道、いや、森の中を歩いていた彼女は、驚いて立ち止まった、大きな塊が最初何なのかわからず驚いた、大きな蛇、トカゲだろうか、動かないところを見ると死んでいるのかと思い、用心しながら、ゆっくりと近寄ってみた。
だが、動き出す気配や動きはない、その前に、これは何という生き物なのか、わからなかった。
やはり、ここは自宅、近所付近ではない、ゲームや映画、何とか物語りの小説のような世界なのだろうか、一瞬、寝ぼけている夢を見ているのだろうかと思ったが、空気の匂い、風を感じるのだ。
家で洗濯をして、夕飯の買い物に行こうとしていた矢先、気がつくといつの間にか、知らない場所にいたなど、非現実、そのものだ。
行の午後には付き合い始めたばかりの彼と二度目のデートの予定の筈だった。
だか、これではどうしようもない。
この森、いや、この場所から抜けようと思い歩き始めた、ところが、大きな、この生き物の死体らしきもののそばから離れようとしたとき
おいと、後ろから声をかけられた。
その街は決して大きくはないが、近くに大きな森があり、魔物がよく出ることから、冒険者や武器商人などが大勢いた。
その日は天気もよく、朝から冒険者達は自分に向いた仕事がないかと酒場や紹介所で集まり、仕事を探していた。
そんなときだ、一人の女が魔物を持ち込んできた、買い取って欲しいという申し出に受付の女性は驚いた。
女が持ってきた魔物の体の一部、足の爪は腕のたつ、武人や冒険者でも難しいとされるバジリスクだったのだ。
「これは、あなたが倒されたんですか」
背負った袋から爪を取り出した女は、どう見ても普通の市井の人間だ、女にしてはシャツにズボンという軽装だ、そして剣や防具も持って、いや、身につけていないのだ。
「いいえ、私の連れが倒したんです、代理としてきたんですが、いけなかったでしょうか」
受付の女にじっと見られて女は慌てたように説明を始めた。
「では倒された方の名前は、こちらのギルドに登録されているなら」
女は驚いて、登録って何ですかと尋ねた、この反応には受付の女が驚いた、いったい、どこの田舎から出てきたのだろうか、ギルドの規定を知らないようだ、いや、ふりをしているだけてかもしれない。
怪しいという感が働いた、周りの冒険者達も、こちらの様子を伺っているというか、聞き耳をたてていたのだろう、じろじろと、伺うような目つきで女を見ている。
「無理ならいいです」
女が立ち去ろうとする気配を感じて受付は引き止めなければと思ったが、それより早く周りの冒険者、一人の男が女に声をかけた。
「なあ、あんた、横取りしたんじゃないだろうな」
自分では到底無理な獲物を倒した冒険者、男達や仲間に近づき、魔法や毒を飲ませて獲物を横取りする。
なまじ魔物相手よりも人間相手の方が楽というか簡単で、そういう性悪な人間はいるのだ、相手が女でもだ、油断して、そういう魔術師、娼婦や男娼上がりのごろつきはどこにでもいる。
男の言葉に変な言いがかりはよしてくださいと女は反論した。
慌てて激高したりすれば、益々、怪しいと反論の余地もあるのだが、女の態度は、落ち着いていた、これが演技ならたいしたものだ。
男は少し驚き、いぶかしむような顔つきになったが、周りはそうは思っていなかったのだろう。
「おいおい、女だからって見逃して貰えると思ったら大間違いだぜ」
加勢するように、別の、もう一人の男が近づいてきた。
そのときだ、ドアが開き、受付に向かってくる男が一人、全身、鉛色の鎧二身を包んだ、その男は受付にくると、私が倒したんだと隣の女を見ながらマスクの下から声をかけた。
用があって彼女に頼んだんだが、買い取りが無理なら諦めよう、別の街で売ればいいだけのことだ。
その言葉に受付の女はとんでもないと首を振り、買い取らせて頂きますと頭を下げた、ところが。
「冒険者登録はしていないんだ、この街は厳しいんだろう、バジリスクはこちらで処分する、行こうか」
「ま、待ってください」
大柄な魔物だ、別の街へ運ぶだけでも大変だし、その間に肉の腐敗も進むだろう、ところが、男は首を振った。
「肉は食料にするからいい、皮や牙は途中で売るからいい」
受付の女は、いや、周りの人間も、男の言葉に驚いた。
バジリスクの肉は堅いし、筋肉質で牙や爪には毒がある、食材になるなど聞いたことがなかったからだ。
だが、男は周りの反応も気にする様子もなく、貴族や王族の間では珍重されているのを知らないのかと受付の女に尋ねた。
受付の女は、いや、周りの男達も唖然としながら首を振った。
