吹雪が吹いていた。GRFとEUSTの二つの勢力によるニュードを巡る戦争により数多く廃棄された区画、ここD51もそんな廃棄された数ある区画の一つである。
長い間、決して止む事の無い吹雪に晒され続け今にも崩れ落ちそうなビル群。そのビルすらも白く塗り潰してしまうほどの猛吹雪の中を、五体の影が歩いていた。互いに付かず離れずの距離を保ちつつ一歩一歩を確かめるように歩き、左右に並んだビルの間をひたすら歩んで行く。
「ったく、まさか、また吹雪の中を歩く羽目になるなんてな」
「安心しろゴダン、今回は以前のようなダウンバーストは起きない。コチャックも心配しなくて良いぞ」
「あんな無茶苦茶な調合はもう勘弁だ……。というよりも、あの配合比率は二度と作れる気がしない」
歩き続ける五体の影。白を基調とした冬季迷彩に塗装され、足には雪上走行用の装備を付けたAT――アーマード・トルーパー、スコープドッグ。そのパイロットであるガリー・ゴダン、ノル・バーコフ、ダレ・コチャックは通信で呟いた。
バーコフ率いる彼等は以前にも猛吹雪の中をATで歩き続け配属先の基地に辿り着き、更にその基地を防衛するための戦闘途中にマイナス200度のダウンバーストに襲われた経験がある。
彼らがこうして生きているのは気象学の知識を持っているバーコフがダウンバーストを予見し、更にATの内部を循環するポリマーリンゲル液の技術者でもあるコチャック。この二人が『偶然』にも揃っていた為、マイナス200度でも凍結しないポリマーリンゲル液をコチャックが配合し九死に一生を得たのだ。
この猛吹雪の中を歩き続けていると、バーコフ分隊の面々は嫌でもあの時の事を思い出す。
「分隊長、目的地のGRFのベースまでの距離は?」
「作戦開始まで時間が無いが、あと五分もしないだろう。PL液をしっかりと温めておけよ」
「こんな所とはさっさとおさらばしたいな」
バーコフ分隊の一員であるキリコ・キュービィーは事務的な口調で隊長であるバーコフに尋ね、ゲレンボラッシュ・ドロカ・ザキはダウンバーストの時を思い出し、身震いしながら愚痴を零す。
そしてバーコフの言うとおり、それから五分もしない内に分隊はGRFベースへと辿り着いた。ベースの周りには他に比べて背の高いビルが周りを取り囲んでおり、この場所だけは吹雪の影響も小さかった。
ベース何は巨大なパラボナアンテナ型のレーダーが首を左右に振り、盾の付いた数機の自動砲台も同じく首を左右に振ってベース内を絶えず警戒している。
そしてベース中央に存在する巨大な傘、その下には最大の防衛目標である緑色に光輝くニュードコアが台座の上で静かに輝いていた。
傘の下には先に到着していた五機のブラストランナーが待機しており、バーコフ分隊の到着に気が付くと先頭で待機していたリーダーらしき機体が手を振る。
『何とか間に合ったか、遅れてすまんな』
『気にするな、俺達もついさっき到着したばかりだ。この吹雪じゃ仕方ない』
バーコフが一先ず時間ギリギリに到着したことを通信で謝罪すると、手を振ったブラストランナーは器用に肩を竦めるような動作をとる。
その動きに小さな笑いが起きると、今度は打って変わって生真面目な口調で今回の作戦を話し始めた。
『今回の作戦は西側にあるEUSTのコアの確保、及び破壊が目的だ。だが、この吹雪で真正面から突っ込むのは自殺行為。そこでだ』
リーダーの男が「マップを開いてくれ」と言うと、分隊のメンバーはコックピット内の小さなディスプレイにここD51のマップを表示させた。
ディスプレイに映るマップには東側に自分達GRFのベース、その反対側。つまりは西側にEUSTのベースが存在する。
『まず、部隊を二つに分けよう。片方の部隊が中央にある窪地で敵を引き付ける。その隙にもう一つの部隊は南側の小さな迂回路を使って敵の背後を叩くんだ』
『つまりは挟み打ちで一網打尽、敵さんを全滅させたら残り少ないであろうベース防衛を一気に叩くって訳か』
『その通りだ、話が早くて助かるよ』
リーダーの男が口にした案は実に分かりやすい物。しかし、分かりやすいからこそ効果は大きく挟み撃ちにされればどんな集団であろうと、ひとたまりも無い。オマケにこの悪天候で偵察機や索敵センサー、もしくはレーダーユニットでも使わない限り迂回路を移動する部隊の発見は困難である。
