楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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新アイドルが新曲をいきなりだしたり、デレステの方では色々と注目されていますね。

そういえば曲の歌詞ってオリジナルだったら小説内に表記しても大丈夫なんでしょうか。
詩扱いになるのかな。

今回は今までで一番文字数が多いかもしれません。


成長しても紅葉くんの勘違いは止まらない

紅葉くん、特訓の成果を見せつける!

 

 

関係者控え室へと向かう途中、俺にとってはかなり厄介な事件が起きた。

発端は俺の隣を歩いていたロックなこの子だ。

 

「そういえば皆自己紹介がまだじゃない?ここで出会えたのも何かの縁ってね」

 

「さんせーい!」

 

「にゃは!自己紹介は大事だにぃ」

 

その言葉に美嘉の妹と年の近そうな彼女の隣を歩く少女と、彼女の手を引く俺よりも背の高い子が同意した。

 

まさかここで全員覚えるのか?

だが姉さんや美嘉たちと関係がある以上、いずれまた再会する日が来るだろう。

ロックな子を含め新田さん以外の名前を誰も知らないし、その時に失礼の無いようにする必要があるか。

 

 

「じゃあ私から改めて。多田李衣菜。ロックでクールなカッコイイアイドル目指してます。学年一緒だし私のことは李衣菜でいいよ」

 

そう言った彼女・・・李衣菜の笑顔には迷いが一切なかった。すでに目標を決めて前へ進む姿勢は同年代ながら尊敬するものがある。

 

「よろしく李衣菜。俺のことも紅葉で構わないぞ。ロックでカッコイイ曲をテレビやライブで歌う李衣菜を楽しみにしてる」

 

「うん♪期待しててよ!」

 

「はいはーい!アタシも莉嘉でいいよカレシさん☆」

 

そうか、美嘉の妹はり、り、莉嘉・・・そう言われると前に聞いたような。

しかし何度言っても勘違いをしているんだが、俺と同じで覚えるのが苦手なのか?

 

手を挙げて何度も飛び跳ねながら話す莉嘉は美嘉以上に元気がいい。

俺が莉嘉くらいの年齢だった頃とは正反対だな。いや、今の俺と比べてもか。

 

「さっきも言ったが俺は美嘉の彼氏じゃない。普通の友達だ」

 

「えーつまんない。お姉ちゃん全然そんな話ないんだもん」

 

つまらないかどうかはさておき、姉妹とはいえあまり姉のプライベートを晒すのはどうかと思うんだが。

姉さんと違って美嘉は家と仕事でそこまで行動に差がないだろうし、うかつなことを言うと皆信じそうな気がする。

 

奈緒も加蓮も俺が姉さんの普段の生活を話しても全く信じてくれなかったからな。

昨日と一昨日少し一緒にいたせいか、なんとなく嘘じゃないとわかってきたみたいだが。

 

 

その後次々に自己紹介をされ、俺は顔と名前を覚えるのに必死だったが何とか上手くいった。

まだプロジェクト開始したばかり且つ、レッスン以外はアイドルらしいことをしていないと言うがなるほど・・・あのプロデューサーさんの選んだ人選、中々に個性豊かな面々が揃っている。

 

 

三村さんにはどこから取り出したのか、手作りだというお菓子をプレゼントされた。

俺も料理はするが甘いものを作るのは姉さんの誕生日のケーキの時くらいだ。その話をしたら色々とアドバイスをくれた。

 

アナス・・・アーニャは最初ロシア語で簡単な挨拶をしたので日本語がまだ話せないのかと思い、自分のわかる簡単なロシア語で返したら日本語で喜んでいた。どうやら勘違いだったようだ。

 

それとブリュンヒルデさんは・・・ん、どうした?蘭子でいい?どっちが本当の名前なんだ。

また2つの名があるパターンに遭遇したんだが、女性とはそういうものなのだろうか。

 

・・・そして新田さんは相変わらず笑顔だが俺は恐怖を感じている。

 

 

「ほらみくちゃん、あとはみくちゃんだけだよ」

 

