人形使いと高校生 作:ツナマヨ
俺と少女、アリス・マーガトロイドはこたつに向かい合って座っている。自己紹介は先ほど終え、今は俺が気になるところをマーガトロイドに質問する時間だ。一から十まで聞いたり答えたりするのは面倒くさいと双方の意見が合致したため、質問をする形式になった。
「マーガトロイド、お前は今すぐに元居た世界に帰れるか?」
「マーガトロイドじゃ長いからアリスでいいわ。それで、質問の答えは否ね」
名前で呼べだと?彼女居ない歴=年齢の俺にはハードルが高すぎますよ。まあ、こんな美少女を名前呼びできる機会なんてこの先まず無いわけなので、がんばろうと思います。
俺の脳内で葛藤が繰り広げられている間、マーガトロイドは不思議そうな顔で俺の顔を見ていた。
「どうしたんだ?」
「あなたって変わってるのね。普通はさっき見せた魔法や、私の元居た世界について質問するものじゃない?」
それかぁ、ぶっちゃけ今日は疲れたからその話は明日以降にしたいんだけどな。
「じゃあ、まず一つ、元居た世界に帰る当てはあるのか。二つ、帰る当てがない場合どうするのか。三つ元居た世界について。この位だな」
俺の質問を聞いたマーガトロイドは苦笑した。何故だ。
「やっぱりあなた、変わってるわ」
マーガトロイドの言葉に首を傾げる。変わってる?俺が?…………まあいいや、好くも悪くも周りの物事に関心が薄い俺だ、人と少し違っていても気にする事でもないだろう。
「変わってるかどうかはどうでもいいから質問に答えてくれ」
「そうね、まず一番目の質問だけど、この世界で博麗神社という名前の神社を聞いたことがあるかしら?あるのならそこから私が元居た世界、幻想郷に帰れるわ」
「博霊神社か、聞いたことがないな。ちょっと待ってろパソコンで調べてみる」
勉強机に置いていたノートパソコンを持ってきて起動する。人工衛生を利用した地図検索サイトを開き、博麗神社と打ち込みしばらく待つ。
「それは何?」
作業が終わったのを見てマーガトロイドが話しかけてきた。パソコンを知らないのか?いったいどんな世界なんだ?幻想郷とやらは。
「これはパソコンと言う物で、簡単に言うと世界中から情報を集めることが出来る物だ。例えば料理のレシピを調べたいなら知りたい料理の名前を入れて検索すれば出てくる。こんな風に」
新しいタブを開き“おいしい豚のしょうが焼き レシピ”と入力し、検索する。ちなみに、今日の晩ご飯はこれにするつもりだ。少し待ち何時もお世話になるサイトを開く。画面に様々なレシピが出てきたところでノートパソコンをくるりと反転、マーガトロイドに見えるようにする。
「へぇ、便利なものね」
画面を見つめるマーガトロイドの眼が忙しなく動く。金色の瞳は見ほれるほど綺麗で、ずっと見ていると吸い込まれそうになる。マーガトロイドと目を合わせづらい理由の一つだ。後の理由は、彼女の外見が綺麗すぎる事である。異性との接点が少ない俺には、目を見て話すのも小恥ずかしく感じる、その上名前呼びなど恥ずかしくて言えるわけがない。さっきから、彼女の名前を呼ばないように話してるのもそのためだ。それはそうとマーガトロイドは俺の名前を一言も言わないな、何か理由があるのか?