案件を確認すると、部隊の割り振りを決め始める。陽動部隊は出来る限り人数を多くしたいが、かといって人数を間違えれば敵の後ろを襲う奇襲の効果が小さくなる。
話し合いの結果、ATのみで構成されたバーコフ分隊は全員が陽動部隊に。ブラストランナー部隊はリーダー機が同じく陽動、残りの機体は全て奇襲部隊へと割り振られ、陽動6:奇襲4の比率となった。
ちなみに、バーコフ分隊全員が陽動になった理由は「敵もATが多ければ調子に乗るはず」という実に分かりやすい理由である。
部隊の割り振り、移動ルート、奇襲のタイミング。作戦内容の確認と調整を全て行い、いよいよ作戦開始が目前に迫る。吹雪は相も変わらず続いているが白い煙幕は心なしか先程よりも弱くなっていた。
バーコフ分隊のメンバーの視界にはAT搭乗の際に必須となるスコープが下りており、スコープドッグのターレットレンズからの視覚情報は全てこのスコープに映し出される。そのスコープの隅には作戦開始までのカウントダウンをコンマ五桁まで表示するタイマーが残り十秒を切っていた。
ある者は固唾を飲み、ある者は操縦桿を握り締め、ある者は深呼吸する。このベースに集まった十人の男達は思い思いの方法で精神を落ち着かせ、目の前の作戦に集中する。
やがて、タイマーが一秒を切り。その後ろにある五桁の数字が左から次々と0に変わり、全てが0になると作戦開始の声が上がる。
『作戦開始!!』
十体のロボットが一斉に駆け出した。ベースに薄く降り積もった雪を巻き上げ、D51の唯一の進軍ルートであるビル群の谷間へと突き進む。
ベースを飛び出した所で陽動部隊と奇襲部隊に別れ陽動部隊はそのまま西の窪地に向けて直進。奇襲部隊は窪地手前で進路を変更し、手筈通りに南の小さな迂回路に向かう。
陽動部隊の六体が雪で出来た丘を乗り越えて窪地に顔を出すと同時に銃弾が雪を舞い散らせる。先頭を走っていたバーコフとリーダー機は素早く崩れた高速道路に身を隠すと、後続の四機も同じく身を隠す。
暫くの間は高速道路の瓦礫の向こうで爆風や銃弾が絶え間なく轟き、その度に瓦礫の破片がパラパラと剥がれ落ちる。敵の攻撃が止んだ事を確認するとバーコフ分隊とリーダー機は左右から顔を出してお返しとばかりに猛攻を開始。
マシンガンにミサイルポッド、ソリッドシューターにグレネードランチャーが窪地の向こう側に殺到する。敵も同じく崩れた高速道路に身を隠して攻撃をやり過ごし、武器のリロードが完了すると再びバーコフ達を攻撃する。
この攻防が二回ほど入れ替わる頃には吹雪は殆ど収まり、鉛色の雲の合間からは太陽が顔を出そうとしていた。
EUST部隊の三回目の攻撃中、それは背後から現れた。四機のブラストランナーが背後のビルから飛び降り、その手にはアサルトライフルにガトリングガン、ショットガンにニュード機関銃が握られている。
銃口は既にEUSTのブラストに合わせており、四機のブラストは躊躇うこと無く引き金を引いた。
銃口から次々と鉛弾にニュードの弾丸が撃ち出され攻撃の真っ最中で後ろが無警戒になっているブラストの集団に殺到。頭部を撃ち抜かれた機体、コックピットである胴体に直撃した機体、今、まさに投擲しようとしている手榴弾に命中し右腕が跡形も無く吹き飛んだ機体。
EUSTのブラスト集団は奇襲の初撃で半分が撃破され、運よく生き残った半分も次の瞬間には前後からの攻撃によってスクラップと化した。
文字通り一瞬で敵ブラストの集団を撃破したGRFのメンバーは一度窪地に集まり、最終目標である敵ベースに向けての進行準備を整える。あとはベースで待ち構えているであろう残りの敵防衛部隊だが、この数でなら間違いなく制圧できる。
弾装の交換を終えて簡単な機体チェックも済ませると十機のロボットはEUSTベースへ向けて進軍を開始した。罠を警戒しつつ今度は作戦開始の時よりも幾分か緩やかに機体を走らせる。
崩れた高速道路を越えて、奇襲部隊が飛び降りたビルの角を曲がり後はこのまま直進するとEUSTのベースへと辿り着く。
