アストラギウス銀河。その銀河ではギルガメスとバララント、二つの星系が開戦理由も定かではない戦争を百年も続けていた。
百年物歳月の間に、多くの人命や惑星が失われていった。そしてその戦争の中で開発された機動兵器、それがアーマード・トルーパー、ATである。
戦いは数で決まる。という言葉があるようにこのATはそれをある意味、見事なまでに体現した兵器であった。
徹底した低コスト、生産効率の合理化。それだけでなく操縦に必要な技術レベルも低く、短期間でパイロットの養成が可能であるなどまさに数で勝負する兵器であった。
しかし、ATは使い捨てが前提となり。下手をすれば拳銃さえ貫通する鉄で出来た薄い装甲、全身を循環する僅かな火種で炎上、爆発するポリマーリンゲル液、この手の兵器には必須である生命維持装置、脱出装置までもが簡略化されてしまった。
その結果、ATは搭乗者の死亡率が非常に高い兵器になり、「歩く棺桶」とまで比喩されるほどであった。が、ギルガメスにバララントの両軍にはそれこそ人員だけは腐るほど有り余っており、全くと言っていほど問題視されなかった。
そして、いつかATは搭乗兵器としては余りにも低すぎる生存率、こんな兵器に乗る人間もまた最下層に属する幾らでも替えが利く人間。
この二つを合わせて人々はAT、そしてATに乗る人間を軍の公式見解とは違った意味で『ボトムズ』と呼ぶようになった。
幾つもの戦火に晒される惑星、その中の一つに百年戦争とはまた違った戦争を惑星内で繰り広げている星があった。
そして、その星にもまた。とある最低野郎達が居た。
上からまるで滝の如く大量の水が降り注ぐ。余りの量に下に居る者は水の重さで押しつぶされそうだった。ここはギルガメス軍の基地内、その中のとある部屋で赤い耐圧服を着た五人の男が大量の水に晒されていた。
ヘルメット越しでも大量の水が跳ねる音で五月蠅いのが良く分かる。口の辺りから伸びる酸素ボンベに繋がったノズルが無ければ、まともに息もすることが出来ないだろう。
「ったくよぉ。この惑星に居る限りは、出撃から帰ってくる度にこんな事をしなくちゃならねぇのか?」
「我慢しろゴダン。俺達はニュードに耐性が無いんだ、洗浄を念入りにやらないとニュードに汚染されるぞ」
耐圧服越しでも分かる屈強な体付きの男、ガリー・ゴダンは周囲の音にも負けない様な大声で愚痴を垂れた。それを宥めるのはゴダンの直ぐ隣に立つ男、ノル・バーコフ。
現在洗浄されている五人の男はバーコフ率いる分隊であり、任務の一環としてこの惑星に配属された。配属先の惑星では百年戦争とはまた別の戦争、バーコフが口にした『ニュード』を巡って争っている。
ニュードとは、今までの物に代わる新しいエネルギーとして注目されていた。が、このニュードを発表した国際研究機関GRFはニュードは人体への高い毒性を持つ。という事実を隠蔽したまま発表。
そして、その隠蔽された事実は大量のニュードが貯蔵された軌道上の巨大研究施設、エイオースの爆発によって人々に知られた。
他組織がニュードを手に入れることを恐れたGRFは大規模な回収作業を開始する。一方、GRFへの不信感から国際的な抗議活動が発生し、ついには反GRF組織であるEUSTが発足した。
この惑星ではGRFとEUSTが互いにニュードを巡って争っており、どの場所でも戦火が絶えない。オマケにニュードに汚染された地域が主戦場となるため、戦場ではニュードに対して耐性を持つ耐性保持者がブラストランナーを駆り、戦っていた。
そしてこの惑星のGRFに配属されたバーコフ分隊、彼等はニュードが存在しない惑星産まれのため当然ながら耐性は持っていない。その為、ニュード汚染に対処するために改良された耐圧服を着て、汚染を防ぎながらATに乗って彼等は戦っていた。
が、装着者の汚染を防げたところで耐圧服そのものに付着したニュードは洗い流さなければならない。出撃から帰ってきた彼等はニュード洗浄のために現在進行形で洗われていた。
