「脳と肺への転移が見つかりました。」
いつもは冷たい声が悲しそうに木霊し、私の耳にはやけに大きく聞こえて耳を塞ぎたくなった。
主治医は少し無愛想な人間だがこんな声も出せるのかと逃避のようなことを脳裏に巡らせるが如何せん言葉のインパクトが大きく、それは大きく私は固まるしか出来なかった。
無機質な白い部屋に薬品の匂いが霞んで次第に景色が歪む。
思い残すような事が無いなんて言わない。
そんなお話の主人公のような大層な人生は送っていない、ただそうしたかった訳でもない。
だが今年中、いや半年の間に自身の命が散ってしまうのだと思えば恐怖に慄き怯えながら死期を待つしか出来ない自分よりは、何かをしてみたかったと馬鹿げたことを今更思うのだ。
後の祭りや後悔という言葉だけでは表せないやりきれない思いは拭えない。
結局は何も出来ずにその数週間後に私はあっさりと死んでしまったのだが。
なにがどうしてか私は謂わば第二の人生を、歩み始めることとなるのだ。
所詮今世の私の名を 黒川 花 というらしい。
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転生というものを容易に想像出来るほど私は死後の事を考えていた訳でもない、何方かと言えば生きているうちに何がしてみたいとか、何を食べたいだとか、積極的にポジティブシンキングをしようとしていた。
まぁ確かに死んだはずの私が第二の生を受け、のうのうと黒川花として暮らしている事に私自身が理解不能であり他に不明な点をあげるのなら、私が本当に死亡したのかすら不明なのだ。
私は病室で不意に意識を失い、次に目覚めたのは黒川花として、だったのだ。つまり意識を失った事を私が勝手に死と捉え今のこれは私の下らない夢かも知れないと言うことだ。まぁ、今は死んだと仮定しておこう。
そして黒川花として、というのは目覚めた瞬間に黒川花の記憶が流れてきたことから黒川花には元々は別の人格、もしくは黒川花本人がいたと思われる。
そして私は何らかの理由によって黒川花になったのだ。
産まれた時から私が黒川花なら疑問など持たずに生活していただろうに、全くもって理解出来ないこの状況。
そして何より私には前世の記憶がある。
両親が海が好きだということから名前は白波と書いてそのまましらなみ。
名字は海原、海原白波だった。
産まれて両親がいて、友達がいて、小中高大学生と成長、市役所へ就職、その後発病、闘病し、28歳で病死した記憶。
どれも鮮明過ぎる。私の記憶そのものだ。
本当に面倒なものを色々持ってきてしまったのだ。
執筆初心者ですので、温かく見守って頂ければ幸いです。