今回は前書きに台本形式で1つ
本文は楓さん視点から始まり紅葉くん視点にという読みにくい構造になっています
____________________
紅葉「さあ、入ってくれ」
加蓮「お邪魔しまーす。へぇ、ここが先輩と楓さんが住んでるマンションかぁ」
奈緒「あたしは2回目だな。前は楓さんと美嘉もいたけど」
加蓮「結構綺麗にしてるんだね。さっすがあの楓さんって感じかな?」
紅葉「(リビングの掃除は俺担当なんだが。姉さんの部屋は恐らく地獄だ)」
奈緒「ほらほら、時間ないんだしすぐ始めるぞ。高垣、何か資料になりそうなものはあるか?明日はあたしがちゃんと持ってくるけどさ」
紅葉「資料か・・・ああ、それなら」
加蓮「ねえねえ、先輩の部屋ってこっち?入ってみていい?」
紅葉「別にいいが、特に何もないぞ?」
奈緒「2人とも、そう言うのは後にしてまずは特訓だって!」
加蓮「とか何とか言って、奈緒先輩だって気になるでしょ?」
奈緒「そ、それは気にな・・・らない!いいから始めるぞ!」
紅葉「ああ、資料だったな。ここの引き出しに・・・」
加蓮「あ、このポスターってもしかしてこの前の」
紅葉「ん?姉さんの温泉番組のやつか。旅館の人が姉さんのことを気に入って、旅館の宣伝にぜひ協力して欲しいって頼まれたらしい」
加蓮「やっぱり楓さんは絵になるなぁ」
奈緒「そうだな、それにたぶんこのポスターまだ世に・・・って!見入ってないで特訓だ特訓!高垣も余計な相手しないの!」
紅葉「わ、わかった。取り敢えず資料になるのは姉さんの持ってるこの・・・」
加蓮「あれ、この写真は楓さんとファンの人?でも人が少ないような」
紅葉「ん?それは姉さんの初めてのライブ後の写真だ」
奈緒「うぐぐぐ・・・」
加蓮「なんか意外かも。楓さんのことだから、最初から大きなステージとたくさんの人の前で歌ってるのかと思った」
奈緒「・・・・・・」
紅葉「当時は346がアイドル部門を立ち上げてからそんなに時間が経ってないのもあって、宣伝にもあまり影響力はなかったみたいだ。俺ですら姉さんがアイドルをやっていたのを知ったのはテレビに出てからだからな」
加蓮「へぇ、そうだったんだ。ねえ奈緒先輩。先輩は知って・・・」
奈緒「ぐすっ・・・うう・・・」
紅葉「奈緒?」
加蓮「え、ちょ・・・せ、先輩?」
奈緒「ひぐっ・・・うぅ・・・うぇぇ・・・」
楓「ただいま~。今帰ったわよ紅く・・・ん?」
紅葉「ね、姉さんおかえり」
楓さんの気持ち、奈緒の気持ち、紅葉くんの気持ち
マンションのエレベーターに乗っている間、私はいつも色々と考える。
今日の紅くんの作ってくれる夕飯は何だろう?どんなダジャレを言えば点数を上げてもらえる?今日の撮影した映像を紅くんが見た時、笑顔で喜んでくれるだろうか。
1分にも満たない少しの間だけど、最愛の弟の事を考えるのは至福の時だ。
勘違いしないように言っておくけど、私は決してブラコンではないわよ。紅くんがとても大事なだけなの。って、心の中で誰に言い訳してるのかしら。
部屋の入口のドアを開けると、見慣れない靴が2組。
まさか紅くんにお友達が!?やったわね紅くん。ついに同性のお友達が出来・・・てないわね。これはどう見ても女の子の靴だ。
「美嘉ちゃんとあとは奈緒ちゃん・・・だったかしら。私がいない時に女の子を部屋に入れるのは考えものだけど」
紅くんなら特に意識して連れてきたわけじゃないはず。高校2年生の男子が女の子2人を部屋に入れて意識しないのはそれはそれで問題なのだけどね。
奈緒「ひぐっ・・・うぅ・・・うぇぇ・・・」
楓「ただいま~。今帰ったわよ紅く・・・ん?」
紅葉「ね、姉さんおかえり」
私がリビングに入り紅くんに声をかけるのと奈緒ちゃんの泣き声が聞こえたのはほぼ同時だった。
・・・待って、とりあえず状況を整理しましょう。
珍しく困惑した表情の紅くん。困った顔も素敵ね!
そして何故か泣いている奈緒ちゃんと、紅くんの隣で慌てている美嘉・・・え、誰?誰よこの子。また知らない子が家に!?
