人形使いと高校生   作:ツナマヨ

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三交代舐めてました。
辛い、何が辛いって一週間ごとに変わる勤務時間と生活リズムの崩れが辛い。
唯一の癒しは通勤電車で見るアリスの動画ぐらいです。
休みも日曜日しか無いときもありますしねぇ。

休日の日にはひたすら寝るかアリスを見るか料理をするかアリスを愛でるかアリスに萌えるかしかしていません。

踊っているアリスが可愛すぎて生きるのが辛い。


六日目 深夜 眠れない夜

 部屋を適度な明るさで照らす蛍光灯を見上げ、一つため息を吐いた。

 

 なんだろうなこの状況。

 

 壁を背にベッドに力なく座り込む俺の前には、お粥が乗ったお盆が置かれている。

 治したとはいえ内臓に傷がついていた俺のためにアリスが作ってくれたものだ。

 それはいい、むしろ感謝する事だ。間違っても諦観し、現実逃避気味に何かを思考する事ではない。

 それなら何が俺を追い詰めているのか、パターン化してきた俺の日常、わかる人にはわかるだろう。

毎度毎度俺の羞恥心を掻き立てるイベントだ。

 

 宙へ彷徨わせていた視線を再び前に向ける。

 そこには数秒前と変わらない態勢で、俺の口元に上海がお粥を差し出している。

 もう一度言おう。

 上海がお粥を差し出している。

 その後ろにはアリスが無言、無表情でこちらを見ており、人形のような容姿と合わせ、どことなく不気味さを感じさせる雰囲気を漂わせていた。

 が、俺にはわかっている。あれは笑いを堪えているときのアリスだ、証拠に目が笑っている。

時折、微笑ましい光景を見るように目を和らげるが、それは上海を見るときだけで、俺を見るときは面白げに目を細めている。

 そんなアリスの視線に羞恥心が掻き乱され、思わず顔を逸らす。

 

 しかし、上海にまわりこまれた!!

 

 どうしても俺に食べさせたいらしい。

 俺の動きに合わせ、常にスプーンが口元に来るように計算された動きには執念すら感じさせる。

 食べるしかないのかな?

 そんな諦めにも似た考えが頭を埋め尽くした。

 

「上海がかわいそうよ」

 

 --うるうる

 

 なんでだろう?

 上海の眼に決して出るはずの無い涙が見えた。

 それが罪悪感が見せた幻だとしても、一度認識してしまえばもうダメだ。俺には上海が涙目でスプーンを差し出している様にしか見えない。

 そんな上海を無視する事が出来るだろうか?いや、出来ない。

 ゆっくりと口を開ける。

 今まで待たせていた分のお詫びだ。

 

「上海、あーん」

 

 上海はくるくると宙を舞い、とても喜んでいる。

 その反応を見る事が出来ただけで俺は満足だ。視界に堪えきれずに笑うアリスが映っていようが後悔は無い。

 笑うアリスを恨みがまし…………澄んだ瞳で見つめていると、上海が本来の目的を思い出したのか宙を舞うのをやめ、スプーンをしっかり持ちこちらへ向けた。

 アリスに向けていた視線を上海にしっかりと合わせ、食べさせやすいように口をさらに大きく開ける。

 待ってましたと言わんばかりに前傾姿勢を取る上海。

 

「え?……ちょっとまっぐふぉ!!」

 

 嫌な予感を感じ止めようとしたが遅かったようだ。

 制止の声は俺の脳内で響いただけで、声にならなかったのかと勘違いしてしまうほどに迷いの無い突進だった。

 凄まじい倦怠感を感じていた体が、反射により前かがみになる。

 幸いなことに嘔吐することは無かったが、咳と涙が止まらない。

 飛び散ったお粥と何も乗っていないスプーンが歪んだ視界に映る。

 

 しばらくの間咳き込んでいると、背中に手が添えられるのを感じた。

 一定のペースで撫でる手は温かく、俺の咳も次第に落ち着いていく。

 昔、似たような事があったっけな。

 いつだったか忘れたけど、泣きじゃくる俺を抱きながら、母さんが背中を撫でてくれていた覚えがある。

あの時俺は何で泣いていたんだっけ?

 全く思い出せない。だけど、あの時母さんが俺に何度も言い聞かせていた言葉だけは思い出せた。

お前は普通だと、言い聞かせるかのように。そして何かに祈るように語りかけていて、そして俺はそれに泣きながらも頷いていた。

 

 そんな昔の事を思い出していると、背中に感じていた温もりが唐突になくなった。

 

「また考え事?」

 

 その声に伏せていた顔を上げると、何処と無く呆れている様子のアリスが居た。

 

「考え事する時にボーッとする癖、直した方がいいんじゃない?」

 

 そんなにボーッとしてただろうか?

