楓さんの弟はクールで辛辣な紅葉くん   作:アルセス

49 / 56
お待たせして大変申し訳ございません!

動画の方は楓さんの誕生日に誕生日回を投稿することができて満足です。


そして長かった合宿編もようやく終了です。
ちょっとダイジェスト感がありますが……


紅葉くんの転機

新田美波のスペシャルプログラム

 

 

新田さんの後に続き外へ出る。

時刻は午後1時過ぎ。夏の日差しが強く永遠とセミが鳴いており、何もしていなくても自然と汗が出てくる。

 

「はい、どうぞ」

 

新田さんが笑顔で缶ジュースを差し出す。

受け取った缶は思ったほど冷たくはないし、新田さんの後ろには見たこともないジュースが並べられているが、明らかに人数分にしては少なすぎる。

 

「あ、それは飲まないでね。バトンの代わりだから」

 

「バトンですか?」

 

「うん。皆外に出たわね。じゃあ今からリレーをします」

 

「リレー?」

 

新田さんの発言に、俺と同じく缶を受け取った凛がそれを見ながら不思議そうにたずねた。

 

「ユニット対抗で競争するの。バトンはこれね」

 

体力作りの一環だろうか?

それにしてはなぜこのタイミングなのか疑問が残るし、わざわざ俺まで参加する意味がない。

もちろん、奈緒と加蓮の為と言われれば話は別だが。

 

どうやら状況が理解出来ないのは全員同じようで、代表するかのように先ほども練習続行に意欲的だった未央が待ったをかける。

 

「今日は私がまとめ役だから、私の指示に従ってちょうだい」

 

優しい声で諭すように新田さんがはっきりとそう告げた。

全く迷いのない表情、やはりこの"スペシャルプログラム"には大きな意味があるようだ。

 

3人1組でチームを組んでの対抗戦ということで、前川さんと李衣菜が司会をやることになった。

同じ理由で2人ユニットのLOVE LAIKAには蘭子が加わることに。

 

「高垣くん、私はアンカーになる予定だから」

 

「え?」

 

チームでの走る順番を決めるためにユニット毎に集まっているところ、新田さんがそう言って俺の横を通り過ぎた。

振り返った先の新田さんは、以前のライブの時のように口の動きだけで『負けないわよ』と言ったように思えた。

 

つまり俺にも本気でやれということだろうか。

ライブに参加しない俺が本気でやる意味。それを少し考えてみる。

 

まず重要なのは、このプログラムが全体曲に関係あるということ。

そして今は全体曲が全く揃っておらず、若干焦りが見えている子もいるということ。

全員の息を合わせる必要があるわけで、そこに存在するイレギュラーなチーム……

 

そうか、何となくわかってきた気がするな。

アイドルには新人といえど、多かれ少なかれ目標があり、それを目指して日々頑張っている。

誰にも負けたくない気持ちもあるだろう。

特に加蓮と凛、そして未央からはその思いは良く伝わってくる。

その気持ちが1つになって、全力で向かっていけば……

 

「2人とも、このリレー勝負は俺たちが優勝するぞ」

 

「お、おう。珍しくやる気だな。確かにお前はスポーツも得意みたいだけどさ」

 

「アタシは最初からそのつもりだよ?それで、順番はどうするの?」

 

「俺がアンカーで出る。新田さんも出るだろうし、恐らく……」

 

前方やや離れたところで相談している凛と目が合う。

まだ少し疑問が残っているようだったが、気にせず俺は頷いてみせた。

 

「!?」

 

凛に俺の意思は伝わっただろうか。

 

「悪いな加蓮。凛との勝負は一旦俺に預けてくれ」

 

「え?あ、うん」

 

 

 

「位置について」

 

「よーい!」

 

にゃー!」「ロックンロール!