「ふーんだッ!」

 

李衣菜が最後の1人に自己紹介をするよう促すが、本人は乗り気ではないらしい。それどころか機嫌が悪い。

この少女は初めから俺に対して良い印象を持っていない様子だった。

 

「どうしたのみくちゃん?そう言えばずっと紅葉くんに対して何か怒ってるみたいだけど」

 

「李衣菜チャンには関係ないにゃ」

 

「なっ、何それ!だいたいみくちゃん、前会った時1人だけ自己紹介してなかったじゃん」

 

「うえっ・・・それは」

 

まずいな。俺のせいで2人の雰囲気が悪くなり始めて、それが周りにも影響を与えている。

怒っている理由を聞いてきちんと謝ったほうがいいだろう。

 

「待ってくれ李衣菜。高垣楓の弟というだけで元々俺は部外者だ。それがこうやって一緒に関係者の場へ行こうとしているのに反対している人がいても不思議じゃない」

 

「え、うん。そうだけど何か違うような・・・」

 

「全然違うにゃ・・・むしろ見当違いすぎてだんだん馬鹿らしくなってくるにゃ」

 

少女が何か言っているが独り言のように小さすぎてよく聞こえない。

耳は悪い方じゃないんだが、館内のBGMもあって余計に小さな声は聞き取りづらくなっている。

が、その表情は友人たちが俺に対して呆れている時によく似ている気がするな。

 

だが李衣菜が気になる事を言っていた。前にあった時・・・と。

李衣菜に会ったのは346プロのエレベーター内の1回だったはず。

 

そうか、怒っている原因はこれか。

 

「もしかして李衣菜と一緒にエレベーターで会ったか?」

 

「・・・うん」

 

「俺の方に完全に非がある、本当にすまない。実は人の顔や名前を覚えるのが少し苦手なんだ。友人のお陰で最近まともに覚えられるようになったから、出来ればもう一度だけ名前を教えてくれないだろうか」

 

「う・・・そ、そんな真面目な顔で言わなくても。し、仕方ないにゃあ、もう1回だけだよ?」

 

「ああ」

 

もう1回?そもそも李衣菜の言ったことが正しいなら、俺は彼女の名前を元々知らないはずなんだが。

 

そのことを聞き返すよりも早く荷物からねこみみを取り出し、両手を握りまるで猫のようなポーズを取った。

なるほど、あの時の猫のようなアイドルと同一人物だったとようやく思い出せたぞ。

 

「前川みくにゃ!キュートなネコチャンアイドル目指して頑張るから、応援よろしくにゃん♪」

 

さっきまでと打って変わっての表情や動作に驚いた。この子もすでにプロなんだな。

そしてしっかりとこれからの自分を決めてそこへ向かって全力で頑張っている。俺もそのパフォーマンスに思わず拍手をしてしまった。

 

「今度こそよろしく前川さん。今後の前川さんの活躍が楽しみだよ」

 

「・・・無表情で拍手されても反応に困るんやけど」

 

全員の自己紹介が終わり、未だ笑顔でこちらを見ている新田さんに耐え切れなくなった俺は、メンバーの一番後ろに移動し控え室まで案内されるようについていった。

 

俺が一体新田さんに何をしたのか・・・これを本人に聞いたら状況がさらに悪化しそうなのでやめておくことにしよう。

 

 

 

控え室までたどり着くと、先頭の莉嘉がいきなりドアを開けて中に入っていき、それに続いてみりあ、三村さんと次々に中に駆け込んでいく。

俺も入っていいのか迷っていたんだが、それに気づいたのか諸星さんが笑顔で頷いたので頭を下げて中に入った。

 

パーテーションで仕切られた向こう側からは男性の声が聞こえている。話からアイドルとスタッフ全員が揃っているようだ。

プロジェクトメンバーの後ろから少し覗いてみると凛たちの姿を確認することができたので少しホッとした。

知っている人が誰もいなかった場合、自分のことをどう説明すればいいのか困るところだった。

 