 

「ええ、まるでヤドンの様だったわ」

 

 昨日映画に出ていたピンク色のあいつを思い出し、軽くへこむ。

 いや、だいぶへこんだ。顔が再び下を向くくらいには。

 これからは気をつけよう。本気でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、落ち込む上海を励ましながら食事を終え、ベッドの上で本を読みながら時間を潰していると、アリスが訪ねてきた。

 

「上海が自立に至ったわ」

 

「へっ?」

 

 部屋に入るなり告げられた報告に、頭が真っ白になる。

 しかし、じわじわと言葉の内容が浸透していくにつれ、俺の顔には笑みが広がっていった。

 

「やったなアリス!」

 

 いつだったか、アリスが言っていた研究のテーマ、アリスの目標である自立人形が出来た事を自分のことの様に喜ぶ。

 しかし、肝心のアリスはどこか浮かない顔をしていた。

 

「嬉しくないのか?」

 

「上海が自立したのは嬉しいわ。けど……」

 

「けど?」

 

 アリスは目線を下に向け、両手を組み合わせた。

 元々白いアリスの指先が、さらに白くなっているその様子に少し驚いた。

 

「本当は私一人で成し遂げたかった」

 

「……………………」

 

 ポツリと呟かれたその言葉に俺は何も言えない。

 きっと俺がきっかけで上海は自立したのだろう。

 なら俺が何を言っても逆効果でしかなく、ただ黙ってアリスが気持ちを整理するまで待つしかない。

 

「ごめんなさい」

 

 べつに気にしなくてもいいという意図を込めて首を振る。

 アリスはありがとうと小さく呟き、それをはっきりと聞き取る事が出来た俺は、今までの空気を切り変えるためにパンッと手を叩いた。

 

「何で上海が自立したと分かったんだ?」

 

「上海が自力で魔力を生みだし、私が組んだ魔法を発動させて動いているのよ」

 

 思った以上に自立していた。

 

「そうなった原因は?俺は何をしたんだ?」

 

「気づいてたのね」

 

 俺が何かをしたのは判る。

 さっきの呟きと、この世界に来てから上海が変わり始めた事を知っていればすぐに導ける答えだ。

 だが俺が何をしたのかは自分でもわからない。

 アリスには解らないのか?

 

「解らないわ…………ただ、今日あなたが怪我したことと関係があると思うの」

 

「けど、俺の怪我の事もわからなかった」

 

「ええ」

 

「じゃあ一先ずこの事は置いておこう」

 

「えっ?」

 

 キョトンとするアリスが可笑しくて少し笑ってしまった。

 

「今は何もわからないんだろ?何で俺が怪我をしたのか、何で上海が自立したのか。だったらその事は一旦置いといて、別のことを考えた方が建設的だろ?」

 

「あなたはいいの?これから先、同じ様な事が起こるかも知れないのよ?」

 

「そのときはそのときだ」

 

 正直、実感が無いのだ。

 体がだるくて、頭が痛い。そんなものは風邪と同じ様なものだし、血まみれで横たわっていたとしても俺はそれを知覚していない。話しを聞いたときにはすでに傷は治療されていたし、血の一滴も見当たらなかった。

そんな状態であなたは死にかけていました、と言われても実感が湧かないのは当然だ。

 アリスがいなかったら、どうなっていたのかもわからない。それこそ死んでいたとしても可笑しくはないと分かっているし、心の何処かでアリスを頼りにしているのも事実だ。

 それでも、考えるのをやめてアリスに任せきりにはしない。

 

「俺の怪我が自立のきっかけなら、上海を調べて何が起きたのか分かれば」

 

「あなたが怪我した原因、それに近い事柄がわかる」

 

 そう、クロスワードと同じで分からないものをずっと考える必要はない。

 その空白を埋めるのに必要なワードを周りから集めれば自ずと答えは導き出せる。

 

「それでだ、アリス。魔力ってのは何処で何から生み出されるんだ?」

 

 アリスが少し目を見開いた。

 

「さすがに着眼点がいいわね」

 

 顔を伏せ、軽く握った手の人差し指、その第二関節を唇に当てる。

 アリスが考え事をするときのポーズだ。

 その間に俺はベッドの傍らに置いてある机から、勉強用のノートとシャープペンシルを取り出した。

 今夜は長くなりそうな予感がしたからである。

 そうしている内に考えがまとまったのかアリスが顔を上げた。

 

「あたりね」

 

「あたり?何が?」

 

「あなたの質問は的を射ているわ」

 

 それで当たりか。

 

「じゃあご教授願えますか?師匠?」

 

「師匠はやめなさい。はぁ……まず魔力に限らずある種の力はマナを媒介に魂が生み出すと言われているわ」

 

「まってくれ、前にアリスはマナの事を世界に備わっている魔力の事だって言ってたよな」

 

「ごめんなさい、説明の仕方が悪かったわね。マナというのは魔法使いが好んで使っている世界に漂う力の総称よ。勿論その力はこの世界、私たちが言う外の世界にもあるわ。世界には人が生み出す信仰の力、神力と畏れが生み出す妖力。その他にも色々な力が渦巻いているわ。魔力はその一部で魔法使いがマナと言うときはだいたい魔力の事を指しているの」

 

「今回は違ったと」

 

「ええ、前の説明が悪かったわね」

 

「分かった。それともう一つ質問だ。言われているっていう事は本当の事は解かってないんだよな?」

 

「その通りよ。まず、魂というものは…………で詳しくは解っていないのだけだど、それが上海にあれば…………そもそも私はその研究をずっと続けて来たのよ…………元はと言えばあの人が…………あっ……こほんっ、いい?あなたの身に起こった事はどういう訳か解らないけど…………に近い事が起きた、それがなぜか上海に…………」

 

アリスの話す内容をノートに取りながら、今日は眠れそうにないなと悟った。




最近、色々な方の小説を見て、内の主人公も幻想入りさせたくなって来ました。

勿論この小説を完結させてからですが


唐突にサブタイトルを変えたりあらすじを変えたりするかもしれません。
もしかしたらメインタイトル?も変えるかもしれません。
ご了承ください。
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