 

*(Asterisk)の掛け声と同時に第一走者が走り出す。

コースは練習場を一周するため後半の状況をここで確認することはできないが、そこは司会の2人が上手く伝えてくれるだろう。

 

第一走者は加蓮、島村さん、アーニャ、みりあ、三村さん5人。

第二走者はこちらのチームが奈緒。そして未央、蘭子、きらりさん、緒方さん。

そしてアンカーが俺、凛、新田さん、莉嘉、双葉さんだ。

 

第一走者はスタート開始からすぐに差が付き始める。

アーニャが1位を独走し、その後を意外にも最年少のみりあが追いかけていた。

 

そのさらに後ろを島村さんと加蓮がほぼ同時で走っているが、島村さんの方が若干余裕が感じられるな。

そして三村さんが最後を走り、そこまで加蓮たちと離されているわけではないが苦しい状況か。

 

前川さんの司会で、第二走者が中盤で順位が入れ替わったことがわかった。

未央が蘭子を追い抜き、さらにほぼ同時にスタートした奈緒も、未央には離されてしまったが2位になったようだ。

 

次の順番のためスタートラインに立つと、新田さんが声をかけてきた。

 

「高垣くんありがとう。でも負けないからね」

 

「新田さんの意図が少しわかりました。このスペシャルプログラムはまだ続くんですよね?」

 

「うん。色々考えてみたんだ」

 

「なら俺は、プロジェクト全員が共通の敵と認識出来るよう頑張ります」

 

「ちょ、ちょっと!考えは間違ってないけど言い方は少し考えてよ!」

 

どうやら予想は当たったらしい。

俺たちのチーム……主に俺が上手く立ち回ってヘイトを集めればいいわけだ。

新田さんも協力してくれるだろうし、そうすれば負けたくない気持ちがプロジェクトメンバーの心を1つにすることが出来るかもしれない。

 

とりあえず、隣で未だ納得していない様子の凛のモチベーションを上げるべきか。

 

「どうした凛。もうすぐ俺たちの出番なのにあまりやる気が感じられないが」

 

「なっ!?べ、別にやる気がないわけじゃないよ」

 

「そうか?まあどちらにせよ俺は1位を狙っていくが」

 

「何か意外。紅葉ってあまり勝負事に拘らないのかと思ってた」

 

「そうだな……」

 

普段の俺なら凛の言葉が正しい。

学校の授業でも手を抜くわけではないが、勝っても負けても特に何か思うことはほとんどない。

 

けど今は違う。

確かに目的はあるが、せっかく新田さんが作ってくれた状況を楽しみたいと思う自分がいるんだ。

 

「俺と凛たちは友達とはいえ立場が変わってきている。だがそれを抜きにしても、こうやってお前たちと一緒に何かをするということ。

この今後いつまた起こるかわからない状況を楽しみたいと思ってる」

 

「紅葉……わかった。なら私も全力でやってみる」

 

「ああ」

 

「(何か凄く良い雰囲気だけど、考えた私の方が段々置いていかれてるような……)」

 

先程とは違い、真剣な様子でじっと未央を待つ凛。

順位は前川さんの言葉通りに未央、奈緒、蘭子、きらりさん、緒方さんの順だ。

 

……今考えてみたが、ユニット対抗とはいえCANDY ISLANDが少し不利じゃないか?

こう言っては何だが、三村さんも緒方さんも大人しい性格だし、陸上競技が得意そうには見えないんだが。

 

「しぶりん!」

 

「うん、任せて!」

 

「紅葉あとは頼んだ!」

 

「ああ」

 

しっかりと缶を受け取り走り出す凛を見送ったあと、すぐに奈緒が俺に缶を手渡した。

新田さんもほぼ同時で、2人で徐々に凛との差を縮める。

 

新田さんは何かスポーツをやっているのだろうか?

正直第二走者が僅差でゴールしたのなら、俺が勝てると思っていた。

だがどうやらその考えは甘かったようだ。

 

凛を抜き、最後は新田さんとの勝負になる。

あそこまで大きなことを言った以上負けるわけにはいかない。

 

ゴーーーール!1着は紅葉選手!

