楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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ここまではある程度構想があったため早めに投稿できました。

けどまだ1日目が終わらないぃぃぃ!


紅葉くんの想うコト

加蓮の作戦

 

 

「もうすぐバスが来るわ。途中までは一緒みたいね」

 

不思議な女性が去った後、すぐに姉さんがバス停から戻ってきた。

同時に他の3人も集まり、全員でバス停へと向かう。

 

「楓さんたちも今日から練習を始めるんですか?」

 

バス停の列に並んでいる間、加蓮がそんなことを口にした。

元々はそのために来たわけだし当然の質問か。

鈴科プロデューサーから武内プロデューサーへ姉さんたち4人の合宿のことは伝わっているようで、プロジェクトのメンバーと同じ場所で合同練習ということには問題ないらしい。

 

「ええ、荷物を置いたらすぐに向かうわ。加蓮ちゃんたちは先に行っててね」

 

『わかりました』

 

「2人のことははぁとに任せろ☆」

 

どうやら、合宿所は元々俺たちが泊まる予定だった民宿の方が近いらしい。

姉さんが出ている間、俺は観光でもしてみるか。

 

「姉さん、俺は街を見て回ってくるよ。帰る頃に連絡を入れてくれ」

 

『は?』

 

「ん?」

 

全員が一斉に『何を言っているんだ?』といった声を出した。

何も変なことは言ってないと思うんだが。

どこか一緒に行くなら姉さんを見張るために一緒についていく必要はあるが、さすがにライブの練習中無茶はしないだろう。

 

「紅くん、一緒に来ないの?」

 

「行かないよ。そもそも俺は姉さんたちと違って一般人だぞ。勝手に入っていい場所じゃない」

 

「えー、そんなの関係ないじゃん」

 

「あたしも紅葉は来るとばっかり」

 

「関係あるだろう。仮に姉さんやお前たちがいいとしても、プロジェクトメンバーだっているんだ。フェスに向けての大事な時期に邪魔をするわけにもいかないしな」

 

楽屋ならまだしも練習中はさすがにな。

1度姉さんに連れられてレッスンルームにいる美嘉のところを訪れたが、練習を中断させてしまった。

真面目に練習している中、部外者にうろうろされては皆も気が散ってしょうがないだろう。

 

だが全く納得していない加蓮は、とんでもないことを実行しようとしていた。

 

「ふーん。じゃあ全員の許可があればいいわけね」

 

「何?」

 

「もしもし凛?今大丈夫?うん、もうすぐそっちに着くんだけどさ」

 

「一体何を……」

 

「紅葉先輩が行かないって言ってるのよ」

 

『は?何で?』

 

加蓮は携帯をスピーカーに切り替え、俺たちにも相手の声が聞こえるようにしている。

電話相手の凛もなぜ姉さんたちと同じ反応をするのか。

 

「プロジェクト全員の許可があれば行くってさ。だから皆に聞いてみてよ」

 

「は?」

 

『わかった』

 

本当に聞くつもりか?

許可なんて降りるわけ無いだろう。

 

『私たちのユニットとラブライカ、アスタリスクと凸レーションはもちろん賛成。蘭子がむくれてて智絵里がちょっと戸惑ってたけど大丈夫みたい。

あと杏はどっちでもいいって言ってるから全員問題ないよ』

 

「な……」

 

「だそうだよ先輩?」

 

「紅葉ー、もうあきらめろー」

 

「さすがは紅くんね!」

 

「アイドルに愛される男、その名はジャーマネ!」

 

随分とあっさり許可されてしまった。

つまり部外者1人そばにいたところで集中は乱れない。といったところか?

プロジェクト開始から約4ヶ月。アイドルの世界というのは精神面も短期間で鍛えられるんだな。

 

「ならただ見てるだけというのも申し訳ないし、雑用をやらせてもらう。皆は練習だけに集中してくれ」

 

明日も行くとなったら、何かしらの準備は必要かもしれないな。

 

 

民宿・衛宮

 

 

「ここね。思ってたより大きいわね」

 

「ああ」

 

奈緒たちと別れ、俺と姉さんは住宅街へと向かった。

地図を頼りに歩いて行くと、塀に囲まれた明らかに他よりも目立つ場所へと辿り着く。

屋敷にあるような門の表札には"衛宮"と書かれてあり、門の手前には大きな石看板で"民宿・衛宮"と表示されていた。

 

