装甲騎兵ボーダーブレイク   作:第22SAS連隊隊員

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鉄のララバイ 前篇

鉄のララバイ 前篇

 

ここはギルガメス軍の基地、現在の時刻は満月が空に浮かぶ夜である。敷地内のブリーフィングルームにはバーコフ率いるバーコフ分隊の五人がパイプ椅子に座っていた。

室内はプロジェクターを投影するために明かりは点いておらず、唯一の光源である正面スクリーンに映し出された映像から、ぼやけた光がおぼろげな影を五人の足元に落とす。

十の瞳の先にはスクリーンが。そこにはギルガメス軍の制帽を被り、胸には煌びやかな勲章を付けた一目で高官とわかる金髪の男が映っている。

 

『諸君らの次の任務は、EUSTが秘匿していると思われるブラストランナー、及び大量のニュードの確保だ。数日前、こちらにEUSTが妙な動きをしているとの情報が入った』

 

画面が男から巨大な施設を真上から撮った衛星写真に切り替わり、施設の搬入口と思わしき箇所が拡大される。

モザイクだった画像が徐々に鮮明になって行き、最後には入り口前に並ぶ大量のコンテナが見えるほどに鮮明になった。

 

『見ての通り不自然な程に大量の物資と機体が運び込まれている。この施設はニュード戦争前に放棄された施設だが、EUSTは逆にそこを突いたのだろう。わざわざ捨てられた場所を探索する者もおるまい』

 

男が説明している間にもスクリーンには次々と拡大写真が写され、大量のコンテナに混じって荷台にシートがかけられたトラックも写っている。シートの表面には人型の模様が浮き出ており積まれている物がただならぬ物であることを示していた。

 

『そこで諸君らにはこの施設に隠された大量のニュードとブラストランナーの確保を命ずる。この二つを手に入れることが出来れば戦況はGRFに大きく傾くことは間違いない』

 

再び男の映像に戻り、改めてバーコフ達に今回の任務が伝えられた。男――ギルガメス軍情報省次官であるフェドク・ウォッカムは薄い笑みを浮かべながら任務を遂行する自分の部下達に言葉をかける。

 

『無論、確保が不可能な場合は破壊しても一向に構わん。敵にくれてやるくらいなら跡形も無く燃やした方が良いからな。それと、君たちには此方から特別仕様のATを渡す。今回の任務はそれに搭乗して遂行してくれたまえ。決行は三日後の予定だ。それでは健闘を祈る』

 

ウォッカムは最後にそう締めくくると同時に映像は途切れた。正面のスクリーンには何も写らず、白い布だけがそこにある。

やがて部屋の照明が点けられスクリーンも天井に仕舞われて行く。ブリーフィングを終えた五人は座り心地の悪いパイプ椅子から立ち上がると、思い思いに伸びをする。

一通り身体の疲れを取ると彼等を率いる分隊長であるノル・バーコフが隊員を見回す。

 

「とまぁ、聞いての通り。お偉いさんから直々の命令だ。今回の作戦は今までの中で最大規模の作戦になるだろう」

 

「しかし、特別仕様の機体まで寄越してくれるなんざ随分と気前が良いな。こういう時は大抵、碌でもないことがあるってのがお約束だ」

 

「それだけ今回の作戦は重要ってことじゃないのか?」

 

ウォッカムの口から語られた「特別仕様の機体を渡す」という言葉。一見するとまるで専用機を与えられるような意味に聞こえるが、彼等は情報省特殊部隊ISSの隊員であっても所詮は幾らでも替えの利くボトムズ(最低野郎)であることに変わりは無い。

そんな自分達に上司は特別な機体を渡すと言うのだ。胡散臭い物を感じるのは当然だが、とりわけ今まで命を狙われ続けてきた男、ゴダンは特に疑っている。

しかし、それに異を唱えたコチャックが言ったように重要な作戦に惜しみない投資をするのもまた当然。作戦が成功を収め、投資した以上の利益を得ることが出来るのならばこの待遇も納得出来る。

 

「考えても仕方ねぇよ。どっちにしろ俺達は命令に従うしかないんだ」

 

バーコフ分隊の中で最年少であるザキは、ふたりの意見をこの言葉で纏めた。

たとえ彼らがどれだけの疑念や猜疑を向けようが、上官からの命令は絶対。軍隊の鉄の掟の前では一兵士の意見など塵芥にも満たない。ましてやそれがボトムズならば尚更である。

