楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

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一気に合宿編を終わらせようと思ったのですが、予想以上に長くなったので今回を合わせてあと2回になります。

それと途中でのとある同盟ですが誤字ではありません。


楓さん、グラブル参戦がついに来ましたね。
グラブル未経験でも楓さんが欲しくて始めたい方は安心してください。

課金は必要ありませんし、イベントは初心者に優しい設定になっているはずです。


ちなみに自分は以前、蘭子プレイアブルのための短縮に金剛晶2個使いました。
このやり方はオススメしません……


紅葉くんは話をややこしくする天才である

疲労困憊の紅葉くん

 

 

何度か遠くで話し声が聞こえた気がして目が覚めた。

時刻を確認すると5時。いつもならもう少し眠っている時間だ。

 

夏ということもありこの時間でも部屋は明るく、俺の布団以外何もない空間を見ながらまだ完全に覚醒しきってない頭で昨日のことを整理する。

 

あの後すぐ、民宿へ行きしゅがはさんを呼んで奈緒と加蓮は宿泊所へ戻るという話になった。

が、俺は嫌な予感がしたのでそのまま2人を送っていくことにした。

 

 

 

 

2人と別れたあと急いで民宿へと戻ったが……案の定姉さんとしゅがはさんは完全に出来上がっていた。

 

姉さんの姿を見て、以前川島さんが言っていたことをようやく理解した。

今まで仕事帰りに飲んで帰って来ると、抱きついてきたり急に眠り出す姉さんだったが、あれはどうやら半分自分の意思でやってたんだろうな。

 

目の前にいる姉さんは、しゅがはさんと共に顔が真っ赤でこちらの話が全く通じず、空になった酒が複数転がっていた。

挙句の果てに"酔い乙女同盟結成記念"とかなんとか言い出し、アイドル仲間に次々電話をかけ迷惑をかける始末。

 

俺は携帯を取り上げ、念のため迷惑をかけた電話相手に謝っていったが……色々と疲れたな。

 

最初に電話をかけた安部菜々さんは俺のことも知っていたらしく、最初はスムーズに話が進んでいた。

ところが酒の話になった途端ぎこちなくなり、17歳と未成年という言葉がよく聞こえるようになっていた。

結局うやむやになったまま向こうから電話を切ってしまったが、あれは何だったんだ?

 

可能性としては川島さんの時と同じく、言い間違いで27歳と言おうとした……

もしくは、俺が今年17歳の未成年なのだから姉さんにつられて酒を飲んではいけないという注意だった……そんなところだろうか。

 

次に電話をかけた三船美優さんは、こちらの話に返事はするが本当に聞いているかどうか定かではなく、結局最後に寝息が聞こえたのでそれ以上はあきらめた。

 

そして最後の片桐早苗さん。この人が一番苦労した。

 

『もしもし、片桐さんですか?いえ、高垣楓の携帯で間違いはないのですが、自分は弟の紅葉と言いまして。

姉ですか?今しゅが……佐藤心さんと話を。今回は姉がご迷惑……は?誘拐?いえ、先程も言いましたが俺は……あの、こちらの話を聞いて欲しいのですが。

どこにいるか?今福井にある民宿へ旅行中でして。いえ、だから誘拐では。とにかくまず話を……え、ええ大丈夫です。姉は問題なく。

俺が誰か?ですから弟の……ああ、川島瑞樹さんに聞いて頂ければ俺のこともわかると思いますので……は?い、いえ。川島さんは誘拐なんてしていません。そ、そう言う意味ではなく、確かに川島さん"は"と言いましたが姉さんは……川島さんが隣にいる?何だったんだ今の会話は……いえ、なんでもありません。と、とりあえず川島さんに代わっていただけないでしょうか?くっ、ここまで話が通じないとは。すみません一旦切ります』

 

その後すぐ川島さんに電話をかけ何とか片桐さんを納得させることができた。

どうやら2人で飲んでいたらしく、片桐さんは相当酔っていたとのことだ。

しかし相変わらず川島さんは頼りになるな。

姉さんが持っていくと思うが、俺からもこの旅行でのお土産を買って改めてお礼を言いに行こう。

 

そしてこの電話の原因である姉さんは、俺が片桐さんと話をしている間、しゅがはさんと笑いながら話したり俺にもたれかかるなどして邪魔をしてくる。

電話を終えた後も変わらず酒の勢いも止まらない。

 

