紅葉くんが楓さんと一緒に住むまで一気に書きました。
今回の話に伴い、登場人物紹介2の一部変更しました。
ミステリアスアイズのイベント皆さん楽しんでますか?
楓さんの高音はやっぱり最高です!
自分は順位気にせずとにかく楽しみます。
デレステを始めて初の楓さんイベントなので。
5月13日晴れ
ここ1、2年で両親共々気づき始めたことがある。
ううん、そんなわけがないと皆気にしないようにしていたのよね。
一体何がというと、マイ・スイート・ブラ・・・じゃなかった。大事な大事な弟の紅くんのこと。
紅くんは喜怒哀楽をほとんど表さないのだ。ある程度話せるような年齢になってからは泣いたところを見たことがない。
お笑いを見ても笑わないし、何かあっても怒ったり暴れることもない。親としては外出した時におとなしくしているから手のかからない良い子だと認識され、逆に私が場の空気を良くしようと奮闘するたびに冷たい目で見られていた。
でも私は悪くないわ!紅くんが感情を出せない社会が悪いのよ!
そして昨日、どうしても私は紅くんの笑った顔が見てみたかったので、以前から研究していたダジャレをいくつか披露してみた。
小さい子でもわかるような、アルミカンの上にあるミカン。うまはうまい。ハエははえーなどなどを心を込めて叫び続けた。
・・・結果は散々。表情がいつも以上に消えていき、最後は物凄く残念そうな目でため息をつかれた。
さすが私。紅くんにあんな目で見られるなんて、他人でも中々出来ることじゃないわ。
でも、私のほうが別の何か違う感情に目覚めそう・・・紅くん、恐ろしい子!
5月15日雨
紅くんのことでもう一つ気になっているものがある。それは人の名前を全く覚えていないという点だ。
動植物や地名、道具などの名詞は1度聞いただけですぐ覚えられる賢い子なのに、歴史上の人物や同級生、有名人の名前は一度も口から出てきたことがない。
感情表現の件も含めて、一度お母さんが医者に看てもらったが特に異常はなかったらしい。特別な病気などではないと安心したが、解決にはなっていたなかった。
・・・はい、今この日記を書いている間に気になったことが出てしまったのですぐに紅くんに聞いてきました。
何となくの答えは出たけど、小学3年生が感じることではないし、今の私じゃどうしようもないことがわかりました。
内容はこんな感じ。
「ねえ紅くん。クラスのお友達の名前、皆ちゃんと言える?」
「友達なんていないよ」
「え、まさかいじめられてるの!?お姉ちゃんちょっと先生に相談してくる!」
「違う、そこまで仲いいクラスの子がいないだけ」
「それはそれで問題なんだけど・・・」
「名前は・・・うーん、おぼえてない。あんまり人にきょうみないし」
「え、もしかして興味ないから覚えてないの?」
「・・・よくわかんない」
「ち、ちちちちちなみに、お姉ちゃんの名前は・・・い、言えるよね?」
落ち着くのよ楓、まさか紅くんに限ってそんなことあるわけがないわ。
「・・・」
「・・・」
「かえで」
「よかったぁぁぁ!お姉ちゃん信じてた!」
「・・・お姉ちゃん苦しいから離れてよ」
一瞬の間が永遠に感じたけど、私のことをとても大好きな頼れる姉だと認識しているみたいだから安心した。
危なく毎晩寝ている紅くんの耳元で自分の名前を囁き続けるところだったわ。
6月14日晴れ
今日は私の18歳の誕生日。学校から帰ると、なんと紅くんが私のためにお母さんと一緒にケーキを作っていたの!
喜びのあまり踊りまわっていたら、お母さんが大きなため息をついていた。
「ハァ・・・紅葉は小さいのに家事も掃除も手伝ってくれるいい子ねぇ。それに比べてあんたは」
「何よ。料理なんて出来なくても生きていけます~」
「・・・ハァァァァ」
「無理だよお母さん。ダメなお姉ちゃんの分も僕が頑張るから」
「紅くんありがとう!お姉ちゃん、紅くんのお料理毎日楽しみにしてるわね」
「ハァァァァァァ・・・」
もはやため息になっていない大げさなお母さんの事など気にしてられない。なぜなら、紅くんが私のために毎日美味しい料理を作ると言ってくれたのだから!