 

紅葉くんとHappy Princess

 

 

「みくもステージに出たいにゃああああ!」

 

凛たちとプロジェクトメンバーが一通り感想を言い合い前川さんの叫びを最後に、スタッフと思わしき人たちが次々と部屋を後にする。

何人かが俺のことをちらりと見たが、何か言う人はいなかった。

 

「あ、紅葉」

 

「あら、弟くんじゃない。久しぶりね」

 

「え、たたた高垣くん!?」

 

初めて気がついたのか、凛が俺の名前を不思議そうな顔をして呼んだ。それに反応するように俺に視線が集まり、川島さんも俺の存在に気づいた様子だ。

ここはきちんと挨拶をしておいた方がいいだろう。今までは何も言われなかったが、家に姉さんを送り届けてくれた時も含め何度か失礼な態度をとっていたはずだ。

 

そういえば川島さんは前に18歳と言っていた。今思うと俺と1つしか違わないのに随分としっかりしていたんだな。

 

美嘉は相変わらず挙動不審になっているんだが、落ち着くまで挨拶は控えたほうがいいだろうか。

 

「お久しぶりです川島さん。姉さんがいつもお世話になっています。凛、それと島村さん、本田さん。それに皆さん。素晴らしいステージをありがとうございます」

 

「ふふっ、楓ちゃんから聞いていたけど、ついに覚えてくれたみたいね。なら私も紅くーん♪って呼んだ方がいいかしら?」

 

「いえ遠慮しておきます」

 

「おっと、そのはっきりとしたところは相変わらずなのね」

 

「ねえしまむー、しぶりん。この淡々としたイケメンさんって知り合い?川島瑞樹さんも知ってるみたいだけどさ」

 

「すみません、私がライブを含めて、彼を招待しました」

 

「ああ、彼が例の」

 

「はい」

 

本田さんが俺を見ながら凛と島村さんにヒソヒソと何かを伝えている。

 

彼女とは自己紹介がまだだったので近づいて説明しようと思ったが、俺が言葉を発するよりも早く、プロデューサーさんともう1人年配の方が何やら話をしそうだったのでそれを待つことにした。

 

「皆さん、こちらは弊社のアイドル、高垣楓さんの弟さんで、高垣紅葉さんと言います。高垣さんを始め、ここにいる渋谷さん。そして、もう1人の方がアイドルになるきっかけの1つをくれた人です」

 

「・・・高垣紅葉です。本日はお招き頂きありがとうございました」

 

とりあえず挨拶をしては見たがどういうことだ?姉さんがアイドルになるきっかけ?そんなはずないだろう。

 

プロジェクトメンバーも含め、俺のことを知らない佐久間さんや小日向さんがそれぞれの反応を表しているが、姉さんのことが気になりよく話を聞いていなかった。

 

「やあ高垣くん、初めまして。部長の今西です。お姉さんにはいつも我が社は助けられているよ」

 

まさかそこまで重役の人だとは思わなかった。プロデューサーさんとは対照的に小柄で優しそうな見た目。それにわざわざ一般人の俺に自分から挨拶をしてくるとは、346プロダクションはアイドルだけじゃなく社員全てが素晴らしい人たちのようだ。

 

「初めまして今西部長。こちらから先に挨拶できずに申し訳ありません」

 

「はっはっはっ、随分としっかりした子のようだ。それに・・・うん。お姉さんとは少し違うが良い目をしている。武内くんが気にかけるのも納得だね」

 

「・・・・・・」

 

プロデューサーさんが困ったように手を首にあてているが、あれは癖なのか?

 

「そっかそっか。じゃあもーくんだね!本田未央です。よろしくね!」

 

「あ、ああ。よろしく」

 

もーくん?

 

「紅葉、私たちのダンスどうだった?」

 

「ああ、他のダンサーに負けないとてもいいステージだったぞ。登場した時も笑顔が輝いていた」

 

「そ、そう。ありがと・・・」

 

なんだ?俺としては褒めたつもりだったんだが、凛が珍しく視線を外して俯いてしまった。

また知らないうちにまずいことを言ったのか?

