人形使いと高校生   作:ツナマヨ

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今回、文章が少し変かもしれません
いつも変だと言われれば泣き寝入りするしかありませんが
とにかくあまり上手い表現が思い浮かばず、とりあえずの文は書きましたが、読者の皆様方に伝わるのかどうか…………

まあ、そんなこんなで第十六話始まります。


七日目 前編 電車、人形、時々メロス

「うそ……だろ?」

 

 がしゃんと音を立て俺の手に持っていた物が床に落ちた。

 そのまま二回ほどバウンドし、俺の手の届かない所まで転がって行く。

 それは奇しくも、顔を伏せこちらに表情を見せない彼女が、手の届かない所に行ってしまうのではないかと感じている、俺の心の内を表すかの様だった。

 

「……………………」

 

 彼女は顔を伏せたまま一歩一歩進めて行く。

 

「止まれ……止まれよ」

 

 俺の口から出る制止の声に、一度も立ち止まることなく進むアリス。

 一歩一歩俺に近づき、ついには俺を抜き去る、そのまま七歩ほど進んだ所で止まったが、その短い距離が決して届かない、海を挟んだ岸を連想させた。

 

 俺は急いで落とした物を拾い、追いかける。

 絶対に追いつけないと解っていても、それでも追いかけるしか無かった。

 だが、先ほど連想させた海は俺の前に広がっており、あと一歩でも進むと間違いなく落ちてしまうだろう。

 その海は黒く底を見ることは叶わない。時が止まっているのかと錯覚しそうになるほど海は静かで、まるで巨大な穴が空いているようだ。ともすれば崖の様にも見える。一つ間違えれば奈落の底だという点においてあながち間違いでは無いのかもしれない。

 

 眼下に満ちたどこまでも暗い闇は、地獄へと続いているのではないのか、というイメージを俺に与える。

 

 この闇がどこまで続くかなんて入ってみないと判らない。

 飛び込んでみれば案外浅く、足がつくという可能性もありえる。

 しかし、そんなリスクを冒す事が出来ずに、立ちすくむ自分がひどく情けなかった。

 

--ポフッ

 

「えっ?」

 

 いつの間にか近くに来ていた上海に肩を叩かれた。

 上海にしてみれば、それは叱咤激励のつもりだったかもしれない。

 けれど、この状況では逆効果なんだ上海。

 突然の肩への衝撃は、最悪の結果となって俺を悲劇に陥れた。

 誰でも経験したことがあるだろう。後ろから突然声をかけられ、反射的にびくっと体が動いてしまった事が。

 脊髄反射により脳を介する事なく体が動く。

 思考を止めず必死に打開策を考えていた俺を嘲笑うかのように、目の前に映る画面は俺が操る駒を一歩進めていた。

 歩みを止めた俺の目の前に、闇が口を開け牙を剥かんとする。

 

『ギ〜〜〜〜〜ングボンビー!』

 

「おわた」

 

 項垂れた俺の肩を慰めるかのように上海が叩いた。

 ありがとう上海。ぬ

 けれど君が原因でこうなってしまったんだよなぁ。

 

『オレさまはラブコメとやらが大嫌いだ!だから貴様には一兆円の借金を押し付けてやる!』

 

「…………ごめんなさい」

 

 今更謝ったって遅いぞアリス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は激怒した。必ず、かの深謀遠慮の姫を下さなければならぬと決意した。俺には策略が判らぬ。俺は、一介の高校生である。道を歩き、学び舎に通い暮らして来た。けれども、悪意に対して十人並みに鈍感であった。六月初期俺は都市を出発し、県を越え、海を越え、何時の間にかボンビラス星へと連れて来られた。見渡す限りが紅かった。

 

「姫ってなんだよ」

 

「いきなりどうしたのよ?」

 

「いや、何でもない」

 

 盛大なため息を吐き、不毛なナレーションをやめる。

 アリスが怪訝そうにこちらを見ていたが、直ぐにゲームに視線を戻した。

 ゲームは早くも三十年目に突入しており、アリス社長が一位を独占している。年末には日本地図が紅く染まり、ふらりと立ち寄った会社も紅一色。毎月アリス社長の名前がテレビで流れ、お金が入らない月が無いくらいだ。

 全ての物事がアリス社長を中心に回っているような気がする。

 バラ色のアリス社長に対して俺は、画面見渡す限りが真っ赤で所持金ですら真っ赤だ。なんで俺は、今日初めてコントローラーを握った素人の中の素人にボコボコにされているのだろうか。

 これが格闘ゲームじゃなくてよかった。格闘ゲームだったら立ち直れなかっただろう。

 

 こんな状況だからか、今ひとつゲームに身が入らず考え事ばかりしている。それが判断を鈍らせ、ちょっとしたミスを招き、お金とやる気が消失、という悪循環が出来ていた。

 こんなやる気の無い奴とゲームをしても、楽しくはないだろうと解っていても考えることをやめられない。

昨日アリスと話した内容が頭にこびりついて離れないのだ。

 

 曰く、俺には『程度の能力』というものが備わっている可能性があるかもしれないとの事だ。

 『程度の能力』とは個人ーー主に神様や妖怪、ごく稀に人間ーーが産まれたときから持っている能力や、長い年月をかけ能力と言っても過言ではない程に昇華した技能などに名前をつけたものだ。アリスで言うと、人形を扱う程度の能力となる。

 ごく稀に後天的に能力が身につくことがあるらしいが、余程の事がなければそうはならないみたいだ。

 

