楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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凛と"奈緒"・・・アタシには大切な仲間がいる。

そしてアタシを、ううん。アタシたちを最初から応援してくれる人がいる。

その皆がいる限り、アタシたちTriad Primusは誰にも負けないよ。

この絆は、例えどんなことがあっても消えることはないんだから!

~Triad Primus 2ndシングル発売記念
北条加蓮インタビューより抜粋~


改めて奈緒と加蓮の仲の良さを実感する紅葉くん

紅葉くんの決意

 

 

346プロダクションHappy Princess Live!

それが今日観に行くライブの名前だ。

 

今思い返しても、一昨日と昨日の2日は今までで一番長い日だった気がする・・・

 

 

その理由はまず2日前に遡る。

2日前の奈緒たちと一緒にライブへ行くことが決まった放課後、少し調子が変だった奈緒は下校途中1人で何かをブツブツ呟いていたかと思うと、急に立ち止まって大声で叫んでいた。

 

~2日前~

 

「こうなったら特訓だ!」

 

「ん?」

 

「わっ!びっくりした。奈緒先輩どうしたの?」

 

俺とコロネは明日からのゴールデンウィーク中の宿題の話や何をするかなど話していたんだが・・・いや、俺は聞いていただけか。

 

突然のことで驚いた俺たちは顔を見合わせ首をかしげる。

学校からはそこまで離れていなかったため、他の生徒たちは一瞬俺たちの方に振り返った。これじゃあ外にいてもいつもの教室と変わらないな。

 

「特訓だよ特訓!明後日のライブに向けて特訓するんだよ!」

 

「ふーん、大変だね」

 

「そうか、よくわからないが頑張れよ」

 

「おーい!2人共もう少し興味もてよな!特に高垣、お前は他人事じゃないぞ。むしろ高垣のための特訓なんだからな」

 

「俺の?」

 

なぜ俺がライブの特訓をする必要があるんだ?美嘉のように歌うわけではないし凛のようにバックダンサーでもないただの観客だ。

 

用意するものは以前奈緒に借りたペンライトくらいじゃないのだろうか。

 

「その顔はやっぱりわかってないな。ちなみに聞くけどさ、明後日のライブの出演者。高垣はどのくらい知ってるんだ?」

 

「なるほどなぁ。そういうことか」

 

コロネはこの質問の意味がすぐに理解できたようだが、俺は一体それが特訓にどう繋がるのか見当もつかない。

 

が、何故か真剣な表情の奈緒の質問だ。頭の中でライブ関係者のことを思い出してみるとするか。

 

「・・・まずは美嘉だな」

 

「うん、よかった。最初に美嘉の名前が出てきて本当に良かったよ・・・」

 

「あとは凛だ」

 

「う、うん?凛?誰それ。あたしの方が知らないんだけど」

 

「奈緒先輩。凛ちゃんは美嘉さんのバックダンサーする子だよ。アタシと中学同じなんだ」

 

「へ?そうなのか。何でそんな子を高垣が知ってるかはあとで聞くとして、他はどうだ?」

 

「・・・」

 

「・・・オイ。沈黙するの早すぎだろ!」

 

そう言われてもな。ライブに行くことを目的としていたから誰が出演するなんて考えていなかった。とりあえず今後は姉さんの所属する346のライブを出来るだけ観たいと思ってただけだからな。

 

「ただ観に行くだけじゃ駄目なのか?」

 

「そりゃ悪いとは言わないよ参加の仕方は人それぞれだし。高垣の場合はちょっとズレてる気もするけど」

 

「アタシも全員の名前とその人の曲名わかるくらいかなぁ。去年まではあまり情報入ってこない場所にいたし」

 

「加蓮、さりげなく重い話を持ってくるな!今は聞かなかったことにするからな」

 

「はーい」

 

「話を戻すぞ。ただ観に行くだけが悪いとは言わない。けどさ・・・」

 

「けど?」

 

両手をそれぞれ力強く握り締めながらうつむいている奈緒は、溜めていたものを吐き出すかのように叫んだ。

 

「美嘉も他のアイドルたちも、ライブのためにファンのために一生懸命練習してるはずなんだ!苦しくても頑張って、1人でも多くのファンを笑顔にして喜んでもらえるようにってさ!」

