あと、伏線とはいえいやな部分だけリアルにしていくスタイル。(震え声)
03:デビューの裏で。
卒業式より先に、音羽ジムに通える場所に引っ越した。
もちろん、独り暮らしだ。
そして、お世話になる就職先への挨拶。
引越し先の保証人から全部、音羽ジムの会長が引き受けてくれたことだ。
引越しの様子とか、就職先への挨拶とか、テレビカメラが回ってたけどな。(震え声)
決められたレールの上を走りたくないなどと、ロックなことを言える雰囲気じゃない。
というか、本音を言うとすごく楽。
主体性がないなどといわないでほしい。
やるべきことが決まっている。
それが、どれだけ恵まれた環境であるかはいうまでもない。
まあ、いくらカメラを回そうと、その映像が日の目を見るかどうかはすべて俺次第だ。
負ければ、当然パーになる。
テレビの番組なんてそんなものだろうと思うことにした。
さて、本当なら、3月にもデビュー戦というスケジュールだったんだが、何かの事情で流れた。
なので、新しい仕事や生活に慣れつつ、俺はじっくりと音羽ジムで汗を流す日々が続いた。
アマチュアでの経験は多いが、ある意味で楽な試合が多すぎた。
身体も、心も、極限状態での戦いを経験していないのはマイナスだ。
俺の提案に、会長が頷いてくれる。
スパーの相手に困らないのはうれしいが、デビュー前の新人に、A級ボクサーを連れてくるのはいいんだろうか?
戸惑ったが、これは会長の判断が正しかった。
普通に戦える。
そういえば、板垣のライバルの今井も、日本王者の一歩にスパーを頼んでたっけ。
まあ、A級ボクサーもピンキリだが。
慣れてくると、自分自身に追い込みをかけていく。
マスクをつけたままダッシュを繰り返し、呼吸が整わない状態でそのままスパー。
疲労と、酸素不足で思考能力が鈍った状態で戦う。
足が動かない状態、手があがらない状態。
相手の攻撃をいなし、回復するための手段、テクニック。
学習し、慣れ、乗り越えていく。
夏になり、ようやくデビュー戦の相手が決まった。
試合は10月。
正直、待たされたという気分。
でも、原作世界の裏を知ってちょっと興奮した。
俺の場合、アマの実績を加味してB級からスタートすることも可能だったのに、その話がいったん流れて……1年あけてC級からスタートで、新人王ルートを選択することになった。
なぜかと言うと、伊達英二の復帰があったから。
引退からの復帰、そして鮮やかな勝利。
前回の世界挑戦の縁もあってか、世界再挑戦プランがテレビ局のほうで企画にあがったからだ。
まあ、俺と同じフェザー級だからね。
企画がぶつかっちゃったわけだ。
そのしわ寄せが、俺のデビュー戦を含めたスケジュールにやってきたと。
つまり、伊達英二が世界に挑戦するために日本チャンピオンを返上、空いた王座に俺が挑戦する(もちろん、俺がひとつ負ければパー)というスケジュールを組みなおされたわけだ。
原作における、主人公の一歩が、伊達英二に挑戦して……あれは、本来なら余分な試合だったといえる。
返上された王座を、ランキング1位の選手と2位の選手と争う……そこに、主人公の一歩ではなく『速水龍一』が入るというのが、現状における企画のスケジュールになる。
仮に、伊達英二が復帰していなければ……俺は、B級ライセンスを取得し、3月にデビュー戦を行って6回戦からキャリアを開始していたことになるんだろう。
デビュー戦が流れたのは、6回戦デビューの予定が、4回戦デビューになったかららしい。
まあ、世界王者に挑戦するってのはきれいごとだけじゃすまない。