「(紅くんの作る晩御飯を楽しみに家へ帰ったら、素敵な紅くんが知らない女の子と奈緒ちゃんを泣かせている現場に遭遇した。何を言ってるのかわからないと思うけど私も何が起こってるのか分からないわ)」
けど、こんな時こそ姉としての威厳を示さないと!落ち着いて冷静にクールに対応して3人に尊敬される楓お姉さんになるのよ。
戸惑いの表情を表には出さず、真っ直ぐ紅くんを見て声をかける。この間、紅くんが私におかえりと言ってから約3秒。
「・・・それで、その子は泣いている奈緒ちゃんがどうして?隣にいる子は一体紅くんなのかしら?説明しにゃさい」
(訳:紅くんの隣の子は誰かしら?奈緒ちゃんはどうして泣いているの?説明しなさい)
「・・・姉さん」
「え、えっと」
「ぐすっ・・・」
無理無理無理!こんなの冷静でいられるわけないじゃない!考えなんてまとまらないわよぉぉぉぉ。
紅くんの目が徐々に呆れた目になってるし・・・あ、それはいつものことだったわ。
「姉さんに前話してたよね。朝作る弁当が増えた理由のコロ・・・」
「初めまして、会えて光栄です。アタシは紅葉先輩の1年後輩の北条加蓮です」
「え、ええ初めまして。紅く・・・んんっ。紅葉の姉の楓です」
なるほど、この子が私のお昼ご飯がたまに紅くんの手作りじゃなくなった原因の通称コロネちゃんね。
また紅くんは勝手にあだ名をつけて、しょうがないわね。でも加蓮ちゃんは気にしてないみたいだしいいのかしら。
「で、奈緒ちゃんは一体どうしたの?」
「いや、俺にもよくわからなくてさ」
「奈緒先輩、急に泣き始めちゃって・・・」
2人にも原因はわからないみたいね。奈緒ちゃんのことは紅くんとの日常会話である程度聞いてはいるけど、実際には1度しか会ったことないから私にもわからないわ。
「うぐっ・・・ずずっ・・・あ、あた・・・えぐっ・・・あだしだげ・・・まじめに・・・ひっく・・・ばかみだいじゃないか!」
「な、奈緒ちゃん。少し落ち着きましょう。紅くんお水を」
「あ、ああ」
腕で顔を隠してはいるけど、抑えきれない涙が感情と共に1粒2粒と床に落ちていく。
ここまで泣くなんてただ事じゃないわ。原因が紅くんたちにあるにしろ奈緒ちゃん自身にあるにしろ、さすがにこのまま終わりになんて出来ない。
「かえでさんが、た・・・ひっく・・・たかがきを!あまやかす・・・から!いづも・・・うぅ・・・みんな・・・うわあああああん!」
「ええ!?私が原因なの!?」
ちょっとどういうことよ!
奈緒ちゃんを落ち着かせようとハンカチで涙を拭こうとしただけなのに、急に矛先が私に向いてるのだけど!?
これ以上私が話しかけると悪化しそうだったので何もせず泣き止むのを待ち、ようやく落ち着きを取り戻して水を一気に飲み干した奈緒ちゃんの顔は、茹でたタコのように真っ赤になっていた。
タコ・・・揚げタコ・・・タコぶつ・・・焼酎・・・いえ、ワインも捨てがたいわね。
十数分後、奈緒ちゃんからこれまでの経緯を聞くことができた。
どうやら2日後に開催される瑞樹さんたちのHappy Princess Live!へ向けて、紅くんに参加アイドルの名前や曲を覚えてもらおうとしていたらしい。
「2人ともやる気になってくれたみたいだし、あたしはライブを一緒に楽しみたかったから、さあ頑張るぞー!って気合入れてたのにさ。この家に来たら全然話聞いてくれなくて・・・結局楽しみだったのはあたしだけだったのかなぁって思ったら堪えきれなくなっちゃったんだ」
「ごめんなさい先輩。アタシがちょっとテンション上がってふざけちゃったから」
「いや、俺も悪かった。せっかく奈緒が色々考えてくれていたのにな」
仲直りをすぐに出来たのはいいことだけど、私には腑に落ちない点が1つある。
それは私が紅くんを甘やかしているという奈緒ちゃんの言葉だ。
今まで私は紅くんを甘やかしたりなんてしたことがない!悪いことをしたらちゃんと怒られるし、寝坊しそうになったら厳しい言葉をいいつつ起こしてくれるし、連絡せず帰りが遅い時は1時間は正座させられてお説教だ。
とんでもない誤解だからきちんと訂正しないとダメよね。
「それでね奈緒ちゃん。私のことだけど・・・」
「ご、ごめんなさい楓さん!急にあんなこと言っちゃって」
「あ、うん。いいのよ。きちんとわかってくれたならそれで・・・」
状況が状況だし、奈緒ちゃんは混乱していたのね。誰かに八つ当たりをせずにはいられなかった。それが紅くんじゃなく私だったのは良かったのかもしれないわ。
「でもこの際だから言うけど、高垣がこうなったのにはやっぱり楓さんにも責任がありますよ」
「え?」
「高垣がどんなに相手のこと興味なくても、名前覚えなかったり変わったあだ名で呼んでも、楓さんは何も言わなかったんでしょう?」
「え、ええ。小さい時から紅くんがいいならそれでいいかなって。いつも私が(無理やり)面倒を見てたから両親は多分知らないでしょうけど」
紅くんが小学生の時は私も頑張ったんだけど、当の本人が友達とかいらなそうだったんだもの。無理に覚えさせようとしたら可哀想じゃない!
