楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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すまない…思ったより長くなりそうで2回に分けることになって本当にすまない…




Flower Shop ✿ SHIBUYA

準備に余念がない紅葉くん

 

 

6月7日。

姉さんの誕生日があと1週間に迫ってる今日、何とか夕食の予約を取り付けることができた。

 

この件に関しては川島さんにもアドバイスをもらっていた。

外食をあまりしない俺が、ネットや情報誌だけを頼りに都内のレストランやホテルを探すには良し悪しがわからないし、出来るだけ今まで姉さんが行ったことのない場所を選びたかったからだ。

 

せっかくの誕生日、普段はやらないのだが思う存分飲んでもらおうと飲み放題のコースがある場所を選んだ。

本来なら複数人での予約のみ可能なはずだったが、これも川島さん協力の元特別に許可を貰った。

 

川島さんは嫌な顔一つせず、喜んで協力してくれていた。

酔っぱらいの人などと散々言っていた過去の自分に説教をしてやりたいところだ。

 

 

ここ2、3日の集中が切れホッと一息というところで、もう一つのことを思い出した。

プレゼントの花のことだ。

 

まだそう遅くない時間だたっため急いで凛へ電話する。

凛の家が花屋だというのは、何度か話してるうちに話題として出ていたため知っていた。

 

『もしもし、どうしたの?』

 

いつものように落ち着いた芯のある声が携帯越しに聞こえてきた。

以前のような焦った様子もなく、怒っている様子もなく、アイドル業が順調にいっているのだと思い少し安心した。

 

「今大丈夫か?少し頼みたいことがあるんだが」

 

『うん、大丈夫だよ。何か問題でもあった?』

 

「いや、別に深刻な話じゃないんだ」

 

今までの電話でのやり取りがやり取りだったからだろうか。

俺の言葉に凛は少し緊張した低い声に変わった。

 

そういえば凛は女性の名前を出すと雰囲気が変わるんだったな。

姉さんなら大丈夫だったと記憶しているが、一応出来るだけわかりやすいように話したほうがいいか。

 

「実は1週間後の14日が姉さんの誕生日なんだ。

食事と一緒に花をプレゼントしようと思っていたんだが、凛の家が花屋だということを思い出してな。

花のことは詳しくないし、出来れば凛に任せたいんだが、やってくれるか?」

 

『なるほどね。うんいいよ。じゃあ今から紅葉はお客様だ。

……ではお客様、ご予算はお決めになられていますか?』

 

急に凛の話し方が変わった。一瞬誰かと思ったぞ。

雰囲気も変わった気がするし、さすがに慣れているようだ。

 

「い、いえ。相場がわからないのでそちらにお任せしようかと」

 

『ふふふっ。どうして紅葉まで他人行儀になってるの』

 

「そ、そういえばそうだな」

 

それからいくつか説明を受け、8千円ほどの花束を頼むことにした。

少しおまけすると言われたが悪いと思ったので断ると、

 

『私がそうしたいんだから気にしないで。それに紅葉が任せるって言ったんでしょ』

 

と言われて言い返せなくなってしまった。

 

最後に受け取りの日と同時にどこで渡すのかという話に。

レストランでの食事の時、誕生日のケーキサービスも頼んでいたのでその時に渡すのはどうだろうか。

そう答えたところ、すぐに返事が返ってきた。

 

『うん、それがいいんじゃない?楓さんもきっと喜ぶよ。だったら紅葉だけ1度早めにレストランに行って花束を向こうに渡したほうがいいね』

 

「そうだな。そういえば肝心なことを聞くのを忘れていた。凛の家はどこにあるんだ?」

 

恐らくあの公園近辺にあるのだろうが、何度か公園や346プロと家を往復していた時もそれらしい店はなかったからな。

 

『え、私の家?ど、どうして急にそんなこと』

 

「ん?ああそうか。自宅で店を開いているわけじゃないんだな」

 

『あ、ああ!そういうことか。ごめん何でもない。紅葉の言う通りだね。えっと、住所は……』

 

