楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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時間がかかってこの短さ・・・・・・
合宿編は少し長くなるかもしれませんね。

前半は楓さん視点になります。

今更な話ですが、今回の楓さんのこともはぁとのこともこの世界においての勝手な解釈、考えです。


楓さんの想うコト

紅葉くんの噂と楓さんの本気

 

 

「姉さん、なぜ本気で歌わないんだ?」

 

最愛の弟の思いがけない言葉で、何故かはわからないけど心臓の鼓動が急に早くなっていく。

仮にこれが紅くん以外の人からの言葉だったら、『私は本気で歌った』と一蹴しているところよ。

 

だってそうだもの。

私が歌うことに関して手を抜くはずがないし、練習とはいえ紅くんが見ているのよ?

アイドルになったきっかけが何なのか、そしてその本人の前なら当然のこと。

 

一瞬、もしかすると紅くんの慣れない冗談?初めてで恥ずかしいから大好きなお姉ちゃんだけに聞かせたかった?

そんなことを思ったけど、抑揚の少ないいつもの淡々とした言葉とは裏腹に、その目はとても真剣だった。

 

ああっ!紅くんがこんな表情をするようになるなんて!

昔の紅くんはこちらを見ているようで見ていないというか、遠くを見ているというかそんな感じだった。

 

でも今の紅くんは違う。

まあ、それが普通当たり前なのよね……

奈緒ちゃんの言葉が影響しているのは重々理解している。けど少しでも今の紅くんの表情や行動に私が影響していると嬉しい。

 

影響といえば、本人は知らないだろうけど346の一部で紅くんが評価されているのよね。

きっかけは2つ。今西部長もいた楽屋と時と、みくちゃんたちのストライキの時。

 

前者はアイドルに、後者は職員に。

 

まず前者の方、瑞樹さんは出会った当初からよくしてくれている。

以前初めて紅くんとケンカしたあと、『川島さんにお礼を言ってくれ』と言われたの。

そのまま瑞樹さんに伝えたら、『よかったわね楓ちゃん』って笑顔で返されたけど私はよくわからなかったわ。

 

美穂ちゃんはレッスンが一緒の時珍しく向こうから話しかけてきてくれて、『弟さんすごいですね』と褒めていたわね。

もちろん当然だと紅くんのすごいところを1時間ほど語ろうとしたのだけど、残念なことにレッスンが始まってしまって5分しか話せなかったわ。

 

……はっ!まさか美穂ちゃん私の紅くんに気が……!?

 

男の子の話を滅多にしないまゆちゃんも、紅くんのことを私に聞いてきたわ。

『同じ男性ですし、あの人のことを相談するのに良いかもしれません』なんて言葉を残して去ったのだけど、どういう意味かしら?

 

……はっ!まさかまゆちゃん私の紅くんに気が……!?(2回目)

 

茜ちゃんは……うん、いつも通りだったわね。

安心したわ。

 

 

そして後者の方。

あのストライキの時は私たちアイドルを始め、職員も大勢一部始終を見ていた。

そう、見ているだけだった。

 

そんな中颯爽と現れた紅くんがあっさりと事件を解決した姿はドラマになってもおかしくないわ。

 

そしてみくちゃんを説得した件、それ以前の私が出たラジオの内容、その他小さなことが少しずつ重なっていって紅くんのことがプロダクション内に知れ渡るようになったのよ。

 

特に紅くんを評価しているのは2人。

武内プロデューサーに鈴科プロデューサー。

 

聞いた話だとこの2人とまゆちゃんのプロデューサーは同期で、一部からはその年代"三巨頭"と呼ばれてるらしいわ。

 

以前と比較すると今は巌のように堅実に、無口なのが少し誤解を生むけれど確実にアイドルを導く……らしい武内プロデューサー。

 

突出した何かがないけどあらゆる能力が優れ、アイドルをマルチに活躍させる鈴科プロデューサー。

 

そしてまゆちゃんのプロデューサー……渡辺プロデューサーは、私が見る限り優しそうに見えるのだけど、仕事に関してはとても厳しいという噂ね。

なぜなら彼の担当するアイドルは、まゆちゃん以外皆ついていけなくなって他の部署に移ったらしいのだから。

 

武内プロデューサーは以前担当していた私の弟ということもあって、気にかけているというのもあると思うわ。

けど鈴科プロデューサーは違う。

あの人は別の意味で紅くんと似ているところがあるから。

 

鈴科プロデューサーは普通の人には興味がなく見向きもしないし名前も覚えない。

彼が担当するアイドルが皆成功していることを周りは知っているから、一部のアイドルや職員は担当になってもらうよう頼んだり、仕事を教えてもらおうと声をかけるの。

 

でも彼の目に留まらなかったらそれまで。

相手の才能を一瞬で見抜いて余計な手間はかけないらしいわね。

そんな暇があるなら担当アイドルのために時間をかけると言っているらしいわ。

 

そんな鈴科プロデューサーが紅くんに興味を持っている。

その理由は何となくわかるのよ。

最近の紅くんのこの目は全てを見透かされているようで……

 

 

 

「姉さん?」

 

「あ、え、えーっと。な、何だったかしら?」

 

