泡のような儚い恋   作:ぬっくん丸

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5章 人魚の大きな一歩

2人の生活が始まって坂本は一般常識について様々なことを教えた。

 

アパートに来てから1週間後、一般常識をある程度教えた坂本は次に渚には立ち方と歩き方を教えようとした。

 

まずは渚を床に座らせて台に手を付かせながら立たせるという方法を行った。

 

案外ものの数分で多少フラフラでも立つことが出来たが、歩こうとするとバランスを崩し倒れてしまう。

 

(1つのヒレから2つの足になったから感覚が分からないのかな……。)

 

元々の筋力はあるが動かし方がわからない、そんなところだ。

 

そこで坂本は次に片足ずつ動かす練習を行った。

 

「足を上げてみて。」と言うと両足が上がるので坂本が左足を抑え、渚にもう一度足を上げるよう指示をした。

 

「んっ…………くっ…………!」

 

足がプルプル震えて上がらないので「じゃあ今度は右の方の腰を意識して上げてみて。」とアドバイスをしてみた。

 

「や、やってみるね………………あっ。」

 

「おっ。」

 

アドバイスをしたら嘘のように出来てしまった。

 

反対側も難なくクリアし、しばらく片足ずつ動かす練習をした。

 

(しっかし、綺麗な足だなぁ……。)

 

渚の足は白く細く、しかし筋肉はしっかりとありアスリートのような足だった。

 

(そんな足に触れるなんて……。)

 

坂本が邪な気持ちを抱いていると「サカモト、もう足大丈夫だよ。」と渚に言われてしまった。

 

「アッハイ。」

 

少し残念な気がしなくもないが、その後も練習に付き合った。

 

────────────

 

「そろそろ歩いてみようか。」

 

足の感覚が大分わかってきたところでもう一度歩くチャレンジ。

 

渚は坂本の手を取り、片足を出す。

 

「よしっ!」

 

まだぎこちないが1歩を踏み出すことが出来、その後2歩3歩……と渚はゆっくり歩いた。

 

「サカモト!やった、歩けたよ!」

 

「すごい、歩けてるよ!」

 

2人で喜びあっていると渚はバランスを崩し坂本の方に倒れ、坂本の胸に飛び込む。

 

「「………………」」

 

2人は沈黙し、お互いを見つめ合った。

 

(な、なんか喋れ俺!)

 

「……だ、大丈夫?すごいじゃん!こんな短時間で歩けるなんて正直思わなかったよ!」

 

渚の体から離れ、何事もなかったかのように接する。

 

(ど、動揺するな!したら互いに恥ずかしくなるだけだ。)

 

渚は少し頬を染め「歩けるようになったのはサカモトのお陰だよ。」と笑みを見せた。

 

「これからは歩ける時間を徐々に増やしていこう。そして外も歩いてみよう。」

 

一般常識については色々教えたつもりだ。

 

ならば今度は実際に体験するのがいいと坂本は考えている。

 

「外……ちょっと怖い、けどサカモトがいるから頑張れるよ。」

 

詮索するつもりは無いが、ボロボロの姿と海に戻りたくないで坂本は変な想像をしていた。

 

最初こそ警戒され笑顔をあまり見せなかったが今では笑顔を見せるまでになった。

 

(心が強いのか立ち直りが早い……俺もみならわなきゃな。)

 

坂本自身気がついてないが渚が来てから坂本も笑うようになっていた。

 

────────────

 

「じゃあそろそろ行ってくるね。」

 

「またあるばいとっていうところ?」

 

坂本は今フリーターであり、アルバイトをしている。

 

坂本のアルバイト先は以外にもカフェである。

 

大学時代からお世話になっているところでバイト代がよく、マスターも色々相談に乗ってくれる優しい人だ。

 

「そう、テレビとかは見てていいけど誰か来ても絶対に出ないこと。お腹すいたらテーブルの上におにぎりとかあるから好きに食べてね、行ってきます。」

 

「…………いってらっしゃい。」

 

ガチャ。

 

渚は坂本が出た後もそのドアを眺めていた。

 

(サカモト、行っちゃったなぁ……。)

 

1人は慣れていたつもりだが、やっぱり寂しい。

 

(それとこの気持ちはなんだろう……。)

 

それは坂本に対する気持ちであった。

 

親しい者に対する気持ちとはちょっと違う。

 

でもそれが何であるのか渚にはまだわからない。

 

(…………いいや、てれびでも見て気分を紛らわそう。)

 

そう思い渚はテレビを点ける。

 

────────────

 

「最近坂本君明るくなったね。」

 

珈琲豆の補充をやっていると声がかけられた。

 

ここは坂本のアルバイト先のCafé【KATSURAGI】

 

そして坂本と会話しているのはマスターの桂木輝義(かつらぎてるよし)。

 

白髪とシワが目立つおじさんだが、顔の彫りが深く低い声と温厚な性格で女性客に非常に人気である。

 

「そうですか?」

 

「あぁ、ついこの前なんて目に光がなかったようなもんだったよ。」

 

「うっ…………。」

 

反論出来なかった。

 

実際生きるのも億劫になっているほどであった。

 

「そうッスよ!先輩大学卒業してからめちゃめちゃ暗かったですよ!」

 

「お前なぁ…………。」

 

こっちは同じアルバイトで坂本のいた大学の後輩、川藤杏子(かわふじあんず)。

 

体育会系の癖して大学では料理クラブと文芸クラブに入っている。

 

「最近何かいいことでもあったんスか?」

 

「別になんともないけど……。」

 

「あっ!新しい女っすか!?」

 

「はっ倒すぞテメェ。」

 

彼女と別れたの知っててなんてこと聞いて来るんだ。

 

「ほらほらお客様に聴こえるから喧嘩しない。」

 

「「はーい。」」

 

桂木さんの注意で仕事モードに戻る。

 

(確かに前よりは毎日が楽しい……な。)

 

坂本は渚が歩いたところを思い出し口元が緩んでしまった。




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