人形使いと高校生   作:ツナマヨ

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いつもより短いです。

それとこの先独自設定が入ります。


二日目 夕方 魔法使いの弟子になった日

 「あー暇だ」

 

 授業中につい呟いてしまい、クラスメイトと担当教師の注目を集めてしまう。教師は文句を言いたそうな顔をし、結局黙ってしまった。

 

 俺は学校の人達から怖がられている。理由は三つあり、一つは目だ。俺は目付きが悪いらしく、少し目を向けただけでも、睨まれたと誤解されることが多い。二つ目は、空手の黒帯を持っていたからだ。中学生の頃目付きのせいで、絡まれることが多かった俺は親に相談し空手を習い始めた。努力の末、黒帯を手にし大会でもいいところまで行った。だが、それでも絡まれた。最後には我慢の限界に達した俺が、絡んできた奴等を怪我させてしまい道場を破門、学校でも噂されるようになり逃げるようにこの町に引っ越した。だけどその事は関係なく、俺が黒帯を持っていた事がばれた事件があり、それが三つ目の理由だ。俺には友人が居た。そいつは入学して少し経った頃から、俺に話しかけるようになり次第にカラオケに行ったりして遊ぶ関係になった。俺はそいつの事を信じていたが、ある時そいつが俺に金目的で近づいてきたと分かり、またもや問題を起こしてしまった。当然、親に怒られ学校からも罰を受けた。その事が広まり、誰かが有段者の大会に俺が出ていた事を噂として流したため、避けられるようになった。金目的で近づいてきた奴は引っ越し、俺もその時から人を信じきれなくなり、周囲に壁を作って人と関係を持つことを諦めた。今では学校で話し掛けてくる人が居なくなり。担任とも事務的な会話しかしない。

 

 だから不思議に思った。何でアリスのことは信じられたのだろうかと。昨日から考えているが一向に答えは出ない。そうしている間にチャイムが鳴り、クラスメイト達が帰る準備をしだした。俺も鞄に教科書を詰め、担任が話し終え挨拶が終わるとすぐに教室を出た。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

 寄り道などせず、まっすぐ帰る。家が近いのですぐに着き、鍵を開けドアをくぐる。ちなみに、家から出入りするときには必ず挨拶をしないといけない、これも家訓だ。

 

 廊下を歩き、まずは自分の部屋へ行く。鞄を置き服を着替え、空になった弁当箱を持ってリビングへ行く。

 

「今日のご飯は何にしようか……な?」

 

 冷蔵庫の中身を思い出しながらリビングのドアを開ける。そして目に飛び込んできた光景に言葉が尻すぼみになった。

 

ーークイックイッ、サッサッ 、ヒョイッ、クルリ

 

 上海がテレビの前で机の上に乗って踊っていた。

 

 聞こえてくる音楽から、夕方に放送している教育番組だと判るが、何故上海がそれを踊っているのか分からない。とりあえずお茶を入れ椅子に座る。

 

ーーダッ

 

 俺が座ると同時に上海が走り出した……俺の方に向かって。

 

「うおっ」

 

 突然のことにびっくりした俺は、身を引こうとし椅子の背もたれに背中をぶつけた、しかも手に持ったままのコップが揺れ、中の液体がこぼれて俺のズボンを濡らした。

 

「はぁ」

 

 少しやるせない気持ちになりため息を吐く。上海は机の上を駆け回っている、その様子を見ると怒るに怒れないのでより一層やるせなさが募る。

 

「ごめんなさいね」

 

 見兼ねたアリスが謝ってくる。それに苦笑と手を振る事で答え、台所まで行き弁当箱を洗う。横の乾燥棚には朝の食器と、アリスが昼に使ったと思われる食器が置かれていたので、食器棚に戻しておいた。

 

「ありがとう。それとちょっと来て頂戴」

 

 お礼を言われた後、呼ばれたのでアリスの方へ行く。

 

