楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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相変わらずの遅筆で申し訳ありません。
それでも読んでくれる皆様には感謝しかないです。ありがとうございます!


紅葉くんと未来の蒼ノ楽団のアイドル達1

ロックとねこみみと紅葉くん

 

 

「はい、承っております。こちらに記名をお願いします」

 

「わかりました」

 

受付で名前を書き、ゲストと表記されたスタッフカードを受け取った。

まさか、こんな形でここに来ることになるとは・・・

相変わらず困った姉だ。

 

俺は今美城プロダクション、通称346プロに来ている。正門まではカリスマ・・・美嘉を送るために何度か来たことがあるが、内部へ入ったのは今日が初めてだ。

 

 

 

あれから放課後、急に姉さんから連絡が入った。平日のこの時間に珍しいと思いながら内容を聞いたら、どうやら契約関連の更新に必要な印鑑を忘れたとのこと。

 

『ごめんね紅くん。お姉ちゃん取材とレッスンがあってどうしても抜け出せないの。家からいつもの引き出しにある印鑑、持ってきてほしいのよ』

 

「はぁ・・・だから大事なことは先延ばしにするなっていつも言ってるのに。わかった、学校終わったら家に帰って取ってくる」

 

『ありがとう紅くん!受付には連絡しておくからお願いね。お礼は何がいいかしら♪』

 

「・・・一週間家でのダジャレ禁止でいいよ。それじゃ」

 

『ま、待って!お願い!それだ・・・』

 

 

まあこんな感じだ。最後に何か姉さんが言ってた気がするが俺は気にしない。

 

「新館5階の応接室でお待ち下さい。そちらのエレベーターから5階へ、応接室は突き当たり右の部屋になります」

 

「ありがとうございます」

 

てっきり受付近くで姉さんを待っていればいいのかと思っていたんだが、来客者扱いで本格的にこの大きな事務所の中に入ることになったようだ。

 

案内された通りにロビーにあるエレベーターへ。時間帯が関係しているのか人通りは大きな事務所にも関わらずあまり多くはなく、学生服の俺が目立ってしまう状況だ。すれ違う人は多少怪しんだ様子で俺を見るが、スタッフカードのおかげか呼び止められることはなかった。

 

「5階だったな」

 

「ちょ、ちょっと待って!乗りまーす!」

 

「ん?」

 

30階以上もあるボタンの中から目的の階のボタンを押した瞬間に慌てた様子の高い声が聞こえた。

"開"を押したまま待っていると、同じ年くらいの少女2人が息を切らしてエレベーターに乗り込んだ。

 

「はぁ、はぁ・・・あ、危なかったにゃ」

 

「ね、ねえみくちゃん。別に慌てなくても良かったんじゃない?もう荷物取って帰るだけだったんだし」

 

「うっ・・・ま、まあそれはそれにゃ!」

 

「・・・」

 

この2人は事務所の職員というわけではないよな。片方は頭に猫のような耳があるので、その状態でバイトというのも考えられない。言葉も少し変わっているし、アイドルと関係性がある線の可能性が一番高そうだ。

 

「あっ、すいません。30階お願いします」

 

「はい」

 

「待ってくれてありが・・・げっ!先輩にゃ!?」

 

「?」

 

片方が俺に行き先を告げたのでそのボタンを押すと横から奇妙な声が聞こえた。

が、恐らく人違いだろう。俺を先輩と呼ぶのは1人だけだし、猫のような耳の知り合いはいないはずだ。

 

「みくちゃんの知ってる人?あ、私は多田李衣菜。高校2年生でロックなアイドル目指してるんでヨロシク!」

 

「ロックなアイドル・・・中々カッコイイな。俺は高垣紅葉、同じく高2。この事務所関係者の姉の忘れ物を持ってきただけの一般人だ」

 

「えへへ、カッコイイって言われちゃった♪ほらねみくちゃん。わかる人にはわかるんだよ!溢れ出るロック魂を隠しきれないっていうか」

 

「そんなことよりも今気になることを言ってたにゃ。もしかして先輩のお姉さんって・・・アイドルの?」

 

「ああ、一応そうだ」

 

「そんなことって何さ!だいたいみくちゃんは・・・え?高垣・・・高垣・・・楓!?」

 

奈緒たちもそうだが、皆俺が姉さんの弟だと知ると・・・いや、姉さんの名前に驚いてばかりいる。俺は姉さんのアイドルとしての立ち位置を聞いたことがないし、いつものどうしようもない姉さんしかほぼ知らないので何に驚いているのかさっぱりわからない。