無口なキリコを除いた分隊の四人は暫くの間、ブリーフィングルームの中でああだこうだと意見を交わしていたが、やがて消灯時間が近い事に気が付くとブリーフィングルームを後にして割り当てられた部屋に向かう。

各々が自分のベットに潜り、バーコフが電気を消すと部屋の中は窓から差し込む月明かりで柔らかく照らされる。月を臨むことが出来る位置にベッドがあるキリコは、満月を眺めながら収まらない胸騒ぎの原因を考えていた。

重大な作戦の前に緊張などしてはいない、これよりも重大かつ危険な作戦は今まで飽きるほど繰り返してきた。

死への恐怖も感じていない、そんな物はとうに擦り切れてしまっている。

では、この胸騒ぎの正体は一体なんなのだろうか? 青い瞳に黄色い月を映しながら考え、キリコが辿り着いた答えは至極曖昧で抽象的な物。己の第六感、つまりは勘であった。

こんな考えに辿り着いた結果にも自分にも呆れてしまう。しかし、だからといってその考えを否定できない自分もまたそこに居た。

キリコは小さな溜息を一つ吐くと、仰向けになり瞼を閉じる。そして意識が眠りに落ちる直前に一つだけ祈った。

――願わくば、全員が生きて帰れるように。と

 

 

 

 

 

ウォッカムから作戦の指令が下されてから三日後。いよいよ作戦決行の日が訪れた。曇天の空の下、軍事施設で多くの人間が動いていた。

現在バーコフ分隊はGRFとの合流地点である中継基地にて準備を行っており、周りでは多くの兵士が慌ただしく走り回り、幾つものATやブラストランナーに物資があちこちを行き交っている。

そんな中でバーコフ達は今回の作戦で自分達が搭乗する特別仕様のATの点検を行っていた。彼らの前にはトラックの荷台に乗せられた馴染み深いAT、スコープドッグが五体並んでいる。

しかし、カラーリングは何時もの緑色では無く全身が艶消しの黒一色に染め上げられている。左肩には彼等の現在の所属であるISSの文字が刻まれており、左背中には煙突のような形をした姿勢制御用のジャイロバランサー。踵の部分には標準装備の加速用ブースターが、各機体の武装も全て新品であり傷一つ見当たらない。

自分達がこれから搭乗する機体を眺めながら、普段着用している赤い耐圧服では無く、目の前のスコープドッグと同じく新品の黒い耐圧服に身を包んだバーコフ分隊が並んでいた。

文字通り何から何までの至れり尽くせりにゴダンは口笛を吹く。

 

「ヒュー、こりゃまたVIP待遇だな。特別仕様とは聞いていたがここまで良い機体を寄越してくれるとはね、オマケに耐圧服も新品と来たもんだ」

 

「元は宇宙戦や低重力戦を想定した機体らしいが、地上で運用するにも全く問題は無いそうだ。ありがたく使わせてもらおう」

 

「すげぇ……、精製されたばかりのポリマーリンゲル液だ。しかもかなり質の良いやつ」

 

ゴダン、バーコフ、コチャックは自分達に渡された機体について感想を口にする。彼らの言葉を聞いて分かるように、この黒いスコープドッグはATと言えど他のATとは一線を画する機体である。

これから重大な作戦に向かうにも関わらず、三人はまるで新しい玩具を与えられた子どもの様に喜んでいた。その横でザキはどこか呆れたような表情を浮かべ、キリコは何時も通りの無表情で機体のチェックを行っていた。

そんな五人の元に近付く四人の人影が。

 

「よぉ、これで三度目だな」

 

「ゴードン! もしかしてお前達もこの作戦に参加するのか?」

 

「まぁな、聞いた話じゃEUSTが大量の物資を隠し持っているそうだな。それを確保出来ればGRFにとって大きな戦力になる」

 

「偶然とはいえ、また出会うことになるなんてな。よろしく頼むぜ!」

 

「よろしくお願いします」

 

「また頼むぞ」

 

近付いてきた四人はウーハイ産業港にてバーコフ達の危機を救った中年の男ゴードン。バレリオにて敵防衛部隊の足止めを行った血気盛んな若いレオに、落ち着いた物腰が印象的なレオと同程度の年齢のレイン、そして老齢に達していながら眼光の鋭さは四人の中で最も鋭いゲルトの四人であった。

ゴードンとはこれで三度目、レオ達とは二度目の出会いになる。

 

「今回は大規模な作戦らしいからな、俺達も機体を最新鋭の機体にしたぜ」

 