……もう限界だ。

レッスンの疲れ、ライブへの緊張。久々の旅行等も含め大目に見ようと思ったが、いくらなんでも限度というものがある。

さらにこの民宿に他の旅行客がいないとは言え、これだけ大騒ぎすれば衛宮さんたちにも迷惑だ。

 

やるしかないな。

 

『姉さん』

 

『ん~?なぁに紅くん?あ、このお刺身とっても美味しいわよ。はい、あーん』

 

正座

 

『!?は、はいっ!』

 

『なんだなんだ楓ちゃん。さっきの勢いはどうしたんだよ☆』

 

『し、ししし心さん。今の紅くんは、きききき危険なんです!』

 

『何が?』

 

『しゅがはさんも正座です』

 

『おいおいジャーマネ。目がこ・わ・い・ゾ☆』

 

『だ、ダメです!今の紅くんに逆らったら……』

 

『……佐藤さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺 は 正 座 と 言 た ん で す が ?

 

『ひぃぃ!?ら、らじゃ!』

 

『(紅くんの本気お説教モードは久しぶりね。逆らったら何時間もこのままかも)』

 

 

はっきり言ってこれ以上はもう思い出したくもない。

とにかく言葉でわからせて反省してくれたが、寝るのはまだ早いと言うのでそれを無視し、布団を敷いて無理やり2人を寝かせることに成功した。

 

さすがに心身ともに疲労し、俺自身も眠気が襲ってきたので、女将さんに別室で寝る許可をもらい今に至る。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

恐らく姉さんは昼まで起きては来ないだろう。

目が覚めたとしてもライブの練習を出来る状態にあるかどうか。

 

 

顔を洗いに部屋を出ると、気のせいだと思っていた声がはっきりと聞こえた。

衛宮さんの何かを指示する声と、それに応じる女将さんとグレイさんの声。

 

普段の朝もこんな忙しそうな状態なのだろうか?

少し気になるから何があったのか行って見てみるか。

 

衛宮さんちの今日のごはん?

 

 

「凛、手が止まってるぞ。もう少し真面目にやってくれないか」

 

「やってるわよ!ああもうっ!どうしてこんなことに」

 

「どうして?一体誰のせいでこうなったか本当にわからないのか?」

 

「だから悪かったって何度も謝ったじゃない!」

 

「あ、あの。これはどこに置けば」

 

「ああグレイ。それはここに置いてくれ。引き続き盛りつけを頼む」

 

 

声のする方へ近づくと、そこは厨房……というより一般的な台所だな。

衛宮さんと女将さんが忙しそうに料理をし、グレイさんが盛りつけをしている。

だがこの量は少し多くないか?

 

「あ、紅葉さん」

 

場の勢いに飲まれ立ち尽くしていると、声をかけられ我に返る。

どうやら完全に目が覚めたようだ。

 

「すみません。起こしてしまいましたか?」

 

声をかけてくれたグレイさんが申し訳なさそうに頭を下げた。

起きてしまったのは事実だが、そう丁寧に謝られてしまうと逆にこっちが悪い気がするな。

思えば彼女は会う度に謝っている気がする。

 

「元々もう少しで起きる時間だったので問題ないです。それより、いつもこんなに忙しいんですか?」

 

「いえ、実は……」

 

「グレイ~。ちょっとこっち来てくれる?」

 

「はい、ただいま!紅葉さん、朝食まではまだ時間があるのでゆっくりくつろいでいてください」

 

そう言ってグレイさんはこちらの返事を聞く間もなく、急ぎ女将さんの、下へと向かった。

どうやら衛宮さんたちは料理に集中しているようで、こちらを全く気にしていない。

 

さっきのグレイさんの慌てようから考えると、やはりトラブルか?

