人形使いと高校生   作:ツナマヨ

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遅くなってしまい、申し訳ありません。

お気に入り登録が百件を超えました。
このような小説を読んで下さり有難うございます。

それと今回も独自設定のオンパレードです、苦手な人はブラウザバックを。
それでは第十話始まります。


四日目 夜 俺はノーマルだ!!

 ふと、いつかのようにマンションの前から、自分の住んでいる部屋を見上げると、こちらをジッと見つめる、小さな人形と目があった。

 

――ブンブン

 

「……………………」

 

 目が合い嬉しそうに手を振り回す上海とは裏腹に、俺は固まった。驚きのあまり声を出せず、口をパクパクと酸素を求める金魚のように動かす事しか出来ない。視覚から入った情報を受け入れる事が出来ず、フリーズしようとしている脳をなんとか動かし、現状を把握することに努める。長年放置されたロボットが、錆び付いた首から音を立てながら動かすような動きで周りを見渡す。幸いなことに周囲に人は見当たらず、今も首をかしげながら、全力で手を振る小さな人形という怪奇現象を目撃した人はいないようだ。

 

 一先ず安堵の息を吐く。もしもこの光景を見られていたら、誤魔化すのは大変だっただろう。

 

 何時までこの幸運が続くかわからないので、上海には早く引っ込んでもらおう。もう一度周囲に人が居ないのを確認してから、上海に向けて犬を追い払うように手を振った。

 

――ブンッブンッ

 

 どうやら俺のハンドシグナルは通じなかったようだ。手を振り返してもらえたのが嬉しかったらしく、先ほどよりも力強く手を振っている。小さな体を目一杯動かし、ピョンッピョンッと飛び跳ねながら手を振る姿は可愛らしく、自分の置かれている状況を少しの間とはいえ忘れてしまうほどだった。

 

 何をやっても通じなさそうなので、上に上がることにする。ドアを潜る前にもう一度だけ上海に手を振り、反応を見る前にマンションの中に入った。

 

 エレベーターに乗り込み五階のボタンを押す、動き出したエレベーターの浮遊感を感じながら、カバンから鍵を取り出した。少ししてからエレベーターが止まる、扉が開くのと同時に外に出て、そのまま左端にある自分の部屋の前へ行き、そのまま出しておいた鍵を鍵穴に差し込み回すと、ガチャッと音を起て鍵が開いた。

 

 もう片方の鍵を開き、ドアを開け声を出す。

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい」

 

――フリフリ

 

 間髪いれずに返ってきた声に上海が報せたんだなと、確信を持った。

 

 俺の帰りを待って居てくれたのは嬉しいが、少し上を見上げれば見える窓のそばで動いたことは怒らなければならない。何しろその姿を見られたら非常に困る。一度見られたら色々な事が終わってしまうのだ。見られたのが一人だけならば、まだ誤魔化せるがそれが二人、三人と増えるともう誤魔化せない。噂が噂を呼び、人が集まる。ここら辺の人はそういった話に敏感なので、見つかるのも時間の問題だ。その後の事はどうなるが判らないが、この心地のいい日常は失われてしまうだろう。それは嫌だ。例え何時か別れる日が来るだろうが、他人の手で無理矢理引き剥がされるなんてことは許せない。そうなりたくないので、ここは心を鬼にして上海を叱りつける。

 

 リビングに移動し椅子に座った。いつもならすぐに自分の部屋に行き、着替えてから出てくるのだが今日は制服のまま座る。そんな俺の行動を疑問に思ったのか、アリスと上海はどこにも行かずリビングに残った。

 

「なあ上海、俺が帰ってくるのを、待っていてくれることは嬉しいんだけどな、外から見える場所で動くのはやめてほしい。上海が一人で動いてる所を見られたら大変なことになるんだ」

 

――シュンッ

 

 俺の言葉を聞き、項垂れる上海の姿に罪悪感が湧き上がってくるが、それを無視して続く言葉を発しようとした所で、俺の口を遮るように突き出されたアリスの手によって、妨げられた。

 

「ごめんなさい、あなたに言ってなかったわね」

 

 俺は首をかしげた。何のことだ?

 

「上海と私にはある程度認識を阻害する魔法が掛けられているの」

 

「認識を……阻害?」

 

 そうなるとアリスと上海は、人に見られても大丈夫なのか?