一体どういうことなのかよくわからなかったが、これで準備は全て整った。

あとは当日姉さんに楽しんでもらうだけだな。

 

 

紅葉くんと花屋

 

 

いよいよ姉さんの誕生日当日となり、学校が終わってすぐに駅へと向かう。

最近は奈緒や加蓮もいつも通りとなり、さらにレッスン等の話が日常会話に加わっていた。

 

今日もプロデューサーさんが話があるとかで、校門で別れることとなった。

 

先週の凛の情報を頼りに迷わずすぐたどり着けるか若干の不安はあったが、すぐに杞憂に終わる。

駅を出てほぼ真っ直ぐの道のり、小さなカフェの隣に説明された通りの店があった。

 

「フラワーショップ……SHIBUYA。ここだな」

 

売り物なのか置物なのかはわからないが、様々な花が店頭に並んでおり、横目に見ながら開いたままの入口から中に入る。

 

近くにも奥の方にも人影が確認出来なかったため、『すみません』と声をかけるとすぐ近くで声がした。

どうやらしゃがんで作業をしていたらしく、花に紛れてこちらからは見えなかったようだ。

 

「はい、いらっしゃいませ」

 

「あ、えっと……」

 

思わず言葉に詰まってしまう。

なぜならてっきり凛が店番をしていると思ったのだが、相手は凛に似ている少し年齢が上の女性だったからだ。

 

姉妹がいるという話は聞いていないし、恐らく母親だろう。

以前のこともあり直接年齢に関することは聞かないが……

 

「もしかして紅葉くん?」

 

「はい。凛……さん、から聞いていましたか?」

 

「ええ、それはもう。最近のあの子の話は、卯月ちゃんや未央ちゃんの他はプロデューサーさんとあなたの話ばかりだもの」

 

他の3人はともかく、俺の話?何か話すようなことがあっただろうか。

基本的に俺と凛が話す内容は一言二言で終わってしまうんだが。

 

それよりもこちらの意図が上手く伝わらなかったようだ。

予約していた花束のことを聞きたかったが説明不足だったらしい。

 

「そうだ、先に上がってお茶でも飲んで行きなさいな。凛はまだ帰ってきていないし、あなたからも凛のことを聞きたいし」

 

「い、いえ。俺は……」

 

俺の説明よりも凛のお母さんの行動の方が早かった。

さらにこちらの返事を聞く前に店の奥へと向かっていく。

あの行動力は凛に似ているところではあるが、性格というか対人関係というか、そういったところは正反対のようだ。

 

せっかくの厚意だが、あまり時間をかけるわけにはいかない。

だが、とりあえず凛が帰ってくるまで待った方は良さそうだと奥へ向かおうとしたところ、タイミングよく後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ただいま。あれ、紅葉もう来てたんだ。ごめん、待たせちゃったね」

 

「おかえり凛。いや、今来たところだから問題ない」

 

「お、おかえりって……」

 

「ああ、違うか。お邪魔しています、の方が正しいか?」

 

「べ、別にどっちでもいいけど……」

 

なぜか俯き居心地が悪そうな雰囲気の凛。

この場合はどうしたらいいのだろうか。

一応このまま一緒に凛のお母さんがいる部屋まで向かうべきなのか?

 

「紅葉くん。コーヒーと紅茶どっちが……あら、凛おかえりなさい」

 

「え、お母さん。一体何の話してるの?」

 

「何ってあなた。せっかく噂の紅葉くんが来たんだもの。娘の話を色々聞きたいじゃない?」

 

「なっ!?」

 

「紅葉くんもそれでいいわよね?」

 

「それは、はい。俺に話せることなら話しますが……」

 

「そんなのいいから!今日紅葉はお客さんなの!」

 

「当たり前じゃない。だから話を聞こうと」

 

「ち、違うってば!お店!うちの店のお客さん!」

 

俺を間に挟むような形で親子で言い合いになっている。

どうやらこの話を聞く限りでは俺の予約のことは伝えていなかったようだ。

 

しかしこれはこれで少し面白いな。

いつものあまり表情を変えず冷静に話をする凛と違い、表情を度々変化させ声を大にして言い合っている。

 

