人形使いと高校生   作:ツナマヨ

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筆が踊りに踊ったので投稿します。

それと今回アリスがアリスっぽくないと感じられる方が居るかもしれません。


一日目 深夜 これからよろしく

 台所で赤くなった顔を冷やし、どうにか落ち着けたところで部屋に戻った。ついでにお茶の入った容器も持っていく。

 

「あら、遅かったじゃない」

 

 少し含みのある笑顔で話しかけてくる。返事を返さずにアリスの隣に座り、アリスのコップにもお茶を入れる。

 

「ありがとう」

 

 お互いお茶を飲み、そこから無言が続く。俺は気恥ずかしさからしゃべることが出来ず、アリスの方は…………分からない。横目で見ても整った顔立ちは無表情に近く、感情を読みとれない。目線はじっとパソコンの画面だけを見ていて、こっちには一瞥もくれない。

 

「ねえ」

 

 少し心臓が跳ねた。横目で見ていたのがばれたのかと思いパソコンに視線を移すが、放置しすぎて明かりが消えたパソコンの画面に映っているアリスの顔はこっちを向いておらず、明かりが消えた画面から眼を放し手元のコップを覗いていた。

 

「さっき聞いてきた質問だけど、本当は少し不安だった」

 

 その言葉を聞き、前に向けていた顔をアリスの方へ向ける。

 

 少し意外だった。アリスは何時も落ち着いていて、常に余裕を持っている様な印象を持っていたからである。

 

 アリスはコップを覗き込んだままで、ともすれば独り言と思える声量で話を続ける。

 

「こっちに来てから魔法の出力が落ちていて、幻想郷では何十体でも操れていた人形がほんの数体しか操れなかったの」

 

 そう語る彼女の横顔はとても穏やかで、本当に不安に思っているのか疑問に残るほどだ。

 

「あなたが帰ってくるのを待つ間も、襲われたときや、人を呼ばれたときにすぐに対応できるように、ずっと考えていた。玄関であなたと会った時、後ろに武器を持った人形が居たの。知ってた?」

 

 あまり感情を出さず、淡々と語っていた彼女の顔が少し歪んだ。その行為を後悔しているような顔だ。

 

「でも、今は大丈夫」

 

 だが、後悔しているような顔もすぐに消えた。

 

 今、その顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。何気ない日常で、少し嬉しいことがあり、気分が良いときに浮かべる、何気ない笑顔だ。

 

「あなたと話して、あなたの人となりを知り、心配してもらった」

 

 その言葉に俺の顔が一瞬にして真っ赤になる。アリスの顔を直視できなくなり下を向いた。

 

「知らなかったわ、誰かに心配して貰えるだけでこんなに安心できるだなんて」

 

「だから大丈夫、私は平気よ」

 

「ありがとう。心配してくれて嬉しかったわ」

 

 ぐはっ。アリスさん、その言葉は反則ですよ。

 

 恥ずかしさでどうにかなりそうだった俺は、こたつに顔を伏せた。木で出来た机は少し冷たく、顔の火照りを幾分かましにしてくれた。

 

「何だか私らしく無かったわね、忘れて頂戴」

 

 忘れられる訳がないと思った。アリスの横顔を、言葉を、そこに込められた感情を、思い出す度恥ずかしくなるが、それと同時に嬉しくもなる。何故、嬉しくなるのか分からないがそれを思い出せなくなるのは嫌だった。

 

 むしろ俺の言葉忘れてほしいので、言ってみることにする。

 

「俺も俺らしくないことを言った、忘れてくれ」

 

「嫌よ、いつまでも覚えてるわ。嬉しかったんだもの、あなたの言葉」

 

 再度、撃沈。上げていた顔が再びこたつに伏せられる。

 

 俺が考えていた様な事を当たり前のように言葉にして伝えられる。そういう所で俺は彼女に勝てないと思った。

 

