楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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今回少し短いですが話を区切ることにしました。
未央の件はそこのみに話を絞りたいと思ったので。

まあ、未央の話書くつもりがいつの間にかこうなってしまったってのもありますが!


大真面目の紅葉くんはいつも通り勘違いを生む

紅葉くんと続・マジメ/ネコチャン

 

 

翌日、1時限目が終わったあとに1年生の教室に行ってみることにした。

加蓮の教室に行ったことはないが、確か最初あったとき俺と同じB組と言っていたはずだ。

 

見慣れない生徒……ほぼ下級生しかいない階に入ると当然知っているものはおらず、

それは周りの生徒も同じ気持ちのようで、通り過ぎるときにちらりと横目で俺のことを見る者が何人もいた。

 

B組の教室を覗くと俺のことを見た生徒は先ほどの生徒同様興味深そうにし、友人同士で何やら話している者もいた。

 

だがこれは恐らく悪口や不審な目を向けているのではない。

原因は十中八九姉さんだろう。

 

以前の川島さんとのラジオの影響だ。

俺は全く許可した覚えはないんだが、姉さんが俺の特徴などをラジオで話したせいだろう。

俺が高垣楓の弟だということを学校内で知る生徒が今まで以上に増えていたのだ。

 

肝心の加蓮の姿を確認できないために注目される時間が増えていく。

これ以上ここに留まると生徒たちが集まってきそうな雰囲気だったため、諦めて戻ろうと思ったんだが……

 

「北条さんなら今日休みですよ」

 

後ろから最近では聞き慣れてきた声が聞こえ振り返ると、何やらプリントを抱えた前川さんが立っていた。

 

「そうか。欠席の理由は聞いているか?」

 

「体調不良としか。あ、それが例のお弁当ですね」

 

「ああ」

 

俺の左手にある弁当を見てここに来た理由を察した前川さんは、『ちょっと待っていてください』と言い残し、プリントを教壇に置いたあと再び廊下へと戻ってきた。

 

「北条さん、昨日も様子が変でしたよ。私やクラスの子が話しかけてもいつも以上に上の空でした」

 

「つまり昨日から調子が悪かったということか?そういえば奈緒も同じような状態だったな」

 

他に共通点があるとしたら一昨日ライブを観に行ったということだが、その時に体調を崩したということなのだろうか。

だから途中で帰った……いや、そう考えるとあの真剣な表情は説明がつかないか。

 

そういえば美嘉はあのライブにプロジェクトメンバーも応援に来ていたと言っていたな。

前川さんもいたのか?

誰よりもデビューを待ち望んでいた前川さんだ。同じような状況に陥った時どう思うのか聞いてみよう。

 

「前川さんも凛たちのライブの応援に来ていたのか?俺も加蓮と奈緒と一緒に観に行ったんだが」

 

「……いえ。別の仕事があったので行ってません」

 

途端に前川さんの表情が険しくなる。

凛のように女性の名前をだしたせいなのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 

「先輩は3人の状況知っているんですよね?」

 

「ああ、その日に美嘉から聞いた」

 

「私にはわかりません。せっかくデビューしたのに……私たち他のメンバーより先にアイドルになったのに、簡単に投げ出すなんて!」

 

拳を握り締め少し震えながら小さくも力強い声で発した言葉は、この前の騒動の件もあり前川さんの思いがよく伝わって来る。

 

あの後どうなったかは詳しく聞いていないが、プロジェクトメンバーで一番デビューしたいということを表に出したのが彼女だ。

色々と許せない部分や納得できない所があるのだろう。

 

廊下の教室とは反対側の壁を俺が背にし、前川さんと向かい合ってる状況で小声で話していたせいもあり、同じクラスの生徒たちには俺たちの声が聞こえているとは思えない。

が、前川さんの態度が普段と違うのには気が付いているようで、ドア越しにこちらを見てくる生徒が増えてくる。

 

場の雰囲気を良くするにはどうしたらいいのか考える。

いつも奈緒たちといる場合同じ状況になっても……若干納得はいかないが『俺だから』で済んでいる。

 

しかしここは俺のことをほとんど知らない下級生の教室前だ。

ライブの話を振った原因でもあるし、何か出来ることはないか。

 

そう思い前川さん同様一瞬下を見て左手に弁当を持っていたのを思い出した。

 

「そうだ前川さん。この弁当、よかったらもらってくれないか?」

 

「へ?」

 

「昼の用意があるのなら、すぐに悪くなるわけじゃないから夕飯のおかずにしてもいい。

加蓮の体力作り用に作った物だから、前川さんの健康のためにもなるはずだ」

 

「え、えっと。いいんですか?実は少し前から気にはなっていたんですが」

 

「ああ、家は姉さんのリクエストで夕飯が決まってるからな。出来れば受け取ってもらえるとありがたい」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

 

どうやら上手くいったようだ。

前川さんの表情も柔らかくなったし、生徒もそれに気づいたのか『おお!』という声が一斉に聞こえてくる。

 

これで自分たちのクラス委員長を困らせている上級生。といった風な誤解を受けることはなさそうだ。

姉さんにも迷惑がかからないだろう。

 

そろそろ次の授業が始まる。

戻る前に最初に聞きたかったことを聞いておこう。

今後の前川さんにとっても避けては通れない事のはずだしな。

 

「最後にもう1ついいか?」

 

「なんですか?」

 

「今後の前川さんのデビューライブ。もし人が集まらなかったらどう思う?」

 

一瞬考える素振りを見せ目を閉じるが、すぐに答えが見つかったのか頷き真っ直ぐ俺見て答えた。

 

「やっぱり最初は戸惑うかも知れないですけど、あまり関係ないです。私の……みくの夢が叶う最初のステージだもん。1人でも見てくれる人がいるなら精一杯歌いたい」

 

「そうか」

 

「それに……」

 

きょろきょろと周りを見て誰もいないことを確認する前川さん。

後ろでは同級生が見ているけどな。

 

そして右手で小さく招き猫のようなポーズをとったあと、片目だけを閉じ小声でもはっきりとこう言った。

 

「それに、もし誰1人お客さんがいなかったとしても、絶対ぜーったい紅葉チャンが来てくれるにゃん♪」

 

「そうだな。必ず行くよ」

 

一瞬にしてアイドル前川みくになった彼女は、俺の答えに納得したのか満面の笑みで教室に入っていった。

 

 

続く!




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