「まず始めに言うけど、私は神奈川の人間じゃないんだ」
そう、私は神奈川の人間でも関東の人間でもなく、私は東京から西に600kmぐらい離れた場所にある広島の山手のところで生まれ、そこで中学まで育った人間だ。私は緑が多い田舎町で自然に触れながら育ったために植物や生物に対してはとても詳しくなっていったわけで、そのために小さい時からなりたいと思っていた花屋を今は東京で営んでいるわけだ。
「ほら麻久美、今日はピアノのレッスンがあるんじゃなかったの?」
「うん、でも今日は気分が上がらないというか、調子が悪いかもしれない」
私は小さい時に遊びに行く前や学校帰りにピアノ教室に通っていた。田舎から少し距離がある市街地に出なければならなくてそれが面倒だったけど、日に日に成長していく実感と言うのがとても楽しかったのは大人になった今でも鮮明に覚えている。
「麻久美、ちょっと話があるから学校終わったらすぐに帰ってきてくれ」
「うん、分かった」
急にそう言われてどういうことなのかと思った。ちょうど1月だったこともあってか高校受験前だった。家に帰って父親と母親、姉貴二人と兄貴が待っていた。
「揃ったな、急で悪いが引っ越すことになる。というのも俺が神奈川へ転勤になったんだ。単身赴任でもいいが、これだけの家族だ母さんに負担をかけたくないからさ」
いきなりだった。折角の親友もいなくなってしまうこととか色々考えすぎて抱え込みすぎてしまっていた。その時からピアノ教室には行かず、高校に入ったら違うことをしようと思っていた。
けど、いざ神奈川へ言った時、田舎で暮らしていた影響もあってか都会の高いビルを眺めて「ああ、ここが新しい故郷なんだ」と実感したし、初めてみるものばかりだった。行き交う車の流れ、町の雰囲気というか賑わい方も何もかもが初めてすぎて戸惑った。
高校に入っても初めて会う人たちばかりでどうすればいいのか分からなかった。そんな時に見たのが楽しそうに話しながらギターを持つソエルこと愛美と派手な見た目をしていたウルズこと潤香だった。一緒に入っていったライブスタジオについていって奏でられる音に驚いたのは事実だが、それ以上に自然と体が動いていたのだ。勝手にエアで鍵盤を奏でるようなあの感覚は今でも忘れることはなかった。
そんなことがあった中、6月の文化祭のために何をしようか話しているときに廊下から愛美と綾がバンドをしようと話していた事と、キーボードの候補は見つけたか話していたのを聞いて黙ってはいられずに愛美と綾に「私は昔、ピアノをしていたから役に立てないかな?」と飛び出した。
もちろん驚かれたが、その後にそのライブスタジオでキーボードというものを触れ、その演奏を聴いて加入してほしいと言われたときは嬉しかった。数ヶ月出来なかった初めての新たな繋がりだったからこそ今この5人がいるんだと思った。だからこそなのかも知れないが、広島にいた時のように世話焼きで出来たつながりを壊したくはなかった。それがわざわいをしたのか私達Loonのいい調整役を担っていた。
「んまあそんな感じだよ、広島から神奈川へ、そして今こうして東京で愛美が新たに見つけた繋がりというものを見れて良かったと思ってるよ」
そう言いながら私は少し感極まって涙が出そうになっていた。けどそれは私だけではなくて聞いている25人とCiRCLEのスタッフのまりなさんも同じ感じになっているのを見て取れた。
「そうだな、麻久美がいなかったら私達はうまくいってなかったかもしれないな」
愛美がコーヒーを飲みながらそう呟いた。
「まあ私達は音楽のルーティンというか、私達は昔からこうして音楽というものに携わっていたんだ。そしてあの場所、『Stand』というライブハウスは前の職場で、私達の始まりの場所だったんだ。だからLoon結成の話をしようと思う」
これは私達が出会い、Loonというバンドを組んだ始まりの話。ただの友人としてではなく、それぞれがバンドのメンバーであるということを実感したあの場所FWF(フューチャーワールドフェス)に参加して一躍有名になったLoon結成秘話である。
べオークは新たな場所で得た繋がり、そして昔にピアノをしていたからこそのキーボードの演奏であるということ、それは大人になったべオークが未だに忘れてはいないことである。
次回から2-2章としてLoon結成の話になります。