「さっき濡れたところを見せて」

 

 シャツを上げ見えやすいようにした。アリスは懐から千円札より一回り小さな紙を取り出した。それをズボンの濡れたところにかざし、指の先から出る糸で魔法陣を画く、直後その紙から暖かい風が吹き、ズボンを乾かした。

 

「なあ、その紙は何だ?」

 

 俺の知る限りアリスは空中に先ほどの糸を使って魔法陣を画き魔法を使っていた。昨日も浮遊魔法という魔法を軽くて小さい物に掛けて運んでいた記憶がある。なのに紙を用意するという行程を入れたのには何か理由があるに違いない。そう思いアリスに聞いてみた。

 

「あら、目の付け所がいいじゃない。これは紙に私の魔力を馴染ませて、魔力を溜めれるようにした紙よ。これを使えば、ほとんど魔力を使わないですむわ」

 

 何それほしい。

 

「外の世界はマナが少なくて、魔法を発動させるのに私の魔力を多く使わないといけない、だから大きな魔法は使えないわ。けど、これがあれば理論上は大魔術をこの世界で使えるようになる」

 

 アリスの話を聞いていると魔法について興味が湧いてきた。なので魔法の事を深く聞いてみることにした。

 

「なあアリス。魔法の事を初めから教えてくれないか?」

 

「あなたまだ魔法が使いたいの?」

 

 アリスは呆れたと言わんばかりに肩をすくめる。だけどな、アリス。それは検討違いだ。

 

「違う。俺が魔法の事を聞くのは、魔法というものに興味が湧いたからだ」

 

 俺は興味が湧いたことには知識を深めないと我慢できない質で、こんな面白そうなもの放っておけるわけがない。

 

「過ぎた好奇心は身を滅ぼすわよ」

 

「アリスは面倒見がよさそうだからな、一回教えてくれたら最後まで付き合ってくれそうだ」

 

「まだ会って間もないのに、よくそんなことが言えるわね」

 

「アリスが優しくて面倒見がいいって事くらい、誰にでもすぐ分かる。」

 

「なっ」

 

 アリスが驚いている間に畳み掛ける。

 

「勿論対価は用意する。アリスの研究に必要な物があれば俺が用意するし、研究に必要が無いものでもアリスがほしい物なら手に入れる。それでどうだ?」

 

「対価…………外の世界の技術…………」

 

 悩んでくれてるみたいだ。さて、どうなることやら。

 

「はぁ、まさかこの私が弟子を取る事になるとはね」

 

「ていうことは……」

 

 内心嬉しさがこみ上げるが、我慢する。

 

「いいわ、魔法のことを教えてあげる」

 

「ありがとうございます。師匠」

 

 弟子という扱いになるみたいなので敬語を使う。まあアリスは嫌がるだろう。

 

「師匠はやめなさい。それと、敬語も禁止」

 

「わかった」

 

 案の定嫌がったので、やめることにする。

 

「もうすぐご飯の時間だから、詳しい話は後でするわ。夕食が終わったら私の部屋に来て頂戴」

 

 もうそんな時間なのかと思い時計を見ると、五時半だった。少し早くないか?何にするか決めてないし。

 

「今日はシチューを作りましょう。美味しそうなレシピがあったから、作ってみたいわ」

 

 俺の部屋にあるレシピの本を思いだすと、親が帰ってきた時に作ってくれたシチューを思い出した。

 

「ああ、あれか。あれは美味しかったぞ」

 

「本当?それは楽しみね」

 

 あれをアリスが作るとなると、よだれが湧いてくる。

 

「もう、作り始めるか。数時間煮込まないといけないから時間が掛かるしな」

 

「ええ、そうね」

 

 料理の事、魔法の事、今からが楽しみで仕方ない。俺は逸る気持ちを抑え、台所へ向かった。




主人公の話し方がぶれてないか心配です。

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