな。もし情報が漏洩してしまった場合は、諸君らには査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる。それと最悪、二か国との信用が失われる危険性がある、もし失われれば戦争が起こると思え。いいな」
「了解しました」
いまだに状況が理解できていない二人を置いてけぼりに、開示された情報を代表候補生たちは黙々と見つめ、それをもとに相談を始める。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね。でも量産モデルは………」
「量産モデルは特殊武装を小型化して、後付装備としてプラズマソードを装備して近接戦にも対応できるようになっている。しかも射撃武器にもできるから、離されても即時に反撃可能……なかなか厄介」
「スペック上はあっちが有利、あたしの甲龍も劣っているし………一発叩き込めばこっちに勝機ができるんだけど」
「機動力が高すぎる、攻撃力もそうだけど、最高スピードがマッハ2……攻撃を当てるのも難しそうなのに、あっちはホーミング性能付きの爆弾をばらまく。圧倒的とは言わないけど、不利だな」
「しかも一度に何十発、いや、へたしたら百発ぐらいばらまけるし、一つ一つの破壊力が大きい。さすがに物理シールドを使っても防ぎきれないかも。本国から防御用パッケージが来ているんだけど……ちょっとこれは難しいかな」
「……ちっ、このデータでは格闘能力が未知数だ。持っているスキルもわからんし、武装もなにか仕込まれている可能性がある。もっと詳しい情報はないんですか?」
六人は着々と意見を交わし合い、真剣に悩んでいる。その光景に、一夏と箒は唾をのむ。実戦経験が足りないものゆえか。
「無理だ。大体、軍の最高機密情報だぞ?これほど提示してくれただけでもありがたいと思え」
「なら、偵察は」
「それも無理だ。さっき篠ノ乃が言った通り、この機体群はマッハ2の超音速飛行を二時間通して継続している。おそらくだが後二、三時間は継続可能とみて構わないだろう。だから瞬間移動でもできない限り、アプローチは一回が限界だろうな」
「ラスト・ワン・チャンス………ということは、やっぱり一撃必殺を持った、しかもマッハ2で行動できる機体で特攻するしかないんですね」
山田先生の言葉で、全員が一夏の方を見る。
「え………?」
「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」
「それしかありませんわね。シールドを貫通して大ダメージを与える能力を持っているのは、現在一夏さん一人しかいませんもの」
「だけど、問題は―――」
「お兄ちゃんをどうやってそこまで運ぶか、だね。いくらカートリッジがあるからって言っても逃げられたらおしまいだし、できればエネルギーも回して早期決着にしたい」
「しかし、織斑のISは追いつけるだけのスピードは出せん。聞いた話では、エネルギーを大量消費する形態でなければ、音速を超えることは難しいという話だぞ」
「超音速を出すなら、一応超高感度ハイパーセンサーも用意しないとな」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!俺が行くのか!?」
「「「「「「当然」」」」」」
六人の声が重なった。
「一夏……これは教師ではなく、一人の姉としていう物だが、はっきり言わせてもらう………『降りろ』」
「え?」
千冬に言われたことで、一夏の表情は険しくなる。
「正直に言う、お前は実戦経験が足りなさすぎる。いくら数々の危険をお前が乗り越えてきたといっても、これは実戦だ。援軍が来ない以上、失敗すれば命はない」
「だ、だけど」
「無理は言わない。だから今決めてくれ。やるか、やらないか」
そう言い終えた千冬は座っている一夏の肩をつかむ。その力はかなり強く、しかし感情の籠ったものだった。
たしかに、失敗すれば死ぬかもしれない。だが
―――俺が降りたら、クラスのみんなが危険にさらされる。その可能性が少しでも減るなら、
「………やる。いや、やらせてくれ」
「…………」
千冬は言った院黙ると、一夏の方から手を放し、元いた場所へと戻る。
振り返って露わにした表情は、重苦しく、しかし押し寄せてくる感情に耐えようとしている顔だった。その顔をじっと見つめてしまい、一夏は少しした罪悪感に襲われた。だが、ここで降りたら、自分は確実に後悔したということも、同時に理解した。
「わかった………それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ」