 

「高垣楓は俺の姉だ。改めて2人とも初めまして。どっちもアイドルということでいいんだよな?姉がいつも世話になっている」

 

「はじめ、まし・・・て?え、ひどくない?」

 

「いやいやいや!私たち会ったことも話したこともないしお世話だなんてそんな。ってどうしたのみくちゃん。今まで見たことない顔してるよ」

 

「あの3人には先越されるしみくのデビューはいつになるかわからないし学校の知り合いに会ってちょっとまずいかもと思ったけど全然覚えられてないし・・・むむむむぅぅぅ」

 

猫の子が何やら考え込んで唸っている時に音が鳴り、俺の目的地である5階に着いた。考え事の邪魔をしては悪いと思ったので、軽く会釈をしてエレベーターを出る。

 

「みくは負けないからね!絶対ぜーったい、トップアイドルになってみせるにゃぁぁ!!」

 

「うわわっ!み、みくちゃん落ち着いて!」

 

さすがはアイドルの事務所だ。皆普通の人と気合の入り方が違うし、自分の仕事に誇りを持っているんだろうな。

俺もいつか自分がなりたい職業に就くことができるんだろうか。同年代の知り合いが次々と自分の目標に向かって歩き出しているのを見ている分、少し不安になってきていた。

 

 

 

相変わらず無自覚に恐ろしい紅葉くん

 

 

 

「それじゃあ紅くん案内するわね。上へ参りま~す♪」

 

「でも本当にいいの?俺が勝手に歩き回ったら色々と迷惑になるんじゃないのか?」

 

「大丈夫よ。少しの間だけどちゃんと許可は取ってあるし、紅くんだって興味あるでしょう?」

 

「一般人が普通は入れない場所だからな。気にはなるよ」

 

応接室でしばらく待っていると姉さんがやって来た。動きやすい格好に髪を結んでいたのでどうしたのか尋ねたら、この後まだレッスンがあるのだそうだ。格好に反して表情は家にいるときと違い、どちらかと言うと舞台にあがっている時の表情に近い。これが皆の知っている"高垣楓"なのだろうか。

 

「そんなに違う?私は特に意識していなかったのだけど、紅くんがそう言うならそうなのかもしれないわね」

 

そう答えた姉さんの笑顔はいつもの2人で会話している時の表情に戻っていた。いつもの見慣れた姉さんの表情のお陰か、この大きな事務所に入ってからの妙な緊張が少し解けた気がする。

 

それからすぐに印鑑を渡して帰ろうと思っていたんだが、姉さんが事務所内を案内してくれるという。返事をする間もなく俺の手を引き部屋を出て、さっき2人のアイドルと話をしたエレベーターで上の階へと向かっていた。

 

「さすがにまだ未発表の曲や企画関連のあるフロアには行けないけど、十分楽しめるはずよ」

 

「うん」

 

「だ、だからね。これをお礼ということにして一週間ダジャレ禁止はなしになら『ない』・・・わよね、わかってたわ」

 

案内された場所は様々なものだった。さらに活躍中のアイドルの写真や表彰された物などが展示された区画もあり、鳴り止まない電話に対応する事務員たちが忙しそうに働いているフロアでは、通り過ぎる時は姉さんは丁寧にお辞儀をして通っていった。特に誰かが見ていたわけではなかったが、俺もつられて頭を下げた。

 

最初の階から徐々に下に下がり、ここが最後だという3階へ。案内板にトレーニングルームと書いてあったフロアにはエステルームやサウナといった変わったものが並んでいた。

 

「こんな施設まであるのか。芸能事務所ってこういうものなの?」

 

「ふふふっ、驚いたでしょう?特に今346プロはアイドル育成に力を入れているから年齢が様々な新規の子も多いし、幅広い層の全てのケアができるように内部施設が豊富なの。ここまで整っているのはこの事務所だけじゃないかしら」

 

どうやらこの事務所が特殊のようだ。得意気に話す姉さんと一緒に歩いていると、今までとは違い音楽や手拍子が聞こえてくる。ガラス戸越しにちらりと見ると、部屋ごとに数名ずつダンスの練習をしている様子だった。

 

「この辺りは来ても大丈夫なの?練習の邪魔をしても悪いと思うんだけど」

 

「今の時間はまだデビューしていない子のレッスンだったり、発表しているライブのレッスンだから大丈夫よ。まあ、普通は見られるものじゃないけど♪」

 

「だろうな。ファンの人たちが俺の状況を知ったら何を言われるやら」

 