姉さんがインターホンを押す。

特に特徴のあるものではなくカメラや通話機能もついていないようで、門の内側からこちらへ向けてやや大きな声が聞こえてきた。

 

「は、はい!ただいま!」

 

「随分と可愛らしい声ね」

 

「そうだな」

 

慌てている様子の声の後、こちらへパタパタという足音が聞こえてくる。

門が開き、声の主が現れると、俺と姉さんは驚きで挨拶が遅れてしまった。

 

「い、いらっしゃいませ。ようこそ、民宿・衛宮へ!」

 

『……』

 

「あ、あの……?」

 

「ご、ごめんなさい。少し驚いてしまって。短い間ですがお世話になります」

 

「お世話になります」

 

仲居さんと思われる人物が深々とお辞儀をして挨拶をした。

が、想像していた世間一般の仲居さんと違い言葉が出なかったのだ。

 

見た目は俺と同じ年齢か少し下に見え、身長は加蓮に近いだろうか。

だが本当に驚いたのはそこではなく、赤い着物にエプロンを着た少女はフードを被っており、そこから見える銀色の髪が日本人離れしていたからだ。

ここの主人も白髪だと言っていたし、この辺りは珍しい日本人が住んでいるのだろうか。

 

気を取り直して挨拶を済ませ、少女に案内され敷地内へと入る。

中はやはり広く、平屋でありながらも奥行きはありそうだ。

 

俺たちは感心し、庭を見渡しながら歩いていたが、先頭を歩く少女は時折後ろの俺たちを気にしている様子だ。

 

「何か?」

 

「い、いえ!そ、その……」

 

俺に声をかけられると思っていなかったようで、少女は大きな声で反応した。

立ち止まり何かを考え込んだあと、意を決したように話しかけてきた。

 

「あの。せ、拙の日本語の挨拶。どこかおかしかったでしょうか?」

 

「というと、日本人では?」

 

「は、はい。4月にイギリスから留学で来まして」

 

「まあ、そうだったんですね。とても上手な日本語でしたよ」

 

「よかった……ありがとうございます!あ、自己紹介が遅れました。拙は"グレイ"と言います。15歳です。普通に働いている人とは少し事情が違うと思いますし、なにかとご迷惑をかけるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします……!」

 

「高垣紅葉です。よろしくお願いします」

 

「姉の楓です。よろしくねグレイちゃん♪」

 

どうやら俺たちの行動がおかしかったのを、言葉が聞き取れないせいだと勘違いしているらしい。

もちろん、外国人が接客をしているのは驚くことではあるが、夏にも関わらず自分を隠すかのように深々と被るフードに比べたら微々たるものだ。

誰も疑問に思わないのだろうか?

 

 

通された部屋は10畳の和室。

2人で泊まるには十分な部屋で、障子を開けると手入れされた立派な庭が見える。

畳が落ち着くのはやはり日本人だからだろうな。

 

「失礼します」

 

「どうぞ」

 

合宿場所への準備を姉さんがしている間お茶を注いでいると、グレイさんとは違った女性の声が聞こえた。

姉さんの言葉を待ち襖が開けられると、今度は日本人だと思われる大人の女性が現れた。

 

「ようこそいらっしゃいました。女将の"衛宮凛"です」

 

凛……という名に友人の凛を連想してしまう。

かなり落ち着いた感じの女性で、和服が良く似合っていた。

 

グレイさんと同じような挨拶を済ませると、女将の雰囲気がガラリと変わる。

もしかしてこちらが素なのだろうか。

 

「まさかあのセタの知り合いだなんてね。あいつちゃんとしてる?迷惑かけてない?」

 

「いえ、師匠には大変お世話になっています」

 

「そ、ならいいんだけど。っと、ごめんなさい。知り合いの紹介なもんで気安くなってしまったわ」

 

「私としてはその方が楽でいいと思います。ね、紅くん?」

 

「ああ」

 

「じゃあこのままで。楓さんの人気は夏木市でもかなり高いわよ。よかったらあとでサインを……」

 

「ええ、喜んで♪」

 

「ありがとう。玄関に飾らせてもらうわ」

 

師匠の昔やグレイさんのフードのことなど聞きたいことはあったが時間がない。

この場の話はここで切り上げ、出かけるとだけ告げて民宿を後にした。

 