テーブルを見るとたくさんの容器が置いてあり、料理が入っている物、何もない物、途中の物と様々なものが大小50以上はある。

 

さすがにこれを見てそのまま部屋に戻るわけにも行かないな。

昨晩の姉さんたちへのもてなしや浴衣の礼もまだだし、手伝いたいと思う。

 

「衛宮さん、手伝います」

 

「うん?キミは……」

 

「紅葉くん、気持ちは嬉しいけどあなたはお客様。いいから部屋に戻っていなさい」

 

「昨日姉さんが迷惑をかけたお詫びもありますし、料理なら大体出来ます。急ぎのようですし、今は1人でも多い方がいいのではないでしょうか?」

 

「それはそうだけど」

 

「確かキミはセタの所でバイトをしているのだったな。あれは切れるか?」

 

料理の手を止めずに俺を見た衛宮さんは、しばらく俺を見た後にさらに後ろへ視線を移した。

振り返るとそこにあったのは、恐らく解凍してある鮭の半身が数枚。

あれなら師匠に教えてもらったことがある。

 

ここにある理由も同じだろう。

出来上がっている状態のものを仕入れるより、自分で加工したほうがコストが安く済むらしいからな。

 

「はい。店に出せる一般的なサイズの切り方なら」

 

「上出来だ。だが気持ち小さめで頼む。それと一応聞くが、利き手は?」

 

「右です」

 

「ならば問題ない。凛、彼に包丁と念の為に切創手袋を」

 

「ちょっと士郎!本当にいいの?」

 

「問題ないと言った」

 

「もう、わかったわよ!なら紅葉くんお願いね。あれを切るのって結構力がいるじゃない?士郎じゃなきゃ無理なんだけど、彼は彼で揚げ物から目が離せないし」

 

「わかりました。師匠から合格はもらっているので任せてください」

 

作業をしながら女将さんが状況を説明してくれた。

民宿衛宮はもちろん旅行客を泊める施設だが、場所が場所のせいもあってそこまでお客さんが多いわけではないのだそうだ。

 

特に長期休みの月以外はほとんどいない。

その間の収入を担うのが、駅内で販売している弁当や惣菜らしい。

地元では人気の商品らしく、午前中にはほとんど売り切れるほどのものだとか。

 

だが今日は少し問題が発生した。

納品時刻と個数が変更になったのを女将さんがすっかり忘れていたらしい。

思い出したのがさっきで、普段は手伝っていないグレイさんも盛りつけに加わったということのようだ。

 

切った鮭を女将さんに任せて盛りつけの手伝いをする。

その間何度か衛宮さんの方を見たが、やはりプロはレベルが違うな。

作業は物凄く丁寧なのにスピードが速く、次々料理が完成していく。

 

師匠が学ぶものがあるといったのはこれのことか?

確かに勉強になるが、まさかこのような緊急事態を予測していたのだろうか。

 

 

 

「よし、何とか間に合いそうね。じゃあ行ってくるわ」

 

「ああ、頼んだぞ凛」

 

「拙も行きます!」

 

約1時間後、完成した品を女将さんが車で駅へと届けに行くようだ。

衛宮さんはその間後片付けをするようで、グレイさんもいない為最後まで手伝うことにした。

 

「ありがとう。本当に助かった」

 

「いえ、役に立てたのならよかったです」

 

2人で洗い物をしている中、手を止めずに衛宮さんにお礼を言われる。

恐らく俺が普通の客だったら手伝いを断っていただろうな。

師匠との繋がりがあったからこそ、女将さんも含めこの民宿はとても落ち着く実家のような雰囲気がある。

だから俺も、姉さんの件があるのとは別に手伝わずにはいられなかった。

 

先ほどのお礼のあとしばらく何も話すことなく作業を進めていたが、再び衛宮さんが口を開いた。

 

「この礼はきちんとしなければならないな。もちろん出来ることは限られているが」

 

「言葉だけで十分ですが」

 

「それでは私の気が済まないし、凛も納得しないだろう」

 

この様子だといくら断っても無駄だろう。

逆に失礼になるかもしれないし、何か……ああ、そうか。

 

「でしたら1つだけお願いが」

 

「何かね?」

 

「さっきの鮭の余った部分と、図々しいのは承知ですがご飯も少し譲って頂けませんか?皆におにぎりでも差し入れしようかと思いまして」

 

「皆、というと例のアイドルか」

 

「はい」

 

「それは構わないが、キミへのお礼としては足りないな…・・・ふむ」

 

そう言われてもこちらも何も思い浮かばないんだが。

昨日出された料理はとても美味しい物だったし、檜の風呂というのは初めての経験で疲れが取れた。

まあ、その疲れは姉さんへの説教で大分増えてしまったが。

 

そして再び沈黙するが、凛たちの時とは違い今は作業中だ。

普段も家事をしている時は姉さんがいるとき以外口を開くことはほぼないし、居心地が悪いということはない。

 

「そうだ。昨夜凛から聞いたのだが」

 