ゴードンが右手の親指で自分の後ろを指差すと、その先には四機のブラストランナーの姿が。

細かい部分は変わっている物の、全体的なデザインはかつてバレリオで彼らが搭乗していた機体と変わっていないため、誰がどの機体に搭乗するのかは直ぐにわかった。

右端に立つ分厚い装甲に身を包んだ、緑を基調とし縁を黄色で塗装した四機の中でも一際大柄な体格のブラストランナー、ヘヴィガード。ゴードンが今回用意したのはその最新鋭のモデルであるヘヴィガードG型である。

その隣に立つのは頭部の両脇に獣の耳を思わせるパーツが特徴の白のボディに赤いラインが映える機体。決して細すぎず太すぎず、無駄のないシンプルな体格が印象強いクーガーシリーズの最新モデルのクーガーNX。この機体はレオが操る。

更にクーガーの左隣に立つのは、肉と言う肉を極限までそぎ落とし骨だけを残したかのような極度に細い手足が特徴のE.D.G.。今回の作戦でレインが使うのはE.D.G.シリーズの最新型、漆黒に塗装されたE.D.G.-θ。

左端に鎮座するは、この機体だけ脚部が存在せず代わりにホバーとなっているブラストランナー。左右に分かれたホバーの前面にキャタピラの様な装甲が付けられたネレイドシリーズの最新作、ネレイドRT。オレンジと白に塗装されたこの機体はゲルトが操縦を行う。

 

「信用できるお前たちに最新鋭の機体か、これは頼もしい限りだな」

 

「お前達も今回は何時もと違うATに乗るみたいだな。期待してるぜ」

 

そう言うとバーコフとゴードンは互いの右の拳をぶつけ合った。

それから彼等は今回の作戦についてニ、三話し合い。互いの健闘を祈るとゴードン達は機体の元へと走って行く。

作戦開始の時間は刻一刻と近づいていた。

全ての準備が整いギルガメス軍とGRFの双方は目標である施設へと進軍を開始する。長い隊列から一機のヘリが列を外れて明後日の方向へと進む。

 

「いいか、俺達は今回、搬入口の反対側にある格納庫入口から侵入する」

 

ヘリの機内ではバーコフが床に地図を開いて今回の作戦についての説明を行っていた。

今後のGRFとEUSTとの戦況を左右する一大作戦とだけあって、キリコを始めとするメンバーの顔付きは何時になく真剣であった。

 

「この施設は搬入口と格納庫入口を除いた周辺が全て山に囲まれている。まず本体が搬入口から攻撃を仕掛けて隠れている防衛部隊を燻り出す」

 

バーコフが地図に描かれているニ箇所を除いて周辺が山で囲まれた施設の右側、すなわち搬入口を指で叩いた。

 

「しばらくして敵さんを誘き出せるだけ出したら、本命である俺達の出番だ。手薄になっているであろう格納庫の入り口から侵入する」

 

バーコフが今度は施設の左側、格納庫を指で叩く。

 

「あとは奥に隠されているであろうブラストランナーとニュードを確保。そして敵の中枢を制圧して任務完了だ。シンプルで分かりやすいだろ?」

 

作戦の概要を説明し終えたバーコフは笑みをメンバーに向ける。それに応えるようにキリコを除いた三人は笑みを浮かべた。

バーコフを地図を畳み、畳んだ地図を耐圧服のベルトの裏にしまうと床に置いておいた黒いヘルメットを脇に抱えて立ち上がる。それに倣う様に分隊の四人もヘルメットを手に立ち上がった。

彼等はATが格納されているヘリ後方の部屋の扉を開けると、薄暗い機内に溶け込むように佇むスコープドッグに素早く乗り込んで行く。搭乗した者から機体のハッチを閉じてミッションディスクを挿入すると、機体のOSを立ち上げた。

狭いコックピット内の計器に次々と光が灯り、挿入されたミッションディスクを読み込む。一分もしない内に機体のOSは完全に立ち上がり、スコープドッグは何時でも戦える状態になった。

そうこうしている内にヘリは目的の格納庫に近付いたらしく、パイロットから機体投下の準備をするように通信が入る。

キリコは何時まで経っても収まらない胸騒ぎを無理矢理に胸の奥に押し込め、慣れた手付きで機体のチェックを行っていた。

武装はロングバレルのへヴィマシンガンに右肩の十二連ミサイルポッド、スコープドッグには標準装備されている炸薬を使用する左腕のアームパンチ。過剰な火器を排してシンプルで扱いやすい装備のみを纏めた、実にキリコらしい仕上がりになっているスコープドッグ。火器管制のチェックを行い異常が無いことを確認。