8月8日曇り
今日は前代未聞の出来事が起こった。テレビを観ていた紅くんが、かすかに笑顔になった!ような気がした。
私もテレビを観ていたので紅くんをずっと見ていたわけじゃないから確信は持てないけど。
「すごい・・・」
「何が・・・って紅くん!?」
「え?」
一瞬だったから見間違いかも知れないので、これから紅くんと一緒の時は携帯のカメラを常に準備しておこう。
それと私の紅くんに色目を使った可能性のあるテレビ出演者のアイドルは"絶対に許さないリスト"にそっと加えておいた。
6月14日曇り
季節は巡り20歳の誕生日。特に何の目的もなく地元の大学に通っていた私もついに成人した。
お祝いに両親と一緒に初めてお酒を飲む。こんな素晴らしい飲み物がこの世にあるんだと、自分の今までいた世界の狭さを実感した。
・・・気がついたら、家にあるお酒は全て消えてしまっていた。たった数時間で一体どこにいったのだろう。
6月16日晴れ
初めてサークルの飲み会に参加。特に誰かと親しいわけではないが、同性ばかりということだし、と多少話す先輩に誘われて行った。
・・・気がついたら私以外全員酔いつぶれて寝ていた。まだ始まって3時間しか飲んでいないのに残念。また今度にしよう。
6月17日雨
紅くんごめんなさいそんなに怒らないでしばらくお酒は控えます。正座やめて足崩してもいいですか?だめですねはい。
9月26日曇り
短大生の私は今年で卒業。就職先もほぼ決まっていたが、いまいちピンと来ない。私がやりたいことって何なのだろう?
そんな時家に1次審査合格という謎の手紙が届く。受取人は私だ。内容は・・・え、東京?モデル?
困惑していると携帯が鳴った。相手は大学の友人だ。
「もしもしー、そろそろ合格通知届いた?」
「これ送ったのあなただったのね。一体どういうことなの?」
「やっぱり審査通ったんだね。楓は色々もったいないよ。背が高くてモデル体型なんだし、同性の私でも見惚れるほど美人なんだもん。絶対モデルになるべきだって」
「で、でも。私人前に立つの苦手だし」
「女優やるわけじゃないんだし、そんなに心配いらないんじゃない?それにその言い方、別に嫌なわけじゃないっぽいじゃん」
「それは・・・」
確かに少しだけ、将来モデルに・・・なんて思ったことはある。
体の弱かった中学時代までとは違い、紅くんの料理を毎日食べていたおかげか健康的になり周りの見る目も変わっていった。紅くんだけには徐々に残念そうな目で見られていた気がするけど。
モデルになれば雑誌に載るだろう。有名になった私を見れば、もしかすると紅くんにも何か変化が出るかも。そう思ってはいたけど、自分から行動を起こす勇気はなかった。
「一度親と相談してみるわ」
「いい報告待ってるよ。私も友達が有名人になったら鼻が高いし♪」
「もう、まだ早いわよ」
両親は思ったよりあっさり許可してくれた。どうやら友人と同じくもったいないと思っていたらしい。
問題なのは家事スキル0の私が一人暮らしできるかということだけ。ほっといてよ!
「姉さん東京に行くんだ」
「合格したら、の話よ。お姉ちゃんがいないと淋しいだろうけど」
「いや、それは大丈夫」
「ぐっ・・・そんなはっきり」
「むしろ淋しいのは姉さんの方でしょ」
「う・・・」
「別にずっと会えないわけじゃないんだし、姉さんは自分のやりたいことを頑張って」
「そ、そうね。お姉ちゃん頑張る」
紅くんはあれね、今流行りのツンデレってやつなのね。きっとそうに違いない。私がこの家からいなくなったら毎日部屋で泣いてるんだきっと・・・私が!