「紅くんの場合、今ここにいる状況よりも日常の状況の方が羨ましがられると思うけど・・・さあ着いたわ。最後はここよ」

 

「ん?」

 

通路の最奥の部屋でも同じくレッスンは行われていた。中の様子が見れない部屋だったし最後ということでそのまま帰るのかと思ったんだが、姉さんが扉をノックする。

そういえば他の部屋と違って指導する側と思われる声がやけに聞き慣れた声だ。それにこの曲・・・

 

「失礼します。練習中にごめんなさい。見学に来ました」

 

「か、楓さん!?」

 

部屋にいる人の驚いた声から、向こうに連絡がいってないことが分かる。それにやはり知っている声だ。

 

「ほら、紅くん入って」

 

「え、嘘!まさか・・・」

 

扉の前で手招きする姉さんに従い近づいて部屋を覗いてみる。そこにはやはり美嘉が驚いた様子でこちらを見ていた。

しかも知り合いは美嘉だけじゃない。ハナコもいたことに今度は俺のほうが少し驚いた。

 

「練習中邪魔をしてすまない。姉さんの用事でここに来ていたんだが、まさか2人が一緒だとは思わなかった」

 

「高垣くん知り合いだったの?」

 

「あら紅くん、またお姉ちゃんが知らない間に女の子と仲良くなったの?」

 

「・・・」

 

「え、えっと・・・」

 

姉さんと美嘉の謎の圧力に、俺だけじゃなく常にクールだと思っていたハナコまでもたじろいだ。だがこのまま無言というわけにもいかないので、簡潔に説明することにする。

 

「家とこの事務所の間にある公園で知り合ったんだ。ほら、姉さんが前に話していた新しいプロジェクト。それにスカウトされたんだ。名前はハナコ」

 

「まあ、そうだったの」

 

「は?違うけど」

 

「ん?」

 

「紅くん?」

 

「ああ、高垣くんまた・・・」

 

なんだ?プロデューサーにスカウトされたって聞いたんだが、何か間違ったんだろうか。

紹介を否定したハナコは目の前に立ち俺を睨みつけている。

 

「今まで何か変だと思ってたけどそういうこと。私、ハナコじゃないから」

 

「・・・どういうことだ?」

 

確か初めて会った時何度もその名前を口にしていたはず。俺としては何故か覚えやすい名前ですごく助かったんだが・・・

 

「はぁ・・・わかった、もう1度自己紹介してあげるからよく聞いて。私の名前は渋谷凛。凛だよ。わかった?」

 

「あ、ああ」

 

「り・ん!ほら私の名前、ちゃんと言って」

 

「り・・・り、凛」

 

「うん」

 

なるほど。どうやら俺の勘違いだったようだ。となるとハナコとは一体・・・?

奈緒の時と同じような謎が残ってしまった。

 

「紅くん!やればできるじゃない!えらいわ!」

 

「か、楓さんの褒め方が高校生に向けるそれじゃないんだけど。まあ高垣くんだし?仕方ないのかなぁ」

 

近頃度々"俺だから"といった単語が出てくるが、段々といい意味で使われていないことが分かってきた。が、今はそれよりも改めて凛を紹介すべきだろう。

 

「姉さん、346プロの新プロジェクトに参加することになった凛だ。部外者の俺が言うことじゃないかもしれないけど、先輩として良くしてやって欲しい」

 

「ええ、もちろんよ紅くん。新しい仲間が出来て嬉しいわ♪凛ちゃん、私は高垣楓です。これからよろしくね」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

あわてて凛が頭を下げる。俺と話すときと随分態度が違うな。

 

「姉さんは2人がここにいることを知って俺を連れてきたんじゃないのか?」

 

「さすがに凛ちゃんのことは知らなかったわ。ただ美嘉ちゃんがここを使っていることは知っていたから、どっちも驚かせようと思って」

 

「驚きましたよ。楓さんだけじゃなくまさか高垣くんまでいるなんて思ってなかったし」

 

「どうして2人で一緒に練習していたんだ?新プロジェクトには確か妹だけ参加すると聞いていたんだが」

 

「シンデレラプロジェクトは、まあ関係あるといえばあるかな★今度のアタシたちのライブのバックダンサーに凛たちを推薦したんだ」

 

「なるほど」

 

だから美嘉の曲を使っていたのか。

 

「紅くん。あっさり納得してるようだから一応説明するけど、バックダンサーとはいえ事務所に入ってすぐデビューだなんてとてもすごいことなのよ。私も最初の舞台に立つのには何ヶ月か厳しいレッスンを繰り返していたし」