「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうど本国イギリスから強襲用パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」
全てのISには(一部除く)『パッケージ』と呼ばれる換装装備を持っている。
パッケージとは単純な武器だけでなく、追加アーマーや増設スラスター、珍しいものでは補助用増設関節など、多種様々なものが『圧縮』されて保存されている。
これらを装備することで機体の性能と性質を大きく変化させ、様々な作戦が遂行可能になるというものだ。
「オルコット、超音速下での戦闘訓練時間は?」
「二十時間です」
「ふむ………ならば適任―――」
そこまで言ったところで、いきなり雰囲気を崩す明るい声がその先の言葉を遮る。
「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
声の発生源は部屋の上部、つまり天井からだった。全員が見上げると、天井の中央に束の頭がひょっこりと生えていた。
「………山田先生、室外からの強制退室を」
「え!?はっ、はい。えっと、篠ノ乃博士、とりあえず降りてきてください………」
「とうっ☆」
くるっと空中で一回転し着地。その身のこなしの鮮やかさは、まるでサーカスのピエロでもみているようだった。
「ちーちゃんちーちゃん、もっといい作戦が私の頭の中にNOWLOADINGされてるよ!」
「……出ていけこの腐れKY」
束の頭を鷲掴みにして部屋から強制退場させようとするが、するりとかわされてしまい逆に部屋の奥まで侵入されてしまう。
「聞いて聞いて!ここは断・然!紅蓮華の出番なんだ~?」
「……なに?」
「紅蓮華のスペックデータを見てみて!パッケージなんて飾りだから換装の必要もないし、デフォの状態でも超音速飛行が可能なんだ!」
束の言葉にこたえるように、部屋に浮かんでいた大型ディスプレイの画面が切り替わり、紅蓮華のデータを細かに表示していく。それを千冬はまじまじと数秒間見つめる。
「紅蓮華の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと、ほら!これで速度はばっちりだし運動性もそんなに変わってないよ!ついでに展開装甲っていうのは………」
皆が聞きなれないこと魔に首をかしげているのに気付いた束は、すぐに解説を始めようとする。が、それを凪さに先を越されてしまった。
「展開装甲ってのは、次世代型ISの第四世代型以降機体専用装備だ」
「って、凪っち~、私の台詞とらないでよ~」
「姉さんが説明すると余計にややこしくなるからやったんだよ」
そんな何気ない会話を眺めている皆は――――目を、耳を、脳を疑った。
「お、おい、ちょっと待て。第四世代!?」
「はーい、そこ驚かない。ここで心優しい束さんからのせ・つ・め・いっ☆というかいっくん、それ今更だよ?いっくんのISも第四世代型なのに」
「はぁぁぁぁ!?!?」
「ついでに言うと、紅蓮華は第五世代だからね?」
「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」」」」」
「ついでのついでに言うと《黒桜》は第六世代型だ」
「「「「「………………………」」」」」
突然すぎる事実の数々に、驚愕の声を皆隠せられない。顔も当然、驚き一色に染まっていた。終いには絶句している。
「さてさてー、解説たーいむ。へへ、いっくんとまどっちと箒ちゃんのためだよー?うれしい?まず、第一世代型っていうのは『ISの完成』を目標にした機体だね。でもろくに武装もつけられないし、運動性もガタガタ、終いには動作不良も起こすし、やっぱ束さんと凪っち以外の人間はゴミだねホント。できれば消えてほしかったよ。……あ、話がずれたね。てへへ。次が『後付武装による多様化』、これが第二世代型。ま、ここでようやく使えそうなものが出てきたってとこだね。この時点でもう第四世代型の基礎理論の構築は済んでたんだけど。で、次に『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊武装の開発』。ここで束さんもぎりぎり及第点をあげられるものが作れてきたってとこだね。性能はゴミだけど。いや、人間の性能がゴミなのかな?」
説明の合間に次々と束は愚痴を入れていく。これでは話が進まんと察した凪紗は束の口を手でふさいで自分が前に出た。
「むー!なひっちたはなにふふのさー!」