と、バーコフの視界中央に何かが映った。バーコフは目を凝らして中央の黒い物体を確認しようとするが焦点が合わないのかおぼろげな輪郭しか見えない。バーコフはスコープドッグのターレットレンズを切り替えて焦点を合わせると、今度は物体がハッキリと見えた。
バーコフの眼に見えたのは黒い巨鳥だった。左右の巨大な翼からは青い噴射炎を噴き出し、その翼の下にはバーコフから見て左側に三つの銃口を持つチェインガン、左側に大口径のグレネードランチャーがぶら下がっている。
そして物体の中央、鳥の嘴を思わせるその箇所には緑色の光球が徐々に大きなっていた。バーコフの背筋に寒気が走る。
『避けろ!!』
バーコフは叫ぶと同時に機体を右に、分隊のメンバーも左右に素早く機体を逃がす。ブラストランナーに乗ったリーダーとショットガンを持つ機体も咄嗟に機体を右に逃がした。
反応が遅れてその場に棒立ちとなった残りの三機のブラストランナー。次の瞬間には彼等は緑色の光に跡形もなく吹き飛ばされた。
『ワフトローダーだ!! 逃げろ!!』
リーダーの男は機体を立て直しつつ叫ぶと、退却するように指示を飛ばす。バーコフ分隊も彼の叫びから黒い鳥――ワフトローダーが自分達には到底敵わない敵であることを悟る。
機体を起こして逃げようとする彼等に容赦なくチェインガンから鉛弾の暴風雨が、グレネードランチャーから榴弾の雨が、ニュードキャノンから死の一撃が降り注ぐ。
黒い死神から逃げるために今にも崩れそうな機体を必死に制御し、左右に蛇行しながら七機のロボットは逃げ惑う。
来た道を戻ってビルを曲がり、窪地を越え、高速道路の瓦礫を越えて酷く長く感じた道のりを走り続けて自軍のベースへと逃げ延びた。バーコフ達は被っているヘルメットから伸びるノズル、そこから供給される酸素を貪るように吸い込み恐慌する心臓と頭を何とか落ち着かせた。
『い、一体なんだありゃ!?』
『ワフトローダー、ブラストランナーが搭乗する兵器だよ。まさかあんな物を持っているなんて……』
リーダーの男も深呼吸しながらバーコフの質問に答える。
全員の精神が落ち着いた所で改めてリーダーの男は先程の兵器、ワフトローダーの説明を始めた。
曰く、三機までブラストランナーが搭乗することが可能であり。それぞれ操縦、チェインガン、グレネードランチャーを担当する。当然ながら耐久力は並外れており余程の高威力の武器をまとめて直撃させない限りは撃破は困難を極める。
更に悪い事にあの黒いワフトローダーはシールド発生装置を装備しており、正面からの攻撃は殆どが無効化されるとのこと。
弱点は後方の操縦席下部に設置されたニュードラジエーターだが、そこを狙う為にはチェインガンとグレネードランチャーの攻撃を掻い潜ならければならない。
そこまで聞いてバーコフは自分達が完全に手詰まりである事を悟った。
高威力の武器など自分達の機体にはある訳が無い。弱点であるラジエーターを狙うにしてもあの二つの銃座の攻撃を避けながら狙うなど不可能。銃座を先に破壊しようにもシールドを展開されてはやはり無意味だ。
オマケにワフトローダーの護衛の為に随伴のブラストランナーも数機付いているであろう。
『俺達の手持ちの武器で一番威力が高いのは恐らく俺のミサイルポッドと、ゴダンのソリッドシューターか』
『俺はグレネードランチャーかこの近接戦用のデュエルソード、それかこいつのリムペットボムVだな……』
リーダーの男が言うと、ブラストランナー部隊で唯一生き残った機体が腕に装着された弾装から縁が黄色に塗装された、アンテナ付きのリモコン爆弾を取り出した。
『このリムペットボムをラジエーターに纏めて直に貼り付けることが出来れば間違いなく破壊は出来るのだが……』
『自殺行為、だな』
『それか、自分の機体に纏めて貼り付けてワフトローダーに抱きついて自爆するか……。無論、これは言うまでも無く却下だが』
この場で唯一あのワフトローダーを撃破できる可能性を秘めているのは、ブラストランナーの持つリムペットボムVのみ。しかし、撃破するには弱点に直に、しかも纏めて設置して爆破しなければならない。
あとはリーダーの男が冗談で口にした所謂『神風アタック』を犠牲は承知の上で仕掛けるか。無論、自ら進んで犠牲になろうと考える高邁な精神の持ち主はこの中に居るはずも無い。生きる事に誰よりも何よりも執着しているバーコフ分隊は言わずもがな。