 

「姉さんの場合歌は良くてもダンスが問題だったんじゃないのか?体力的にも色々と」

 

「うぐっ・・・た、確かに大変だったけど!途中で上半身中心の動きに替えられたけど!お姉ちゃんだって頑張ったんだから・・・」

 

「た、高垣くんと楓さんが一緒にいるといつもの楓さんのイメージが・・・」

 

隅でいじけ始めた姉さんを美嘉が励ましているのを横目に、俺は凛に質問をした。

 

「凛たちということは、プロジェクトメンバー全員で参加するのか?」

 

「ううん。私と卯月と、それと未央って子の3人だけ。2人と違って私はダンスの完全な素人だから、迷惑かけたくないし、何より負けたくなかったから個人的にレッスンを頼んだんだ」

 

「そうか。楽しくやれそうなんだな」

 

「それは・・・まだわからないよ。こんなに早く仕事が決まるなんて思ってなかったし実感ない」

 

出会った時よりは幾分表情が明るくなった気がするが、まだまだ悩んでいる部分が多いようだ。何か言葉をかけようにもいい言葉が出てこない。彼女たちに対して俺に出来るのが応援することだけというのが残念と、悔しい気持ちになる。こんなことは今までなかったから余計に強く感じるな。

 

「今は出来ることを全力でやるしかないんだろうな。俺も凛の2番目のファンとして出来る限り応援するよ」

 

「2番目?なんで2番目なの?」

 

「1番のファンはプロデューサーじゃないのか?凛の才能を誰よりも早く見抜いて行動に移したんだろう?」

 

「あ・・・そっか。そういうことになるの、かな?でも紅葉もファンになってくれるんだ。まだデビューしてもいないのに」

 

「言っただろう。俺は凛の笑顔が好きだし、舞台上で見れるならまた見てみたいって」

 

「なっ!真顔でそんなこと急に言わないでよ。それに笑顔がす、好きだなんて言われてないし・・・」

 

「そうだったか?」

 

「そうだよ!でも、うん。紅葉の言う通り、今私に出来ることを全力でやってみるよ。だから見ててね」

 

「ああ」

 

さっきよりも凛の目に力が入っている。次のライブが楽しみになってきたがそのライブのことを知ったのは今日だ。まだ俺が席を取ることができるのか、あとで姉さんに聞いておこう。

 

姉さんの方を振り返ると、どうやら元に戻ったようだ。逆に美嘉の方が疲れているようだが、ライブの件はカリスマである美嘉なら大丈夫だろう。なので余計なお世話かもしれないが、俺の方からも凛たちのことを頼むように言っておこうか。

 

「姉さん、これ以上はレッスンの邪魔になるだろうし帰るよ。今日は案内してくれてありがとう」

 

「そうね。私もレッスンがあるしちょうどいいわ。夕飯までには帰るからよろしくね♪」

 

「ああ。凛、次のライブまだ見に行けるかわからないが応援してる」

 

「まったく相変わらずだね。そこは絶対行くっていうところじゃないの?」

 

「事実だから仕方ない」

 

「ふふっ。ならもし来れなかった時に思い切り悔しがるように練習しておくよ」

 

「それと」

 

「ふえっ!た、高垣くん!?」

 

今日あまり話すことができなかった美嘉の前に立ち、そっと肩に手を置く。友人としての応援の意味と、凛の先輩としての願いの意味を込めて。

 

「"美嘉"、お前のことも応援してる。良いライブにしてくれ。それと、まだまだ新人の凛のことも頼む」

 

「う、うん!アタシに任せてくれれば何も問題ないって★絶対最高のライブにしてみせるんだから!」

 

「ああ、楽しみにしてるぞ。じゃあ、失礼しました」

 

2人に別れを告げて姉さんと部屋を出る。そこですぐ姉さんとも別れたが、静かになったと思われた美嘉たちのいる部屋から急に声が聞こえた。

 

「あ、あれ?高垣くん今アタシのこと、み、みみみ美嘉って!?・・・ふにゃぁぁぁ!?」

 

「ち、ちょっと美嘉!?一体どうしたの!なんで白くなってんの!?もうっ、これじゃあ練習にならないじゃない!」

 

2人の大きな声が後ろから聞こえてくる。気合は充分なようだ。ここから先は俺が何かできる部分じゃないし、ただ楽しみにして待つだけだな。

 

つづく!




少しずつ名前を通してアイドルと仲良くなっていく紅葉くん。
そして未来への不安をどう考えるのか。

まだまだ先は長い・・・はず。
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