速水龍一で始める『はじめの一歩』。   作:高任斎
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一歩と戦って、そこがエンディングでいいんじゃないかなという気がしてきた。(白目)
あと、ボクシングの階級の呼び名や、大会の状況は、原作の1990年前後を想定してますが、うろ覚えなので『現在』や『過去』と色々混ざってると思いますがご了承ください。


2:原作まであと何マイル?

 両親に心配された。

 まあ、普通はそうか。

 ボクシングと言えば殴り合いで、この世界でも、日本のボクシング熱はすでに冷めている。

 世間の認知度も低い。

 そこを、利用する。

 

「父さん、母さん。ボクシングといっても、プロじゃなくてアマチュアの話だよ」

 

 父親譲りの甘いマスクで、さらりと言葉をつむぐ。

 嘘じゃない。

 ただ、誤解を招く言い方なだけ。

 

 許可が出たのは、両親がちょろいのか、それとも息子への愛情か。

 

 うん……ひとつ、枷をはめようと思う。

 高校の3年間で、インターハイで優勝できなければボクシングをやめる。

 これは、自分との約束。

 そして、自分なりの覚悟。

 

 

 

 さて、どのジムに入門しようかと思ったところで、首をひねった。

 

 そもそも、地元でもないのに、一体どういう流れで、速水龍一(おれ)は音羽ジムに所属することになったんだろう?

 

 原作の音羽ジムを思い出す。

 そういえば、ヴォルグもあそこだっけ?

 そして、板垣のライバルも……。

 

 有力選手を契約金つきで所属させるってスタンスか?

 インターハイで優勝して、音羽ジムに呼ばれたって感じなのか。

 

 それって……今から入門しようとするジムに、後ろ足で砂をかけるようなことになるのでは?

 

 原作ブレイクをしたいのだが、原作ブレイクしてないか不安になる。

 なんだろう、このもどかしいような矛盾感は。

 

 もう一度、ジムを見る。

『練習生募集』の『練習生』って、プロじゃないんだよな。

 ジムに会費を払って、ボクシングを教えてもらったり、施設を利用したりする。

 逆に、プロは会費が必要じゃないが、ファイトマネーの一部をジムがとるわけで。

 とすると、プロを所属させない、練習生だけのジムもあるのか。

 

 うん。

 入門して、高校にいって、インターハイを勝ってから考えよう。

 音羽ジムに誘われないようではだめ、と。

 

 

 

 まずは、現状のサイズ。

 

 身長168.1センチで、中学1年の夏から2ミリ伸びたが、誤差だな。

 体重はナチュラルで53キロ。

 プロだと黄金のバンタムで……アマチュアもバンタム、少し絞ってフライ級か。

 まあ、まだ成長期だ。

 原作ではフェザー(57.1キロ)で、後に1階級落としてたからな。

 

 何はともあれ練習だ。

 

 

「……変わってるな、お前」

 

 せっせと腹筋をしていた俺に、会長が声をかけてきた。

 休まず、言葉を返す。

 

「何がです?」

「いや、初心者は大抵、サンドバッグとか叩きたくなるもんだが」

「最近まで野球少年でしたから。まだ、ボクサーの身体になってないのに、意味ないでしょう。まずは身体作りですよね」

「……かわいげのないガキだなあ」

 

 そう言って、会長が苦笑を浮かべた。

 

 まあ、プロ野球選手に農作業をさせたら、1時間たたずに根を上げたという話もある。

 老人が平然と作業を続けているのに、だ。

 そのスポーツに必要な筋肉というか、身体というのがあるのだ。

 基礎工事をせずに家を建てようとしても意味がない。

 ただでさえ体重制限のある競技だ、無駄な筋肉の存在が許されるはずもない。

 

 短期と長期の目標を定め、努力する。

 いつものことだ。

 

 

 

 

 秋が過ぎ、冬が来る。

 

 自分の身体を鏡にうつしてみた。

 

「野球選手の身体じゃなくなってきたなぁ……」

 

 シャープな身体。

 特に意識してはいなかったが、体重が少し落ちた。

 野球に必要な筋肉が減って、今の俺の身体は、素体とでもいうべき状態か。

 ここに、ボクシングの肉がついていくのだ。

 いや、すでに太ももやふくらはぎには兆候が出ている。

 野球選手のそれとは違う、ボクサーの太ももとふくらはぎだ。

 野球選手の太ももは、ストップアンドゴーに耐えられるように、太く成長していくことが多い。

 ふんばる、勢いをとめるなど……下り坂で止まろうとすると、太ももの前部分に力が入るが、その能力が必要とされるからだ。

 まあ、ボクサーの場合は、タイプによって変わるんだろうが……主人公の一歩のアレは極端な例だといえる。

 

 俺は俺だ。

 またちょっと走ってくるか……。

 

 

 

 2月。

 伊達英二が、メキシコのリングに沈んだ。

 傷心の帰国。

 引退からの、カムバック物語の序章か。

 

 

 何かが、背中に迫ってくるような圧迫感。 

 意味もなく、後ろを振り返る。

 