「話進まないから私が代わりに説明するよ―――えーと、第四世代型の説明だよね。……そうだね、簡潔に言えば、四世代型は『万能機』ってとこかな?主な目的はパッケージ換装なしでどんな状況にも即時対応できるように設計開発されている。それと、後々説明するのがめんどくさいから第五第六の説明もついでにしとく。第五世代は『第四世代の趣旨を引き継いだまま、全てのスペックを向上。更に脚部腕部の駆動部をすべて金属繊維でできた《人工筋肉》に置き換えてより人間に近い動きをさせる』ことを目的とした機体だ。簡単に言えばサイボーグのようなものだ。違うのはパワードスーツなことと、人工皮膚なんて不完全なものをくっつけないことだ。そして第六世代、これはお前らに説明してもまず乗れないから無駄なだけだが、一応説明はしておく。第六世代ははっきり言って『人間が乗ることを想定していない機体』だ。もともと無人機用に開発していた技術だったんだが、どうも私が普通のISが専用機だと一発で駆動部パーツがバラバラに砕け散るんだ。だからオーバースペックの機体を用意するしかなかった。実を言うと競技用じゃないからそんなに使うつもりがなかったんだけど、デカいトラブルが多すぎたからな。でもそんなものを使ってもオーバーロードして今は鉄くずの仲間入りだ。ま、だからこそ壊れないように特殊金属で人工筋肉作ってそれを使って新しいISの作成中………って、あれ?何お前らそんなバカみたいにデカい物見たような顔してんの?」
長い長い説明の後には、静寂しか残らない。唯一声を出しているのは「むふふ」とおかしげな笑い声を出している束ぐらいしかいなかった。
なぜこんな顔をしているのか、凪紗は自分の発言数秒後にはっとして気づいた。
そう、各国が多額の資金、時間、人材のすべてをつぎ込んで『第三世代正式採用の座』を争っているのに対し、この天才二人は、それをあたかも赤子をあしらうように
「―――お前ら、言ったはずだぞ。やりすぎるなと」
「すまん千冬さん。これは止めようとしても――――」
「―――絶対に止められない。人間が時計の針を一瞬たりとも止められないように。ね?」
この時、凪紗は自分の顔がどんな表情をしていたのか知らない。でも確かなのは―――正気の顔ではないということだけは、理解した。
「ま、確かに行き過ぎたかもねー。しばらくはおとなしくしてヨット。凪っちもかまわないよね」
「ま、できれば私はしばらく何もしないよ。できれば」
不安げな答えだったが、その答えはこの場の全ての者を安心された。これ以上、進められたらもう、この世界は二人の独壇場だからだ。そんなことになったら、とほとんどの者が想像し、身震いした。
「それにしてもあれだね~。海で暴走というと、十年前の白騎士事件と黒騎士事件を思い出すねー」
束炎は二恋子しながら何の躊躇もなくその話題を引っ張りだす。その横でhあ、千冬と凪紗がギクッとした顔になっていた。
『白騎士事件』と『黒騎士事件』おそらく過去最高、とはいかないが、とにかくイカれた内容だろう。
その内容は―――黒いISと白いISが各国から発射されたミサイル約二千三百四十一発をすべて叩き落としたという現実味がないものだった。
主犯はもちろんこの三人。束と凪紗が世界中の軍事コンピューターの中核サーバーを十分かからず『一斉』にハッキングし、制御不能にさせてから日本海側とオホーツク海側にほぼ均一にミサイルをぶち込んだ。
束以外の二人はISが認定された当日「マッチポンプにもほどがある」と思っていたようだが、束はなんも思わずISが認められたことに心底狂喜していたようだった。
「あはははは、たしか白騎士は全部
その後、ミサイルがすべて消え去った後、もちろん自衛隊だけならず米軍ドイツ軍その他もろもろがまたまた一斉に二機のISに襲い掛かった。
結果――――すべてぶった斬られたり粒子砲に撃ち落とされたり謎の飛行物体にエンジン部や翼部に突撃されて行動不能に陥ったりと、傷一つもつけられずにすべて大破。
「バルカンだろうがミサイルだろうが核兵器だろうが水爆だろうが、ISには聞かないんだよ。たとえエネルギーシールドが破られてもその奥の絶対防御があるだけだし」
そしてさらに、その事件での死亡者は《0》。つまり、死傷者も出さずに、かすり傷一つ作らずパーフェクト勝ちしたのである。ぶっちゃけていえば『死傷者も出さずに完全無効化する実力と余裕がある》ということだった。
それでも躍起になって各国はほぼすべての兵器を導入したが――――
―――白騎士は突如幻のように消えてしまい、さらに黒騎士も黒い球体が体全体を包んだと思いきや、跡形もなく消えてしまった。
と、そんなこんなで世界はIS運用制限条約を結ばざるを得なくなってしまったのである。
「とまあ、こうして私のらぶりぃISは世界中に広まるのでした。めでたしめでたし」
「全ッ然めでたくないんですけど!?」
さすがに耐え切れなくなったのか一夏が飛び上がって束にチョップを入れる。