年に2試合しか試合をしない王者なら、2年前からのスケジュールの調整が必要になるし、話を進めても王者が交代すれば全部パーだ。
世界タイトルを日本でやろうとしたら、相手選手のファイトマネーはもちろん、会場の手配やらその他を、主宰のジムがやらなきゃいけない。
その金銭面の負担や、会場手配のノウハウを持っているのがスポンサーのテレビ局。
つまり、原作で一歩が伊達英二に勝ってたら……スポンサーは頭を抱えてただろうね。
主人公らしいと言えば主人公らしいけど、俺と伊達英二の企画を二つまとめてぶっ潰したことになってただろうから。
おそらくあの試合は、伊達英二のわがままから来たものだろうし。
うん、まあ、終わったことというか、決まったことだ。
俺は、勝って前に進むしかない。
少なくとも俺は恵まれている。
10月。
俺の、速水龍一のデビュー戦。
タイから呼んだ選手だ。
正直、戦績なんてあてにならないが、3戦して3勝らしい。
「……」
テレビ局のクルーが何か言ってるが無視した。
リングのこの位置で、右で倒してくださいとかふざけるなって話だ。
リングの上は、ボクサーの場所だ。
リングに上がって最初に思ったのは、『深い』という言葉だった。
すり鉢状の、深い底。
原作で使われた『海の底』という表現が、俺の中でうまくかみ合った気がした。
ここが、後楽園ホールか。
観客ではなく、選手として感じる舞台。
アマチュアの会場とは大違いだった。
確か、満員で3000人収容だったか。
どの席からもリングが良く見えそうだ。
「「「速水くーん!」」」
黄色い声援に、手を振って応えておく。
最初の印象はともかく、今ではその応援がありがたいと思える。
俺を見るために、俺のボクシングの試合を見るために、時間と金を費やして、この後楽園ホールに足を運んでくれたファンの女性。
彼女たちが抱いているのが幻想だったとしても、その存在は、俺が歩んできたことによってできた道の一部だ。
まあ、努力するのは当たり前だ。
そして、努力を感じさせないのが、プロか。
ファンに夢を抱かせるのが、スターか。
俺の、速水龍一の道を、また一歩。
まあ、勝つことだ。
そして、何かを積み上げる。
「ローブローとバッティングには注意して……」
レフェリーの言葉、相手に通じてるのかね。
さり気なく、相手の目を見る。
……狙ってそうだな。
目は口ほどにものを言う、か。
曲者っぽい雰囲気がある。
開始のゴング。
お互い手を伸ばして、挨拶のようなもの……からの、強襲か。
振りがでかい。
雑というより、威嚇かな、これは。
まあ、俺がデビュー戦という情報ぐらいはあるだろうし。
軽くかわして後ろに退き、左へ、左へと回る。
目を見る。
足を見る。
呼吸を読む。
飛び込んできたところに、左のフックを引っ掛ける。
うん、いける。
いつもどおり。
観察。
気を抜いたと見たら、速くて弱いパンチを飛ばしておく。
様子を見ながら、餌をまいていく。
自分にできることは相手にもできる。
それは全力か?
三味線をひいてないか?
手に入れた情報を、経験に照らし合わせて、戦略をくみ上げていく。
静かに、1Rを終えた。
「いけると思ったら、決めていいぞ」
「どうですかね。相手次第ですよ」
会長と言葉を交わし、2Rへ。
ん?
遠い間合いで……足を止めた?
体当たりのような右を、巻き込まれるのを嫌って大きく避けた……が、それも計算のうちだったようだ。
大きく広げた左腕に腰をつかまれた。
乱暴に引き寄せられ、胸に肩を押し付けられた体勢で、コーナーへ持っていかれる。
やられた。
アマチュアではめったに味わえない、ラフファイトってやつだ。
上等!