数十分に渡る洗浄が終わり五人は目の前にある重厚な扉を潜る。潜った先は細長い空間になっており天井も低い、五人とも潜り部屋の中で等間隔に並ぶと即座に扉が閉まり、同時に上下左右から強烈な風が吹き出す。
吹き出した風は耐圧服表面の水滴を一つ残らず吹き飛ばし、風が収まった頃には五人の耐圧服は塵一つ見当たらない新品同様の状態になっていた。
「ああ、やっと終わったぜ」
耐圧服の洗浄を終えて、洗浄区画を出たゴダンが開口一番に愚痴を零す。ヘルメット脱ぐとそれを小脇に抱え、中に籠っていた湿気によって蒸された頭髪を掻きむしる。
あとの四人もヘルメットを脱いで顔を掻きむしる、伸びをするなどして任務で疲れた体をほぐしていた。
丸い月が浮かぶ夜空の下、五人は洗浄区画から遅い夕食を食べに食堂へと向かう。食堂に到着するとトレイを取りその上にフォーク、スプーンを乗せカウンターの上にトレイを置く。
すると、カウンターの向こう側の兵士が慣れた手つきでトレイの上に料理を乗せて行き、トレイの上に本日の夕食が完成すると、それを手に取り空いているテーブルに座る。一番最後のコチャックがテーブルに座った所で五人は夕食を食べ始めた。
「にしてもよぉ、情報省のお偉いさんは何を考えて俺達をこんな辺鄙な場所に配属したんだか」
「さぁな、お偉いさんが考えることはわからん。ま、一兵士でしかない俺達には関係ないことだ。黙って任務をこなすしかない」
ゴダンは本日のメインディッシュである分厚いハムステーキをそのまま齧りながら疑問を口にする。その疑問に向かいに座っているバーコフはコンソメスープを啜りながら答えた。
バーコフ分隊はギルガメス軍情報省の長官であるフェドク・ウォッカムの命によってこの星に配属された。また、今の彼等は単なる軍人で無く情報省直轄の特殊部隊ISSの隊員となっている。
ウォッカム曰くこの配属も任務の一環らしいのだが、当然ながらバーコフ達にその理由を聞く権利は無かった。
「はぁ、この惑星に居る間はずっとあんな任務を続けなくちゃいけないのかよ……」
「仕方ねぇだろ、結局どこへ行こうが今は戦争中だ。中身が変わるだけで地獄なのは変わらねぇよ」
「……」
コチャックがポテトサラダを突きながら心底嫌そうに愚痴を零すと、隣のザキがそれを窘める。ザキの向かい側に座るキリコは無言でパンにピーナッツバターを塗っていた。
それから五人は他愛も無い雑談、ブラストランナーへの対策、今後行われるであろう任務について食べながら話し合った。
五人全員が夕食を食べ終え、空の食器が乗ったトレイをカウンターに置くと五人は食堂を後にした。その後、この基地で宛がわれた部屋に一旦立ち寄り、タオルと着替えを持つとシャワールームへと向かう。
既に遅い時間になっていたので、五人は手早くシャワーを浴びると身体を拭いて着替える。シャワールームを出た所で洗濯カートに洗濯物を放り込むと部屋に戻った。
全員が耐圧服の上をハンガーにかけてロッカーにしまうと、ベッドに横たわる。最後にバーコフが部屋の電気を消すと、部屋の中は窓からの月明かりでうっすらと照らされる。
入口脇のベッドに横になっているキリコは、窓から見える満月を眺めながら今までの事を思い返していた。
惑星ガレアデでの任務、ポリマーリンゲル液タンクの大爆発、粛清委員会の襲撃、マイナス200度のダウンバースト。
自分はあと、どれだけの地獄を見ればいいのだろうか? 今まで何度も死ぬような目に遭いながら、奇跡的にこうして生きている。少なくとも自分が生きている間は地獄が続くだろう。
キリコはそう締めくくって考えることを止めると、目を閉じて眠りに就いた。
翌日、起床したバーコフ分隊に早速本日の任務が言い渡された。
今回の任務は奪われたコアの奪還である。先日、城砦都市バレリオにてGRFのコアがEUSTに奪われてしまった。バレリオにはニュードの結晶が点在しており両者にとっては喉から手が出るほど欲している場所の一つである。
GRFのコアはその城砦都市の中にあり、そう簡単には攻め込まれない構造になっていたのだが、その点を過信してしまい夜に奇襲を受けて一気に陥落してしまった。
