愛する者よ、死に候らえんな。   作:hasegawa

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第五殺、忍者六儀

 

 

「地虫十兵衛の星占いが“大吉“と出た事……はさておき、

 伊賀へ行かれた弦之介さまの御身の事、やはり気になるのぅ」

 

 

 甲賀卍谷、弾正の屋敷の一室。現在室賀豹馬を始めとする甲賀十人衆の内の4人が集まり、弦之介の身を案じ話し合いを行っていた。

 ちなみに十兵衛の占い結果の事はスルーするのが甲賀のお約束だ。弾正も弦之介も、いつ何時、何度占おうとも大吉しか出た事がない。

 ならば何故にこやつらは弦之介の心配をしとるのかという話だが、それはそれ、これはこれ。

 ぶっちゃけた話、我らが弦之介さまがいらっしゃらないと、なんかソワソワするではないか。ただそれだけの話であった。

 

「わしが伊賀まで様子を見に行ってもよいが……」

 

「伊賀の朧さまと弦之介さまが祝言などと……。

 これは、神がわたくしを試そうとしておるとしか思えませぬ。この乙女心をッ!」

 

「今しがた、お胡夷を伊賀へ物見(ものみ)にやってみたぞ」

 

 はやる刑部に対し、すでにお胡夷を使いに出した事を報告する左衛門。間にあった陽炎のセリフは無視している。

 

「おお! なるほど、お胡夷ならば確かに適任じゃ。

 むこうも女であれば多少は気を許すじゃろう」

 

「わたくしでは駄目だったので御座いまするか?」

 

「それに、たとえ弦之介さまにみつかったとしても、

 お胡夷であればさほど叱られはすまいて! なぁ左衛門よ!!」

 

 なんとか陽炎と目を合わせないようにしながら、頑張って左衛門と話す刑部。良い人選じゃと彼の事を褒めてみるのだが、しかしながら左衛門の表情は何故か冴えない。

 

 

「……良い人選、であったかの?

 本当に“あのお胡夷“を外へと出してしもうて、良かった物かの……?」

 

「「………………」」

 

 

 左衛門の問いかけに、思わず黙り込んでしまう刑部と豹馬。陽炎だけは一人キョトンとしているが。

 

「とにかく順番通りにお胡夷を行かせてはみた物の……、俺は正直、不安でたまらぬ。

 なんぞ、いらぬ大事でも起きぬと良いが……」

 

 渋い顔をして俯く左衛門。とりあえず、先程のお胡夷との朝食時の事を回想してみる事にする。

 

 

 

……………

…………………………

 

 

 

 

 

 

『兄さまっ! 地虫十兵衛どのと風待将監どのでは、

 どちらが攻めで、どちらが受けにございましょう!?」

 

 

 

(人が飯を食うておる時に、なんちゅう話をするんじゃ……)

 

 子犬のように愛らしくじゃれつきながら、恐ろしい事を平然と口にするお胡夷。

 我が妹の事ながら、左衛門は戦慄を禁じ得ない。

 

「将監どのには、やはり蜘蛛の巣的な技がありますゆえ!

 それに捕らえられ散らされる地虫どの、というのがやはり本道っ。

 しかしながら地虫どのには、長い長い舌がありまするっ!

 せっかくのこれを攻めに使わぬというのは、なんとももったいのぅございまする!」

 

 

「フンス!」とばかりに息を荒くして盛り上がるお胡夷。ちなみに“攻め“だの“受け“だのという言葉の文化は甲賀にも伊賀にも無い。お胡夷がニュアンスを加味して独自に開発した『お胡夷語』と言うべき物である。

 お胡夷は引き続き、「かまってかまって♡」とばかりに左衛門の身体をグイグイゆする。

 

 

「弾正さまが駿府へと立たれ、弦之介さまが伊賀へと立たれてから、

 お胡夷は凄くたいくつにございまするっ!

 兄さまときたら、せっかくの弦之介さまとの旅路だというのにお供役に名乗りも上げず。

 丈助どのに弦之介さまを寝取られたら、いったいどうするのでございまするかっ!