思えば今までの人生の中でこの鉄の棺桶を操り、多くの同僚の兵士たちと共に戦い、そしてその全てが散って行った。バーコフ、ゴダン、ザキ、コチャック。キリコと共にここまで生き延びて来た彼等は、レッドショルダー時代の三人組と同じかそれ以上の時間を共にした。

ここまで来て脱落者を出す訳には行かない、誰一人欠けること無く全員で生還してみせる。キリコは胸中でそう決意すると、被ったヘルメットに降りているゴーグルのケーブルを座席のプラグに繋いだ。

ゴーグルのレンズが赤から青に変わるとキリコの視界にヘリ内部の壁が映る。手元のコンソールを操作してATのターレットレンズを切り替えて、ゴーグルと機体の接続に異常が無いことを確認すると通信でバーコフに準備完了の旨を伝える。

 

『分隊長、準備が完了した』

 

『こっちもだ、何時でも行けるぜ』

 

『準備が完了したぞ!』

 

『機体に異常なし、さっさと終わらせようぜ』

 

『ようし、全員大丈夫だな。いよいよだぞ』

 

バーコフの元に次々とメンバーの準備完了の報告が伝えられる。バーコフは自分達の準備が完了したことをヘリのパイロットに伝えると、バーコフのゴーグルに映る内壁が左右に開いて行く。黒い壁の中央から覗いたのは、鉛色の雲が浮かぶ空に赤茶けた大地。

機体を固定している拘束具が前のめりにせり出し、機体が前傾姿勢に傾く。鉛色の空が見えなくなり代わりに見えたのはニ箇所を除いて周りを山で囲まれた、赤茶色の大地に良く映える白いドーム状の施設。

ドームの左右には道が伸びており、自分達がこれから突入する格納庫とは反対側の道から、友軍であるギルガメス軍とGRFの混成部隊の姿が見えた。

 

『機体投下十秒前!』

 

パイロットのアナウンスにバーコフ分隊は視線を友軍から真下に動かす。そこには細い道が一本だけ伸びている。

 

『九、八』

 

バーコフはATの操縦桿を握り締めた。ヘリから投下されればあとは自分が指揮を取らなくてはならない。

 

『七、六』

 

ゴダンは右手で拳を握り締め、それを左手で鳴らしていた。どんな相手が来ようとも邪魔をするなら容赦しない。

 

『五、四』

 

コチャックは震える身体を必死に抑え込みながら前を睨んでいた。ここまで来たんだ、今更逃げられないことは分かっている。

 

『三、ニ』

 

ザキはヘルメットの下で渇いた唇を舌で舐め、湿らせていた。今までも五人で潜りぬけてきた修羅場の数々、それに比べれば今回の作戦は欠伸が出るほどに単純で分かりやすい。

 

『一、ゼロ!』

 

キリコは閉じていた目を開き、目の前の景色を見据えた。操縦桿を握り締めると同時に身体に感じる浮遊感、次の瞬間には重力によって全身が地面に向けて強烈に引き寄せられる。

ヘリから黒い五体のATが投下された。投下されたATは徐々に加速して急速に地面との距離を縮めて行く。ある程度の位置まで落下した所でバーコフ分隊全員の耳にアラート音が鳴り響く。

五人は迷うこと無くレバーを引いて機体の背中に装着されたパラシュートザックを開いた。スコープドッグの背中のパックから白い布が顔を出して尾を引いて行く。

一瞬で白い布は傘を開いてパラシュートとなり、落下している機体を重しにしてゆっくりと地表に降下させて行く。五機の黒いATが赤茶けた大地を踏み締め、上半身が前に深く沈みこみ衝撃を吸収するAT独特の降着姿勢で完全に着地した。

バーコフが全員が無事に着地したことを確認するとパラシュートザックを切り離し、残る四人も同じく切り離す。役目を終え、炸薬によって強制排除されたパックが地面に落ちる前に、五人は機体を格納庫へと走らせる。ローラーダッシュによってスコープドッグの足元から赤茶色の砂埃が舞い上がり、軌跡を残して行く。

格納庫の入り口の扉は既に開かれており、バーコフ分隊は迷うこと無く飛び込んだ。蛍光灯が照らす格納庫に飛び込んだ先には左右に支柱が等間隔で並び、ハンガーには整備中の機体も存在しない殺風景な格納庫。

支柱のそばやハンガーの周りには無数の資材や燃料が詰められているであろうドラム缶が。正面には左右に並んだ二つの大型エレベーターの扉が見え、それ以外は何も見当たらない。