そこで即座に奪還作戦が立案され、奪われた直後で防衛体制が整っておらず、尚且つニュード結晶が回収されていないこのタイミングでバーコフ分隊に御鉢が回ってきたのだ。
「ったく、いきなりこれか」
ゴダンがヘルメットの内で舌打ちする。現在五人は山岳地帯をスコープドッグに乗って歩いていた。予定ではこの先にある城下町の入り口でブラストランナーの部隊と合流し、奪還作戦を開始することになっている。
空は清々しい青とまばらに白い雲が浮かんでおり、外に出かけるには絶好の天気だった。そんな青空の下、五機の緑色のATが茶色い山岳地帯をひたすら歩き続ける姿はどこかシュールである。
数十分ほど歩き続けて地平線の向こう側に城壁の頭が見えてきた。更に歩き続けると灰色の巨大な城壁が全て視界に収まり、手前の城門前には数機のブラストランナーが待機しているのが見える。
『よぉ、来たか』
『おお、あんたは昨日の。あん時は助かったぜ』
『そういえば自己紹介がまだだったな、俺はゴードンだ。』
『バーコフだ、今日はよろしく頼むぜ』
城門の前で待機しているブラストランナーの内、背中にガトリングガンを背負った一機は昨日の港での任務でバーコフ達を助けたパイロットだった。
ゴードンと名乗ったパイロットは乗っているブラストランナーの腕を軽く上げると自己紹介する。次いで、後ろに控えているブラストランナーを親指で差した。
『紹介するぜ。こいつがレオ、隣がレイン、後ろがゲルトだ』
『レオだ。よろしく頼む!』
『レインです。本日はよろしくお願いします』
『ゲルトだ。足を引っ張るなよ』
紹介された順にパイロットが搭乗するブラストランナーがアクションを取って自己紹介する。
レオぬブラストランナーは中性的な体格、背中に近接用の大型ブレードを背負った機体。レインのブラストランナーは細身でその手には狙撃銃を持っている。最後のゲルトのブラストランナーは屈強な体格に機関銃を持ち、彼の機体だけ脚部がホバークラフトになっている。
『ノル・バーコフだ。この分隊の隊長をしている』
『ガリー・ゴダン。まぁ、よろしくな』
『ダレ・コチャック。よろしく』
『ゲレンボラッシュ・ドロカ・ザキ』
『キリコ・キュービィーだ……』
次にバーコフ達も自己紹介し、互いの挨拶を済ませた。そしてAT、ブラストランナーに乗るパイロットたちはこれから向かう城砦都市について話し合う。
このバレリオ城砦都市のコアが奪われたのはつい数日前。構造上、奪われたコアは都市を見下ろせる高い位置にあり、オマケに都市に続く道を除いた三方は切り立った崖に囲まれている。コアのあるベースに侵入出来るルートは都市からのみと防衛に適した形だ。
地雷などの本格的な防衛策は恐らくまだ敷かれていないため、作戦はコアへと忍び寄り防衛線の準備中であろう敵を奇襲するというものであった。
纏まっていると見つかる危険があるため、都市ではお互い適度に距離を取りながら侵攻。全員がベース間近に近付いた所で一気に攻撃に出る手筈である。
それぞれ進むルートを決め、全員が配置に付くと九体のロボットは城門を潜り都市へと進んでいった。
都市に入ってから十分後、城壁内部では横一列に並んだロボット達が民家に隠れながら着実に歩みを進めていた。
念には念を押して地面に地雷や索敵センサーが置かれていないか細心の注意を払いながら進んでいるが、ここに来るまでまだ一つも見つけていない。空から索敵するブラストランナーの偵察機も警戒していたが、こちらも全く見かけていない。
『驚くほど静かだな』
『見つからないことに越したことはありません。と言っても、流石にこれは不気味ですが』
バーコフとレインがこの静けさについて今の心情を口にする。
都市にはロボットの足音と水路を流れる水の音だけが響いており、それ以外の音は全く聞こえない。索敵センサーの電子音が聞こえれば心臓に悪いが、敵地で何も音がしないと言うのもこれはこれで心臓に悪い。
民家に隠れながら通りを偵察し、異常が無いことを確認すると通りをゆっくりと進む。と、左右を警戒しつつ水路に架かる橋を渡っていたキリコが視界の端に何かを捉えた。