 またもや訪れる沈黙。俺は恥ずかしさで言葉を出せない。アリスはどうなのかと思い、伏していた顔の向きを変えた。アリスはこちらを見てからかうような笑みを浮かべている。俺の反応を楽しんでいるようだ。少し不満が残る。拭いきれない敗北感を咳払いでごまかしつつ話しの修正を行う。

 

「そろそろこれを見ようか」

 

 マウスを小刻みに揺らし、消えていた画面に光を灯す。最小化した地図の上にカーソルを合わせ、横目でアリスを見る。頷くのを確認してから人差し指に力を込め、ボタンを押した。パソコンの画面が切り替わる、一瞬で地図が浮かび博麗神社が存在しない現実を突きつけてきた。

 

 もう一度、横目でアリスを見てみる。アリスはこうなる事を分かっていたようにため息を付いた。

 

「これで私が幻想郷に帰れる宛が無くなったわ。後は私が居なくなった事に誰かが気付くまで待たないといけないわ」

 

「そんなのすぐに気付くんじゃないのか?」

 

 疑問に思ったことをそのまま尋ねてみた。

 

「すぐには無理よ。私は幻想郷の様々な場所を訪れるし、交友関係も広くないもの」

 

「そうか。どのくらい掛かると思う?アリスの不在に誰かが気付くまで」

 

 俺の質問にアリスはこちらに向けていた顔を下に向け、ぶつぶつと小声で呟きだした。

 

「私の活動範囲…………魔理沙…………次は霊夢…………博麗大結界は…………隙間は冬眠…………その式は…………人里…………人形劇…………。」

 

 お茶を飲みアリスの考えがまとまるまで時間を潰す。気になるフレーズが幾つか出てきたので後で聞くことにする。

 

 考えがまとまったのかアリスが顔を上げた。

 

「早くて一週間、遅くて数ヶ月掛かるわ」

 

 聞こえた言葉に耳を疑った。人が一人居なくなった事を気付くのに数ヶ月も掛かる世界なんて想像出来なかったのだ。

 

 絶句している俺に構わずアリスはさらに話しを続ける。

 

「もし誰かが気付いたとしても、すぐに助けに来れるかは判らないわ」

 

「どういう事だ?」

 

「私が住んでいた世界には結界が張ってあって、この世界とは隔離されているの。その結界は強力で私達が外の世界と呼んでいるこの世界と、幻想郷を行き来出来るのは八雲 紫、結界を張った張本人だけ。私は幾つもの偶然が重なって結界を越えてしまったのだけど、そうでもない限り結界を越えるのは本当に難しいわ」

 

「じゃあその八雲紫って人に助けて貰えるんじゃないのか?」

 

 アリスが話す内容に半ば唖然としつつ返事を返す。

 

「私が幻想郷から居なくなった事に気づいた誰かが、紫に報告して私を連れ戻してくれるのが一番いいのだけど……」

 

 何故かそこで言葉を濁したアリスは、ため息を吐き、何かを我慢するかのように頭に手を当てた。

 

「問題はね、季節なの」

 

 季節?今は秋の終わり、つまり冬の始まりだ。それがどう関係するんだ?

 

「紫はね、この時期になると冬眠をするの」

 

「……………………はぁ?」

 

 えっ、冬眠?冬眠って熊とかが冬になると始める、あの冬眠?そうアリスに聞くと

 

「いいえ、本人が冬眠をしていると話してるだけだから、本当かどうかは判らないわ」

 

 と返ってきた。

 

「紫は冬眠を始めると、春まで姿が見えなくなるの。つまり本格的に冬が始まる前に、私の不在を知って貰わないと春まで待たないといけなくなるわ」

 

 そう語るアリスは少し不安気だった。

 

 それはそうだろうと思う。いきなり見知らぬ土地に放り出され、救助は何時来るか分からない。そんな状態で冷静に物事を判断しているアリスはすごいと思った。

 