そう思っていた矢先衛宮さんが話しかけてきた。

一瞬心を読まれたのかと思ったが、女将さんの名前も同じだったな。

 

「君は同性よりも異性の知り合いの方が多いらしいな」

 

「そうですね。確かに同性の友達は1人もいません」

 

「そ、そうか」

 

最近では男子クラスメートと挨拶をするようにはなったが、それ以外特に話すこともないし友達とは呼べないだろう。

 

「これは私の経験でもあるのだが、異性には中々話せない悩みや相談等あるのではないか?」

 

「……そうですね」

 

確かに悩んでることを何となく話したことはあるが、自分がどうすべきなのかを相談はしたことがないな。

それに将来のこととは別に、友人が遠くへ行ってしまう……等という感覚はさすがに奈緒や加蓮、姉さんにも話していない。

 

「セタに話すにしても、あいつは基本根性論だからな。ここであった縁もある。私に少し話してみないか?もちろん誰にも話すつもりはない」

 

「わかりました」

 

せっかくの申し出だったので自分のことを話すことにした。

俺が東京へ来た意味。将来のことやアイドルとして活動することになっていく友人のこと。

 

頭で考えるだけでなく、気持ちを整理して実際口に出してみると、何故かほんの少し心が軽くなっていくような感覚に陥る。

 

「なるほど。将来のことはキミくらいの時期には必ず悩むものだ。そこは大いに悩め」

 

「そういうものでしょうか?」

 

「ああ。悩んで悩んで、そして出した答えの先が最初に思っていたものと違っていたとしても、後悔せず自分で納得できるものだったらそれでいい」

 

「衛宮さんは、俺くらいの年齢から今の職業のことを考えていたんですか?」

 

「フッ……いいや。現実に目を向けずに理想だけを口にしていたよ。自分はこうありたいと願った。そして今別の道を歩むことになったが後悔はしていない。凛の為だけの味方で有り続けることが、私の生きる意味だ」

 

「……」

 

真っ直ぐ力強く迷いのない言葉。

俺にそこまで言える目標が出来るのだろうか。

いや、何もしないうちからあきらめるのはやめよう。

衛宮さんの言う通り、思いきり悩んで後悔のない道を目指す努力をすべきだな。

 

「時に、今キミがやりたいことは何なのだ?趣味でも興味があるものでもいい。1つくらいあるだろう」

 

趣味に興味、か。

中学まで、いや去年までの俺なら『ない』と即答していただろう。

 

だが今は目を閉じ考える。

というよりも、考えることもない簡単な答えだ。

 

 

「今は姉さんやアイドルになった友人たちの力に少しでもなりたいです。どんな小さなことでも、そして少しでも俺を必要としてくれるのなら、全力で応えたい」

 

「なるほど。良い目をしている。そして私にはもうキミは答えを全て得ている気がするのだがな」

 

「え?」

 

「いや、気がついていないのなら今はまだそれでいい。とにかく今はキミが出来ることを1つずつこなしていくといい。その先がキミの将来へ繋がっていると私は思うよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「さて、私はこれから朝食を作るが」

 

「俺は皆への差し入れの準備をしたいと思いますが、さすがにここでは邪魔になりますね」

 

「いや別にここで調理をしても構わんよ。必要なものは揃えておこう」

 

その後衛宮さんのアドバイスを受けつつ、夏場傷まないように最新の注意を払って準備をした。

朝食は、姉さんたちが予想通り起きなかったので俺1人だけで摂ることに。

 

同様に全く起きない姉さんたちを置いてシンデレラプロジェクトのいる民宿へ向かうと、既に音楽が響いていた。

 

 

紅葉くんの差し入れ

 

 

「あ、おはよう紅葉」

 

「おはよう紅葉先輩」

 

「おはよう。皆早いんだな」

 

時刻は9時前。

ストレッチをしている奈緒と加蓮に挨拶をして練習場を見渡すと、昨日と同じように各ユニット毎に練習が始まっていた。

 

「だよなぁ。あたしたちも結構早く来たと思ったんだけどな」

 

「何かこっちまで気が引き締まる感じ?ところで先輩。楓さんたちは……」

 

「ああ、恐らく想像通りだ」

 

「心さん結局戻って来なかったもんな。お前に被害はなかったのか」

 

「……」

 

「うわ、先輩今まで見たことないくらい嫌そうな顔してるよ」

 