反射的にそちらに視線を向け、ターレットレンズを偵察用の物に切り替える。キリコの視線の先には城壁上部に吊るされた巨大な金色の鐘。その鐘の下で何かが動いたような気がしたのだ。
『分隊長、あの鐘の下で何かが動かなかったか?』
『鐘? ……いや、何も居ないぞ?』
『こちらでも特に異常はありません』
キリコの疑問にバーコフも偵察用レンズで鐘の下を確認するが、何も見えない。レインも手に持った狙撃銃のスコープで覗くが、やはり異常は無かった。
バーコフとレインが再び前進する中キリコだけはしばらく鐘の下を見詰め、やがて後ろ髪を引かれる思いで橋を渡った。
その背中を高所からの眼差しが見送る。
作戦を開始してかなりの時間が立ちバーコフ達は都市を半分渡り切った。彼らの眼の前には長い上り坂があり、坂の先には目的のベースが。
ここに来るまで罠や襲撃等は一切無く、本当に準備中なのか、はたまた自分達を誘い込む為の罠なのか。期待を不安が九人の胸中に渦巻いていた。
あとはベース間近まで接近し配置に着いたら一斉に攻撃に出る。ここまで来たのならば後には引けない、鬼が出るか蛇が出るか、運命は天のみぞ知る。
坂を上る為の一歩を各々が踏み出した所で、ここで初めて新たな音が聞こえた。水の音と足音しか聞こえなかった耳が何かの音を拾う。
気の抜けるような高い音、時間と共にその音は大きくなって行く。九人の背中に寒気が走った。
『榴弾だ! みんな逃げろ!!』
レオが音の正体を察知して力の限り叫ぶ。ATは足裏のローラーを回転させ、ブラストランナーはブーストを全力で吹かす。
九体のロボットが一斉に後退し、一拍の間を置いて先程までロボット達が居たラインに榴弾の雨が降り注ぐ。地面を容赦なく抉り、石造りの民家を吹き飛ばし、巨大な火柱と土煙を幾つも上げる。
『気付かれていたか!』
その光景を見ていたゲルトが舌打ちする。ここで全員が自分達はまんまと誘い込まれていた事に気が付く。
更に追い打ちをかけるように、ゲルトが乗るブラストランナーの背中を照準が捉えた。背中から感じる殺気にゲルトは反射的に右方向に機体を傾けた。
ゲルトのブラストランナーの左肩を掠めるように線が通過する。獲物に喰らい付き損ねた線は地面に激突し土煙を上げた。
『狙撃だ! 狙われているぞ!!』
『オマケに囲まれています!!』
都市のそこかしこから鉛弾とニュードの弾丸が放たれ。AT、ブラストランナーが隠れる遮蔽物を穿って行く。
前に進めば榴弾の雨、後ろに下がれば狙撃の歓迎。前門の虎、後門の狼とはよく言ったもの。進むも地獄、引くも地獄とはこの事か。
『バーコフ、狙撃兵の相手は俺達がする! お前たちはベースに向かってくれ!』
『わかった! 死ぬなよゴードン!』
ゴードンの提案にバーコフは迷うこと無く賛成した。
ATの武装では狙撃する敵のブラストランナーに対抗するのはどう考えても無理である。しかし、ゴードン達の乗るブラストランナーならばレインの狙撃銃、場合によってはゴードンやゲルトのガトリングガンや機関銃で対抗できるだろう。
バーコフ分隊は目標のベースに向けてATを転身させ、ローラーダッシュで土煙を上げながら全速力で向かう。反対にゴードン達は各々の得物を構えてバーコフ達に背を向けた。
四機のブラストランナーは民家が密集する都市に散り、手始めに狙撃兵の位置を探る。
民家の陰にしゃがみ込んだレオは、アサルトライフルの銃口だけを壁から出して適当な方向に向けて引き金を引く。散発的に銃弾が放たれてレオのブラストランナーの足元に空薬莢が散らばった。
マガジン一つ分を撃ち終えてリロードの為にアサルトライフルを引っ込めると、途端に銃弾が民家の壁を穿った。レオはマガジンを交換し終えると機体の顔を僅かに壁から出して、銃弾が飛んできた方向にカメラをズームさせる。
狙撃兵がいると思われる城壁傍の高台には、太陽光を反射し光る物体が見えた。
