楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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2日遅れましたが加蓮誕生日おめでとう!
そしてこの作品にも登場してるまゆ、今日の誕生日おめでとう!

というわけで、今回は加蓮視点になります。

次からは紅葉くん視点に戻る予定です。


ちなみに2章の 「成長しても紅葉くんの勘違いは止まらない」
ここのアイドルとの自己紹介ですが、ニコ動の方で全員分作ってますので興味ある方は是非。


特訓とか努力とか根性とか、そういうキャラじゃないんだよね

奈緒と加蓮、アイドルの第一歩

 

 

「んじゃ、ちょっと待っててね。皆連れてくるから」

 

346プロダクションへとやって来たアタシと奈緒は、島村卯月さんに宣戦布告をしたあと受付で指定された部屋へとやってきた。

 

そこで待っていたのは昨日会った灰色の髪で少し細身のプロデューサー1人だけ。

会った時から思ってたけど、あの前髪邪魔じゃない?

隙間から見える赤い瞳のせいで余計あやしいんだけど。

 

改めて考えたら、アタシってばよくこんな人にスカウトされてOKしたよね。

確かにあの時は自分の中でムカムカやモヤモヤがぐるぐる回ってて冷静じゃなかったけど・・・

 

あ、アイドルになろうと思った理由はもう言わないよ。

自分の心の内を誰かに話すのって結構勇気いるし、恥ずかしいもん。

 

「皆って言ってたけど美嘉先輩の他にも何人かいるってことだよね。奈緒は知ってるの?」

 

そもそもアタシは奈緒や紅葉先輩とはよく行動するけど、美嘉先輩と話した記憶はほとんどないんだよね。

しかも学校で見る美嘉さんはガチガチに固まってて、まるでロボットのパントマイムをする人みたいなんだもの。

話しかけるのをちょっとためらっちゃう。

 

ま、原因は当然知ってるけどね。

 

「・・・・・・・・・」

 

「どうしたの奈緒?」

 

奈緒がまずいって顔してる。

たぶん知る知らない以前に美嘉先輩に話すの忘れてたっぽい。

昨日の今日じゃ仕方ないけど、ホント奈緒ってば思ったことが顔に出やすいんだから。

 

「美嘉先輩にスカウトのこと言ってなかったんでしょ」

 

「う・・・し、仕方ないだろ!ずっと自分の気持ちの整理で頭がいっぱいだったんだよ!」

 

ほら、思った通り。

顔真っ赤にして言い訳してる奈緒可愛い!

 

「別に責めてないってば。でもそれって逆に面白いんじゃない?もしかして、紅葉先輩がいる時みたいに真っ白な美嘉先輩が見れたりして!」

 

「お前なぁ・・・この状況でもそういうとこぶれないのは尊敬するよ」

 

 

 

「よし、さっそく自己紹介から始めてもらうとするか」

 

「全く相変わらずだよねプロデューサーは。アタシたち何も聞いてないんだけど」

 

「新しい仲間ですか!どんな人たちなのか楽しみですね!」

 

「レッスンの途中で抜け出してきたけど良かったのかな。トレーナーさん怒ってるんじゃ・・・」

 

扉の開く音が聞こえて何人かの声が次々聞こえてきた。

プロデューサーと、そのあとの声は美嘉先輩かな。

アタシたちのこと伝えてないって、あの人大丈夫なの?この先がちょっと不安になってくる。

 

扉からアタシと奈緒の座ってるソファーの位置までは通路が壁に阻まれて死角になってる。

だからお互い相手が誰なのかわからない状態なんだけど、念の為に挨拶するために立って待つことにした。

 

お待たせ、と最初に顔を出したのはプロデューサーだ。

そして次に姿を見せた相手の顔が一瞬にして驚きの表情に変わった時、思わず奈緒と顔を向き合わせて吹き出しちゃった。

 

「な、奈緒!?え、どういうこと?それに隣の子は加蓮・・・だっけ?ちょっとプロデューサー!どうなってんの!?」

 

「どうなってるって言われても、俺も驚いたんだよね」

 

予想通りの結果にアタシは満足!