 

そういえばもう1つあったな。

 

「凛のステージは加蓮にとってもいい刺激になるだろうな」

 

「・・・は?加蓮って誰」

 

加蓮の名を聞いたら今度はしっかりとこちらを見てきた。いや、見ているというより睨んでいるような気もする。

 

「加蓮は凛と中学が同じだと聞いたんだが・・・」

 

「ふーん」

 

「そ、そういえば高垣くん。私のこと島村って!」

 

何故か少しまずい雰囲気になりそうだったところを見かねたのか、島村さんが間に入って来てくれた。

 

「はい、以前は失礼しました。島村さんの楽しそうな舞台でのダンスは見ていてこちらも楽しくなりました」

 

「えへへ、ありがとうございます♪」

 

「ねえねえ弟くん。どうせなら私たちの感想も聞きたいわね」

 

「え、アタシも!?」

 

そう言った川島さんが、美嘉や他のメンバーを連れて近くまで来た。

美嘉はちらちらとこちらをみているが、あまり聞きたくはなさそうだな。

 

「川島さんは他の方以上に余裕が感じられてとても自然で楽しい曲でした。会場全体を盛り上げるのも上手だし、とても俺と1つしか違わないとは思えませんね」

 

「え、えっと弟くん。もしかして、まだあのこと本気にしてるの?」

 

「姉さんのことも助かってますが、未成年なのだし酒をすすめられても断ってくださいね。まあ姉さんに限ってそんなことないとは思いますが」

 

「瑞樹さん・・・」

 

「や、やめて美穂ちゃん!そんな悲しそうな目で私を見ないで!」

 

「なるほど!あの時の人でしたか!」

 

そうか、近くでこの元気な声を聞いて思い出した。

以前奈緒と一緒にライブ後の姉さんたちに会いに行ったとき日野さんにも会っていたんだ。

 

すぐにどこかに走って行ったからいつも以上に顔を覚えていなかったんだが、この熱い声は記憶にあったようだ。

 

 

「日野さんの歌はとても元気が出ました。周りの応援も一層盛り上がって、会場の熱気が今日一番だったように感じました」

 

この小さな体のどこにあんな大きな力があるのだろうか。まるで姉さんとは正反対だな。

姉さんが日野さんと同じようなパフォーマンスをしたら5分と保たず倒れるだろう。

 

「はい!元気だったら誰にも負けません!足りないのでしたらもっと元気を分けてあげますよっ!!」

 

「だ、大丈夫です」

 

ライブ後にこの体力は想像以上だ・・・アイドルはやはりすごいんだな。

 

「あ、あの。わ、私の歌も聞いてくれましたか?」

 

日野さんの熱に気圧されそうになっていると、不安そうに小日向さんが質問をしてきたんだが、舞台での印象と随分違うな。

 

「・・・小日向さんですよね?」

 

「は、はい。そうですけど」

 

やはり間違ってはいない。さすがはアイドルというべきなのだろうか。

 

「すみません。ステージ上での堂々とした歌い方に特に周りの男性は魅了されていたように感じました」

 

「た、たまに舞台とは違うって言われることはあるので気にしないでください。でも、そうですか。皆に私の気持ちと笑顔が届いていたのなら嬉しいです」

 

「次はまゆの番ですね。どうでしたか高垣さん?」

 

小日向さんの後ろに控えていた佐久間さんが笑顔でそう言った。笑顔・・・確かに笑顔で俺をじっと見ているんだが何か違和感がある。

一瞬考えて視線を外してしまったんだが、その隙にいつの間にか佐久間さんは小日向さんと俺の間まで来ていたようだ。

 

「・・・?どうしましたぁ?」

 

「あ、いえ」

 

視線を佐久間さんに戻すと、彼女は相変わらず俺をじっと見続けている。

違和感が気になったので俺もしっかりと佐久間さんの瞳を見ていたんだが、そこで従姉の言葉を再び思い出した。

 

