楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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皆さん明けましておめでとうございます。
今年も紅葉くん共々、どうぞよろしくお願いします!

少し長くなりそうなので話を分けます。
アスタリスクの話は1日ごとに行われていましたし。

しかし、既に完成している話に介入するのは難しい。
よく今までやってこれたなと・・・・・・

追記
誤字報告ありがとうございます!



紅葉くんと*(Asterisk)の数日間(前編)

1日目

 

 

凸レーションのイベントから数日が経った。

いよいよ夏休みも近づいており、日に日に気温が上昇するのを数字だけでなく体でも感じていく。

 

今年は例年以上の暑さ……等というニュースのセリフはもう毎年恒例になっているな。

 

物凄くどうでもいいことだが、この時期になると家でも恒例行事になっていることが1つある。

実家でもマンションでもクーラーがあるというにも関わらず、姉さんが扇風機をリビングに持ってくるのだ。

 

そしてその前に姉さんが座り、俺の目の前で意味不明な言葉を連呼する。

 

「ねえ紅くん見てみて!ワレワレハ ウチュウジンダァァァ

 

「……はぁ」

 

「紅くんの溜息に年々感情がこもっていくわ!もう少しね」

 

何がもう少しなのか。

先月の誕生日で25歳になった姉のこんな姿を見せられる弟の身にもなってくれ。

 

 

そんなことを考えながら今季残り少ない学校へ。

最近小さいものではあるがシンデレラプロジェクトのポスターを目にするようになった。

 

主にそこに写っているのはnew generationsだ。ラジオで曲が流れる機会も増えているらしく、その度に凛に教えられて耳を傾けていた。

 

駅のデジタルサイネージにも表示されたアイドルの活躍を見ながら横を通り抜けようとしたが、制服姿の少女に足が止まる。

その後ろ姿にもしやと思ったが、案の定そこにいたのはプロジェクトの一員で学校の後輩にあたる前川さんだった。

 

「前川さん」

 

「え?あ、先輩。おはようございます」

 

「おはよう」

 

前川さんはメガネのあるなしでアイドルと一般のオンオフを切り替えているようだ。

学校にいる時、つまりメガネをかけている状態だと俺のことを先輩と呼び敬語で話すが、

メガネを外しねこみみを付けた状態だと敬語をやめ、最近は『紅葉チャン』と呼ぶようになっている。

 

この切り替えに感心した俺は、この前美嘉たちに相談したことが1つあった。

今後俺が事務所へ行った時や仕事中の姉さんに遭遇した場合、『姉さん』ではなくアイドル高垣楓として接したほうがいいのかと。

姉さんの周りへ体面もあるだろうし必要なのかと聞いたんだが、美嘉だけでなく奈緒や加蓮にまで同時に却下された。

 

『楓さんが泣いてしまうからやめなさい』と……

 

「プロジェクトは順調のようだな」

 

「そう……ですね」

 

「あ、いやすまない」

 

自分たちのプロジェクトの活躍が表に出ているのを見て喜んでいるのかと思ったが、前川さんはまだ正式にデビューしていないんだった。

紆余曲折を得て気持ちの整理がつき、将来に向けて頑張っているのは確かだろうが、この様子を見る限りやはりまだ思うところはあるようだ。

 

「ち、違うんです!デビューのことで悩んでるとかそうじゃなく……いえ、半分そうなんですけど」

 

「どういうことだ?」

 

俺が謝った理由を察したのだろう。

そうじゃないと否定したが他にまだ問題がありそうな様子だ。

 

原因を話そうかどうするか迷っているような前川さんだったが、仕事関係のことだろうし無理に話すこともないだろう。

だが、『じゃあ』と別れを告げて学校へ向けて再び歩き出そうとした俺のシャツの裾を、前川さんは掴んで急に怒り出した。

 

「ちょ、普通詳しく話を聞こうとするところじゃないですか!?」

 

「仕事の話だろう?一般人に話せないこともあるだろうし、無理に聞こうとは思わないぞ」

 

「そういうとこ相変わらずクールというかドライというか……ていうか、今更先輩がただの一般人だなんて346の誰も思ってないと思うんですけど」

 