「ねえ、まだ下に文が続いているみたいだけど、それはどうやって見るのかしら」
「これを使う」
パソコンに繋がっているマウスを指で指しながら言う。マーガトロイドにマウスの上に手を軽く乗せるよう指示し、説明を始める。
「その機械に手を包むように乗せたとき、中指の所にある出っ張ってる丸い物があるだろ。それを自分の方に回すと画面が下にスライドする、上に動かす場合は逆に回せばいい」
「このボタンみたいな物は何?」
中指でコロコロ(正式名称を知らないので俺はそう呼んでいる)。を動かし画面が動くのを確認すると次の質問をぶつけてくる。
クリックボタンか、言葉では説明するのが難しいな。
「なあ、言葉では説明しにくいからさ、実際にやってみようと思うんだが。そっち行ってもいいか?」
俺はマーガトロイドの隣を指で指し確認をとる。
「ええ、いいわよ」
軽く了承するマーガトロイドの隣に行き、何にもないような顔で座る。内心では大慌てだ。これまで女子の隣に座ることは何度か合ったが、これほど近くに座るのは初めてだ。しかもマーガトロイドは見たことも無いような美少女なので、なおさら緊張する。
だが、ここで照れるような真似はしない、意地があるんだ男には。
マーガトロイドの右隣に座り、マウスの使い方をレクチャーする。マーガトロイドは理解力が高いようで、俺のたどたどしい説明でもするすると理解してくれるから助かっている。一通りの説明を終え、ついでなので検索のやり方も教えた。色々調べた事の中で世界の人形について調べたときは、少しずつパソコンの画面に近づくほど熱心に見ていた。おかげでマーガトロイドの金色の髪が目の前に広がり、甘い香りが俺の嗅覚を刺激し少し得をした気分になった。勿論、顔には出さずその後もパソコンの説明を続けた。
「そろそろ博麗神社の事を調べようか」
「そうね、パソコンが珍しくてつい夢中になったけれど、本来の目的は博麗神社の有無だったわね」
考えてみると博麗神社が無かったら、マーガトロイドは帰る当てが無くなるんだよな、どういう気分なんだろうか?そう思って横にいる少女の横顔を盗み見てもその表情から感情は読めない。タブを消す作業のスピードは落ちず、この先にあるはずの不安などが見あたらない。この少女は博麗神社がなかったらどうするつもりなのか、どうやって生きていくのだろうか?少し心配である。と、そこまで考えて俺は内心、愕然とした。いつから俺は会ってすぐの人を心配するようになったのか、周りへの関心が薄く、人に対して一歩退いた処から観察するように接するのが俺だった筈だ。それが出会ってすぐの得体の知れない自称“魔法使い”の言うことを信用し、心配をしているのか…………やめよう。これ以上詮無き事を考えても仕方ない、今は博麗神社の事を考えよう。
伏していた顔上げパソコンを見てみると、丁度地図以外のタブを消したところだった。随分と考え込んで居たように思えたがそんなことはなかったのか?
俺が時間の進み具合に首を傾げているとマーガトロイドが話しかけてきた。
「何か考え込んでいたようだけど大丈夫?話しかけても全然反応しないんだもの、少し心配したわ」
「大丈夫だ。…………お前は平気なのか?」
「何の事?」
つい出してしまった問いかけにマーガトロイドは怪訝そうな顔をする。それが強がりでもない様なので思い切って聞くことにした。
「もし博麗神社が見つからなかったら、お前は帰れないんだぞ」
その声は発した俺が驚くほど心配性に溢れていた。
「…………」
マーガトロイドは目をまん丸に見開きこちらを見つめてくる。やがて花が開くかのように微笑んだ。
それはとても柔らかく温かみのある笑顔だった。
間近で見るその笑顔に身惚れている俺に向けて少し嬉しそうな声色で話しかけてくる。
「ありがとう」
お礼を言われた俺は赤くなった顔をどうにかごまかそうと横を向いていた顔をパソコンへと向ける。
「ふふっ、意外と初なのね。さっきから恥ずかしがって名前を呼ばないし」
…………ばれてた。恥ずかしい、埋まりたい。
羞恥心に悶えてる俺にマーガトロイドは太陽みたいな笑顔を向けてくる。
やめてくれ、これ以上辱めないでくれ。
「最初は少し変わった人間だと思ったけれど、かわいい所もあるのね、あなた」
そう言って微笑ましいものを見るかの様な目を向けてくるマーガトロイドに腹が立った俺は仕返しする事にした。
咳払いで喉を整え、緊張感を解すために軽く息を吐く、準備が整った所で顔を横に向け声を出す。
「アリスはかわいいより綺麗と言った方が似合うよな」
「ありがとう、嬉しいわ」
俺、撃沈。間髪容れずに返された言葉と笑顔に、羞恥心が限界に達した俺は、台所へ撤退することを選んだ。
「お茶、汲んでくる」
「ふふっ行ってらっしゃい」
俺は逃げ出した。
次の更新は来週までには出来ると思います。