11月2日雨
346プロダクションモデル部門。老舗のプロダクションに籍を置いてからもう3年が経った。私は346のモデルとしてそこそこ有名になり、何度も雑誌に掲載され、街では時々私のポスターを目にするようになった。
それなりに裕福な生活。だが何か満たされない。何かが違うけどそれが何かはわからない。
モデル仲間とは可もなく不可もなくといった関係性。私は居酒屋で飲むのが好きだけど、向こうは決まって嫌な顔をする。
逆に相手に合わせて飲みに行っても、遠慮して大好きなお酒をあまり美味しいと感じられない。
346のきれいな建物の自分の部署へと向かう途中で、笑い声が聞こえてきた。この会社では珍しいなと思い、壁を見るとアイドル部門の名があった。
「アイドル・・・」
そういえば最近新しくアイドル部門が346に出来たという話を聞いたことがある。私も他のプロダクションのアイドルと何度か一緒に仕事をしたことはあった。
作られた、言われた通りに作った私の表情とは違い、自由に表現している姿がそこにあったのを思い出す。
「やっだぁ~、比奈ちゃんそれ本当?」
「いやぁ、お恥ずかしい話っスが、化粧っていうのはどうも苦手で」
「もう、ダメよ!アイドルは顔が命なんだから、それに油断してるとお肌の曲がり角もすぐやってくるわ。アンチエイジングも大事なんだから」
「ち、千枝もオトナっぽくなりたいです」
「わかるわ~。千枝ちゃんくらいの年齢になるとお化粧にも興味持つものね。じゃあ全部お姉さんに任せなさい!」
羨ましい。そう感じてしまった自分がいた。ここでは自分を好きなように出せるのだと。まあ、私はいつでも自分の思う自分をやってきてると思う、けど。
部署で挨拶を済ませマンションへと帰宅。そしてメイクを落とすよりも先に携帯を手に取る。電話する相手は、もちろん紅くんだ。
「はい、もしもし」
「紅くん?お誕生日おめでとう」
「ありがとう姉さん。プレゼントも届いたよ、ありがとう」
「気に入ってくれたら嬉しいわ。紅くん、自分じゃあまり服を買わないし。似合うと思うけど、今度家に帰った時に見せてね」
「わかった」
本来ならここで終わる会話だが、気になったことを紅くんに聞いてみる。
「紅くん、お姉ちゃんが載ってる雑誌って見たことある?」
「父さんや母さんが買ってくるからたまに見るよ」
さすがに自分からは買わないか。
「どう?お姉ちゃんも立派になったでしょ」
「・・・」
「あ、あれ?どうしたの?」
「姉さん、無理してない?」
「え・・・」
「仕事を頑張ってるのは知ってるけど、あまり楽しそうじゃないなって」
「そ、それはそうよ。遊びじゃなくお仕事なんだからしっかりやらないと」
「そうか」
「ええ、そうよ」
冷静を装っては見たものの、内心はドキドキしている。紅くんにはお見通しだったようだ。さすが私の紅くん!
でも、これじゃあダメなんだ。このままの私では、紅くんを笑顔にしてあげられない。どうすれば・・・
「俺、高校は東京の高校に行くよ。受ける場所も決めてある」
「へ?」
「姉さんをずっと一人にしてたら、どんな食生活をしてるかもわからないしな」
「そ、それって一緒に住むってこと?」
「うん、合格したらだけど。ダメかな」
「それは大歓迎だけど、お姉ちゃんのために高校を決めるのにはちょっと賛成は出来ないなぁって」
「別に姉さんのためじゃないよ」
「うっ、そ、そうよね」
「いや、それも少しあるけど。自分が将来やりたいことがまだよくわからなくて。もっと色々な世界を見てみたいんだ」
「東京で見つからなかったらどうするの?」
「先のことはまだ。でも後悔しないためにも東京で考えたい」
「そう。お父さんとお母さんが賛成してるならもう決まったようなものだし、これ以上お姉ちゃんからは何も言わないわ」
「うん、それじゃあまた」
「ええ、お正月には帰るから」
弟が、紅くんが来年からここへ来る。それはとても嬉しいことだけど、不安でもある。
今の私は紅くんに誇れるような自分では決してない。紅くんが私を見ても何も変わらない、変えられない。
お風呂に入り、寝る前の一杯を飲みながら、自分が載ってる346の雑誌に目を通す。いつもは気にしないページに気になる記事があった。
「今の注目はこの子たち。ブルーナポレオン・・・あ」
そこには、今日見たアイドルたちが全員載っていた。佐々木千枝、上条春菜、荒木比奈、松本沙理奈、そして。
「川島瑞樹。年齢・・・えぇ!?」
驚いた。私よりも3つ上だ。けど年齢なんて気にしない、関係ないという堂々とした姿が掲載されていた。
「アイドル」
私は昼間に続き2度目のその言葉を口にした。
「そういえばあの時」
昔紅くんと一緒にテレビを見た時に、紅くんに何か変化が感じられたのをうっすら覚えている。あれは確か当時有名なアイドルが新曲を歌っていた時だったはずだ。