 

「奈緒」

 

「その凛って子も同じはずだろ?だったらさ、観る側のあたしたちも精一杯応援したくなるじゃんか!ありがとうって、こんな良いライブを届けてくれてありがとうって!それにはやっぱりしっかり曲を覚えてさ、皆でひとつになってコールしてさ、そう言うのも大事だと思うんだよあたしは・・・」

 

「先輩・・・」

 

徐々に声が小さくなりつつも力のこもった言葉一つ一つが奈緒の素直な気持ちなんだとよくわかった。

 

よくよく思い返せば、確かに以前ライブで会った時の奈緒も新しいイントロが流れる度に曲名を言いながらペンライトの色を変え、楽しそうに何かを叫んでいたような記憶がある。

 

あの時の俺はどうだったか。ペンライトを受け取りながらも特に何もすることなく、ただ状況に感動しながら無言で歌を聴いていただけだ。そして聴いていた歌を覚えているかというと・・・姉さんの曲と美嘉の曲がかすかに思い出される程度。

 

これでは舞台に立つアイドルにも、わざわざ俺にチケットをくれたプロデューサーにも失礼だな。

 

「つまり特訓というのは明後日のライブを盛り上げるために必要なことなんだな。そして今後の俺のためにもとても重要なことであると」

 

「わかってくれたか高垣!後半はよくわからないけどそういうことなんだよ」

 

「わかった、期間は短いが頼むぞ奈緒」

 

「うん!普通は参加アイドルの名前は5分あれば全員覚えるけどな!」

 

「頑張ってね先輩たち。一応、応援はしてあげるよ」

 

「お前も参加だ加蓮。さっきの話だとじゅうぶん参加の資格がありそうだし」

 

「えー」

 

俺は最初からコロネも参加するものだと思っていたんだが、当の本人は乗り気ではないようだ。

 

最近知り合ったばかりではあるが、彼女に関して少しわかったことがある。コロネは俺とは違った意味で物事に関して関心を示さないのだ。

 

詳しくは聞いていないが、恐らく今までの入院生活が関係しているのだろう。奈緒と話している時の笑顔の中に、度々公園で凛のことを知った時の寂しい表情が垣間見えるのを何度か見ている。

 

体力に関しては何とかしたいと自分で言っていたから協力はしているが、それ以外に関しては口を挟んでいない。興味がないわけではないが、こういったことは自分から動かないとあまり意味がないと思うからだ。

 

もちろん助けを求められたのなら、俺にできることは協力したい。

 

そんな事を考えてコロネを見ていると、乗り気ではない顔から急に何かを思いついた顔に変化していた。奈緒をからかう時の表情と同じだったからすぐにわかる。奈緒はいつも気づいていないけどな。

 

「そうだなー。紅葉先輩の家でするならアタシも参加してもいいけど?」

 

「え、た、高垣の家!?」

 

「ん?俺は別に構わないぞ」

 

どうやら俺の考え過ぎだったらしい。公園や広場では目立つ可能性もあるし、異性である俺を自分の家や同性の奈緒の家に呼ぶのは抵抗があるということだろう。

 

その点俺のマンションなら多少防音機能があるので歌ってもあまり問題ではないし、もう少しすれば姉さんが帰ってくるからアイドルとしての意見も何か聞けるかも知れない。

 

今出来る最善の選択を即座に思いつくとは、やるなコロネ。

 

「おっと、やっぱりこんなことじゃ紅葉先輩は動揺しないかー」

 

「3人だと周囲に聞こえて迷惑をかける可能性もあるからな。俺の住んでるマンションなら多少の音なら大丈夫だ」

 

「ワー、先輩って大胆ダナー」

 

「え、え?音?大胆?え、まさか・・・え?」

 

何故動揺する必要があるのかわからないが、それでいったら奈緒の方が動揺している気がする。すぐにコロネが参加に同意したことに驚いているのか?