 

「はぁ、はぁ……よし」

 

体ひとつ分の差だっただろうか。

何とか勝つことが出来た。

 

「やったな紅葉!」

 

「おめでとう先輩!」

 

「ありがとう。だがこれは俺たち3人の勝利だ」

 

凛の方を確認してみると、膝に手を置き息を整えながらも、こちらを悔しそうにしてみている。

本人の言葉通りに全力でやったんだろう。

そして未央と島村さんが近づき、ねぎらいの言葉をかけているようだった。

 

「お、お疲れ」

 

「お疲れ様です」

 

「ごめん2人とも。紅葉と美波に勝てなかった」

 

「しぶりん、何か急にやる気出たね」

 

「うん。次は負けないよ」

 

「私も凛ちゃんみたいに頑張りますね!」

 

どうやら他の2人も凛に影響されてきたみたいだな。

そのことに安心していると、不意に悪寒が走った。

 

この久々の感覚にゆっくりと後ろを振り返ると、案の定新田さんが凛以上に悔しそうな顔でこちらを見ていた……

 

 

 

それからいくつかの競技をこなしていき、プロジェクトメンバーも徐々に楽しみながら1つにまとまっていているようだった。

応援の声も大きくなり、全員が全員を応援している。

 

3人4脚ではnew generationsが抜群のチームワークを見せ1着でゴール。

俺たちも慣れないながら3位になることが出来たが、奈緒の動きがぎこちないように感じた。

 

「うぅ……こ、こんなの恥ずかしいに決まってるだろ!」

 

「もう奈緒ったら。終わったんだからもういいじゃない」

 

「お前たち2人だけなら凛たちといい勝負になったかもしれないな。確かに奈緒の動きがいつもと違っていたが、原因は俺にある」

 

「先輩はやっぱりいつも通りだよね……」

 

 

 

そしてどこから見つけてきたのか、水鉄砲での勝負ではチーム対抗戦のはずが、いつの間にかプロジェクトメンバー対俺たち3人という結果に。

 

「おいおい。どうすんだよこれ、勝てるわけないぞ!」

 

「先輩、作戦はあるの?」

 

「い、いや。とにかくやるだけやってみよう」

 

早々に奈緒と加蓮がリタイアとなったが、俺はなんとか敵の数を半分にまで減らすことはできた。

水は基本直線で襲って来るからな。相手が引き金を引く瞬間を見極めれば躱すのはそう難しいことじゃない。

 

奈緒が途中俺が引き金を引く度に『ミストディス……』とか言っていたが、あれは一体何だったのだろうか?

 

 

最後の長縄跳びは俺たち3人が見守る中、声を掛け合い楽しそうに目標の回数までこなすことが出来た。

 

「なんかいいよな。あんな風に1つにまとまるのってさ」

 

「そうだね」

 

「お前たちも他人事じゃないだろう。いずれは通る道なんじゃないのか?美嘉だって、ライブでは合同で歌って踊る場面も多いしな」

 

「そ、そっか。バックダンサーとソロデビューのことばかり考えてたけど、その先がまだまだあったんだ」

 

「アタシたちはアイドルとして始まったばかりだもんね。同じ部署のメンバーでライブすることもあるかもしれないし」

 

「鈴科プロデューサーなら色々考えてくれるだろうな」

 

『……』

 

「ん?どうして黙るんだ?」

 

そして休憩を挟んだあと、誰からともなくもう1度全体曲をやってみようという話になった。

全員の表情はとても自身に満ち溢れており、結果は見事に成功。

奈緒と加蓮も自分のことのように喜んでいた。

 

今回のスペシャルプログラムの案は全て新田さんが考えたのだろうか?

もしくはプロデューサーさんがこうなることをある程度予想し、もしもの時のために新田さんにアドバイスをしたのか?

 

「え?ああ、うん。私が考えたの。だって私は皆のまとめ役だから」

 

「そうでしたか」

 

「高垣くんも本当にありがとう。リレーで負けたのはまだちょっと悔しいけど、お陰で皆の気持ちが1つになれたもの」

 

ちょっと?

俺にはかなり悔しそうに見えたんだが。

 

しかしそうか。

新田さんも状況は皆と同じはずなのに、誰にも相談せず考えたということか。

 

その責任感の強さは尊敬すべきなのだろうが、これが今後も続いたら精神的に大変じゃないか?