「???」

 

「どうしてこの人は意味わからないって顔してるにゃ……」

 

勘違いしているようだが、俺は姉さんがいるからこそアイドルたちと普通に話せているようなものだ。

姉さんがアイドルじゃなかったら、ただの無表情な高校生が話しかけても不審に思われるだけだろう。

 

いや、今は俺のことはどうでもいいか。

どうやら前川さんは何かを話してくれるらしい。

時間はあるが余裕があるわけじゃない。遅刻するわけにもいかないので、話は歩きながら聞くことにした。

 

「デビューが決まった?」

 

「はい」

 

「そうか、よかったじゃないか。おめでとう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

やっぱりプロデューサーさんは全員のことをちゃんと考えていたんだな。

そのデビュー時期に差があるとはいえ、前川さんなら凛たちに遅れを取ることなく今後も活躍していけるだろう。

 

となると、残りは李衣菜か?

また次のデビューまでは時間がかかるのだろうか。

 

「これで前川さんが目指す可愛いアイドルに近づいたな」

 

「う……」

 

「あとは李衣菜だが、何か聞いているか?」

 

「う、うぐぐぐ・・・・・・」

 

「どうした前川さん。体調が悪いのか?」

 

「うにゃぁぁぁ!!」

 

急にまた以前のように頭を抱えて叫びだした。

最近こんなことで注目を浴びることが多すぎる気がするんだが。

やはりこれも俺が何かしたのだろうが、全く心当たりがない。

 

 

ある程度落ち着いた前川さんは、何故か物凄く嫌そうな顔で理由を話してくれた。

その間、完全に敬語を忘れ語尾もアイドル前川みくになっているんだが・・・・・・言わないでおいたほうがいいか。

 

その理由を聞いても俺には全く叫ぶ理由がわからない。

どうやら李衣菜と一緒にユニットとしてアイドルデビューが決まったそうなのだ。

しかも曲も決まっており、これを拒否した場合は片方はすぐデビューできるが、もう片方はまた先になると。

 

 

「ん?何も問題ないじゃないか」

 

「問題だらけにゃ!よりによって李衣菜チャンと一緒だなんて!」

 

「とはいえ、これを逃すとまたデビューに時間がかかるんだろう?」

 

「だから困ってるにゃ!」

 

やはり全くわからない。

なぜ李衣菜と一緒が嫌なのだろうか。

俺の知る限り、2人は一緒に行動している場面がよく見受けられていた。

確かに言い合いになったりはしていたが、遠慮なく会話をできる関係なのだと思っていたんだが。

 

「2人なら相性は良いと思うんだが」

 

「紅葉チャンもPチャンと同じこと言うの!?」

 

「前川さんが李衣菜と話をしている時は素の部分が出ている感じがして、リラックス出来ている良い関係だと思うぞ」

 

「・・・・・・紅葉チャン、どうして人の名前覚えられないのにそういうとこはちゃんと見てるのにゃ」

 

薄目で若干睨みつけるようにして呟く前川さんだが、言葉に反して否定しないところを見ると当たっているのか?

 

 

 

2日目

 

 

学校帰りにバイトへ行き、すっかり日が長くなった商店街を出ようとすると、珍しい人物が逆に商店街へと向かってきた。

昨日前川さんとの話にも挙がった李衣菜だ。

ヘッドホンを首にかけ、青いシャツに短パンという涼しげな格好を見るに学校帰りではないらしい。

顎に手を置き何やら考えながら歩いていたようだが、前を見たときに俺の存在に気づいたようだ。

 

「あ、紅葉くんじゃん。やっほー♪」

 

「久しぶりだな李衣菜。美嘉たちのライブの時以来か?」

 

「そうだね。でも凛ちゃんやみくちゃんからたまに噂は聞いてるよ。だから私としては久しぶりって感じはないかも」

 

「そうか」

 

一体どんな噂をされているのか気になるところではあるが、それはまたの機会にして言うことが李衣菜にはあるな。

 

「デビューおめでとう。前川さんから聞いたぞ。もう曲もあるそうじゃないか」

 