2人のやり取りを見ていたあと2人のアイドルはこの前のライブにも出演してた有名な子たちだ。

いずれアタシもこの子たちと同じ舞台に立って歌やダンスを披露する。

そう考えると、少し緊張もあり楽しみでもある。

 

仕方ないなぁ、このままじゃ話が進まないし、アタシから自己紹介しますか。

奈緒は『あはは・・・』と苦笑いでどうしていいか困ってるし、先にスカウトされたアタシからやるべきだよね。

 

「お久しぶりです美嘉先輩。そして皆さん初めまして。この度、鈴科プロデューサーにアイドルとしてスカウトされた北条加蓮です。今日からよろしくお願いします」

 

「・・・う、うん。よ、よろしく」

 

親しき仲にもなんとやら。

きちんと挨拶して最後にテレビで見た楓さんの見よう見まねで丁寧にお辞儀をしてみた。

 

元の姿勢に戻ると、奈緒が『誰だコイツ?』って顔で見てる。

失礼しちゃうなもう。アタシだってやればちゃんと出来るの!

 

でも作戦は成功。

開いた口の塞がらない奈緒の顔撮っておけばよかった。

あとで紅葉先輩に見せたらお互いどんな顔をするか面白そうだったのに♪

 

「ほら奈緒、挨拶」

 

「お、おう。か、神谷奈緒です。加蓮と一緒にスカウトされました。あたしがアイドルなんてまだ信じられないけど、よろしくお願いします!」

 

ようやく落ち着いたのか納得したのか、今にもプロデューサーに掴みかかりそうだった美嘉先輩がアタシたちを交互に見て笑顔になる。

 

やっぱり学校の先輩とは違うなぁ。

何もしてないのに普通の人とはオーラっていうか雰囲気が凄い。

カリスマJKの名は伊達じゃないってことかな。

 

「そっか、2人がアイドルにねぇ。ま、アンタたちならなってもおかしくないか。これから先輩としてビシバシ指導するからよろしくね★」

 

「はい、よろしくお願いします美嘉先輩!」

 

「おう、よろしくな。美嘉セ・ン・パ・イ!」

 

「うぅ・・・やっぱり先輩禁止!」

 

アタシに続いて奈緒が追撃をかける。

恥ずかしくなった美嘉先輩を見た奈緒が小さくガッツポーズとして『勝った』って喜んでる。

うんうん、奈緒は負け続きだったからねぇ。原因はほとんどアタシだけど。

 

「おお!そういえばあなたは前に会ったことありますね!日野茜です!好きな食べものはお茶で好きな飲み物はカレーです!よろしくお願いします!!」

 

「よ、よろしくお願いします・・・ん?カレーが飲み物?」

 

「茜ちゃん、逆になってるよ。小日向美穂です。これから同じ部署同士仲良くしましょうね」

 

「ちなみに奈緒と加蓮はアタシと高校一緒なんだ。奈緒は1年の時からの友達で学校では助けられてるんだよ」

 

「ほとんど紅葉関連だろ?あれはその、まあ仕方ないって」

 

「ちょっと奈緒!高垣くんのことは今は・・・って、そういえば聞くの忘れてた。いつの間に高垣くんのこと名前で呼ぶようになったのよ」

 

「うっ・・・それは・・・色々あったんだよ」

 

アタシにとっては今更な気もするけど、やっぱり美嘉先輩も気になってたか。

しょうがない。奈緒をアシストしてあげますか。

 

「Happy Princessのライブ前に奈緒がどうしても名前で呼びたいって言ったんだよね♪」

 

「は、はぁ!?加蓮、お前何言ってるんだよ!」

 

「あれ、違った?」

 

「ちがーう!そもそも原因はお前にあるんだろ!」

 

「なーおー!一体どういうことなのよ!」

 

ありゃ、間違えて美嘉先輩をアシストしちゃった♪

でも学校でのノリになっちゃって緊張感が抜けてきちゃったかも。

これ大丈夫かな?プロデューサー怒ってたりして・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

よかった、考え事してるみたいだけど怒ってないっぽい。

茜さんは頭にはてなマークがついたような可愛い表情で奈緒たちを見てる。

 

一方美穂さんのほうは何か思い出したように言い争ってる2人に普通に話しかけた。

あの2人に割って入れるなんてただ者じゃないよ。

 

「あ、あの。今2人が話してる人って、もしかして私たちのライブの時に楽屋に来た男の子?」

 

「うんそうだよ。高垣くんも同じクラスなんだ」

 

「やっぱり。あの人すごいなぁって感心してたんだ。あんなにたくさんのアイドルに囲まれてるのに平然としてるし、部長さんにも自分の意見をちゃんと言ってたし」

 

「そ、それは高垣くんだからとしか・・・ねえ、奈緒?」

 

「うん、あいつが緊張してる姿なんて想像できないよな」

 

やっぱり何においても先輩だから、で完結しちゃうんだよね。

実はアタシは前に一度あることを先輩に聞いたことがある。

 

先輩はアイドルと一緒だったりアタシや奈緒たちと一緒でも平然としてる。

なんていうんだろ、たまにいる同級生と同じような女の子をいやらしい目で見たり、からかってスキンシップを取っても恥ずかしがることが一切ないの。

 

そりゃ、身近に物凄くキレイな姉がいるんだから基準がおかしいとは思うよ?

