楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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相変わらず更新が遅くて申し訳ありません!

お詫びでも何でもないですが、ニコ動の方でこの作品のノベマス動画投稿してます。
立ち絵ありで3%ほどセリフに修正を加えた1話からの作品なので、興味がある方はぜひ!
【NovelsM@ster】楓さんとクールで辛辣な弟 という題名になってます。

ちなみに見た人はまだいないかもしれませんが、魚屋さんに関してのイメージはハーメルンで初登場させた時からあんな感じでした。




第3章
紅葉くん再びライブへ!


大胆な紅葉くん?

 

 

「奈緒、明後日の日曜に予定はあるか?」

 

「へ?と、突然なんだよ紅葉」

 

前川さんたちのストライキから約2週間。

姉さんの用事や美嘉の送りがない状態だったため、特に346と関わりのない日々が続いていた。

 

CDデビューが決まりライブを控えている凛へ、俺自身の恥ずかしさや不安などの感情を整理した頃に何か手伝えることはないかと連絡したところ・・・

 

『必要ない』

 

ただその一言だけで終わってしまった。

 

その答えは当然といえば当然なのだが、凛の声が若干焦っていたように感じたのは気のせいだろうか。

 

 

5月の終りが近づくにつれ、僅かではあるが徐々に凛たちの情報が表に出るようになっていた。

 

凛、島村さん、本田さんのユニット名はnew generations。

赤を基調とした衣装に身を包んだ3人の姿が載った雑誌を姉さんに見せられた時、少し誇らしかった。

 

そんな折、凛から夜に連絡が来た。

また何か問題か?などと思っていたが、内容は俺の知りたかったものだった。

 

『紅葉、今度の日曜の夕方にライブするから』

 

「いよいよ決まったんだな」

 

『うん。まあ、本当はもっと前に知ってたんだけどね』

 

「・・・ん?そういえばチケットは持っていないぞ」

 

『それは大丈夫。そういうのいらない場所なんだ』

 

「そうなのか。なら奈緒たちを誘っても大丈夫だな」

 

『・・・また知らない女の子の名前』

 

「・・・・・・・・・」

 

電話越しに冷たい風が吹いてくる感覚に襲われる。

なぜ俺の周りの女性は友達の名を出すとこうなるのだろうか・・・

 

『・・・未央も友達呼ぶって言うし別にいいんじゃない』

 

「何か怒ってないか?」

 

『怒ってない!』

 

「そ、そうか」

 

もしかするとライブ前で気持ちが高ぶっているだけなのかもな。

会う時は基本冷静な凛だが、やはり自分のユニットの初ライブとなると色々違ってくるのだろう。

 

『とにかく、絶対見に来てよね』

 

「当たり前だ。俺は凛のファンだからな」

 

『・・・うん』

 

「それでどこに行けばいいんだ?」

 

『あ、うん。場所は・・・』

 

 

そして現在は凛から連絡のあった次の日の放課後。

帰ろうと鞄に手をかけた奈緒に声をかけ、予定がないか聞いてみる。

 

突然のことだし予定があってもおかしくないからな。

 

「べ、別に予定はないけど・・・」

 

やや伏し目がちの小さい声で奈緒が答える。

本当は何か予定があるのではないのだろうか?無理をさせては悪いんだが。

 

「先に決まった予定があるなら構わないぞ?」

 

「な、ないから!超暇だから!」

 

「なら一緒にサンセットシティに行かないか?」

 

「お、おう。紅葉にしては珍しい場所だな。何か買い物とか?」

 

「それもいいな。夕方だし、食事をするのもいいかもしれない」

 

「そ、そそそれってまさか。あ、あたしとデ、デデ・・・」

 

「そうだ。さすがに知っていたか」

 

やはり奈緒は情報通のようだ。

元々1人、もしくは加蓮と行く予定だったのだろうか。

 

「そう、new generationsのデビューライブだ」

 

「デ!びゅ・・・う?」

 

「加蓮はこのことを知ってるのか?あいつは凛の同級生だったし、興味あるはずなんだが」

 

そう奈緒に問いかけると、奈緒は両手を握り締め下を向き震えていた。

なんだ?奈緒も気持ちが高ぶっているのか?