肩を、頭を、押し付けながら、くっついてガチャガチャの打ち合いを望む相手の攻撃をさばきながら、冷静に見る。
もみ合うような十数秒。
右の大振りに合わせて、左のショートアッパーで突き上げた。
はね上がった顔面に、右の軽い連打を3発入れて突き放す。
そして、俺はコーナーから脱出せずに、両手を広げて誘った。
「速水ッ!ムキになるなっ!」
ここでムキにならずして、男の子とは言えんでしょ。
体重を乗せたパンチと言うのは簡単だが、実行するのは難しい。
最も簡単で、最も威力のある攻撃は、体当たりと言われているぐらいだ。
肩、腕、肘、手首を固定して、運動エネルギーをそのまま乗せるイメージ。
でも、それをパンチへと昇華させて、ようやくボクサーを名乗れる。
後はタイミング。
相手の飛び込み。
そして、パンチを伸ばして腹筋が緩む瞬間を予測。
踏み込み、体重移動、腰の回転……拳を突く。
深い手応え。
相手の動きが止まって、俺は見せ付けるようにして悠々とコーナーから脱出。
まあ、一種の挑発だ。
頭に血が上ると……回復してすぐに、こんな風に、無防備に振り返る。
顔面に、右の連打。
そして左フックが、アゴに入った。
一瞬、棒立ちになる。
そこをもう一度、アッパーでカチ上げ、右をボディに叩き込む。
相手の身体が折れる、が、すぐに顔を上げて俺を見た。
容赦せず、左右の連打をうちこむと、相手がリングにうずくまった。
「速水、お前そのすぐムキになる癖をどうにかしろ!」
もちろん、テレビカメラが回ってます。(目逸らし)
この場面で、俺は素直に頷けばいいのか、それとも大口を叩けばいいのか。
演技指導はないんですか?
まあ、何はともあれこれで新人王戦にエントリーする資格を手に入れた。
あと、本当は前渡しだったけどファイトマネーの件。
どこのジムも大体、3分の1をジムがとり、3分の2が選手にって感じだ。
まあ、全部チケットで渡されるけどね……その売り上げが、ファイトマネーになる。
知り合いや、職場の人に配ったから手取り0だけどね。
ボクシング、盛り上げなきゃ。
知人や友人に、それもさほどボクシングに興味のない人間に『チケットを売る』っていうのも、ハードルが高いと思う。
前世で、趣味でバンドやってる知人にライブのチケットを買わされて、もやっとした気分になったことがあるから、余計に強制はしたくない。
なので、『興味があればどうぞ』と、俺は配るだけにした。
俺がいい試合をして、『また試合を見たい』と思えば、次は買ってくれるかもしれない。
ボクシングと同じだ。
これもまた積み重ねだろう。
まあ……全部売っても、4万円ぐらいなんだけど。
何度でも言う。
ボクシング、盛り上げなきゃ。(使命感)
「……まいったな」
「どうかしたんですか?」
音羽会長が、俺を見た。
「新人王戦が始まるのは6月頃だから、最低でも2月にもう1試合やりたいが……対戦相手が見つからん」
ああ、なるほど。
ん?
そういえば、宮田や間柴がデビューする頃じゃないのか?
宮田はともかく、間柴なら受けてくれそうだが……下手にKO負けすると3~4ヶ月試合に出られなくなって、新人王戦は棄権することになる。
まあ、成立しないな。
逆を言えば、相手を棄権させられるチャンスだが……そんな勝手が通るはずもない。
「仕方ない……また海外から呼ぶか」
事情を知らない人間は、金で海外からかませ犬を連れてきた結果の、上げ底戦績とか言うんだろうな。
「何か、希望はあるか?」
「できれば、メキシコの選手を」
「ほう?」
「俺の目標は、リカルド・マルチネスですからね」
会長が笑う。
「……メキシカンの4回戦は、日本の6回戦以上に相当するといわれている。油断するなよ」
この人、選手をのせるのうまいよなあ。
言葉ではなく、態度で、なんだけど。
負ければ全部パーになりかねないのに、試合を組んでくれようとしてくれる。
まあ、ここで負けるようなら話にならない、か。
宮田の試合を、間柴の試合を、見た。
強い、そして怖い。
戦うなら、宮田だ。