でもあの反応はちょっとおかしいなって思って、最悪のことを想定したことがあったの。

 

ここはあえて濁すけど、先輩に質問したのは簡潔に『先輩、男子が好きなの?』だ。

そうしたらなんて返ってきたと思う?

 

『ん?あまり話さないけど父さんは好きだぞ』

 

だよ!?

しかも真面目な顔で答えたし。

先輩は純粋すぎる!きっとアタシの質問を全く理解してなかったんだよ!

絶対楓さんの育て方が良すぎたんだってば!

 

「やっぱりか。美嘉ちゃんたちが今話してるのって、楓さんの弟だろ?」

 

「そうだけど、プロデューサー知ってるの?」

 

「あくまで噂だけね。美穂ちゃんもあの場にいたんだよね?その紅葉くんと部長が話してるとこに」

 

「は、はい。えっと、楓さんとユニットを組むなら・・・っていうお話のことですか?」

 

先輩あの時そんな話してたんだ。

あのあと一緒にご飯行ったけど、詳しいこと全然話してくれなくて奈緒が怒ってたんだよね。

 

またいつもの話をよく聞いてない感じなのかと思ったんだけど、何かに恐怖していたような気もする。

 

「そうそう、それ。それ今実現中らしいよ。あの高垣楓が新人アイドルとユニット組むって」

 

「えぇ!?アタシそれ知らないんだけど」

 

驚いた美嘉先輩が奈緒とアタシを見る。

けど当然アタシは何も聞いてないし、それは奈緒も同じようで首をブンブン横に振ってる。

 

「・・・あ、これまだアイドルには内緒だった。ここだけの話ってことで」

 

「ちょっとプロデューサー!ここまできたらちゃんと話しなさいよ!」

 

「い、いでででで!わ、わかったから美嘉ちゃん離して!首締まる!」

 

「み、美嘉ちゃん!とりあえず落ち着こう?」

 

「タックルの練習ですか!?私もやりますよー!!」

 

「あ、茜ちゃんも落ち着いて!」

 

・・・これどうするのよ。

もしかしてこのメンバーっていつもこの調子なの?

熱血系は柄じゃないっていうか、ついていけないっていうか。

 

美穂さんだけじゃ止めるの大変だし、今後は奈緒も止める側かなぁ。

奈緒、ファイト!

 

「げほっげほ・・・あー死ぬかと思った。まだ確定の話じゃないんだし内緒なんだから本当にここだけの話にしてよ」

 

「わ、わかった。ごめんなさいプロデューサー」

 

そしてプロデューサーの話にアタシも驚いた。

先輩はいつの間にか1人アイドルにスカウトしたらしい。

 

そのアイドル、佐藤心って人が楓さんとユニットを組んでレッスンをしているそう。

 

「俺の勘だけど、上はあの2人を仕上げてサマーフェスに持ってくるんじゃない?

楓さんのこいかぜのあとにでもいきなり持って来れば皆驚くし面白い」

 

「うっそ!」

 

「ねえ奈緒先生。サマーフェスって何?そんなにすごいの?」

 

プロデューサーの話に美嘉先輩だけじゃなく、美穂さんや茜さんも言葉を失ってる。

アタシには何がすごいのか全然わからないから、アイドルに詳しい奈緒先生に聞くことにした。

 

「だからあたしは説明係じゃないっての!346のSUMMER FESTIVALは一大イベントだ。この前のライブよりもずっと大規模で、特定のグループじゃなく346のアイドルから選ばれたメンバーが総出演のライブなんだよ。去年は4時間くらいやってたって話だけど」

 

「うわすっご・・・この前のでも十分すごかったのにそれ以上なんだ」

 

そのライブに新ユニットが出ることがほぼ決まってる。

それは楓さんの実力からか、新人の潜在能力からか、はたまた紅葉先輩の発言からか・・・当然アタシたちには知るすべがない。

 