「そういえばみくちゃんは同じ学校の後輩なんだっけ。うん、ありがとう。まだ歌詞は出来てないみたいだけどね」

 

「ここで会うのは初めてだがよく来ていたのか?」

 

「ううん、初めて来たんだ。私の家違う方向だし」

 

「何か探しているのか?」

 

「まあ、うん。別に紅葉くんには話してもいっか・・・・・・実はね」

 

李衣菜の話をまとめると、ユニットデビューは決まったが2人の関係に問題があり、しばらく一緒に暮らしてみては?という話になったらしい。

李衣菜が実家暮らしで前川さんが寮。必然的に李衣菜が前川さんの住む346の女子寮に泊まることになったようだ。

 

ユニットサポートオーディションを同時に受け、先に終わった李衣菜は惣菜ばかりの前川さんのことを思い、何か料理をと考えていたとのこと。

 

この話を聞く限りでは関係性は良好のように思えてくるのだが、一体何が問題なのか。

 

「李衣菜は料理をするのか?」

 

「たまにね。紅葉くんはケーキ作れるんだよね。もしかして普通の料理も?」

 

「あ、ああ。一通りはな」

 

ここでまた家で毎日作ってる等といえば変な疑問を持たれるだろうな。

姉さんのラジオの影響が未だ響いている気がするんだが・・・・・・

 

変に疑問を持たれても返答に困る。

話題を少しずらしたほうがいいだろう。

 

「確か前川さんとはカレイの煮付けとハンバーグの話をしたな。どっちも好きなのかもしれないぞ」

 

「へえそうなんだ!カレイの煮付けなら得意だからいけるかも。時間あるし、どうせならハンバーグも作っちゃおう♪」

 

「楽しい夕飯になりそうだな。なら魚の方はアテがあるし案内するぞ」

 

「ありがたいけどいいの?家に帰る途中だったんじゃ」

 

「問題ないさ。実はその魚屋でバイトをしているんだ。カレイならまだ残ってたはずだ」

 

「お、中々商売上手だね。じゃあお言葉に甘えようかな」

 

 

案内した魚屋の前では、師匠がいつものように声を上げ仕事をしていた。

俺は途中で時間になりバイトを終えたが、店自体が閉まるのはまだ先だ。

そこまで大きくない商店街に、よく通る師匠の声は響いていることだろう。

 

「どうした紅葉、忘れ物か?」

 

「いえ師匠。お客さんを連れてきました」

 

「バイト終えたってのにその心意気は感心するな。って、また女の子かよ。お前も相変わらず・・・・・・まあいいか。らっしゃい嬢ちゃん!」

 

「あ、どうも」

 

師匠の体格と声に圧倒されたのか、先ほどまでの元気が消えそうな李衣菜がとても小さくみえる。

いや、どう見てもこの2人の身長差は30センチはあるし仕方ないか。

 

このままだと買い物もしにくいだろうし師匠を紹介しておこう。

 

「李衣菜、ここが俺のバイト先だ。この人は店主のセタンタさん。魚の捌き方なんかも教えてもらってるから俺は師匠と呼んでる」

 

「へ、へぇそうなんだ。初めまして、多田李衣菜です」

 

「セタでいいぜ。よろしくな」

 

「師匠、李衣菜はアイドルなんです。今日はカレイ料理をするとのことで・・・・・・まだ残ってましたよね」

 

「ほう、嬢ちゃんも料理をするのか。そいつは感心だ。ウチはこの時間でも新鮮な魚が揃ってるからぜひ見てってくれ!」

 

「はい、ありがとうございます」

 

カレイ以外の魚も興味深そうに見る李衣菜。

それを見てふと思い出したことがある。

確か彼女はロックなアイドルを目指すと言っていたはずだが、俺はそこまでロックに詳しくない。

ちょうどいい機会だし教えてもらおうか。

 

「少しいいか李衣菜。聞きたいことがあるんだが」

 

「へぇ、このお魚初めて見たかも。ん、どうしたの?」

 

「李衣菜の言うロックって何だ?」

 