レオは右手にアサルトライフル、左手に手榴弾を持つと。息を整えて民家から飛び出した。左右にブーストを吹かして狙われないように蛇行し、尚且つ高台に向けてアサルトライフルをフルオート連射する。
弾丸は高台の塀や後ろの城壁に命中し、その場で膝立ちしている狙撃兵には掠りもしなかった。狙撃兵も蛇行しながら近づいてくるブラストランナーに照準を合わせて引き金を引くが、こちらも全く命中しない。
やがて狙撃銃のマガジンが底を突き、狙撃兵はリロードのために塀に身を隠す。その行動をしっかりと見ていたレオはブラストランナーを時計回りに一回転させ、左手に持っていた手榴弾をアンダースローで投げた。
緩い弧を描いて手榴弾は高台の塀を越え、後ろの城壁に跳ね返りマガジンを交換していた狙撃兵の足元に転がる。それに気が付かなかった狙撃兵は新たな弾倉を叩き込んだ狙撃銃を構え、棒立ちになっているブラストランナーの頭に照準を合わせて、引き金に指をかけた所で足元からの爆風に吹き飛ばされた。
高台から吹き飛ばされた狙撃兵は石を敷き詰めて作られた通りに叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
一方、ゲルトはホバー脚の特性を活かして都市の中央にある水路の交差点上に浮かんでいた。足元から水飛沫を撒き散らし、前後左右に慣性を付けて不規則に水上を舞う。
先程からニュードの弾丸がゲルトを狙うが、その全てが水面を叩いて水柱を上げるばかり。当のゲルトは弾丸の軌跡から冷静に狙撃兵の位置を割り出していた。
やがて、城壁の上に居る敵の位置を完全に掴むとブラストランナーが持つ機関銃を背負い。代わりに大型のバズーカ、サワードキャノンを構える。
構えたそれを狙撃兵では無く自分か浮かぶ水面に向けて撃ち、狙撃兵と自分の間に巨大な水柱を作った。
スコープを覗いていた狙撃兵は突然の水柱に驚き、その向こうに隠れるターゲットを探す。右へ左へと視界を動かすが姿は見当たらない、とすれば水柱の向こうで待ち構えているか。
銃口を水柱に向け収まるのを狙撃兵は待つ。収まると同時に引き金を引くつもりであったが、その前にスコープに映る水柱の向こうから白い弾頭が飛んできた。
弾頭は城壁の上で構えていたブラストランナーの頭に直撃し、爆発する。頭部から煙を上げながら狙撃兵は城壁の外側に落ちていった。
「フン、警戒を怠るからだ」
ゲルトは鼻息を一つ鳴らして散って行ったブラストランナーに戒めの言葉を送る。その言葉が届くことは決して無いが。
そして、ブラストランナーパイロットの中で最も狙撃兵に対抗できるであろう装備のレイン。彼は城砦都市の入り口付近の高台に上り、城壁に吊るされた鐘の下から自分を狙う敵と対峙していた。
狙撃と狙撃、条件は五分と五分。どちらか先に動けば、一瞬の隙を突いて動いた方が撃ち抜かれる。かといって何時までも我慢比べをしていては埒が開かない。
レインは狙撃銃を右手に持ったまま、左手でブラストランナーの背中に積んである物を手に取った。
レインを狙っている狙撃兵は銃口を彼のブラストランナーが隠れた瓦礫に向けていた。瓦礫の近くにはブラストランナーが隠れられるような遮蔽物は存在しておらず、飛び出せば次の物陰に隠れる前に狙撃できる。
少しでも動きがあれば撃てる準備は整っていた。と、瓦礫を狙う照準が映る視界で何かが右に飛び出す。反射的に飛び出した物をスコープで追うと、それは台座に細い支柱が付けられその先に銃が備え付けられた物体。セントリーガンだった。
慌ててスコープを元の位置に戻すと、そこには此方に銃口を向けるブラストランナーの姿が。
レインのブラストランナーが引き金を引いた。長い銃身を持つ狙撃銃から弾丸が放たれ、同時に空薬莢が一つ宙を舞う。
弾丸は回転しながら同じく狙撃銃を構えるブラストランナーに疾駆し、やがてスコープレンズを貫いて頭部を撃ち抜いた。ブラストランナーが倒れると同時にレインの機体の足元に空薬莢が転がる。
その頃、ゴードンは崩れかけた民家の陰に隠れながら見えない敵と戦っていた。民家から飛び出してはガトリングガンを散発的に撃つが、元々数で押す武器であるガトリングガンでは集弾率が悪く遠くの敵に命中弾を叩きこめない。