何か、何か、策は無いのかと全員が頭を捻っている最中。キリコだけは別の事を考えていた。
キリコだけはベースの北西にそびえ立ちベースに長い影を落とす一際高く傾いたビルをじっと見つめ、何かを考えていた。やがて考えを纏めると自分の考えをバーコフに伝える。
『分隊長、あのビルは使えないか?』
『ビル? あのやたらと高いビルか?』
『まさか、あのビルから飛び降りて奇襲をかけようってか?』
『それは違うなゴダン、俺の作戦はこうだ』
キリコが考え出した作戦、自分達の手持ちの火器であの黒い巨鳥を撃破することが出来るかもしれない唯一のプラン。キリコの作戦を聞き終えた六人は、この手詰まりの状態で一筋の光明を見出した。
『そうだな、これ以上のベストな作戦は無いだろう。キリコの案で行くぞ』
『だったら早速準備を始めよう、敵もそろそろ体勢を整えてこっちに来るはずだ。時間が無い』
バーコフとリーダーの男はキリコのプランを再確認し必要な準備を揃えるためにメンバーに指示を出す。誰もが生き残るために全員は懸命に動き続けた。
やがて全ての準備が整い、本日二度目の作戦開始が告げられる。
『失敗は許されないぞ、作戦開始だ!!』
生き残りをかけた作戦の火蓋は切って落とされた。ベースから三機のATが飛び出しキリコを先頭に後ろにザキ、更にその後ろにコチャックが続く。三機は雪を巻き上げ白い航跡を残しながら奇襲をかけた窪地へと向かう。
瓦礫に身を隠して前方の様子を窺うと、丁度ビルの曲がり角から黒いワフトローダーが顔を覗かせた。その下には随伴の数機のブラストランナーが歩いている。
『確認した、派手に行くぞ』
『了解』
『ああ、神様……』
ザキが了承を、コチャックが祈りを呟くと三機のATは瓦礫の脇から顔とマシンガンを覗かせて一斉に発砲。数発の銃弾がワフトローダーのボディに命中するが、掠り傷が付くほどであった。
ワフトローダーは機体の前面に半透明の六角形の集まり。ハニカム構造のシールドを展開すると主砲のチャージを開始する。その間にも左右の銃座は絶え間なく鉛弾と榴弾を吐き出し続けた。
キリコ達はワフトローダーがシールドを展開した時点で瓦礫から離れて後退を開始していた。最後にコチャックが離れた所で榴弾と銃弾が瓦礫に襲い掛かり粉々に撃ち砕く。
三機のATはワフトローダーの攻撃を避けながら後退しつつマシンガンを撃ち続け、遂にはGRFベースの目の前に辿り着いた。ベースの入り口前に三機のATは並び、黒い鳥と対峙する。
巨鳥の嘴には溢れんばかりの光を放つ緑色の光球が今にも放たれようとしていた。限界まで充填されたニュードキャノンの直撃を浴びれば、痛みを感じる間もなくあの世へ行きである。
左右の銃座も銃口をATに向けてトドメを刺さんと狙いを定めた。随伴するブラストランナーも各々の獲物を構える。
そんな絶対絶命の状況下、キリコはただ一言だけ呟いた。
『今だ』
キリコ達の左側、一際背の高いビルの根元が爆ぜた。
老朽化して傾き危ういバランスでなんとか持ち堪えているビルの根元が一気に吹き飛ばされ、支えを無くしたビルはゆっくりとその身を落とす。その先には黒い巨鳥が。
ビルは途中で自重に耐えられなくなり中程から真っ二つに折れた。折れたビルの片方は先に逃げようとしたブラストランナーを容赦なく踏み潰し、もう片方は後退して避けようとしたワフトローダーに直撃した。何倍、何十倍もの質量の塊がワフトローダーを押し潰す。
やがて、限界に達したニュードキャノンは放たれること無く砲身内で暴発し、黒い鳥は自らの武器でその身を滅ぼした。
『撃破確認』
キリコがそう告げると、崩れたビルの根元から二機のATとブラストランナーが姿を現した。ATが持つソリッドシューターと肩のミサイルポッド、ブラストランナーがもつグレネードランチャーからは硝煙が立ち昇っている。
『やった……よな?』
『ああ、ブラストランナーも全滅。敵影は一切なし。俺達の勝利だ!』
七人が勝鬨を上げる。不可能と思われたワフトローダーの撃破、それをキリコの作戦――敵を誘き寄せ、手持ちの火器を使ってビルを破壊し、その下敷きにする――は見事に成功。