なるほど、それを思い出すと違和感の正体が見えてきた。俺と少し似ているが全く違う。

佐久間さんは俺を見てはいるが見ていない。見ている俺に意識がほとんどないんだ、と思う。

 

ステージで歌う彼女に観客は他のアイドル同様に魅了され応援していた。

佐久間さんの視線も一人一人のファンを丁寧に見ながら歌っているようだった。2階席にいた人からも、曲の後に目が合ったなどの声が聞こえたくらいだ。

 

「・・・佐久間さんは、歌を伝えたい人に伝えられましたか?」

 

「!?」

 

思わず口に出してしまった言葉に佐久間さんが初めて驚きの表情を見せた。

 

「・・・面白い人ですねぇ。まゆもまだまだみたいです」

 

どうやら怒ってはいないようだが、少し俺を見る目が変わったような気がする。

これ以上話をすると本当に怒らせてしまうかもしれないのでやめておこう。

前後から冷たい笑顔を向けられたら流石に耐え切れる自信がない。

 

「美嘉、やっぱりお前はすごいな」

 

「え?あ、アタシ?」

 

「あ、あの・・・まゆの感想は?」

 

「自分の練習もあるのに3人にも付き合ってくれて、大変だったろうに学校ではいつもの笑顔を皆に見せていた。同級生として、友人として誇りに思うよ」

 

「べ、べべ別にそんなの普通のことだし?アタシには超よゆーだし」

 

「高垣くん、まゆの・・・」

 

「俺も思わず歌を口ずさんでしまったよ。最高のステージだった」

 

「まゆ、の・・・」

 

「ふ、ふふふ。あははは!何それおっかしい!高垣くんがアタシの歌歌ってるところ見てみたかったかも★」

 

「・・・やっといつもの美嘉に戻ったな」

 

「まゆ、そろそろ泣いてもいいですかぁ?」

 

最近話しかけす度に挙動不審になっていた美嘉だったが、もしかするとレッスンでの辛さや仕事の大変さを隠していただけなのかもしれないな。

 

「うん、ゴメン。ちょっとアタシらしくなかったかも。これからはちゃんといつも通りの城ヶ崎美嘉に戻るから、覚悟してよね★」

 

「ああ。覚悟?」

 

「失礼します」

 

一通り俺が感想を話している間は、プロジェクトメンバーたちはそれぞれライブに出た3人に改めて感想を言い合っている様子だった。

それをプロデューサーさんと部長さんが見ていたんだが、その後ろ。パーテーションの裏の入口から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

「お疲れ様です部長、プロデューサー。ライブに参加した皆さんもお疲れ様」

 

そこから入口から姿を現し挨拶をしたのは、俺が声を聞き間違えるはずもない姉さんだ。

丁寧にお辞儀をして前を見た姉さんが俺の姿を見つけると、少し悲しそうな笑顔を向けていた。

 

「楓ちゃんじゃない!一体どうしたの?あ、言わなくてもわかるわ!心配しなくても弟くんはちゃんと私たちが面倒見てるわよ」

 

面倒を見られた覚えはないんだが。

確か姉さんは今日番組の打ち合わせだったはずだ。

 

「いえ瑞樹さん。紅くんはしっかりしてるから心配はしていません。前の打ち合わせが早く終わったので、ライブ後の皆さんの顔を見たくて来ちゃいました」

 

メンバーの中から俺に対して、本当に弟だったんだ。よく見ると似ている。などの声が聞こえてきて、それと同時に新田さんの冷気が消えていった。

 

姉さんのお陰で助かったのか?