 

なおかれんのTOKIMEKI

 

 

長い階段を上りたどり着いた先では、小さくではあるが音楽が聴こえていた。

正面の方に"民宿わかさ"と書かれた建物があり、音楽はその斜め向かいから聴こえているようだ。

 

「……すごいな」

 

「ええ、皆一生懸命ね」

 

建物の中に入ると、複数の大きな扇風機を使いながらいくつかに分かれてプロジェクトメンバーが練習していた。

これを見る限りはユニットの練習だろうか。

あちらこちらでそれぞれの曲が流れている。

 

奈緒たちは……と探してみると、しゅがはさん含め隅に座って練習風景を眺めていた。

 

「失礼します」

 

「失礼します」

 

姉さんに続き俺も挨拶をして中に入る。

すると徐々にこちらにメンバーが気づき始め、曲を消して近づいてきた。

 

「皆さん、短い間ですが一緒に頑張りましょうね」

 

『はい!よろしくお願いします』

 

一緒に来た3人と凛を除き、未央や前川さんを含めたメンバーは緊張した様子だ。

部署が違うとあまり関わる機会がないというし、そうなると姉さんとはほぼ初対面ということになるか?

 

「プロデューサーさんは?」

 

「ああ、えっと」

 

ここにいると思っていたプロデューサーさんがいないため、凛に聞いてみる。

するとどうやら仕事でしばらく離れることになったらしく、まとめ役を新田さんに任せたようだ。

なら新田さんにもきちんと挨拶をしておくべきだろう。

 

「新田さん、見学の許可を頂きありがとうございます。邪魔にならないようにしますので、気にせず練習をして下さい」

 

「ええ、高垣くんも私たちの練習で気になることがあったら遠慮なく言ってね」

 

「わかりました」

 

「こ、紅くん。少しは遠慮したほうが……いえ、無理ね」

 

「???」

 

そしてもう1つ気になったことがあるので本人たちに聞いてみる。

 

「奈緒と加蓮は練習しないのか?挨拶は済ませたんだろう?」

 

「そ、そうだけどさ。なんか圧倒されちゃって。あはは……」

 

「アタシはいつでもいけるけど?」

 

「せっかく美嘉の曲の先輩であるnew generationsがいるんだ。意見を貰えるチャンスじゃないのか?」

 

「く……正しすぎて言い返せない」

 

「奈緒は心配しすぎなんだよ。アタシたちの方が凛よりこの曲は練習してるんだし、絶対上手くやれるってば」

 

「お、言うねえかれんは。じゃあさっそく未央ちゃんがアドバイスをしてあげよう!」

 

「そうだね。加蓮、奈緒、準備して。私たちがダンスを見てあげる」

 

「はい!2人のダンスを見るの楽しみです!」

 

「紅葉、後で覚えてろよ!」

 

全員で中央に集まり、その先頭に凛たち3人が座る。

奈緒はまだ緊張しているようだが、加蓮の表情には余裕が見えるな。

流れる曲は当然、美嘉のTOKIMEKIエスカレート。

俺としても慣れ親しんだ前奏が始まり、初めて見る奈緒と加蓮のダンスを期待して見つめた。

 

「お、終わったぁ!」

 

「はぁ……はぁ……ど、どうよ」

 

曲が終わり拍手の音が鳴り響く。

特にミスもなく、ダンスのクオリティは高い。

 

「……ふーん、思ったよりやるじゃん」

 

「うーむ、悪いところが見つかりませんな」

 

「2人ともすごいです!」

 

どうやら先輩3人も納得の結果だったようだ。

確かにダンスに問題はないんだが……いや、俺の考えはどうでもいいか。

あまり関係ないことかもしれないしな。

 

「でしょう?先輩はどうだった?」

 

「いや、俺は」

 

「終わったしもうヤケだ。いいぞ紅葉、正直に言ってくれ!」

 

なるほど、曲の前の"あとで覚えてろ"というのはこのことだったか。

なら言っても問題ないだろうか。

 

「ダンスは良かったと思う。あの時の凛たちに負けてないんじゃないか」

 

「……ふーん」

 

「し、しぶりん落ち着いて」

 

「でしょ?」

 

「ただ、関係ないかもしれないが気になるところはあったな」

 

『え?』

 