だがやはり超人。いつの間にか一夏の後ろに回っている。
「あぶないあぶない。さすがに束さんでも成長したいっくんのチョップを受けたらただではすまないよん」
「…………うっ」
「まあいいや。ちーちゃん、作戦の説明していーよー」
「そうだな、話を戻すぞ」
そこでようやく、皆が真剣な顔に戻り始めた。しかし、その内情はかなり混乱しているためそれを隠しきれなかったものがほとんどだったが。
「束、紅蓮華の調整にはどれぐらいの時間がかかる?」
「お、織斑先生!?」
突然声を上げたのはセシリアだった。専用機持ちの中では唯一高軌道パッケージを持っていたため作戦に参加できると見込んだ。のだが、紅蓮華のせいで出ばなをくじかれたということに納得いかなかったようだ。
「わ、わたくしのブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ!」
「そのパッケージは量子転換してあるのか?」
「そ、それは………」
「それに、これは危険度が高すぎるミッションだ。気持ちはわかるが、この場では私情を出さないでほしい。―――それと、本作戦は専用機持ち全員が参加することになる」
「え!?」
セシリアだけが驚いた表情を浮かべる。他の専用機持ちはもう作戦に出るのはわかっていたようで、表情をあまり乱さなかった。
「え、ではない。軍用ISが七機だぞ?二、三人で対処できるような規模じゃない」
「た、確かに………」
作戦に出られないと思い、表情を暗くしたセシリアだったが、参加できるとわかると一瞬で表情が晴れた。やはり恋する乙女ならではか。
「ちなみに紅蓮華の調整時間は七分あれば余裕だよ☆凪っちも手伝ってくれれば三分かからず―――」
「断る。私も作戦に参加するし、そのために訓練機を一つ借りて改造を施さなきゃならないし。―――いいですよね、千冬さん」
「……いいだろう。参加を許可する。それと訓練機は何を引き出す?」
「打鉄で」
「了解だ。好きに改造して構わん。では、本作戦は一夏・篠ノ乃・藍更・凰・デュノア・オルコット、ボーデヴィッヒ円夏の八人で目標を捕獲、無理なら撃墜を目的とする。作戦開始は三十分後。各員、ただちに準備にかかれ」
パンッ、と千冬が手を叩く。それを皮切りに教師陣はバックアップに必要な機材の設営を始めた。
「手が空いている物はそれぞれ運搬などを手伝え。作戦要員はISの調整を。凪紗、お前は庭にある訓練機を一つ貸してもらえ。もたもたするな!」
千冬に促されられるまま、もうすでに準備は終えている専用機持ちたちはそれぞれに手伝いに行く。凪紗も命令された通り、障子をあけて部屋の外に出た。
目の前にある庭に訓練機が三つ。二つは打鉄、もう一つはラファール・リヴァイブだ。さっそく打鉄を貸し出そうと前に一歩踏み出した。だが、
「姉さん」
急に後ろから箒に話しかけられた。さすがに無視するわけにもいかないので、凪紗は前に出した足を軸に三百六十度旋回する。
目の前にあったのは、異様に機嫌のいい顔の箒だった。
「どうかしたの?箒ちゃん」
「いや、別に重要じゃないんだが………その、作戦のときはよろしくする」
箒が手を前に差し出し、握手を求める。
「?ああ、うん。そうだね」
それに反応するように凪紗のては自動的に箒の手を握った。
瞬間、凪紗の脳裏に、小さな違和感ができた。
――――箒と握手したのって、これが初めてなんじゃ?
そんな小さな違和感。しかし、凪紗にとっては、感じたこともない未知だった。あんな几帳面な、しかも繊細で敏感な性格の妹が、自分から手を差し出すなんて、初めてだった。
「………」
「……?どうかしたのか、姉さん」
「……いや、箒ちゃんが私にちゃんとついてこれるのかなってね」
「ふっ、姉さんこそ、ちゃんとついてきて来られるか?」
「――――――」
初めてだった。妹に、挑発されるなど。
「箒ちゃ~ん!紅蓮華の調整始めるから、早くおいで~!」
「……すまない、束姉さんが読んでいる。それじゃあ、また」
「……箒」
「え?」
「……あまり、調子に乗るな」
「………?」
「箒ちゃーん!はーやーくー!」
「……それじゃあ」
箒は最後まで凪紗が何を言っているのかわからない顔だった。しかし、あまり深く思っていないようで、そのまま踵を返して部屋の中に向かう。
「――――ちっ」
あまりの不安感と違和感によって苛立ち、凪紗は盛大に舌打ちをした。だが、すぐに気分を切り替えてこちらも踵を返す。
そして打鉄の前に立つと、即座に超高機動の機体に改造するため両手に現在所持している手持ち工具一式をすべて展開。扇状に持たれたそれは空へと投げ出される。
更に空中に大型ブースターを大量展開。同時に空へと投げ出されて落ちてくる工具を何個か指で挟む。
「……さて、開始しますか」