 あの日。

 はじめの一歩を踏み出した俺の背後には、まだ道と呼べるようなものはない。

 

 前を向く。

 人間の身体は、前に向かって歩くようにできている。

 前に進むしかない。

 

 地元の、ボクシング部がある高校の選択肢は多くなかった。

 俺が思っていたよりも、アマチュアボクシングの競技人口は少ない。

 おそらく、選手間のレベル差は大きいだろう。

 出回る情報も少ない、か。

 

 原作で、俺はどの高校に進んだのか。

 原作ブレイクするための道は見えない。

 それでも、ただ前へ。

 俺は、歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 モノが違うとはこういうことか。

 

 アマチュアの1Rは2分。(シニアルールは3分)

 3R6分間。

 俺は、先輩に一度も触れさせなかった。

 速度が違う。

 反射神経も違う。

 やらなかったが、先輩のパンチを見て、それをパンチで叩き落とすこともできた。

 

 次の日、先輩はボクシング部をやめた。

 かけるべき言葉はない。

 振り返ることもしない。

 前へ。

 ただ、前へ。

 

 誰かを蹴落としていくのは、ボクシングに限ったことじゃない。

 

 

 

 ルールが違えば、セオリーも変わる。

 競技の骨格を成すのはルールそのものだ。

 

 いわゆる、アマチュアルール。

 グローブの有効部分を、相手選手の有効部位にヒットさせるポイント制。

 もちろん、ダメージによるノックダウンはある。

 パンチが当たったかどうか、有効か無効か、それらを審判が判定する。

 認められなければポイントにならないし、認められればポイントになる。

 ダメージではなく、審判に認められやすいパンチの打ち方……それも技術だ。

 

 ただ当てるだけの速いパンチ。

 ダメージを与えるパンチ。

 虚と実。

 アマチュアボクシングがテクニック重視といわれる所以か。

 

 逆に、ポイントとして認められないが、ダメージを与える部位がある。

 ポイントにならないからと、防御が甘くなりやすい場所。

 

 どんな競技であれ、大事なのはルールを熟知することだ。

 ルールがセオリーを作る。

 長所も短所も、ルールが作る。

 

 そして、人を知ること。

 人は人であることに縛られる。

 

 俺は、試合を通じてボクサーを学習していく。

 言動、挙動、その傾向を学んでいく。

 追い詰められたとき、どう動くか。

 チャンスと思ったとき、どう動くか。

 弱いパンチにどう反応する?

 強いパンチは?

 当てが外れたとき。

 

 1Rで終わらせるなんてもったいない。

 学ばせてくれ。

 じっくりと見せてくれ。

 俺に、ボクサーを教えてくれ。

 

 県大会から、俺はすべてフルラウンド戦ってきた。

 ボクシングをなめているわけじゃない。

 試合でしか得られない経験を、貪欲に吸収したいだけだ。

 弱い相手も。

 強い相手も。

 学ぶべきところがある。

 

 それが、勝負をなめているというのならそれでもいい。

 それをねじ伏せてでも、俺はあの場所へとたどり着く。

 主人公が待つあの場所へ。

 

 

 

 最終R、ポイントは俺がリードしている。

 連打で相手を防御させる。

 さあ、ジリ貧だ。

 どう打開しようとする?

 

 目の色が変わる。

 ガードを固めて突っ込んできた。

 

 そうか。

 お前もそうか。

 じゃあ、いいや。

 

 左のショートアッパーでアゴをかち上げ。

 緩んだガードの隙間に、右のパンチを叩き込む。

 

 インターハイを制したとき、俺の連打は『ショットガン』と呼ばれるようになっていた。

 

 

 

 

 

 夏休みが終わり、ボクシングなんて興味ないって顔をしてた女子生徒が寄ってきた。

 校舎にかかる垂れ幕のせいか、それともテレビのニュースのせいか。

 どちらでもいいが、現金だな、と苦笑したくなる。

 

 まあ……この連中が離れるような試合はできないってことだ。

 まずは勝つ。

 その上で、求められる何か。

 先は遠い。

 

 それでも、今の俺の後ろには……ほんの少し道ができただろうか。

 その道を延ばすためにも、次は国体だな。

 1年でインターハイを勝った以上、高校6冠が目標だ。

 

 しかし、選抜大会は……この時代はなかったのか?

 なんか、高校8冠が最大だった気がするが……。

 全日本アマ選手権って、高校生が出られなくなったのはいつからだったっけ?