 能力の名前は自分でつけるのが普通で、自らが自信を持つ技能は勿論、産まれたときから持つ能力や後天的な能力でも、自分で何ができるのか感覚的に解り、それに因んだ名前をつける事となっている。

 だが、俺にはそれがわからい。

 自分が能力を持っているのかどうかすら判らず、今回の事も原因が能力にあるという可能性が高いだけで、能力が原因決まった訳じゃない。

 

 だけど、魔力も霊力も使えない人間が魂を傷つける、ましてや分断するなど能力を使う以外に考えられない、とはアリスの言。

 つまり、俺の怪我は何らかの方法ーー今のところ能力の可能性が高いーーによって魂を分断。その魂へのダメージが繋がりの深い肉体に表面化したみたいだ。

 

 けれども、この仮説が正しいのかはわからない。

 上海が魔力を生み出す、それには魂が必要で、逆説的に上海は何らかの方法で魂を得る事によって魔力を生み出せた。

 

 何故上海は魂を得たのか?

 

 アリスの研究が身を結んだから?

 

 それはありえない。この世界に来てからの一週間、アリスは上海をいじくってない。何もしてないのにいきなり魂を得るはずがなく、何かが起こって上海は魂を得たと推測できる。

 そこで、最近起こった異常な出来事である、俺の怪我が関係しているのは明白で、原因不明だった俺の怪我に一つの仮説が浮かんだ。

 

 能力によって俺の魂を切り取り、それを上海に与えた。魂を与えられた上海はそれを元に上海自身の魂を作り上げた。よって俺は怪我をしたし、上海は自律に至った。

 

 というのが早朝まで掛かった議論の答えだ。

 

 その後、テンションの上がっていた俺の提案によりゲームをやることになったんだが、上がっていたテンションはどこに行ったのか、俺のやる気は底辺まで落ち込んでいる。

 

「悩むのも判るけど、いい加減に進めてくれないかしら?」

 

「ん?」

 

「だから、さっさとどの道にするのか決めて、早くゲームを進めてちょうだい」

 

 テレビへ視線を向けると、ちょうど分かれ道に差し掛かっていた。

 どうやら、また考え事をして目の前のことが疎かになっていたようだ。

 幸いアリスは勘違いしている様なので、そのまま誤解させておくとする。

いくらアリスと言えども、全く別の事を考えていたと知れば少し怒るかもしれない。それは嫌だ。晩御飯のおかずを一品減らされるのは地味に効くのだ。

 

 長い時間考えていたおかげで、頭の整理が少し付いた。まだまだ考えたい事があるけれど、それは一旦置いておこう。まずは頭を切り変えて、目の前の事に全力を注ごう。

 

「散々考えて真っ直ぐなのね」

 

「俺、ここを出たらアリスに復讐するんだ」

 

「まだ怒ってるの?」

 

 それには返事をせず淡々とゲームを進め、そして、ついに俺は地上へと降り立った。

 待っていろアリス。この日を夢見てずっと守って来たカードが有るんだ。このカードでギャフンと言わせてやる。

 

「あら、もうこんな時間?」

 

「へ?」

 

「ご飯の支度をしないといけないわね」

 

「は?」

 

「ゲームは終わりね」

 

「はい?」

 

 アリスは淡々とコントローラーを操り、ゲームを終わらせようとする。

 いきなりの展開に着いて行けず、間の抜けた俺の声が室内に響く。

 

 これじゃまるでピエロじゃないか。

 

 とっさにゲームの電源を切ろうとしているアリスの手首を掴んだ。

 頭に浮かんだ白くて綺麗だなーとか、柔らかいなーとかの感想を無視して、しっかりとアリスの顔を見る。

 

「もうちょっとやらないか?」

 

「残念ね、もうご飯の時間だわ」

 

「そこをなんとか」

 

「考えはまとまった?」

 

「へ?」

 

 唐突な質問にまたもや間抜けな声が飛び出した。

 

「誰かさんが散々考えていたせいで、あまり進まなかったわね」

 

「……………………ギャフン」

 

 力の抜けた俺の手を解き、アリスはさっさとゲームを切ってしまった。

 一度真っ暗になった画面がカラフルな色合いを取り戻した。

 どうやらアリスがチャンネルを切り変えたようだ。

 先程のゲームを思い出させる日本列島が映し出され、若い女の人がその横に立って、あれこれと喋っていた。

 

『今年は冬の訪れが早く、明日には本格的に寒くなるでしょう』

 

「結局、間に合わなかったわね」

 

「ん?何が?」

 

「何って、私の捜索よ」

 

「アリスはここに居るじゃないか」

 

 アリスに重い溜息を吐かれた。

 

「あのねぇ、私がどこから来たのか忘れたの?」

 

 わ す れ て た。

 

「いや、おぼえてるよ」

 

 動揺を押え、視線をテレビに向けたまま答える。

 

「どうだか」

 

「いやいや本当だって。ただ……あれだ、アリスと一緒に居るのが普通すぎて、違和感が無さすぎたと言うか…………」

 

「………………そう」

 

 ただ、一言だけ呟いたアリスは、そのまま台所へと姿を消した。

 アリスの後を追って上海も姿を消し、部屋には俺一人が取り残される。

 

 アリスは基本的に無表情だ。話すときも声は平坦で、そこからアリスの感情を読み取るのは難しい。

 

 だけど、今のアリスの声は、いつもより冷たく聞こえたのは気のせいか?




この前夢の中にアリスが出てきました。
普段の私なら喜ぶのですが…………
そのアリスはダンボール好きの蛇さんと銃撃戦を繰り広げており、朝から私を悩ませてくれました

ほんと、なんで私じゃなくBIGなBOSSなんでしょうか

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