こう言った一面は初めて見るかもしれないが良い表情だ。

プロデューサーさんもこんな凛をわかっていてスカウトしたのだろうか。

 

「……ちょっと紅葉。何笑ってるの?」

 

「ん?笑っていたか?」

 

突然矛先が俺に向けられる。いや、元々俺の注文が原因でこうなったんだが。

 

先程までの会話とは違い、いつもの凛……よりもさらに静かな声、そして据わった目が突き刺さる。

ここはあまり長引かせるのは良くないな。

悪いがお母さんの方には説明をして断ったほうがいいだろう。

それに凛の目が俺に何とかしろと言っている気もするしな……

 

「先ほどの話でしたがすみません。

実は今日姉の誕生日でして、その花束をこちらの店に頼んでいたんです。

このあとすぐ出なければいけないので……」

 

「あら、そうだったの。凛ったら何も言わないんだから。じゃあ話はまたの機会に、ね」

 

「はい」

 

「もう……」

 

ため息を吐く凛を気にする様子もなく、お母さんの方はそのまま奥へと消えていった。

ここは凛に任せるということなのだろう。

 

「ちょっと待ってて、すぐ持ってくるから」

 

「ああ」

 

どうやら用意はすでに出来ていたようだ。

にも関わらず凛しか状況を知らなかったのか。どこかにわざわざ隠していたのか?

 

「お待たせ、どうかな」

 

両手で大事そうに抱える花束を見て、さすがは花屋の娘だと納得させられる。

花の知識はないに等しいため名前はわからないが、色とりどりセンスのある並びの立派な花束がそこにあった。

 

「さすがだな。凛に頼んでよかったよ。これなら姉さんも喜んでくれるはずだ」

 

「そう、よかった。中心にあるピンクと紫の花、これ何だかわかる?」

 

「いや、初めて見るな。何か特別な花なのか?」

 

そう言われてじっとみると、花束の中央に位置し他よりも目立つ花が2種類あった。

というよりも1種類か?見た目は同じように見える。

 

「どっちもグラジオラスって花なんだ。6月14日、今日の誕生花なんだよ」

 

「なるほど、そういった花もあるのか」

 

誕生花なんて注意して観察したことはなかったからな。

姉さんが知ってるかどうかはわからないが。

 

「花言葉なんだけど、ピンクの方は『たゆまぬ努力』『ひたむきな愛』。紫の方は『情熱的な恋』」

 

「努力、恋……なるほど。姉さんがアイドルに至るまでの過程や今、そして姉さんの歌にもあてはまるいい花だな」

 

「うん……(まあ、愛とか恋とか、たまに歌というより紅葉に対して向けられてるような気がしないでもないけど)」

 

「ありがとう、本当に助かった。また何かあった時はよろしく頼む」

 

「任せてよ。ちなみに……あ、ううん何でもない」

 

「ん?」

 

「何でもないったら!ほら、急がないとまずいんじゃない?」

 

「そうだな。じゃあ凛またな。お母さんにもよろしく言っておいてくれ」

 

「そんなこと言ったら紅葉が来るまで何か言われそうだけど……まあいいや。とにかく、今日は楽しんできてね」

 

「ああ」

 

これで本当の意味で準備は整ったな。

あとは姉さんと一緒にレストランに行って、凛が言ったように楽しんでもらおう。

 

 

 

「まったく、私も何言おうとしてんだろ。自分の誕生日が……なんてね」

 

 

 

続く!

 




このあとか次の話のあとにエクストラコミュを投稿します。
内容は以前紅葉くんがCPと自己紹介した時の李衣菜とみく、莉嘉以外略した全員分の自己紹介です。

これは動画にした物の逆輸入になるのですぐ投稿できると思いますが、それだけだと面白くないのでちょっと変わったことを付け足します。

なぜこの話をやるかというと、今後CPに関わっていく際、自己紹介部分の内容が必要になる可能性があるからです。

ちなみに楓さん以外の誕生日で年齢の変化云々はややこしくなるのでやりません!

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