機体を安定させて発射すれば命中させる事が出来るかもしれないが、そんなことをすれば格好の的である。
城壁上の敵の位置は掴めているが、こちらにその敵を確実に攻撃できる手段が無いため歯痒い思いをする。敵の狙撃兵を攻撃できる唯一の手段は背中に背負ったタイタン榴弾砲ただ一つ。あとの問題は如何にしてそれを命中させるかだ。
ガトリングガンの弾倉を交換しつつ思案すると、リスクは大きいが方法が思い浮かぶ。今はこの方法しか思いつかない、一か八かに賭けるか。
ゴードンは覚悟を決めるとブラストランナーをその場でしゃがませて、背中の榴弾砲の砲身を伸ばす。コックピットのゴードンはディスプレイに映るマップから、狙撃兵が居る位置からやや離れた場所を指でタッチする。
すると、長い砲身からテンポよく榴弾が撃ち上げられ空の青に消えて行った。砲身を元に戻してゴードンはガトリングガンを構えると、自分を狙う狙撃兵が居る城壁上。その城壁の縁を機体を安定させて右から左にガトリングガンで掃射し始めた。
石造りの城壁の縁が次々と砕かれ石の破片が舞う。城壁上の狙撃兵は弾丸の嵐が自分に近づいてくることを察知すると、一旦構えるのを止めて弾丸の嵐から逃げることにした。
ブーストから青い炎が噴き出し、機体を前進させる。その後を追う様に破壊の嵐は城壁を破壊して行く。
やがて、嵐から十分な距離を取った所で狙撃兵は再び銃を構えようとした。銃に手をかけた所で上から何か聞こえる、思わず上を見上げると空の青と雲の白に混じって赤い火の玉が落ちてきた。
火の玉は狙撃兵の右側の城壁を砕き、次に左側の退路を断つ。トドメに進退極まった狙撃兵に火の玉が直撃し、砕かれて瓦礫とかした城壁の中に埋もれて行った。
「案外、上手くいくものだな」
ゴードンはブラストランナーの中で笑みを浮かべると、バーコフ達が向かったベースに視線を向け、彼らの無事を祈った。
ベースへと向かったバーコフ達は榴弾の雨の中を紙一重で潜り抜けていた。次々と絶え間なく降り注ぐ破壊の雨、その中をローラーダッシュ、ターンピックを駆使しながら突き進む。
目的のベースまであと僅か、この雨さえ乗り越えれば戦闘に持ちこめる。スコープ越しに映る火柱と土煙の中を潜り抜けながら彼等はひたすら走り続ける。
永遠に続くと思われた破壊の雨の向こうにゴール、ベースの入口が見えてきた。五人はここでローラーダッシュを最大まで回転させ一気にベースに突撃する。
あちこちが苔生した石の階段を駆け上がり、ベースに突入すると。そこには榴弾砲の次弾を装填する五機のブラストランナーが。
バーコフ達はスピードを落とさずにブラストランナーに接近すると、バーコフのATは肩のミサイルポッドを、ゴダンはソリッドシューターを、コチャックとザキの機体はマシンガンをブラストランナーに向けて放つ。榴弾砲を構えていた四機のブラストランナーは成す術もなく直撃を浴びてスクラップに変わった。
最後に残った一機をキリコのATはショルダータックルでニュードのコアを支える柱に叩き付ける。背中から叩きつけられたブラストランナーは力なく項垂れ、それに追い打ちをかけるように胴体にアームパンチを叩き込んだ。
トドメにキリコはロングバレルマシンガンの銃口を敵の頭に突き付け、引き金を引く。銃弾はブラストランナーの頭を射抜いて機能を完全に停止させた。
『これで最後だな』
『だな、任務完了だ!』
キリコの言葉通り、彼が仕留めたブラストランナーでベース内の敵は居なくなった。あとは任務完了の旨を司令部に伝えれば直に友軍がやってくるだろう。
バーコフ分隊の面々は安堵したように息を吐くと、今日も生き延びることが出来たことを実感するのであった。そんな彼らを労う様に城壁に吊るされた黄金の鐘が鳴り響く。鐘の音に驚いたのか、鳥の群れが大空へと飛び立って行った。
その鳥の群れの向こう側、丁度バーコフ達が居るベースを見下ろせる山の頂から、巨大な片刃のブレードを担いだ一機のブラストランナーが彼らを見詰めていた。