 お胡夷は悲しゅうございまするっ!」

 

「……ちょっとまてお胡夷。今なんぞ、恐ろしい事を言わなんだか?」

 

 いつものように頑張ってなんとか聞き流していた妹の発言の中に、非常に無視し難い部分を発見する左衛門。

 

「はい! お胡夷は『兄さま♡ × 弦之介さま♡』派の乙女にございますれば!

 お胡夷はいつでも、兄さまの味方にございまするっ♪

 それとも兄さまは、もしかして“受ける方“がよろしゅうございまするか?

 それならばお胡夷が提唱する、『へたれ受け』という流派がございますれば」

 

 ねお甲賀忍法、あいあんくろぅ。お胡夷の顔を鷲掴みにして「ギュ~!」っと力を入れる左衛門。兄さまだって怒る時は怒るのだ。心を鬼にして教育という責務を果たそうぞ。

 

「あ゛ーーっ!!!! 痛ぅございまする! 痛ぅございまする!

 お胡夷は痛いのがだいすきにございまするっ! 兄さま♡ 兄さま♡」

 

 頭を掴まれていながら、いじらしく「イヤンイヤン♪」と身体をくねらせるお胡夷。豊満な乙女の胸がポヨンポヨンと揺れている。

 この鋼鉄の如き心身の妹と、非力な我が身が憎い。あぁ母上さま、願わくばそこは逆に産んで欲しゅう御座った。

 

 

「……そ、そんなに退屈しておるのなら、ひとつ頼まれて欲しい事があるんじゃが。

 お胡夷よ、今から伊賀鍔隠れへと出向き、弦之介さまの様子を見て来てはくれまいか」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 その後、お胡夷は「ひゃっほーい!」とばかりに元気よく伊賀へと出発していった。

 

 里を出るまでは「♪」とばかりに左衛門と腕を組んでみたり、出掛けざまにはフリフリとこちらに手を振っていたりと可愛らしい所もある妹なのだが、それ以上になんとも困ったヤツである事に相違ない。

 

「伊賀の里で、なんぞ問題でも起こさぬとよいが……」

 

 深いため息と共に呟く左衛門に、他の卍谷衆らも無言で同意する。

 いつの間にか心配する対象が“弦之介“から“伊賀衆“へとすり変わっている事に、左衛門たちは何故か気が付かなかった。

 

 

 

……………

…………………………

 

 

 

 

 

「お主ら、ほんとうにやる気はあるんかぃ!!

 縛るなら縛るで、もっとえっちぃ縛り方とかがあるじゃろうがっ!

 これだから伊賀虫とかなんとか言われとるんじゃお主ら!! 真面目にやらぬか!!」

 

 

 ここは伊賀鍔隠れに向かう道中の森。

 その少し開けた場所にて現在、伊賀衆の5人が、お胡夷にマジ説教をされていた。

 

「こんな色気も何もない普通の縛り方をしおって! こ~んなどこも食い込んどらん姿、

 兄さまに見せた所で何とする? 何にもならんじゃろうが!

 “ろまんちっく“は始まらんじゃろうが! くノ一なめとるんか!!」 

 

 申し訳程度という風に腕だけを軽く縛られた状態のお胡夷が、伊賀の5人を地面に正座させ、「ガー!」っとばかりに怒り散らしている。

 

 

 ちなみにこの5人は、先ほど甲賀の里へと赴いてきた帰りだ。監視の忍び達へのサービスとばかりに軽く殺陣(たて)などもしっかりと行ってきた。

 

(あ、これ伊賀鍔隠れの銘菓、赤穂の塩まんじゅうに御座る。

 運動後などの塩分補給にお食べ下され)

 

(これはかたじけのぅ御座る、天膳どの。

 将監達はそちらでなんぞ無茶でもしませんでしたかな?)