「もしかして人前で見せるのは初めてなんじゃないか?特に奈緒の表情が硬すぎだし視線が定まってない。むしろ誰もいないところを無理に見ようとする違和感があったな」

 

「う……」

 

「加蓮はやはり体力面がネックだな。後半少し奈緒の動きについていけなさそうな部分があった気がする」

 

「ぐ……バレてた」

 

「奈緒は慣れるとして、加蓮。夏休みの間早朝軽くランニングでもしないか?俺も付き合うぞ」

 

「……うん、やる」

 

「加蓮が素直だ……」

 

「俺には技術的な面での感想は上手く言えないから、こんなところだろうか」

 

『……』

 

話を終えると、驚いた様子で新田さんたちが俺を見ていた。

蘭子や緒方さんも同じようだな。奈緒たちの感想を言っただけなのだが、また知らず他の人を不快にさせてしまったのだろうか。

 

「あの、何か?」

 

「あ、ううん!何でもないの!」

 

念のために新田さんに確認を取るが、首を大きく左右に振り何もないと告げる。

ならいいんだが、今後も毎回沈黙されると感想を言いづらくなるぞ。

 

「姉さんたちはやらないのか?」

 

話題を切り替えるように隣にいる姉さんへと話を振る。

俺も姉さんたちの曲は聴いたことがないし、練習の様子を見るのは初めてだから気になっていたんだ。

 

「そうね。せっかくだし、歌とダンス両方やりましょうか。心さんもいいですか?」

 

「オッケー。はぁとの歌でメロメロにするぞ☆」

 

奈緒たちと入れ替わりで姉さんたちが前へと出る。

何故か聞く側のプロジェクトメンバーの方が緊張しているみたいなんだが、なぜだ?

 

 

Pluto

 

 

曲をセットすると、2人は空を見上げるようにして始まるのを待っている。

静まり返り、場の空気が変化したように感じた。

 

Ah──、Ah──、La──、La──……

 

あなーたに遠く暗い 小さなこの星でー

 

空……天井を見上げ手をかざす2人のハーモニーが響き渡る。

しゅがはさんも姉さんに負けていない綺麗な歌声だ。

 

目覚めた時 周りには誰もいなかった探しても見つからない 叫んでもこだまするのは私の声だけ

 

恐怖に怯え 寒い夜を一人で過ごす 何度朝を迎えても 目を開けても誰もいない

 

ある日私は空を見上げた

 

いつもと変わらない空のはずだった

 

でもその日は違ったの

 

見つけた……

 

あなたを

 

代わる代わる歌い、どちらか一方だけが目立つことなく、綺麗な歌声が続いていく。

聴く者全員息を呑み、曲に魅入っていた。

 

私のことが見えない? ならあなたが気がつくまで力の限り踊り続けるだけよ

 

私の声が聴こえない? なら声が続く限り叫び歌い続けるだけよ

 

ようやく見つけたあなたのために 私は輝いてみせるわあなたに遠く暗い 小さなこの星で

 

曲が終わっても誰1人動くことなく、プルート2人の微かな息遣いだけが場を支配する。

すごいなしゅがはさん。初めてでよくこれほどまでの曲を……

 

俺が拍手をすると我に帰ったのか、他の全員大きく拍手をしていた。

2人に近寄りそれぞれ感想を述べ、姉さんたちもほっとしたのか笑顔でそれに答える。

 

練習風景でここまで感動するとは思わなかった。

駅でしゅがはさんが言った通り、皆が注目することだろう。

姉さんも、家では全く見せないが相当練習したのだろうということがわかる……だが。

 

「姉さん、少しいいか?」

 

「紅くん?え、ええ」

 

特にしゅがはさんには聞かせられないため、姉さんに外に出るよう促す。

誰も追って来ていないことを確認してから、真っ直ぐ姉さんを見つめた。

 

「どうしたの紅くん。他の人に言えないこと」

 

「ああ」

 

小さい頃から姉さんの歌はよく聴いてきた。

それは子守唄であり、エア友達相手であり、テレビやライブ等様々だ。

だからこその感想。これは当たって欲しくないが、まず間違いないだろう。

 

「姉さん、なぜ本気で歌わないんだ?」

 

続く!




ということで続きは次回。

プリコネのデレステコラボは楽しみですね。
特に凛の技がアイオライト・ブルーになるか
ラズール・レオになるか
新しい蒼技になるか!

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