俺の問いのあとしばらく沈黙が流れる。

さすがに聞いていないということはないと思うんだが、何やら姉さんは考えてたようだな。

 

普通ならこんなことをプロに素人が言ったら怒るかもしれないが、俺と姉さんの仲だ。

今更冗談だとは思わず、きちんと理由を話してくれるのを待っていたんだが。

もしかすると本人にも自覚がなかったのかもしれないな。

 

確かにさっきの2人の歌は素晴らしいものだった。

若干両方とも加蓮までとはいかないが、息を切らせすぎと思ったのはこの際忘れよう。

 

そしてしゅがはさんは始まる前の余裕とは裏腹に緊張している部分も見えた気がするが、奈緒よりも余裕に感じられた。

歌声も室内に響き渡り、普段の様子からは想像もつかない綺麗な声で姉さんに負けずに、同じように歌っていた。

 

……そう、同じだったのだ。

上手く表現できないが、歌のレベルというか表現の仕方というか、どちらが上というわけでなく一緒だった。

 

 

そんなわけないだろう。

 

 

しゅがはさんに失礼な考えなのは重々承知だ。

だが、いかにしゅがはさんが優れた歌い手だったとしても、レッスン2,3ヶ月で1年以上必死に歌い続けてきた姉さんと同じはずがない。

 

俺が最も信頼している姉でありアイドルである高垣楓の本気がこの程度のはずがない。

 

姉さんは昔から周りに合わせる節がある。

周囲に気を遣い、場の空気が壊れるのを恐れ、自分の本当の姿を偽る。

世間が見る高垣楓というアイドル像が出来上がったのもそれが関係するだろう。

まあ、アルコールが入ってる場合は別だが。

 

だから今回もしゅがはさんに少し合わせたのではないだろうか。

今まで一緒に歌ってきた仲間とは違い、しゅがはさんは新人だ。

姉さんなりに無意識に思うところがあったんだろう。

 

でもそうじゃないだろう。

姉さんがやらなきゃならないことは別のことだろう。

それは、その行為はしゅがはさんには……

 

「姉さんはしゅがはさんを侮辱している」

 

「なっ!?」

 

「しゅがはさんの本気に向き合ったのか?」

 

「も、もちろんよ!だからこそこの歌が出来てきたのだし、皆の評判もいいじゃない!」

 

「それで姉さんは満足しているのか?精一杯歌ったと今この場で誓えるか?」

 

「そ、それはも……あ、あれ……?私……」

 

やはり自覚がなかったのか。

そして俺の思っていたことは残念ながら当たっていたようだ。

今後もこの様子だとしたらソロで歌う分には問題ないが、ユニットで歌う場合ずっとファンだった人の中でも違和感を感じる人はいるはずだぞ。

 

 

姉さんは自分に何が起こったかまだ考えているようで、今にも泣き出しそうな表情をしている。

いつまでもこんな悲しい顔をさせたくはない。

俺の言葉で何かを掴んでくれるといいんだが。

 

「はっきり言うよ。俺が知ってる高垣楓はまだまだこんなもんじゃない。高垣楓は俺の知る限りで最高の歌手でアイドル。そして大好きな姉さんだ」

 

「こ、紅くん!」

 

「しゅがはさんは名前の通りの人だ。心が強く芯も強い。どんなに姉さんが全力で歌っても、負けないように努力する人だ」

 

「……(紅くんがダジャレを!?いえ睨まないで冗談ですごめんなさい)」

 

「だから姉さんのすべきことは、常に全力で歌いしゅがはさんの全力を引き上げること。そうすれば、プルートはもっと素晴らしいユニットになるし、いずれ姉さんとしゅがはさんは良いライバルになるんじゃないかと思うんだ」

 

「そうね。確かにその通りだわ。私が私の歌を偽るなんて絶対にあってはならないことよね。心さんには謝るわ。そしてこれからはもっと全力で歌うと」

 

「ああ、しゅがはさんならきっと応えてくれるはずだ」

 

「ええ、それにお姉ちゃん今とっても幸せだもの!何だって出来る気がするの!」

 

「ん?まあ元気が出たようで安心したが」

 

「だって紅くんが世界で一番私を愛していると言ってくれたんだもの!」

 

「……は?」

 

俺はいつそんなことを言ったんだ?物凄い曲解してるんじゃないか?

いや、わざとじゃないな。どうやら本気で姉さんにはそう聞こえたようだ。

 

「さあ戻りましょう紅くん!これから心さんと命燃やして全力で特訓よ!」

 

「……」

 

当然そんな気合が長く続くはずもなく、3度連続で歌い踊った2人は部屋の隅に倒れ込んでしまった。

そんな2人の熱が冷めるよう、俺は団扇で扇いでいる。

 

その3回全てがバラバラで滅茶苦茶のように見えたが、眠るように目を瞑り息を整えている2人の表情はとても満足している様子だった。

 

続く!

 

 

 

 




ちなみにこの作品ですが、アニメ最終話周辺までやって本編は終わりにさせようと思ってます。

一応最後の部分は決めてあるんですよね。

その後はコミュ関係やライブイベントのことを色々やりたいと思ってます。

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