 

「姉さんもよくやってるから大丈夫だぞ。特別大きな声じゃなければ姉さんの声は俺の部屋まで聞こえてこないし」

 

「ヘー、楓さんもよくやってるんだー。意外ダナー」

 

「ちょ、ちょっと待て!か、楓さんお前がいても気にしないのか?」

 

「姉弟だし気にしないだろ。まあ確かに昔は気づかれないようこっそりやってたみたいだが」

 

「気にするだろ普通!っていうか気にしてよ楓さん!」

 

姉さんは家の庭や、誰もいないと思ってる家内でよく何かを口ずさんだり物語を勝手に作って話してたりしてたからな。

 

最近は台本を読んだり自分の歌を歌うのに変わってるみたいだが。

 

「アタシや奈緒先輩は一人っ子だし考え方が違うんじゃない?知らないけど♪」

 

「い、いやちょっと待って!少し気持ちの整理させて!」

 

「ん?もしかしてやめるのか?奈緒に協力してもらわないと困るんだが」

 

「困る?あ、あたしじゃないとダメ・・・ってことか?」

 

「ああ」

 

「ソダネー」

 

現状知り合いでアイドルのことに一番詳しいのは奈緒だ。姉さんはあまり他のアイドルと組んでいるのを見たことがないし、情報に関しては奈緒が最適だろう。さっきまで一生懸命に誘っていたにも関わらず、急に戸惑っているのは気になるが。

 

また一人で何かブツブツ呟きながら辺りをウロウロとしている奈緒。そしてそれを見て俯いて何故か震えているコロネ。

これは一体どういう状況なんだ?時間はあまりないんだが。

 

「・・・いやいややっぱりダメだ!そ、そういったことはもっと時間をかけてだな!ち、違うそうじゃない。時間があればいいってわけでもないぞ!とにかくこの話はおしまい!まさか高垣がこんな冗談を言うようになるなんてなー。でもそういう冗談話は女の子にするもんじゃないぞ?あたしだったから良かったものの・・・」

 

「冗談じゃなく本気だぞ」

 

「他の子だったら・・・え、ほ、本気なの?」

 

「そうだ」

 

・・・くくくっもうダメ。そろそろ可笑しすぎて爆発しそう

 

「奈緒じゃないと明後日のライブの曲もわからないし、時間もない。歌の練習だけならカラオケに行くという手もあるが、姉さんの意見も聞きたいしな」

 

「ライブ・・・歌・・・防音?楓さんもして・・・ああああああ!」

 

「ぷはっ!あははははは!」

 

「かーれーん!お前知ってたな!!知ってて高垣に合わせてたんだな!」

 

「はははは!はぁ、はぁ・・・お、可笑し過ぎてお腹痛い!」

 

何だ?急にコロネが笑いだしたぞ。またいつものような2人だけにしかわからない話になったんだろうか。

 

「変だと思ったんだ。急に話がいつもと違う感じになってたしさ!」

 

「えー。いつもと違うってどんなことー?奈緒先輩は一体何の話だと思ったのかなー?」

 

「おーまーえーはー!今日という今日は絶対許さないからな!」

 

「キャー!奈緒先輩に襲われるー!」

 

「まだ言うかこのっ!まて加蓮!」

 

「1回は1回だよーだ♪」

 

「・・・行ってしまった」

 

相変わらずあの2人は仲が良いな。そっちは俺のマンションじゃないんだが。

 

急に追いかけ合いが始まって立ち尽くしていた俺だが、自然と周りの目は俺に集まっている。

またあの2人はここが人目の多い通学路だということを忘れてるな。

 

コロネは奈緒のスピードに負けず走っている。ちゃんとトレーニングはしているようだ。

 

だが今はそんなことより時間はない。

残り2日出来ることをやって、美嘉と凛のライブの成功に少しでも協力できる努力をしよう。

 

 

続く! 




次回予告(仮)

楓「(何を言ってるのかわからないと思うけど私も何が起こってるのか分からないわ)」


紅葉「さあ行くぞ。奈緒、加蓮」


みく「うげっ・・・どうしてまた先輩が」


美波「・・・高垣くん?あとでちょっとお姉さんとお話しましょうか?」


今西部長「ぜひ君の意見を聞いてみたいね」


内容は一部変更になる可能性があります。

シンデレラガールズ7周年おめでとうございます!

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