ある意味、ボクサーとして洗練されているだけに、予想が立てやすい。
アマチュアの経験をそのまま活かせる気がするし、俺にとってはやりやすい相手といえる。
間柴は、その……勝てるとは思う。
技術的には甘いし、ボクシングなら勝てる。
でも、ボクシング以外の部分が怖い。
そして、幕之内一歩のデビュー戦を見た。
いい試合だ。
人気が出るのがわかる。
技術云々の話ではなく、人をひきつける試合。
今なら勝てる。
話にならないぐらい差がある。
それでも、じわりと汗がにじむ。
あれが、幕之内一歩か。
1試合1試合、別人のように進化していく
無意識に、アゴを撫でていた。
指先がかすかに震えているのがわかる。
アゴを壊されると聞くと、『アゴの骨が砕ける』ことを連想する人がほとんどだろうし、前世の俺もそうだったが、医者の知人が教えてくれた。
あの原作を読む限りでは、また『アゴがバカになっている』という表現からも、アゴの骨の噛みあわせがずれた、あるいは緩んで戻らなくなった状態だろうと。
正直、ピンとこなかったが、『ドアの蝶番のネジが緩んだイメージ』に近いらしい。
つまり、しっかりと骨が固定されていないところに衝撃を受けると、がたつくために、大きく、そして一度の衝撃で何度も脳が揺れる。
そして、ドアの開閉を繰り返すことでだんだんとドアの蝶番が壊れていくように、アゴもだんだん『バカ』になっていく。
そして何よりも、アゴへの衝撃で脳が揺れることを、身体と、精神が覚えてしまう。
ほんの少しの衝撃で……精神が、身体が、楽になろうとしてしまう。
原作の速水龍一のケースは、身体よりも、精神的なトラウマを起因とする、パンチドランカーと判断されるとか。
まあ、下手をするとそれが俺の末路なんだが。(震え声)
息を吐く。
拳を握りこむ。
覚悟を決めていく。
リングを降りた幕之内一歩が、俺のそばを通り過ぎていく際、ちらりと、鴨川会長が俺を見たような気がした。
2月。
メキシカンのパンチが伸びるとは聞いていた。
厄介なことに使い分けてくる。
普通のパンチ。
そして、目標を打ち抜くようなパンチ。
その瞬間、肩を入れてくるぶんだけリーチが伸びる。
あるいは、手首をねじりこんでくる。
パンチの一つ一つに、意味があり、距離感を狂わせようとしてくる。
強敵だ。
いや、これが世界では当たり前の水準なのか。
はは、日本でどうこう言ってる場合じゃないな、これは。
ジャブの応酬。
観客席が静まり返る。
拳が鋭い。
ジークンドーで言うところの、縦拳も混ざる。
グローブを縦に横に、そして斜めに変化させ、ガードをすり抜けてくる。
参考になる。
俺の知らない技術、知らない世界。
目がくらんだ。
ジャブとはいえ、こんなに綺麗にもらったのは久しぶりだ。
押し返す。
ムキになっているわけではなく、ここが勝負どころ。
ステップを刻み、上体をゆすって的を絞らせない。
クリーンヒットはあの1発のみ。
ポイントはとられたな。
「おい、大丈夫か?」
「……強いですね」
「正直、想定外だ……無名の選手って聞いてたってのに」
「まあ、なんとかしますよ。会長が高い金を払って呼んでくれた相手ですし」
なんとかする。
勝たなければ前へと進めない。
少し、防御に意識をシフト。
相手のジャブを叩き落していく。
あるいは、こちらのグローブで押さえていく。
ガードも、ポイントをずらして受ける。
とにかく、気分良く打たせないことを重視した。
いつもと同じパンチなのに、感触が違うと感じるはずだ。
違和感はいら立ちに変わっていく。
人は冷静さを失うと得意なパターンを頼りがちになる。
単調さが芽生える。
俺も、気をつけないとな。
タイミングを合わせ、頭を下げながら踏み込む。
ボディではなく、わき腹の上に右を入れた。
パンチを打つとき、脇の下の筋肉が弛緩する。
アマチュアではポイントにならない部位だが、カウンターで入れるとダメージが入る。
そして、このパンチにはもうひとつ意味がある。
2発で、相手の左ジャブが鈍り始めた。
ローキックで足が動かなくなるのと同じ。