「姉さんが酔っていたるところに電話をかけてな。その謝罪が大変だった」

 

「ホント、楓さんって紅葉の話聞けば聞くほどテレビや想像と離れて行くよな。まあ、それが魅力でもあるんだけどさ」

 

「だね。もしアタシが楓さんに会うのがライブが初めてだったとしたら、緊張しちゃうだろうし絶対話しかけられなかったと思う」

 

「俺は差し入れを冷蔵庫に入れてからまた冷やしたタオルを持ってくる。2人は構わず練習をしていてくれ」

 

「随分多い荷物だな」

 

1時間ほどするとユニット曲の練習が終わり、昨日と同じように全体曲の練習へと移る。

 

だがたった1日では何かが変わるということはほとんどなく、何度繰り返しても最後のポーズまで上手く揃わない。

 

途中からは無理に周りに合わせようと横目で気にする者も増え、疲労だけが蓄積されている雰囲気だった。

 

「出来なかったら出来るまでやってみようよ!」

 

まだ体力に余裕のある未央が皆にそう言ったが、凛や普段アイドルに対して貪欲な前川さんまで消極的だ。

いや、消極的とは少し違うか。

 

皆わかっているんだ。

このまま続けても変わりのないことに。

 

 

「ダメ、電池切れた」

 

とにかくもう1度やって見ようと言う未央の意見を尊重し、また初めから全体曲を通してみたが、案の定結果は変わらずついには双葉さんが大の字で仰向けになる。

 

島村さんも足がおぼつかず、他の子も次々座り込む。

 

「皆立って。もう1回頭からいこう」

 

それでも皆を鼓舞する未央がもう1度と両手を広げ声を上げる。

恐らく未央もこのままではいけないとわかっているのだろう。

だからこそ出来るまでやりたいという気持ちはわかるのだが……

 

「でもさ、これって難しくない?」

 

「皆バラバラで全然合ってなかった」

 

「だからもっと練習しなきゃ。でなきゃフェスに間に合わないよ!?」

 

李衣菜と前川さんの意見に未央が焦りの様子を見せる。

そうか、それもあるのか。

 

フェスまでの期間と未央たちが美嘉のバックダンサーの為の練習をした期間はほぼ同じ。

あの時3人でも大変だった苦労がわかるからこそ、プロジェクトメンバー全員で合わせなけらばいけない大変さを一番感じているのかもしれない。

 

さすがに今回は中々未央の意見は通らず、しばし沈黙が生まれる。

奈緒と加蓮も練習できる状況ではないのだろう。

こちらも曲を止め、心配そうに見つめていた。

 

「紅葉、これ大丈夫なのか?」

 

「未央の意見も李衣菜たちの意見も正しいからな。だが合わせようと意識しすぎて動きが余計固くなっている。1度気持ちを切り替えたほうがいいと思うが」

 

「アタシたちも他人事じゃないんだよね。今は2人でも、同じ状況がいつ来るかわからないんだし」

 

「ま、まあ。あのプロデューサーだしなぁ。美嘉には慣れるしかないって言われてるけどさ」

 

だが状況はあっさり一変する。

今まで皆の意見を尊重していた新田さんが案を出したのだ。

 

「少し休憩しましょう?」

 

その意見に全員が賛成する。

思ったんだが、新田さんはまだまだ余裕がありそうだな。

この中で一番体力があるのは彼女なのだろうか?

 

皆思い思いの場所に座り込み休憩に入った。

やっぱりユニット毎に別れているな。

意識的なのか無意識なのかはわからないが、その状況に一瞬蘭子だけが置いて行かれた感じになり、結局一番近かった前川さんと李衣菜の近くに座り込む。

 

時間もちょうどいいし今の休憩中に差し入れを出したほうがいいか。

タオルや冷却スプレーを配りつつ、入口近くにいた新田さんに念の為に聞いてみる。

 

「新田さん、昼食は決まってましたか?」

 

「もう少し練習したら皆で作る予定だけど、それがどうかした?」

 

「軽食ですが用意してきた物があるんです。作る手間も省けますし、それを昼食にするのはどうでしょうか」

 

「それは助かるけど、いいの?」

 

「はい、そのために俺がいるようなものなので」

 

許可を得たので、借りていた向かいの民宿の冷蔵庫へと向かう。

状況を察したのか、奈緒と加蓮も運ぶのを手伝ってくれた。

 