それだけでもまだ素人のアタシでさえ驚くことなのに、このプロデューサーは続けてとんでもないことを口にした。

 

「慌てなくても美嘉ちゃん、茜ちゃん、美穂ちゃんは出演させるって。今後はサマーフェスを目標に調整かけるからよろしく」

 

「はぁ!?普通この状況でいきなり言う!?アタシ7月も8月も撮影やイベントで結構埋まってるんだけど!」

 

「そんなのもちろん知ってるよ。俺が考えた企画だし。大丈夫、3人なら出来る!」

 

「くぅぅぅ!このプロデューサーはいつもいつも!」

 

「み、美嘉ちゃん。プロデューサーさんのことは諦めて私たちがんばろう?」

 

「ライブですか!燃えてきましたね!」

 

「心配しなくても、加蓮ちゃんと奈緒ちゃんも出演させるつもりだから安心してよ」

 

『ええええっ!』

 

このとんでもない発言でアタシも奈緒と同様、今まで出したことのない大きな声で叫んじゃった。

だってそうでしょ?アイドルになっていきなりその日にライブに出ろ、だよ?

まだ何もわからないのに出来るわけないじゃん。

 

「さすがにまだソロデビューもユニットデビューも未定だけどね。ほら、タケのとこの3人。美嘉ちゃんのバックダンサーやったでしょ?」

 

「う、うん。ニュージェネの3人ね。あ、まさか」

 

「そういうこと。まず2人には美嘉ちゃんのバックダンサーとして出てもらう。もちろんその前に少しずつ小さな仕事はこなしてもらうけど。

あの時よりも時間あるから十分なダンスを披露できるし、大きなステージで知名度も上がる。度胸もつくし一石三鳥?」

 

「い、いきなりライブって言われても・・・そんなの無理に決まってる!」

 

「大丈夫大丈夫。時間はまだまだあるから」

 

「うぅ・・・おい加蓮、お前もなんとか言えよ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

当然、さっきまで奈緒と同じ意見だった。

出来るわけない、やれっこない。そんな先のことに向けて頑張るなんてアタシには無理・・・でも。

 

「やるよ、アタシ。サマーフェスに出る」

 

「加蓮!?」

 

渋谷さんたちよりも十分なダンスを披露できる。

その言葉に心が少し動いてしまった。

今はまだスタート地点で渋谷さんとの距離は遠いんだ。なら、最初の一歩は大きい方がぐっと近づける!

 

・・・こんな負けず嫌いだったなんて自分自身驚いてるし、あんまり好きじゃないけど、このチャンスは絶対掴んでみせる。

 

「いいじゃない、せっかく出してくれるって言うんだし、やれるだけやってみようよ」

 

「そ、そりゃこんなこといきなり出来るなんてすごいと思うけど・・・」

 

「奈緒がやらないならアタシ1人で先行っちゃうよ?紅葉先輩も喜んでくれるだろうなぁ」

 

「う・・・わ、わかったよ!こうなりゃヤケだ。トコトンやってやる!」

 

「うんうん。2人ともやる気なようで何より。じゃあさっそくだけどレッスンいってみようか。動きやすい服は持ってきてるよね?」

 

「ごめんね奈緒、加蓮。うちのプロデューサーいつもこうだから、早めに慣れてね」

 

「美嘉ちゃんは2人のこともよろしくね」

 

「ハイハイ、わかってますって」

 

「よろしくな美嘉先輩!」

 

「よろしくお願いします美嘉先輩」

 

「んもう~~~~!だから先輩禁止!」

 

 

 

こうしてアイドル初日は夏のライブに向けてのレッスンからスタートした。

曲はもちろん、美嘉先輩のTOKIMEKIエスカレート。

 

柔軟をして、ダンスの基礎を教わって曲のレッスンに入る。

 

でも、アタシは自分自身の考えがまだまだ甘かったと実感する。

まだまだ普通の人より体力がないのだと思い知らされる。

やっぱりアタシに努力とか練習とか、キツイのは無理。

 

30分、40分とレッスンが続く中であれほどやる気だったにも関わらず

自分の中の諦めモードが強くなっていき、気がついたときには医務室のベッドで天井を眺めていた。

 

 

続く!

 




サマーフェスは前から考えてた構想なので早くここまで進めたいですね。
作品はまだ6月。
でも6月は楓さんの誕生日!
ここの話はちゃんと作りたいです。

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