筋肉にダメージを与える技術だ。
もちろん、精神的なものも含めて。
2Rの残りを全部使って、相手の左を殺しにいった。
「会長、なんとかなりそうです」
「……えぐいこともできるんだな、お前」
「アマチュア時代、色々試しましたからね」
「はは、頼もしいな……まあ、決めてこい」
「そのつもりです」
3R。
コーナーから出てきた相手の表情が良くない。
ここからは俺の番だ。
ここでようやくギアを上げる。
ステップを刻む。
細かく、速く。
1歩ですむところを、2歩、3歩と。
体重移動。
もちろん、虚実を交えて。
主導権を完全に奪う。
1発。
軽いパンチを2発放り込み、距離をとる。
反撃をいなして、また軽いパンチを放り込む。
ガードを固めた瞬間、ショートアッパーでアゴをかちあげる。
後ろに退いた。
逃がさねえよ。
踏み込み、上、下、横と、ガードを空けた場所に次々と放り込む。
軽いパンチを、相手の反撃に合わせて、叩き込む。
手を出したらやられるという、強迫観念を心に刷り込んでいく。
そうすると、手が出なくなる。
後ろへ、後ろへ。
それを誘導し、コーナーへと追い詰める。
左右の連打。
亀のように閉じこもる……そんな相手には慣れっこだ。
ガードの隙間。
そして、上にパンチを集めて、ガードを上げさせる。
ガードを抜けてアゴをとらえる俺の左。
かくんと、ひざが折れた相手に、容赦なく右を打ち下ろして勝負を決めた。
「いい試合だったね」
「いい相手でしたからね」
俺の言葉に苦笑するのは、原作でもおなじみ藤井さんだ。
音羽ジムに所属するときに、初めて顔を合わせた。
「4回戦の試合じゃなかったよ。6回戦、いや8回戦でも通じる内容だったと思う」
「メキシコの、いや、世界のボクサーのレベルが高いってことでしょうね」
「……否定しづらいな」
この世界のこの時代、日本には世界チャンピオンがいない状態が続いている。
鴨川ジムの『あの人』は、まだその手を世界には届かせていない。
藤井さんと言葉を交わす。
取材というより雑談のようなもの。
「でもまあ、久しぶりに『勝った』と思える試合でしたよ。お客さんも喜んでくれましたし」
「……客の反応を心配するのは、ボクサーの仕事じゃないぜ」
口調こそ柔らかいが、藤井さんの目が笑っていない。
「じゃあ、誰の仕事ですか?」
「それは……」
「いいものは黙っていても売れる……って言うのは甘えですよ。いい試合をした、お客さんが喜んでくれた。でも、まずは見てもらえないことには始まらない」
みなまでは言わない。
言う必要もない。
ボクシング雑誌の記者である藤井さんには、このあたりの事情は釈迦に説法ってやつだ。
「ボクシングを盛り上げたい、と?」
「誰もやらないなら……俺がやりますよ。そして、周囲がそれを利用してくれれば、俺もまたそれを利用できる」
「新人王、期待してるよ」
最後にそういい残して、藤井さんは去った。
そして俺は、練習に取り掛かる。
最近俺は、また夢を見始めている。
主人公に、幕之内一歩にぶっ飛ばされる夢を。
リバーブロー。
ガゼルパンチ。
デンプシーロール。
まだ、一歩が手に入れていないはずのパンチで、何度も何度も倒される夢を。
応戦し、反撃もするが、いつもねじ伏せられて、最後はぶっ飛ばされる。
その繰り返しだ。
まあ、幕之内対策のための、リアルなスパーと思えば、うん。(震え声)
拳を握りこみ、ステップを刻む。
『ショットガン』の進化系。
手数を増やそうとすると、パンチは軽くなる。
なので俺は、ステップを増やすことにした。
1歩ですむところを、2歩、3歩。
ステップの数だけ、重いパンチが打てる。
ただ、やはり手数そのものは減ってしまう。
状況に応じて、使い分けるしかない。
緩急、そして強弱。
新人王戦は、もうすぐだ。
原作の、あの場所。
幕之内との勝負。
サンドバッグを揺らす。
揺らし続ける。
右へ、左へ移動しながら、連打を放ち続ける。
悪夢を振り払うように。
初期の原作を読み直すと、なんか色々間違って覚えている自分に気づいたりします。