 

「し、知るかー!ばかーー!!」

 

突然の大声に思わず耳を塞いでしまったが、奈緒は顔を赤くし少し涙目になりながら俺を睨み続けていた。

 

 

紅葉くんとデビューアイドル

 

 

「へぇ、ここって来たことなかったけどキレイな場所だね」

 

「噴水広場はアイドルやアーティストの登竜門的な場所でもあるからなぁ。あたしは何度か来たことがあるよ」

 

奈緒を誘った2日後の日曜日。

加蓮も行くことを了承し、3人でサンセットシティへやって来た。

 

行き交う人々で賑わってはいるが、まだ広場で立ち止まっている人は少ない。

 

「一応姉さんも誘ったんだが、仕事があって来られないそうだ」

 

「いやいや紅葉先輩。新人アイドルのデビューのお客さんが有名アイドルって、お客さんの視線がステージに向かなくなっちゃうよ」

 

「楓さんはその場にいるだけでも目立つからなぁ」

 

どうやら姉さんは来なくて正解だったらしい。

確かに姉さんは家族と外出する時、やたらとテンション上げて両親から白い目で見られていた。

 

あの姿を高校生になって見るのはとても忍びないか・・・

 

昔のことを思い出し吹き抜けになっている広場を見上げると、上の階で気になる集団がいた。

M・I・Oと書かれた垂れ幕を下げ楽しそうに談笑している10人ほどの男女。

 

「エム、アイ、オー・・・みお・・・ああ、本田さんか?すごいな、もうあんなにファンがいるのか」

 

「ん、どこ?・・・いや、あれは同級生なんじゃないのか?ほら、同じ制服着てる人が何人かいるし」

 

俺の呟きに奈緒が答えてくれた。

となると、どこかに凛や島村さんの同級生もいるのかもな。

 

改めてライブ前の広場を見渡す。

先程より何人かはライブ開始を待っているように見えるが、それでもまだ通り過ぎていく人の方が多い。

 

そして逆に舞台上で設置作業をしている人たちが減っている。

時計を見るともうすぐ開始時間だということがわかった。

 

「そろそろ始まる時間だが観客が少ないな。皆ギリギリに来るのか?」

 

「そういえばそうだね。じゃあその辺のところを解説よろしく、奈緒♪」

 

「勝手にあたしを解説役にするな!まったくもう・・・えっと、もしかして2人ともこの前の美嘉たちのライブみたいなイメージしてない?」

 

「違うのか?」

 

同じ346のアイドルのライブだ。

冬のライブの時も同様だったのだから、今回もそれなりに賑わうのかと思っているんだが、奈緒の答えはどうやら違うらしい。

 

加蓮は奈緒を見て首をかしげている。考えていることは俺と同じようなものなのだろう。

俺たちの反応を見た奈緒は腰に手を当てため息をついて話を始めた。

 

「あのライブと今回のライブは全然違うんだぞ。

美嘉を含めHappy Princess Liveのメンバーは346だけじゃなく全国的にもかなり有名なアイドルのライブなんだ。

だから宣伝は大規模だし人も集まってチケットも売り切れる。逆に2人に聞くけどさ、全く知らないアイドルのライブの宣伝見て絶対行きたいって思うか?」

 

「あー・・・そう言われるとそうかも。へぇ、ここでこの子たちライブやるんだ、って思うくらい?」

 

「俺もライブには興味出てきてはいるが、それは知っているアイドルがいるからだな」

 

「だろ?宣伝に対しての反応は新人と有名人じゃ全然違うんだよ。

とはいえ、ここでやる意味は十分にあるかもな。さっきこの噴水広場は登竜門って言ったけど、全員がここでライブ出来るわけじゃない。

new generationsは最近雑誌で目にしたし、それなりに期待されてるんだろうな。もしくは宣伝者の実力?」

 

奈緒の答えは納得するものばかりだった。

つまりプロデューサーさんの実力が本物で、プロジェクトにはそれだけ力を入れているということだ。

そう考えると前川さんや李衣菜たちのデビューも楽しみになってくる。

 

前川さんの目指す可愛いアイドル、李衣菜が目指すロックなアイドル。一体どういうものになるのだろうか。

 

「なるほどね。さっすが奈緒。奈緒って何でも知ってるよね」

 

「何でもは知らないぞ。知ってることだけだ。(くぅぅ!まさかこのセリフを実際に言える日が来るなんて!)」

 

「・・・なんでそんなに感動してるのよ」

 

「ん?」

 

奈緒と加蓮のやり取りの中、突然広場に青い光が照らされ音楽が変わる。

通り過ぎようとしている人も何事かと辺りを見渡していた。

 