生き残った者たちは生きている喜びを噛み締め、搭乗する機体でその喜びを表現する。が、その喜びも長くは続かなかった。
七機のコックピットに鳴り響くアラート音。ディスプレイには新たな機影が一つ。瞬きを終えて瞼を開けた次の刹那には一機ブラストランナーが左右に割れていた。
頭頂部から股までを綺麗に一直線に切り裂かれ、搭乗していたパイロットは自分の身に何が起きたのか知らぬまま散っていった。
切り裂いた本人――全身を夜を思わせる漆黒の一色に染め、右肩を血の様な暗い赤で染め抜いたブラストランナーは、振り下ろした巨大な片刃のブレードを右に振り抜く。その先にはリーダーの男が乗っているブラストランナーが。
刃が叩きつけられ、今度は胴体を横に真っ二つに切り裂いた。ここで新たな敵に反応したゴダンがソリッドシューターを放つ。が、黒いブラストランナーは後退せずに逆にゴダンのATへと踏み込み、そのままショルダータックルを浴びせた。
『ゴダン!!』
バーコフが叫ぶと、黒いブラストランナーはすぐさまバーコフの機体を狙い。ブレードの峰の部分を叩きつける。胸部に命中した一撃は薄いスコープドッグの装甲を大きくへこませながら吹き飛ばした。ゴダンとバーコフのスコープドッグはビルの下、キリコ達がいる場所へと叩き落とされた。
一瞬にして二機を完全破壊し、更に二機を無力化したブラストランナー。突如、現れた敵にキリコ、ザキ、コチャックは警戒する。
黒いブラストランナー。鋭角的な身体つきに、その頭部には鬼を連想させる一本の角が生えており、バイザーアイがキリコ達を睨みつける。
「野郎!!」
ザキがしびれを切らして手に持つマシンガンでブラストランナーを撃った。黒いブラストランナーは即座にその場から飛び上がりキリコ達から離れた場所に着地する。
手に持った巨大な片刃のブレードを背中に背負うと、ブレードは中央から折り畳まれて背中に収まった。代わりに取り出したのは二丁のサブマシンガン。
右手のサブマシンガンは延長マガジンにロングバレル、バレルの下には本来は左手で握る為のグリップが装着されている。まるで旧式の銃に無理矢理カスタムパーツを取り付けたような外見をしている。
左手のサブマシンガンは逆にグリップこそ付いているものの、それ以外にカスタムパーツは見当たらず。無駄な装飾の一切を省いた軍用のサブマシンガンを思わせる外見。
黒いブラストランナーは腰のブースターから赤い噴射炎を噴かすと、蛇行しながらキリコ達に接近してきた。ザキが再びマシンガンを放つが、黒いブラストは嘲笑う様に旋回しながら銃弾を悉く避ける。
キリコ達との距離を半分まで詰めると黒いブラストは両手のサブマシンガンの引き金を引き。ザキに向けて銃弾の雨を浴びせた。ザキも避けようとするが、その前にATの足を撃ち抜かれて動きが取れなくなり、その隙を付いて銃弾が浴びせられた。
『ザキ!!』
距離を詰めたブラストランナーは今度はコチャックに向けて回し蹴りを放つ、速さと体重が乗った重い蹴りの一撃。その直撃を浴びたコチャックは呻き声を上げる暇も無く壁に叩きつけられた。
そして最後に残ったキリコ。黒いブラストは両手のサブマシンガンの銃口をキリコのスコープドッグに向けると、同時に黒い穴がバイザーアイに突き付けられる。キリコも同じくマシンガンの銃口を黒いブラストに向けていた。
両者は微動だにせず二つと一つの銃口を向けあい静かに時が流れる。キリコは操縦桿のトリガーに指をかけ何時でも撃てるようにしていた。
やがて、観念したのか黒いブラストが腰のブースターをキリコのスコープドッグに向けると、全力で噴射させ後退して行く。
キリコは去って行くブラストランナーに銃口を向けたまま、その姿が消えるまでトリガーから指を離さなかった。やがて黒いブラストが地吹雪の向こうに消えるとキリコは安堵のため息を吐き、震える指をトリガーから話す。
そして、キリコの脳裏には過去の悪夢が蘇っていた。右肩を血の様な暗い赤で染め抜いた鉄の悪魔、吸血部隊レッドショルダー。決して忘れることが出来ない暗い過去。どれだけ走っても、どれだけ逃げ続けても追いかけてくる悪夢。キリコは頭を押さえ、必死にその過去を忘れようと頭を振る。
「あいつは一体、なんだったんだ……」
キリコの疑問に答える者はいなかった。