「アイドル」
3度目のその言葉を口にした時に、私はモデルを辞める決意をした。
3月31日曇り
あれから次の日にすぐアイドル部門のオーディションを受けた。特にモデル部門に許可も取らずに、何となくで受けてみたと言ったら、審査員は困った顔をしていた。
けど、歌を歌ったら相手の顔が変わった。誰かに褒められたわけじゃないけど歌には少し自信があったから。中学高校とエア友達相手に家で歌を披露していたのがまさかこんなところで役に立つなんて。
それからしばらくレッスンの日々。普段使っていない筋肉を使うから大変だったけど、体を動かして汗を流すのは気分がよかった。
そして臨時でのプロデューサーと初舞台が決まり、今日はその大事な日。私がアイドルとしてようやく一歩踏み出す日だ。自然と気持ちが高揚する。
「高垣さん、準備はよろしいでしょうか」
「はい、プロデューサー。いつでもいけます」
武内さんというプロデューサーは背が高く見た目は怖そうに見えるが、仕事はしっかりと、そして何もわからない私をやさしくサポートしてくれる。
歌はしっかり練習してきた。モデル時代とは違い、毎日が充実していた気がする。
「お客さんは何人くらいなんでしょうか?」
「・・・それが、まだまだ弊社のアイドル部門は出来たばかりなため、きちんとした宣伝が・・・」
「少ないんですね」
「申し訳ありません」
「いえ、よかったです。あまりに多かったら、緊張しすぎて声が出なかったかもしれませんし」
「は、はぁ・・・」
私の答えが予想外だったのか、プロデューサーは首に手を置いて少し困った顔をしていた。
「今日は、笑顔で頑張りましょう」
「はい。皆も笑顔に、
「・・・」
私の歌を聴いてくれる人が1人でもいるのなら、全力で歌う。そして笑顔で帰ってもらう。それがこの数ヶ月で私の出した答えだ。
モデル時代には紅くんの心には何も届かず、返って心配させてしまっていた。それは私の心に迷いがあったからだと思う。
明日から紅くんは私の家で一緒に住む。迷った顔をしたらすぐにわかってしまう。これ以上は立ち止まっていられない。一歩でも前へ進もう。
「では、行ってきます」
どうか、届いて・・・!
「今日来てよかったなぁ」
「ああ、あの子の歌最高だった」
「私ファンになる!」
「私も応援するわ!」
小さな舞台でのライブは大成功だった。お客さん1人1人の表情が歌っている時でもよく見えたから。
終わったあともまだ気持ちが高揚している。こんなことは初めて。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です、プロデューサー」
「いい、笑顔でした」
「はい。皆もいい笑顔でした。私、アイドルになってよかったです」
これなら上手くやっていけそうだ。でも、紅くんに話すのはまだ先。もう少し、もっと大きな舞台に立てるようになってからにしよう。
4月1日晴れ
時計を見る、携帯を見る、ドアの前に立つ。今日これを何度繰り返しただろう。駅まで迎えに行くって言ったのに、紅くんは自分で行けるからと却下した。
ここに来るのは初めてだし、東京は人が多い上に紅くんはカッコイイから変な誘惑に惑わされないか心配だ。
「来たっ!」
チャイムが鳴った。私は勢いよくドアを開け、大好きな弟の顔を見る。相変わらずの無表情だったけど、私は嬉しかった。
「来たよ姉さん」
「うん。お正月に会ってからまた背が伸びたわね。もうお姉ちゃんと変わらないわ」
「そうだね。すぐに追い越してみせるよ」
「ふふっ。紅くん男の子だもの、夏ごろまでには実現しそうね」
「それじゃあ、お邪魔します」
「そうじゃないでしょう?」
少し遠慮しがちに部屋に入ろうとした紅くんに少し意地悪をしたくなった。両手を広げて通せんぼ。紅くんは少し困った顔をしたけど、理由はすぐわかったみたい。
「・・・ただいま姉さん」
「ええ、おかえりなさい紅くん。そしてようこそ。これからまたよろしくね」
「ああ。で、さっそくだけどこれは何?」
「え?・・・あっ!」
部屋には、呑んだお酒のビンやビールの空き缶が散らばっていた。
「ち、違うの紅くん。これはね、いつもこうじゃないのよ。昨日色々あってちょっと1人でプチ打ち上げを・・・」
「姉さん、正座」
「・・・はい」
ああっ!懐かしいわ!前はよくこうやって紅くんにお説教を「姉さん聞いてる?」はい聞いてます。
こうして私と紅くんの東京での生活が始まった。私はこれからアイドルとして、自分のため、これからできるかもしれないファンの皆のため。そして大好きな弟の紅くんのために歌い続けるわ!
だから紅くん、今日は少し軽いのでお願い!
つづく!
やっぱり楓さんがポンコツになっていく・・・
それでも楓さんは紅葉くんのために頑張ります!