「まさかとは思ったけど、朝の荷物全部食べ物だったのか」

 

「飲み物とデザートもあるぞ。プロジェクト全員分だから仕方ない」

 

「え、この量全部先輩が作ったの!?」

 

「いや、軽食の方は民宿の人が手伝ってくれたよ。やっぱり料理のプロは手際が違うな」

 

「アタシからすれば先輩もすごいと思うんだけど……」

 

再び練習場へ入ると、それに気づいた新田さんが全員を集める。

何となく状況を理解したのか、皆俺たちの持っている荷物が気になっているようだ。

 

「ねえ皆、今日高垣くんが差し入れを持ってきてくれたらしいの。後からお昼ご飯を作る予定だったけど、今ここで食べない?」

 

『さんせーい!』

 

反対意見がなくて安心した。

好き嫌いはあると思うが、衛宮さんの好意で副食の材料も手に入ったし、種類はあるから満足してもらえるだろう。

 

「じゃあご飯の前に高垣くん、一言どうぞ」

 

「皆さん練習お疲れ様です。簡単な物ですが昼食を作ってきました。おにぎりは夏場の食中毒対策や苦手な人もいる可能性を考えて素手では作っていないので安心してください」

 

「細かいところも真面目だよね紅葉って。私は別に気にしないけど」

 

「凛たちが真剣にレッスンに取り組んでいるんだ。なら俺が俺の出来ることをしっかりやるのは当然だ」

 

「う、うん」

 

「もーくんは料理出来るんだね。ちなみにそのクーラーボックスって何?」

 

「ああ、姉さんの情報で知ってる人もいるかもしれないが、俺たちは和歌山出身なんだ。特産品として梅があるんだが、それを使ってアイスとジュースを作ってみた」

 

「わあ!デザートまであるんですね!」

 

「はい。梅は夏バテ予防にもなるので状況に合ってると思います。一応これも苦手な人のために他のフルーツで作った物があるので、好きな方を選んで下さい」

 

 

『いただきまーす!』

 

全員に昼食が行き渡り、奈緒と加蓮も加わり輪になるようにして食べ始める。

どうやら苦手な物はほとんどないようだ。

 

みりあや莉嘉も笑顔で食べている。

それを見ているきらりさんも満足の表情で、三村さんは以前のケーキの話もあり感心している様子だった。

 

少し不安に思っていた緒方さんは、少食のようでそこまで食べることはないが、こちらも笑顔になってくれていた。

 

「男の子でここまで出来るなんてロックだよね。私も結構参考になるかも」

 

「相変わらず李衣菜チャンのロックの定義がよくわからないけど、やっぱり紅葉チャンの料理は美味しいにゃ!」

 

「民宿の人にも手伝ってもらっているけどな。だが以前と同じで栄養のことは考えているつもりだ」

 

だがここで急に一部の……というか隣の方から、何故か表情と声が消えたような気がした。

気になって確認してみると、奈緒と加蓮、そして凛がじっと前川さんを見ている。

 

「え、何?」

 

その空気を前川さんも感じ取ったのか、3人の方へ声をかける。

それに合わせるかのように全員が話すのも食べるのも止め、こちらへ意識を集中しているようだった。

 

一体何だ?

 

「ねえみく。みくって紅葉の料理を食べたことがあるの?」

 

凛の問いに奈緒と加蓮が同意するように頷く。

3人言いたいことが同じのようだ。

 

「えーっと。い、1度だけお弁当を……」

 

「何?先輩、アタシ以外にもお弁当を作ってるの?」

 

「い、いや……」

 

急に矛先が俺へと向けられたが、何だ?

加蓮の雰囲気がいつもと違うような気がする。

 

が、前川さんや俺が答える前に凛が加蓮に話しかけるために、さらに状況が悪化した雰囲気になった。

 

「ちょっと待って加蓮。今の話だと紅葉にお弁当作って貰ってるような感じだけど」

 

「うんそうだよ?学校じゃ毎日先輩のお弁当食べてるもん」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

「お、おい2人とも。ここで喧嘩なんかするなよ!?紅葉、どうすんだよこれ!」

 

「どうすると言われてもな。前川さんに弁当を渡したのは事実だが、加蓮が休んだ時だぞ?」

 

「え?アタシが?」

 

「そ、そうにゃ!紅葉チャンがどうしてもって言うから食べたんだもん!」

 

