人形使いと高校生   作:ツナマヨ

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うちの主人公デレデレしすぎじゃね?書いてて思った作者です。
だって勝手に指が動くんだもん、仕方ないよね。

というわけで第九話です。


四日目 朝 変わらないモノと変わるだろうモノ

 ゆさゆさと体を揺らされる感覚を感じ、俺は目を覚ました。最初に目に入ったのは、蛍光灯の光に照らされて輝く金色の髪と、透き通った青色の宝石のような瞳だった。

 

「おはよう、アリス」

 

「ええ、おはよう」

 

 何故か凝り固まっている体に力を入れて起こし周りを見渡す。そこは見慣れた家具が置かれているリビングだった。どうやら俺はリビングにあるテレビの前で、床に寝転がって眠っていたらしい。

 

「俺は何でリビングで寝てたんだ?」

 

「知らないわよ。それより顔を洗ってきなさい、ご飯は作っておくわ」

 

 礼を言いリビングを出る。手荒い場に着き歯ブラシを取り、歯磨きをしながら自分の部屋に戻り、学校の用意をする。その間もずっと昨日起きた出来事を思い返していた。

 

 俺は昨日のことを何処まで覚えている?アリスと紅茶を飲んだのは覚えている、そして上海が俺の部屋にいてアリスが来た。ていうかアリスは、何で俺の部屋に上海が居るって分かったんだ?視界を同期させてる訳でも無かったみたいだし…………後で聞こう。今大事なのは、何故俺がリビングで寝ていたかだ。その後ホラー映画を見ていて、最後の方に何か恐ろしいものを見たような…………世の中には知らい方がいい事もある、これはその部類だ。ぶるぶると体を謎の悪寒に震わせながら、昨日の出来事を振り返るのをやめる。

 

「昨日のアリスは可愛かったなぁ」

 

 照れたアリス、それだけを覚えておけばいいや。結局はそう完結し、深まる思考にピリオドを打つ。凧のように飛んでいきそうな思考を手繰り寄せ、意識を戻してみるといつの間にか歯磨きを終わらせ、学校の用意が入った鞄を持ってリビングにつっ立っていた。

 

「あら、ありがとう。ご飯、出来ているわよ」

 

 テーブルに朝ご飯のサンドウィッチを並べながら、アリスがお礼を言ってくる。正直、何に対してのお礼か分からない。何となく藪蛇っぽいので聞かなくてもいい気もするが、もやもやしたものを抱えたくないので、聞いてみることにする。

 

「なあアリス、今何に対して礼を言ったんだ?」

 

「今、あなたが…………いえ、何でもないわ」

 

 素直に聞いてみるとはぐらかされた。もやもや感が一層強まった。アリスを見てみるも、こちらから完全に意識を外しているみたいだ。こうなると何を聞いても無駄な事をこの短い生活の中で理解しているため、聞くことを諦める。小さくまあいいや、と呟いてもやもやしたものを断ち切り席に着いた。

 

「「いただきます」」

 

 上海が持ってきてくれたコップを受け取り、一旦テーブルに置く。もはや恒例になった挨拶を済ませ、朝食を取り始めた。

 

 これといった会話はなく食事を食べ終えた。

 

 朝食をアリスが作り、洗い物を俺が担当する。アリスは人形の調整をし、洗い物が終わった俺はその作業を眺める。二人共喋らずテレビの音しか聞こえない、だがそこに居心地の悪さはなく、ただただ安らげる空間が広がっている。アリスが来てから毎日訪れる時間だ。アリスは人形の調整を終えると、人形を使った短い劇を始める。それがまた上手く、つい時間を忘れるほど見入ってしまう。それを見終えると学校の時間にちょうどいいので、家を出る。それが毎日の流れになっていた。いつかアリスがいなくなったら、俺の日常がどうなるのか分からない。ただ、毎日が色褪せて見えるようになると思う。そんなことにはなってほしくないな、なんて考えていたら、目の前に紅茶が置かれた。

 

「どうしたの?浮かない顔をして」

 

 紅茶の入ったカップを持ち、少し口に含む。沈んだ気分で味わう紅茶は、相変わらずおいしくて少し笑ってしまった。

 

「おいしいな、本当に」

 

 呟いてまた一口。

 

 やっぱり笑ってしまう。

 

「本当にどうしたの?」

 

 言われて、アリスに返事をしていなかった事を思い出す。

 

「ああ、ちょと考え事をしてただけだ」

 

「そう?それにしては悲しそうな顔をしてたわよ」

 

「そうか?」

 

 顔に手を当ててみる。勿論感触だけでは分からず、すぐに手を離した。

 

「ん?」

 

 ふと、頭に小さなものが当てられるのを感じ、目線を上にあげてみた。

 

 そこには上海がフヨフヨと浮き、俺の頭を撫でている。その姿は、人形の姿と相まってより愛らしく見えた。

 

「ははっありがとう上海、お陰で元気が出たよ」

 

 どういたしましてと言わんばかりに両手を上げる上海の頭を人差し指で撫で、紅茶を飲み干す。

 

「アリスもありがとうな、お陰で元気出た」

 

「どういたしまして」

 

 カップを手に持ちながらアリスが返事を返す。時計を見ると、学校にギリギリ間に合うかという所だった。だが、そんな事はお構いなしに話を続ける。

 

「アリス」

 

「何?」

 

「帰ってきたらさ、紅茶の入れ方を教えてくれないか?」

 

 自然と笑顔が浮かんでいるのが分かる。

 

「別にいいわよ。それより学校とやらはいいの?」

 

 了承の返事、それだけで今日の夕方が楽しみになった。

 

「別にいいんだよ、たまには」

 

 遅刻なんてアリス達と過ごすひと時に比べれば、安いものである。時計を見ると遅刻することが確定していた。こうなるともう開き直るしかない。いや、だいぶ前から開き直っているが今では休んでしまおうかな、なんて考えが浮かんでいる。

 

「だめよ、ちゃんと行きなさい」

 

 呆れたように言われた。

 

「何で分かったんだ?」

 

 聞いてみるが答えは帰ってこない。それどころか無言で俺の顔を見てくる……何故か上海まで。数分ほど目を合わせていたが、ついには根負けをして目をそらした。

 

「わかったわかった、行けばいいんだろ」

 

 少し不貞腐れた仕草でカバンを持つ。我ながら子供っぽいな、なんて考えながら玄関まで移動した。靴を履きドアを開けながら振り向いて声を出す。

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

ーーフリフリ

 

 玄関にまで来たアリスと上海に手を振られ、見送られる。それだけで簡単に機嫌が好くなり、足取りも軽くなった。

 

「今日は歩いて行くか」

 

 余裕を持った笑みで歩き出す。先ほど感じた寂しさはどこにもなく、これからの日々に喜びと幸せが満ちているのを想像し、期待に胸を膨らましている。

 

 残された時間は分からないが、それまでの時間を精一杯過ごそうと思った。




ニヤニヤする部分がワンパターンな気がしてきた。

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