 

「それにこの後瑞樹さんと生放送ラジオの仕事がありますから、始まる前に一緒にお食事でもと思いまして」

 

「いいわね。どうせならいつものメンバーも誘っちゃう?」

 

「瑞樹さん、このあとも仕事があるんだ」

 

「あ、アイドルって大変なんですね」

 

「何言ってるのしまむー。私たちだってもうアイドルじゃん」

 

凛たちじゃないが俺でも大変だと思う。ライブの疲れを感じさせず、すぐに次の仕事へ気持ちを切り替えていくのはさすがプロなんだと感心させられた。

 

 

「ふむ、せっかくだしちょうどいい。高垣くん、ああ弟の紅葉くんだったね。君に聞いてみたいことがあるんだ」

 

「自分にですか?」

 

急に部長さんが口を開いたのでアイドルが一斉に話すのをやめて耳を傾けた。

俺に話とは一体何だろうか。何かまずいことでもしたか?

 

「まあそんなに畏まらず答えてくれ。単刀直入に、もしお姉さんが新しいユニットを組むとしたら誰がいいか。ぜひ君の意見を聞いてみたいね」

 

「い、今西部長!?」

 

「そう慌てなくてもいいよ高垣くん。一般の、というよりも一番身近な君の弟がどう思っているのか興味があってね。あくまで参考程度だよ」

 

いきなりとんでもない質問をしてくるんだな。参考といってもここには一緒に歌ってる川島さんもいるし新プロジェクトの子もいる。全員興味がないはずないだろう。

 

前川さんに至っては眼力でものすごくアピールしている気がする。

 

「そ、そういうことでしたら。紅くん、遠慮・・・はしないわね。思ったことを口・・・にいつもしてるし。とにかく紅くんに任せるわ」

 

・・・姉さんは何が言いたいんだ?

 

だがやはり姉さんの元気がないように見える。一昨日から急にだ。俺が姉さんの力になれることと言ったらいつもの家事程度。

だとしたら、ユニットとして一緒にいると楽しくなる人がいいかもしれない。

 

それは川島さんにも言えることだが、部長さんの望む答えにはならないだろう。日野さんだと逆に姉さんが引っ張られすぎて今以上に疲労しそうな気もするし・・・さて。

 

周りを見るとたくさんのアイドルたちが俺の答えを待っている。そして俺はこの人たち以外のアイドルをほとんど知らない。

 

この人たち以外?ああ、そうかあの人がいたな。あの人が姉さんと一緒に歌ったら面白そうだとあの時思っていたんだ。

 

「・・・自分はしゅがはさんがいいと思います」

 

「しゅがは?誰かねその子は」

 

「紅くん?」

 

「以前プロデューサーさんに電話で紹介したあの人です」

 

「な、なるほど。佐藤さんですか」

 

「武内くん、知っているのかい?」

 

「はい。以前、当プロジェクトとは別のオーディションに合格した、佐藤心さんです。まだレッスンのみで、活動はしていませんが、やる気と秘められた能力はかなりのものかと、担当から聞いています」

 

「ほう、それは面白いね。ありがとう紅葉くん、参考になったよ」

 

「は、はい」

 

 

その後は解散となり、プロジェクトメンバーと舞台に出た3人はそれぞれ戻っていった。

俺も奈緒と加蓮を待たせているし、美嘉たちは着替えなどがあるので軽く挨拶をしてから外に出ることに。

 

「紅くん、今日は少し遅くなると思うの。夕飯も済ませてしまうし、鍵をかけて先に寝ていても大丈夫よ」

 

「ああ、川島さんとのラジオだろう?」

 

「ええ」

 

そう言って微笑んだ姉さんはやはり何故か寂しそうだった。

もしかしてダジャレ1週間禁止の影響なのか?

 

「あまり川島さんに迷惑かけないでよ。あの人18歳なんだし、本来なら姉さんが帰りの面倒みないとだめなんだぞ」

 

「え、ええ!?」

 

「じゃあね姉さん」

 

「え、あ、ちょっと紅くん!まだそれ続いていたの!?もうっ!みーずーきーさーん!!」

 

川島さんと、仲間と一緒にいる時は楽しそうだ。

俺を見る笑顔が悲しそうなのはどうしてか。本当の姉さんのことを知りたい気持ちと、知るのが怖い気持ちが今の俺に入り混じっていた。

 

 

続く!




これでようやく予告分が終了に・・・

中々上手くまとめられないです。

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