 

それと奈緒と加蓮のことも心配だ。

美嘉がついているし信じていないわけじゃない。

だが、プロジェクトメンバーほどではないかもしれないが、この合宿で2人とは今まで以上に連帯感が生まれているように感じる。

 

ここで俺だけあとはライブを観に行くのを待つだけというのは、なんというか……

 

「あ、Pくんだ!」

 

莉嘉が民宿へと続く階段を見下ろし叫ぶと、皆揃って階段へと集まる。

俺もつられて行ってみると、武内プロデューサーだけでなく、鈴科プロデューサーが。

そして若干顔色の悪い姉さんと、頭を押さえているしゅがはさんまでがこちらへと向かっていた。

 

「皆さん、お疲れ様です」

 

『お疲れ様です!』

 

「加蓮ちゃんと奈緒ちゃんもお疲れ様」

 

「プロデューサーさん!?なんでここに」

 

「俺もタケも仕事が早く終わってね。せっかくだし1日早く様子を見に来たってわけ」

 

「こ、紅くん。どうして起こしてくれなかったの?」

 

「姉さん、まさか今まで寝ていたのか?もう夕方だぞ」

 

「イテテ……ねえジャーマネ。昨日何かあったっけ?正座したのは覚えてるんだけど」

 

「そこは忘れないで欲しかったのですが」

 

その後全員練習場へ戻り、先にプロジェクトメンバーのミーティングが始まった。

どうやらフェスでのまとめ役も引き続き新田さんに決まったようだ。

 

プロデューサー含め誰もが賛成し、新田さん本人もやる気のようだが、やはり少し不安が残る。

 

せっかくの大舞台、皆出来るだけ自分たちのこと以外を気にすることなく、歌やダンスに専念して欲しい。

ここから先、俺に出来ることはないのか?

 

「紅くん、どうかした?」

 

色々と考えていたらいつの間にか話は終わっていたようだ。

周りを見るとそれぞれが自由に行動している。

 

心配そうに見ている姉さんを見る。

姉さんに関して言えば、全く不安はない。

アイドル高垣楓としてならば何も気にするところはないし、しゅがはさんを安心して任せられる。

 

とはいえ他のメンバーも姉さんに頼むのは違うな。

 

……そうか、ダメ元で聞いてみるのもありか。

 

「すみません。少しいいですか?」

 

「どうしたんだい?」

 

話の邪魔をして悪いとは思ったが、2人のプロデューサーが一緒に居る機会に遭遇するのは滅多にない。

俺は自分が思っていることを話すことにした。

 

「今度のフェスですが、裏方のボランティアとかの空きはありませんか?どんな雑用でもいいんです。少しでも皆の役に立てるならそれで」

 

「こ、紅くん?」

 

「高垣さん、それは……」

 

「うん、いいんじゃない?」

 

「す、鈴科!」

 

「今回のフェスはお前より俺の方が決定権があるからな。ある程度融通は利く」

 

「いいんですか?」

 

まさかこんなにあっさり結論が出るとは思わなかったな。

姉さんは驚いてはいたが、すぐに納得して笑顔で賛成してくれた。

 

「ええ、確かに紅くんがいてくれたら心強いわ」

 

「俺は別に姉さんの心配はしてないぞ?」

 

「ええっ!?あ、ツンデレ!ツンデレなのね!」

 

なぜ姉さんが喜んでいるのか全くわからないんだが……

 

「キミには色々助けてもらってるしね。タケだってそうだろ?」

 

「それは、まあ……」

 

「今後の高垣くんのことやタイミングを考えても、俺は悪くない話だと思うよ。今じゃないともうすぐあの人が帰ってきちゃうし。そうなったら自由が利かなくなる」

 

「あの人?」

 

俺のその質問に鈴科プロデューサーは答えることはなかった。

姉さんもわからないようだったが、武内プロデューサーは理解したようで、首に手を置き困ったような表情を見せていた。

 

雑用が決まったとはいえまだ何をするかはわからない。

が、何をするにしても全力でやるだけだ。

 

続く!




というわけで次からは夏のフェス、1期最終話です。

アニメと違う部分は、今わかってるところで2つ。

・観客だった奈緒と加蓮がバックダンサーとして参加。
・しゅがは参戦で楓さんも新ユニットで登場。

あとはまたいくつか変更する部分があるかもしれません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。