「いよいよnew generationsライブか」

 

「だね。あれ、でもそれだけじゃないんだよね奈緒?」

 

「加蓮も少しは自分で言えよ!今日はLOVE LAIKAのデビューもあるんだよな高垣?」

 

「ラブライカ?」

 

「まさか知らなかったのか?雑誌にも一緒に載ってただろ」

 

全く知らなかったが他のアイドルのデビューもあったのか。となるとやはり同じプロジェクトのアイドルなのだろうか。

なぜだかわからないが一瞬寒気を感じた。

 

『はーい、皆さんこんにちはー!』

 

舞台袖より司会と思われる女性が駆け足で中央にやってきた。

考えても仕方ない、相手が誰か出てくればわかるはずだ。

 

今俺たちがいる場所は広場中央よりやや通路側、ステージには少し遠い位置だ。

あまり前に出すぎると凛の視界に入って邪魔になる可能性もあるが、もう少し前にいても大丈夫だろう。

 

「2人とも、少し前・・・」

 

『・・・新田美波ちゃんとアナスタシアちゃん2人のユニットLOVE LAIKAと、

本田未央ちゃん、渋谷凛ちゃん、島村卯月ちゃん3人のユニットnew generationsの2組でーす!』

 

・・・何?聞き間違いか?今、新田美波と聞こえたんだが。

 

『それではお待たせしました!LOVE LAIKAの登場です、どうぞー!』

 

「!?」

 

どうやら聞き間違いではなかったようだ。司会の紹介のあと新田さんとアーニャの2人が少し緊張した面持ちで登場する。

その白や水色の衣装に身を包んだその姿は、どこかロシアの風景を連想させた。

 

だが、まさか新田さんもデビューすることになっていたとは・・・

嬉しいことではあるが、どうやら時間が経っても中々彼女に対する苦手意識は取れないようだ。

 

「どうした紅葉?」

 

「先輩どうしたの?前行くの?」

 

「い、いや。ここにいると危険だ。もう少し後ろにいよう」

 

「危険って、お前は何と戦うつもりなんだよ」

 

「初めまして『LOVE LAIKA』です」

 

「聴いてください、私たちのデビュー曲」

 

『Memories!』

 

曲の紹介を2人同時に行い、新田さんとアーニャがそれぞれ背中合わせに向きを変えると同時に曲が流れる。

ここからは下手に動いたら迷惑がかかるかもしれない。今はただ、2人のデビュー曲に集中しよう。

 

登場時緊張していたように見えたのは気のせいだったのかもな。

今の2人はとても真剣、曲のようにクールな表情で息のあった動きを見せている。

少し懐かしい気持ちになる曲に合ったその歌声はきれいで大人びたようにも聴こえ、新田さんだけではなくアーニャももしかすると歳上なのかもしれないと感じた。

 

青と白の光が煌き、ゆっくりと力強いダンスは一度も失敗することなく続いていた。

 

「いい曲だなぁ。デビューのことは知らなかったっぽいけど、紅葉はあの2人も知ってるのか?」

 

「ああ、この前のライブの後にプロジェクトメンバー全員と自己紹介だけはした」

 

「うんうん、どうやら先輩の特訓は成功だったみたいだね。よかったね奈緒」

 

「うん・・・って、だからお前はいちいちあたしにふるな!」

 

『ありがとうございました!』

 

曲が終わり2人が挨拶すると、疎らではあるが観ていた人たちから拍手があがる。

奈緒も加蓮も笑顔で拍手をしており、俺も自然と手を叩いていた。

 

「スパシーバ!」

 

「ありがとうございます!」

 

その反応がよほど嬉しかったのか、2人は目に涙を浮かべ観客に手を振って喜びを表していた。

 

「!?」

 

新田さんが上の階の人たちへ手を振ったあとにもう一度同じ階の広場へと目を向ける。

その時に目が合った気がした。

だが今は恐怖を忘れこちらもこのライブへの感謝を表現するべきだと思ったので、拍手を続けると同時に頷きで表す。

 

「(ありがとう)」

 

恐らく俺に向けた新田さんの声に出さない口だけの動きがそういった気がした。

その笑顔はとても穏やかで優しく、今までの恐怖を本当の意味で忘れさせるには十分なものだった。

 

続く!




今回ちょっとしたことですが活動報告も出しました。
作品同様コメントもお待ちしています。

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