「おい、みく。言い方!あー、あれだろ紅葉。ニュージェネのデビューライブ後のやつだろ?」

 

「あ、ああ」

 

「そっか。初めてのレッスンで倒れた時か」

 

加蓮の雰囲気がいつもとほぼ変わらないようになったが、凛はまだ納得していない様子だ。

凛の隣にいる未央と島村さんも、どうしていいかわからない様子。

 

一応出来ないこともないが、さすがに難しいし断っておくか。

 

「凛、さすがに他の学校へ弁当を届けるというのも無理があってな。悪いが……」

 

「へ?……ふふふっ。ごめん皆、ちょっと暑さで気持ちが変だったみたい」

 

「ねえねえかみやん。もーくんのあれって冗談だよね?」

 

「いや、本気……って言うかいつもの天然だよ。何もわかってないんじゃないか?」

 

「うわー……」

 

「で、でも。凛ちゃん笑顔になってよかったです」

 

場の雰囲気が良くなった気がするが、急に会話は弾まないようだ。

どうやら俺の作った弁当が原因での状況のようだし、何か全員がわかる話題を作れないだろうか。

 

そう思い辺りを見回して思い出したことがある。

アイドルならこの話題で大丈夫だろう。

 

「そういえば、ここは765プロのアイドルたちも練習場として使ってたらしいな」

 

「それホント?すごいじゃん☆」

 

対面にいた莉嘉が大きな声で喜びを表すと、それに合わせるかのようにアイドルに関しての話を周りが始めだした。

 

「さすがに765プロのことは紅葉も知ってたか」

 

「いや、奏から聞いただけで顔と名前が全くわからないが。この反応を見るとやっぱり有名なんだな……ああ、確かグレイさんも765プロのアイドルのファンだと言っていたな」

 

『……』

 

「ん?」

 

奈緒の言葉に俺が答えると、両隣がまた不思議な雰囲気に包まれる。

その雰囲気に飲まれたのか、またもや沈黙が生まれてしまった。

 

「紅葉、そのグレイって人はやっぱり女の人なの?」

 

「そ、そうだが」

 

久しぶりで忘れていたが、凛は以前加蓮の名前を出した時も同じ状態だったな。

だがやっぱりとは一体どういうことなのか。

 

「先輩、その人ってアイドル?」

 

「いや、民宿で仲居のようなことをしている留学生だが」

 

「だからそのいつも出さない低い声やめろってば!紅葉がこうなのはいつものことだろ!」

 

「紅葉チャンは相変わらずにゃ」

 

話題を提供するというのは俺が思ってる以上に難しいようだ。

前川さんは呆れたような表情でため息をつき、李衣菜や未央には小声で『がんばれ』と励まされる。

 

とりあえず何とか凛たちが落ち着き、デザートを食べ一息ついたところ、いつの間にか場を離れていたらしい新田さんが入口から全員に声をかけた。

 

「はい、休憩終わります。今日は予定を変更して、今から全体練習のスペシャルプログラムを行います」

 

周りの反応を見る限り、言葉通り誰も知らないようだ。

発案者の新田さんの表情が晴れやかなところを見ると、今の状況に適した何かなのだろう。

 

「皆外に出てちょうだい。それと高垣くん、奈緒ちゃん、加蓮ちゃん。あなたたちにも協力してもらうわ」

 

「俺もですか?」

 

「ええ、3人で1つのチームを作ってね。それじゃあ、内容を説明します」

 

チーム?

さすがにダンスをするわけではないだろうし、一体何が始まるのか。

 

そして新田さんが説明した内容は、誰もが全く予想していないことだった。

 

続く!

 




スペシャルプログラムに関しては特に変化ないです。

余談ですが、もうすぐ終わる総選挙。
自分がイラストを描けたならダイマでやりたいアニメーションがありました。

最近ナルトをまた見始めていたのですが、後半OPのLINEの映像のサビからの部分が気に入ったからです。

サビの部分で結晶を男性キャラが次々入れ替わりで掴もうとするシーンを各属性アイドルにし、女性キャラの部分を歴代シンデレラガールに。
そして結晶をガラスの靴にして、最後の掴んで終わる部分をダイマする属性アイドルへといった感じですね。
掴んだ瞬間に普段着からドレスに変わります。

映像見たことない方にはさっぱりだと思いますが、まあ完全に妄想ですね!


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