バーコフ分隊は格納庫内部を警戒しつつ右のエレベーターのスイッチを押した。元々人型兵器の使用を前提にしている作りらしく、ATの指先でも問題なくスイッチは押せた。

エレベーターの扉が左右に開き、内部に異常が無いことを確認すると五人は乗り込む。床の左右に並んだ向こうと手前を指す三角形のスイッチ、キリコのスコープドッグが手前を指すスイッチを踏むと、エレベーターの扉が閉まり地下に向けて降り始める。

扉の上の階数表示は最下層のB3、つまり地下三階でエレベーターは停止した。ゆっくりと左右に開いて行く扉の脇にバーコフ分隊は隠れ襲撃に備えるが、扉が完全に開かれてから十秒以上経っても弾丸は一発も飛んでこない。

バーコフとゴダンが搭乗するスコープドッグが、エレベーターの左右から顔だけを出して前の様子を窺がう。エレベーターの前には長い一本道の通路が続いており、人影や機影は全く見当たらない。

 

『お留守みたいだな』

 

『胡散臭いが、ここまで来たら引き返すわけにもいかねぇな』

 

バーコフとゴダンの二人がゆっくりとエレベーターから出ると、後続の三人も警戒しつつ後に続く。五人の機体がエレベーターを出た所で扉が閉まった。

一本道の通路は天井の照明が薄暗く照らしているものの、かなりの距離があるらしく通路の先は暗闇となっていた。バーコフを先頭に五体のATは通路をローラーダッシュ特有の甲高い音を響かせながら疾走する。

しばらくの間、通路を進み続けると左右に細い分かれ道が出てくるが、バーコフは構わずに通路を直進し続ける。

 

『なぁ、さっきから分かれ道を無視しているけど大丈夫か?』

 

『コチャック、お前だったら人に取られたくない沢山の物をどこに隠す? 尚且つそれが緊急時には直ぐに動かせる必要もあるのなら?』

 

『そりゃ……ああ、そういうことか』

 

バーコフの謎掛けの答えにコチャックは納得した。EUSTが隠しているとされるブラストランナーに大量のニュード、万が一にでも敵に見つかった場合は少しでも多く非難させる必要があるだろう。

特にブラストランナーの様な兵器は戦場で動かせてこそ真価を発揮する。それをわざわざ戦場から遠く離れた場所に隠しては意味が無い。

 

『この通路は恐らく作業機での通行を前提に作られている。左右の分かれ道は作業機が擦れ違えるほど広くないから、いざという時は物資を持ち出しにくい』

 

『となると、この広い主通路の先にある部屋に目標が……』

 

『だろうな』

 

ザキの呟きをバーコフは肯定すると、スコープドッグを加速させる。機体の足元から先程よりも激しく火花が飛び散り薄暗い通路を僅かに照らす。

やがて、バーコフ達は通路の先にあった扉の前に辿り着いた。扉の脇には開閉スイッチが設置されており、バーコフのATがスイッチに指先を乗せて後ろを振り返ると四機のATが腕を上げて応える。

スイッチが押し込まれ小さな電子音が鳴ると扉が左右にゆっくりと開き始めた。バーコフ達は得物を構えながら様子を見るが、扉の先の暗闇に動く物や敵の気配は感じられない。

扉が完全に開き、バーコフ達の目の前に黒い壁が出来た。先頭のバーコフが部屋の様子を窺がいながら一歩足を踏み入れると、途端に部屋の照明が点いた。

一瞬にして部屋が照らされバーコフの機体はターレットレンズを腕で覆う。やがて眼が明かりに慣れたバーコフは、ゆっくりと腕を下ろすと部屋を見回す。

大きな部屋の中には作戦前のブリーフィングで見た物と同じコンテナが積まれており、敵が隠れている様子は無い。バーコフは後続に安全であることを伝えると四人は次々と部屋に入る。

 

『誰もいねぇな』

 

『御留守の様だが……。コチャック、コンテナを調べろ』

 

『あいよ』

 

ゴダンが敵がいないことを訝しがっていると、バーコフはコチャックにコンテナを調べるよう指示する。コチャックのATは近くにあったコンテナに近付いて蓋に手をかけると、そのまま持ち上げた。

 

『あ、ああ!?』

 

『どうした?』

 

『な、なんだこれ!?』

 

コチャックが開いたコンテナ。その中には大量のニュードの代わりに、大量のコードに繋がれた巨大な四角い物体。大型の爆弾の姿が。

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