「森から少し離れた場所で野営をしよう」
全身鎧で覆われた男は顔にもマスクをかぶっているので素顔はわからない、男は持っていた剣でバジリスクの皮を剥ぎ、肉の解体をはじめた。
起用ですねと感心したように女が見ている側でたき火の用意を始めた男は肉を焼き始める、食べろと勧められて女は困った顔をした、未知の食べたことのない肉を勧められたからではない。
自分は男から頼まれた仕事、ギルドへ行って買い取りをしてもらう、それができなかったのだ。
「いいんだ、運が良ければと思っていたんだ、無理を承知で頼んだんだ、それより何も食べてないんだろう」
「じゃあ、遠慮なく頂きます、でも、あなたは」
「アンデットは食べ物を必要としない、睡眠とかもだ」
「そうなんですか、魔法使いというのは便利がいいですね」
男は無言になった、女には最初、自分の素顔を見せたのだ。
骸骨の頭を見て驚いたが、アンデットというのは不老不死だと説明しても、すごい漫画、映画の世界みたいですねと言われて、訳がわからず、詳しく説明するのは後でいいと諦めたのだ。
「最近、魔物の解体や買い取りが減ってきたなあ」
「そうですね」
頷いた男は上司の顔色を伺いうように、あの噂、ご存じですかと尋ねた、自分の上司である男、カインは一瞬、真顔になった、部下が何を言おうとしているのかわかったからだ。
魔物の肉を食べさせる店がある、その話を聞いたとき誰もが信じられなかった。
「行ったことがあるのか」
「いえ、ただ、知り合いが」
そうか、頷いただけで深く追求はしなかったが、その日の午後、店に一人男が現れた。
魔物の肉を料理して人に食べさせるなんていったい、どんな店なんだ噂では客は冒険者が殆どだという、ギルドや買い取り業者の一部から不満の声が出ているらしい。
城で魔法の勉強をしている魔物の毒や爪、牙からは希少な材料がとれる事があるのだが、もしかしたら、ここで変わった魔物を手に入れる事ができるかもしれない。
そんな事を考えて店に訪れた男はギルドで情報を手に入れ、返送をして店に訪れたのだ。
決して裕福ではないという冒険者に姿を変えて中に入ると、店の中は満席とまではいかないが、人は入っていた。
席に着くとすぐ側にいた男が話しかけてきた。
「顔色よくねえな、おまえさん、ちゃんと食ってるのか」
「いや、昨日から何も食ってない、ここなら安いと聞いてな」
納得したと言わんばかりに男は頷き、店の奥に大きな声で呼びかけた。
「おい、こいつにうまいもんを食わせてやってくれ、俺のおごりだ」
「えっ、おごりとは」
「遠慮すんな、その代わりおまえもいつか食いっぱぐれの冒険者に何か奢ってやれよ、いや、それよりも」
店の奥から出てきた女に男は言葉を続けた。
「定食だ、飯、大盛りでな、この男、ろくなもんを食ってないみたいだからな、頼むぜ、はっちん」
「ほんと、顔色、良くないわね、お腹が減ってるだけ、具合が良くないとか、大丈夫」
女の言葉に、その顔を見て男は驚いた。
【ジナイーダ、いや、別人だ】
「ええ、腹が減っているだけで」
「そう、待っててね、昼間だけど一杯、どう」
大皿に盛られた肉の厚みとボリュームに驚いたが、無理なく食べられる量だ、酒もそれほど強くなくて、さっぱりとして肉の油を洗い流してくれるので、また肉が食べたくなる。
食べながら男は店の奥を見た、料理人は奥だろう、給仕をしているのは女、ひとりだけだろうか。
ジナイーダ、そっくりだ。
目がどうしても時折、追ってしまう。
もし彼女なら、こんなところにいるわけがない、綺麗な、美女という言葉、そのもので、貴族が目をつけてもおかしくはない容姿で。
そういえば、こんな男だらけの場所で、誰も彼女に色目を使ったり、絡む者がいないというのは不思議だと思っていると、肘を軽く突かれた。
「おい、美人だからって手を出すなよ」
人妻なのかと尋ねると、いいやと返事だが、どこか含みがある。
「奥にいるんだよ、ちょっと、覗いてみな」
言われて、男は静かに席を立ち、店の奥を盗み見するように覗きみた。
あ、アンデットーだと。
厨房にいるのは一人の人間、ではなかった、不老不死、時には人間の敵として憎まれる
モンスターだった。
「定食二人前、追加、大丈夫、少し休む」
「アンデットに休息は不要だ」
「魔法使いだものね」
女の会話は、どこか的外れと気がしないでもない、だが。
視線はアンデットではなく女に引き寄せられてしまう。
自分の言葉は決して届く事はなかった、だが、今、目の前にいるのは、容姿が似ている、そっくりなだけというのに、男は目が離せなかった。