「高垣も別に気にしてないんだろうけどさ、やっぱあたしは気にするよ。もうその・・・と、友達になったんだし」
「奈緒」
「同級生は男女関係なく最初は高垣に話しかけるけど、徐々に離れていくじゃない?まあ原因は高垣が興味なさそうに相手してるからだけどさ。でもその時色々話聞こえるんだよ。あまり言いたくないけど・・・その、高垣の悪口みたいな?」
紅くんの悪口ですって!?こんなに素敵な子になんてことを言うの!
いいわ、こうなったら戦争ね。これ以上私の紅くんが悲しまないように全力で戦うわ。
「奈緒ちゃん、とりあえず悪口を言った子全員の名前と住所を教えてくれる?私が直々に」
「楓さんは黙っててください!今真面目な話をしているんだ!」
「あ、はい」
お、おかしいわね。私も十分真面目なんだけど。奈緒ちゃんの迫力がお説教モードの紅くん並で思わずたじろいでしまったわ。
「あたしには関係ないって言われればそれまでだけど、やっぱり周りが高垣のこと誤解したままでいるのは嫌なんだ。だから今回の特訓はチャンスだと思ってる。ここできちんとアイドルのことを覚えられれば、その応用でクラスの皆への態度も少しは変わるんじゃないかなってさ」
「先輩そこまで考えてたんだ」
「なあ高垣、お前はどう思ってるんだ?」
「・・・・・・」
紅くんがいつにも増して険しい表情をしている。何度か私や2人と視線を交わして目を閉じる。
ああ、結局私には何も出来ないんだ。紅くんがこんなに自分のことを考えているのに私は手助けしてあげることが出来ない・・・悔しい。
『楓さんが高垣を甘やかすから』
奈緒ちゃんのさっきの言葉が何度も心の中に響く。
そう、わかってる。わかってはいた。私が紅くんに何も言わなかったのは単に嫌われたくなかっただけ。
たった1人の大切な弟が離れていくのが怖かっただけ。
悔しいのは・・・この悔しい想いは、紅くんが良い方向へ変わっていくかも知れないきっかけを作ったのが私ではなく奈緒ちゃんだったということ。
結局私は紅くんのためと言いながら自分のことしか考えていなかったのだ。
「俺は・・・」
悔しさを表に出さず後ろに隠した手を強く握り締めながら、私たちは紅くんの答えを黙って聞いていた。
____________________
「そろそろ待ち合わせの時間だが、2人とも遅いな」
そして長い2日間が終わり、ようやくライブ本番というわけだ。
2人は一緒に待ち合わせのこの場所に来るという連絡があったが、中々姿を見せないでいた。
「・・・確かに今までとは違う気がするな」
待ち合わせ場所が駅前なこともあって人がとても多い。以前の俺なら居心地が悪く周りをよく見ていなかったんだが・・・
「今はそうでもないか・・・」
確かにまだ慣れないが、今後のためにもきちんと自分を持つべきだ。
「先輩!おまたせー!」
「ごめん待たせたな、高・・・も、
「いや、時間ちょうどだ」
「もう、
「し、仕方ないだろ!色々あるんだよ色々!」
「どうせ興奮して夜中々寝れなかったとか、着ていく洋服を選べなかったとかでしょう?」
「お、お前何で知って・・・い、いやいや違うからな!」
「だって奈緒はわかりやすいんだもん。紅葉先輩を呼ぶ時も赤くなっちゃって可愛いなぁもう!」
「か、可愛いとか言うなぁ!まだ慣れてなんだって!」
「紅葉先輩もそう思うよね?」
「ん?ああ、その服よく似合ってるぞ奈緒」
「うえっ!?あ、その・・・あ、ありがと・・・」
「ふふふっ、奈緒がもっと赤くなった♪」
「ああくそっ!結局あたしはいじられるんじゃないか!」
「ねえ先輩?アタシにも何か言うことはないの?」
「ちゃんと朝飯は食べたか?ライブは思った以上に体力使うからな」
「はぁ・・・やっぱり先輩は先輩だね。でもまあ、先輩らしくていっか」
「さあ行くぞ。奈緒、
『うん!』
奈緒と加蓮、そして姉さんが協力してくれたこの2日を無駄にしないためにも、今日のライブは自分なりに楽しんでいみよう。
続く!
かなり時間が空いてしまった上に予告全部の内容を書けなかった!
次はもう少し早く投稿したいと思ってます。