私は逃げた。
私は父親に売られた。
結婚に出された。
代わりに財宝が父親に行くことになった。
相手は何人も娶り、飽きたら捨てる最低な男だった。
だから私は逃げた。
みんな私を捕まえようとする。
父親はもちろん、信じていた母親にも裏切られた。
帰るところはもうない。
逃げる度に傷が増える。
それでも必死に逃げた。
どれくらい逃げただろう。
意識が朦朧としてきた。
何処に行けばいいのかわからない。
海にいるのは怖い、陸地に逃げよう。
捕まるぐらいなら陸地で死んだ方がマシだ。
辛かった。苦しかった。悲しかった。
身体には力が入らない。
あとは死を待つだけなのか。
でもやっぱり怖い。死ぬのは怖い。死にたくない。
このまま死ぬのは嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か…………
「助けて……」
私の視界は真っ暗になった。
────────────
浜辺から連れてきた少女を祖母の家の一室に運び、布団の上に寝かせた。
「これで一先ず大丈夫か?」
坂本隆は祖母の家にあった救急セットで応急処置をした。
携帯で調べながらでどこまで出来るかわからない。
それよりも……
「流石に救急車は呼べないもんなぁ……」
そう、目の前で処置を終えて横になっている少女は人間ではない。
上半身は水着姿の麗しい少女だが腰より下が魚であった。
信じられないがこの少女は人魚だ。
もし救急車を呼ぼうものなら大騒ぎになるだろう。
それだけは絶対に避けたい。が……
「母さんにはなんて説明するかな……」
ハァとため息をついたその時、シュゥという音とともに少女の身体から煙が上がったのだ。
「こ、今度はなんだ!」
何が起こったのかと少女を見るとまたまた信じられないことが起こった。
腰から下の魚の部分が消え、人間の足が現れたのだ。
「……………………」
(よし、後でまた様子を見に来よう。)
坂本隆は現実逃避するように部屋から出た。
────────────
ふと目が覚め、痛む体を起こし辺りを見渡す。
知らない部屋だった。
海の中ではないことは確かだがここがどこだか分からない。
身体を見ると至る所に包帯など処置の施しがあった。
「誰かが助けてくれたのかな……」
と、自分の下半身に目をやる。
「え……」
ヒレがない。
その代わりに人間のような細い足があった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
目の前の現実が信じられず、思わず叫んだ。
叫んだらドタドタと足音が聞こえてくる。
部屋の扉が勢いよく開けられ男の声が聞こえた。
「ちょっ何!?何かあったの!?」
「ぴぃッ……」
その男、坂本の声に少女は驚き、変な声を上げてしまった。
「あ、目が覚めたんだ。良かった。」
「えっそのっあのっ……。」
(というかここ何処!?人間!?)
頭は混乱するばかりだ。
────────────
(……しまった、完全に動揺してるな、これ)
当たり前だ。
目が覚めたら知らないところに、しかも目の前には訳の分からない男がいるわけだ。
(とりあえず説明するか……。)
坂本は一旦彼女を落ち着かせ浜辺でのこと、運び治療したこと、彼女の足が出現したことを説明した。
(うん、分かってたことだけど全然信用してなさそう。)
彼女からは怪訝そうな表情が見える。
そう言えば自己紹介がまだだった。
その次に彼女の話を聞こう。
「俺の名前は坂本隆、君はその……人魚だよね?」
こくり……そんな音が聞こえてきそうな小さな頷きだった。
「君の名前は?」
とりあえず聞いてみる
「名前は……無い」
無い?そんなはずはないだろ。
いや、もしかしたら名前を呼び合う習慣がないのかもしれない。
「そうか……わかった。」
なんて呼べばいいか、これからどうしたらいいか考えていると───
ぐぅぅぅううう……
お腹のなる音がした。
俺ではない。
ということは……
「ッ…………」
少女は恥ずかしそうに俯いた。
「……とりあえず何か食べようか。考えるのはそれからだ。」
ばあちゃんの家に来る前におにぎりなど色々買ってきていたのでそれを一緒に食べよう。
食事を取りに部屋から出てから気づいた。
────人魚ってなに食べるの?
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