 

「ええ、この魔法を掛けている間は人に見られても、認識されにくくなるし、記憶にも残りづらくなるの。だからたとえ見られても数分後には忘れてしまうわ」

 

 じゃあアリスは外に出れるんじゃないのか?今までは近所の人たちの目に映ると困るから外に出せなかったが、この魔法があればその問題は解決する。

 

「駄目ね、この魔法には二つ欠点があるわ。一つは何度も姿を見られると、効力が落ちて最終的には効かなくなること。もう一つはカメラには写ってしまう事よ、そうなると魔法の効果が及ばず、完全に認識されてしまうわ。あなたが言うには、ここにはいたる所にカメラがあるらしいから」

 

 そんなことを思いつき、アリスに言ってみたが駄目みたいだ。そしてまた、気になる事が出来たので聞いてみることにする。

 

「なあ、アリス。その魔法は魔力を多く使うんじゃないのか?聞いてみると、他人の五感に働きかける魔法みたいだし、ずっと発動していないといけない魔法だ」

 

 相手に認識されにくくするのは、視覚に働きかけているからだと思う。仮説だがアリスの魔力が相手の視覚から得られる情報をずらし、意図的にアリスがいる場所に焦点を作る。細かいことは抜きで考えるとそうなる。自分の考えを伝えてみた。

 

「惜しいわね。確かにそんな魔法もあるのだけれど、私が使っているのは別の魔法よ、それと使っている魔力は少ないわ」

 

「どんな魔法なんだ?」

 

 カバンからノートとペンを出す。これから聞く事と、さっきまでの考えを書き記すためだ。

 

「私が使っている魔法は一種の結界よ。それで私が持つ魔力や気配を小さく纏めているの。人間や妖怪は意識しないで出ている力を無意識に感じ取ることで、様々な事を知覚しているわ。その力を結界によって閉じ込める事によって認識されにくくするの」

 

 メモをとる、多分、この先使わないような事ばかりだけれど、それでも自分の興味のある事柄について知識を深めるのは楽しい。

 

「使っている魔力が少ないのは、自分にかける魔法だからという事と、単純に結界を薄く張っているからよ」

 

「そんな結界で大丈夫なのか?」

 

 自分にかける魔法と、他人にかける魔法の違いは、この前に渡された本の中に書いてあった。なんでも抵抗の違いがあるみたいだ、自分の力にとって他の人の力は異物に等しいらしい。異物が自分に加われば体は抵抗する、その時に相手の力を上回るために力を使うみたいだ。

 

「大丈夫よ。どれだけ薄い壁でも力を加えなければ、壊れないもの」

 

 なるほど、逆に考えると力を加えればすぐに壊れるのだから、とっさの時でも困らないわけか。

 

「大体はわかった。最後に一つ、どうやってその結界を維持しているんだ?」

 

 テレビで見るような結界は御札などを貼っていたが、今のアリスにはそれらしきものが見当たらない。ならばどうやっているのか気になる。

 

「ここにあるわ」

 

 そうやってアリスは手の甲を見せる、そこには魔法陣が浮かび上がっていた。今までそんなものは見たことがない、アリスの話では少し前から発動していたみたいなので、俺がアリスの手を見た時に気付くはずだ。

 

「なんで今は見えるんだ?」

 

「そうね……………………あなた、渡した魔道書は読み終えた?」

 

 唐突な質問に首をかしげる、本の進行速度と何が関係あるんだ?

 

「後、三日ぐらいで読み終わる」

 

 疑問を抱えながら質問に答えた。残りのページ数と今までの進行度合いを比べると、三日は掛かると思う。

 

「それなら次の課題は、この魔法陣の意味を読み取ること、確かカメラを持っていたわよね、それで撮影しておきなさい」

 

 携帯を出し、アリスの手を撮る、ついでにアリスと上海を撮った。

 

「まあ、いいわ。意味を訳し終えたら見せに来なさい」

 

「分かった」

 

 カチカチと携帯を操作しながら返事をする。パスワードを設定し終えたところで顔を上げた。

 

「上海」

 

 アリスの話が終わったので上海を呼ぶ。

 

「さっきはゴメンな、知らなかったとは言えきつく言い過ぎた」

 

――フルフル

 

 すぐ近くにいた上海に謝ると上海は気にするなと言わんばかりに頭を振った。

 

「ありがとう」

 

 笑みを浮かべ上海の頭を人差し指で撫でた。

 

「……………………」

 

 静かになったアリスが気になり横を見てみると、先ほどよりも離れた位置で、冷たい視線を向けていた。

 

「な、なんだよ」

 

 思わず言葉につまる。

 

「あなたってそういう趣味なの?」

 

 言われた言葉に少しフリーズ、人差し指を上海の上に置いたまま固まった。

 

――?? グイッグイッ

 

 動きの止まった俺の指に上海が頭をグリグリと押し付ける。慌てて指を動かす俺、それを見てますます冷たくなる目線、そして固まる俺。そのやりとりが何回か続き、ようやく動き出した思考で言い訳を、三十分ほど述べたところでようやく誤解が解けた。




先の展開ばっか浮かんで来て、なかなか進まない。

次回こそは、もうちょっと早く更新できるよう頑張ります。

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