 あんまり深く考えないほうがいいか。

 

 

 

 国体少年男子。

 

 2年のインターハイ。

 

 国体少年男子。

 

 3年のインターハイ。

 

 大きなグローブにヘッドギア。

 アマチュアの試合で、ダウンは多くない。

 だからこそ、観客の目を奪う。

 相手を倒せる選手には、注目が集まる。

 

 そして俺は、倒せる選手だ。

 

 マスコミには大口を叩いて話題を提供する。

 ファンの女の子にはリップサービスを。

 男性客には、興奮と熱狂を。

 

 原作の、速水龍一の気持ちがわかるような気がする。

 こうして見回しても、リングを見つめるのは、競技関係者ばかりだ。

 参加している選手と、応援に来ている部員や、教師を含めた保護者。

 一般のファンは、おそらく数える程度だろう。

 それらは熱心なファンであり、熱心なファンしかいないのが実情だ。

 

 どこか閉塞感さえ感じるこの世界を、外へと押し広げたいと思う。

 そのためには、話題だ。

 話題性だ。

 安っぽい言葉だが、スター性。

 それを求めたのが、速水龍一という男だ、きっと。

 

 甲子園の観客に及ぶはずもない。

 それでもだ。

 

 声を上げてくれ。

 拍手をしてくれ。

 俺を見てくれ。

 俺は。

 

 速水龍一だ。

 

『ショットガン』コールに包まれ、俺は決勝の相手をリングへと沈めた。

 

 

 

 

 音羽ジムの会長が声をかけてきた。

 まあ、最初に声をかけられたのは、1年の国体のときだったが。

 すでに、高校卒業後にお世話になることが決まっている。

 

 契約金は秘密。

 

「無敗の王者、速水龍一のプロデビューのプランのためにも、国体も勝ってくれ」

「デビューに関係なく、負けるつもりはないですよ」

「はははっ、本当なら今すぐにプロデビューさせたいところだがな」

「スポンサーの要求ですか?」

 

 俺の言葉に、音羽会長がにやりと笑う。

 野球もそうだったが、ボクシングもなかなかに闇が深いというお話だ。

 

 たとえば、俺が高校6冠を達成して、どこか地方のボクシングジムに所属したとしよう。

 まず、デビュー戦ができない。

 なぜかというと、ジムの指導者の立場になって考えてみてほしい。

 

 自分の教え子には勝ってほしいと思うのが普通だろう?

 

 つまり、普通は……勝ち目の薄い対戦相手とは試合を組ませない。

 強い自分に勝ち目があるのは、当然強い選手だ。

 じゃあ、その強い選手を、強い選手にぶつけたいと思うか?

 強い選手は、そのジムにとって金の卵だ。

 最初は、特にデビュー戦は、手ごろな相手をと思うのが普通だろう。

 でも、その手ごろな相手はこちらを敬遠する。

 強い選手にとって、前評判の高い選手にとって、手ごろな相手とは試合が組めないってことになる。

 どんなに強くても、1人で試合はできない。

 対戦相手が、うんと頷かなければ、試合はできない。

 試合を承諾してくれるボクサーは、何かわけありの選手に限られてくる。

 

 少し補足すると、プロボクサーが現役でいられる期間は短い。

 そして、負けたボクサーは出場停止期間が設けられ、しばらく試合を行うことができなくなる。

 不幸な事故を減らすためのルールだが、負けるということはそれだけ現役でいられる期間が削られることを意味する。

 強い選手を負けさせる、そのリスクは一般人が思っているよりも重いものだ。

 

 じゃあ、どうするかって言うと、最後は金だ。

 高額のファイトマネーを提示して、転んでくる選手を探すのだが、今の日本ではそういう選手は希少種だ。

 そして、最後の最後の手段が、金で、海外から相手を引っ張ってくるというものだ。

 これは、ファイトマネーに加えて、渡航費用と宿泊費なども負担する必要がある。

 もちろんそこに至るまでの交渉にかかる費用を含めればさらに金額は跳ね上がる。

 

 ちなみに、日本のC級ボクサーのファイトマネーが数万円という相場だ。

 それだけで、海外から人を呼ぶという行為がどれほど割に合わないか理解できると思う。

 しかし、そうしないと試合が組めないのならそうするしかない。

 対戦相手が外人ばっかりという戦歴の裏には、日本人の相手が見つからないからというケースもある。

 

 さて、地方の弱小ジムにそんなことができるかと言うと、金銭面や人脈の上でも不可能だ。

 ほかにもいろんな要素があるが、アマチュアで結果を残した選手は、有力ジムに所属するしかないというのが実情のようだ。

 あるいは、途中で有力ジムに移籍する、とか。

 

 俺は、まだプロライセンスも持っていないのに、すでにデビュー戦の相手を海外で物色しているそうだ。

 スポンサーであるテレビ局が、デビュー戦から追いかけることも決まっている。

 ボクシングの試合というより、『速水龍一』という商品を売り出すためのプロジェクトだ。

 それが、水面下で始動している状態。

 

 負けるわけにはいかない。

 俺が負けたら、すべてがパーになる。

 

 

 ……うん。

 

 これ、原作どおりなんだよね?

 こんな重圧の中で、速水龍一は戦ってたんだよね?

 

 ははは、燃えるぜ。(白目)

 

 

 

 そして俺は、高校最後の国体も制して、高校6冠を達成した。

 公式戦は、41戦41勝、無敗。

 

 原作が、ようやく見えてきた。

 




とりあえず、次話の更新は未定。

7月になれば、ネカフェに寄れる機会が増えるとは思うんですが、わかりません。







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