「はあ、どうしようかしら。一週間ぐらいなら、野宿でも何とかなるだろうけど、数ヶ月、それも冬の間となるとさすがに厳しいわね」

 

 顔を伏せてこれからの事を考えるアリスに腹が立った。理由は分かっている、俺が当てにされてないからだ。俺とアリスが出会ってから、まだ一時間位しか経ってないっていうのも判っている。それでも、俺が頼りにされてないっていうのは腹が立つのだ。

 

 だから言うことにした。自分の考えを素直に。

 

「行く当てがないんだよな?」

 

「ええ、ってまさか」

 

 アリスは俺の考えていることを読んだのか、目をまん丸にして見つめてくる。宝石の様な青色の瞳に見つめられ、若干の照れを感じながら覚悟を決める。頭の片隅で、これじゃ今から告白するみたいじゃないかと考え、苦笑した。笑ったおかげで緊張が和らいだのか、自然体のまま口を開く。

 

「じゃあ此処に住めよ。部屋は余っているし、お金なら十分にある、もし、足りないならバイトでもすればいい。生活に必要な物は全て揃っている。野宿よりかは遥かにいいと思うが」

 

「…………ごめんなさい。あなたの事、少しは信用しているし、あなたが悪人だとは思えない。けれど、何か裏があるんじゃないかと思ってしまってるわ。だから此処には住めない」

 

 そんな事は分かっている。いくら何でも、出会ってすぐの人間を信用できないのは当たり前だ。だけどそれじゃ俺が納得しないし出来ない。なので少々、卑怯な手を使うことにした。

 

「俺が住んでいるこのマンション、セキュリティが売りらしくてな、至る所に監視カメラが付いている。それこそ怪しい人物が居たらすぐにわかる位に」

 

 俺の言いたいことが分かったのか、アリスはため息を吐いた。

 

「強引な人ね」

 

「何とでも言え」

 

 諦めた様な顔をしているアリスに対して胸を張る。アリスはため息を吐き、いつの間にか金色に変わっている瞳で、こちらを真っ直ぐに見つめてきた。

 

「一つ質問するわ。少しでも怪しいところがあれば、問答無用で出ていくから」

 

「分かった」

 

 真剣な雰囲気になったアリスにこちらも真面目に返す。

 

「私を此処に住まわせるのは、何か目的や下心があっての事ではないのね?」

 

「当たり前だ」

 

 こちらを真っ直ぐに見つめる瞳に対して真っ直ぐに見つめ返す。ここで目を逸らしたら何もかもを失うと直感で分かった。

 

 数分が経ち、アリスの瞳が青色に変わる。どうやら警戒を解いてくれたようだ。

 

「分かったわ、これからよろしく」

 

 そう言って手を差し出す彼女に、俺も体の力を抜き手を取った。

 

「こちらこそよろしく」

 

 アリスの手の感触に内心どぎまぎしつつ、平静を装い笑みを向けた。

 

「それじゃあ晩ご飯にするか。言っておくけど家は働かざる者食うべからずだからな、家事とか手伝えよ」

 

「ええ、任せて頂戴」

 

「その後はアリスの話を聞かせてくれよ」

 

「例えば?」

 

「アリスの住んでいた世界の事や魔法の事」

 

「いいわよ。その代わり、この世界のこと教えなさいよ」

 

「例えば?」

 

「そうね、電気の事とかかしら」

 

「電気を知らないのか、どんな世界なんだ?幻想郷って」

 

「ふふっ、これで研究が捗りそうね」

 

「さてと、今日の晩ご飯は…………」

 

「私は何をすれば…………」

 

こうして始まった俺とアリスの生活は、お互いを知ることから始めようと、夜遅くまで話し合うことから始まった。

 




次の話も六割位出来ているので、明日投稿できると思います。

タグの不定期更新外した方がいいかなぁ

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