「へ?あ、ああ!ロックね!うんうん、ロックに興味を持つことは良いことだよ」

 

「そうか。それで、よかったら教えてくれないか?」

 

「そ、そそそうだね。え、えっとね、簡単に説明するのは難しんだけど・・・・・・」

 

「ああ、詳しく教えてくれ」

 

「ロックとは、ロックであってえっと・・・・・・そう、あれだよあれ!」

 

「どれだ?」

 

どうも的を得ないし目が泳いでいる気がするんだが。

あまり答えづらいことなのだろうか。

自分で調べればいいことかもしれないが、こういうのは得意な人間に聞いたほうが一番いいだろうからな。

李衣菜の考えがまとまるまでゆっくり待つとしよう。

 

「何だ紅葉、んなこともわからねぇのか?」

 

「師匠?」

 

腕を組んだ師匠が呆れた様子で話しかけてきた。

ということは、師匠もロックに詳しいということなのだろうか。

 

「ロックに難しいことは何一つねぇ。熱いハートを叩きつける!それがロックだ!」

 

「な、なるほど・・・・・・」

 

「そ、そう!それ!それですよ!私が言いたかったのと全く同じです!」

 

「李衣菜は今説明するのが難しいと言ったばかりだと思うんだが」

 

「あ、あははは・・・・・・あの私も師匠って呼んでもいいですか?」

 

「おう!好きに呼んでくれ。ロックを好きな人間に悪い奴はいないしな!」

 

「はい師匠!よーし、アイドル多田李衣菜。これからも熱くロックにいくぜー!」

 

「ボンバー!!」

 

「・・・・・・」

 

何故か2人は意気投合してしまったようだが、結局ロックについてはよくわからなかった。

 

 

 

3日目

 

 

翌朝の1時間目終了と同時に、ものすごい勢いで前川さんがやって来た。

加蓮も後ろにいたが、こちらが息を切らしているところを見るとよほど走ってきたのだろう。

 

美嘉にでも何か用事かと思ったんだが、前川さんは一直線に俺の方へ向かってくる。

・・・・・・怒ってるような気もするんだが、一体何があった?

 

「せ~ん~ぱ~い~!!よくもよくも!」

 

「おはよう前川さん。何か問題でも起こったか?」

 

「問題だらけですよ!昨日李衣菜チャンから聞きました。カレイの煮付けのことを!」

 

「ああ、ちゃんと完成したのか。よかったな」

 

「よくなーーーい!みくはお魚苦手なの!」

 

「は?」

 

確か猫には与えていい魚と悪い魚があると聞いたことがある。

なるほど、そこまで徹底してキャラ作りをしていたのか。

 

「さすがだな前川さんは」

 

「どうして感心してるんですか!?」

 

「ハンバーグの方はどうだった?」

 

「う・・・・・・それは美味しかったです。喧嘩しそうになったけどハンバーグのお陰で仲直りできたし」

 

「やっぱりよかったじゃないか。李衣菜に感謝しないとな」

 

「うぐぐぐぐ・・・・・・この先輩にはどうやっても口で勝てない気がするにゃ」

 

そんなやり取りをしていると、美嘉が『お疲れ~』と前川さんに挨拶をし、加蓮や奈緒もやって来る。

いつもの風景ではあるが、最近聞こえなくなった声が聞こえてきた。

 

「くそー。また高垣かよ。調子に乗りやがって・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

慣れていたせいもあり普段は気にしないことではあるが、その言葉が聞こえたみくや加蓮の表情が一瞬変わった気がした。

俺は自分のことをどう言われても別にどうでもいいが、それによって友人たちの気分が悪くなるのは良くないことだ。

何かしらの勘違いで男子生徒と加蓮たちが喧嘩しても困るし、今回はこの生徒に話を聞いてみることにしよう。

 

「ちょっといいか。調子に乗るというのはどういうことだ?」

 

「え?」

 

 

 

続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ニコ動の方ではありますが、最新話にこの作品のエンディング的な動画も載せました。

終わりというわけじゃなく普通にアニメのエンディングのようなものです。
曲はまったくデレマスに関係ありませんけど!

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