 

(いやいや豹馬どの、心配なさるな。手ごわい強敵で御座ったが、

 至極真っ当に我らと忍法勝負を致しまして御座る)

 

 最後などは、迫真の演技で台本通りの緊迫したセリフを言いながら、忍法てれぱしぃの術にて近況を報告し合う二人。

 

「其方ら血迷うて伊賀の里に大挙推参などしようものなら、

 その礼は、客人へと返す事になると知れぃ!!」

(それではこれにてご免致す! 豹馬どの、共にご武運を)

 

(今後とも、よろしゅうお願い致し候)

 

 

 そんな茶番を卍谷でした後、伊賀の面々は予定通り帰りの道中にて甲賀十人衆が一人“お胡夷“を発見したのだ。

 軽いやりとりの後、念鬼とお胡夷とで森での追いかけっこをする流れとなったのだった。

 

「うっわぁ~! 凄い髪の毛の叔父貴じゃぁ~~!!

 もし捕まってしもうたら、お胡夷はあれで“髪の毛ぷれい“をされ、

 凄くえっちぃ事に……! あぁ~! 兄さま~♡」

 

 忍者らしく木の上を飛び移ったりしてカッコよく駆けているというのに、最中にワケのわからん事を叫ぶお胡夷。

 最後は予定通り念鬼の杖を腹に喰らい、木の上から落ち、地面へと倒れた。

 いや、倒れはしたのだが……。

 

 

――見よ。この計算され尽くしたお胡夷の“色っぽいポーズ“を。

――――そして、はだけた乙女の胸元から放たれる、凄まじいまでの色香を。

 

 

(どうじゃー! これが甲賀のくノ一の実力じゃぁぁーッ!!

 出来まいが! そこの貧乳娘には到底出来まいがーッ!! 兄さまーん!)

 

 気絶した演技をせぃというとるのに、なにやらすごく「やりきった!」というドヤ顔で地面に倒れているお胡夷。その姿を見て若干退いている伊賀衆。

 

(甲賀の神髄、見せつけましてございまする!

 さってと、これでわたしの仕事はひとまずお休みじゃな。……さぁ伊賀衆よぃ、

 このお胡夷の身体を手荒に扱うがいい。なるだけえっちぃ感じで)

 

 ここでくノ一的な目に合えば合う程、後で兄さまにヨシヨシと慰めて貰える。よぅ頑張ったと褒めて貰えるかもしれない。

 そんなしょうもない期待に胸をキュンキュンさせながら、お胡夷は黙って伊賀衆へとその身を任せた。

 

(……ん?)

 

 そう、任せはしたのだが……、なにやらその様子が、お胡夷が思っていたのとは大分違っているようなのだ。

 

(…………はて? これは一体?)

 

 

・まず最初に、お胡夷のはだけていた胸元を、蛍火が「キュッ!」と直す。

 

・次に蠟斎が「その姿では寒かろう」と、自分の着ていた羽織をお胡夷へと着せた。

 

・そして小四郎が道中辛くないようにと、木と布を駆使して寝心地の良さそうなタンカを作り、丁寧にお胡夷の身体を乗せる。

 

・同じく念鬼が「力仕事は任せよ!」とばかりに、タンカの反対側を快く受け持つ。

 

・最後に薬師寺天膳が、万が一にも大切な肌に傷がつかないようにと細心の注意を払って、お胡夷の腕まわりだけを丁寧に縛った。やわらかい布で。

 

 

(………………)

 

 お胡夷は人知れず「……グググッ!」っと拳を握りしめ、なんとか堪える。

 監視の目もまだあるやもしれぬ。ここで動くワケにはいかぬ。

 忍びの家の娘として、なんとか耐えとうございまする。

 

 

「よいか、伊賀へと帰ったらば、この娘は客間にでも寝かせておけ。

 捕虜だからとてこのような女子、間違っても塩蔵などに繋ぐでないぞ!」

 

『 なんでじゃぁぁーーーーいッ!!!! 』

 

 

 突然タンカから「ピョーン!」と飛び起きたお胡夷に、おもいっきり「ビクゥ!!」っとする伊賀衆。

 

「塩蔵じゃろが! そこは真っ暗な塩蔵じゃろうが! そらもう捕虜で乙女ときたら、

 蔵とかに繋がれえっちぃ事をされると、相場は決まっておるんじゃい!!

 なにを思いやりと真心を持って親切丁寧に扱ってくれとるんじゃお主らはッ!

 豆腐かわたしは! 豆腐運んどるんかお主らは!!」

 

 地面にへたり込み、「ヒィッ!」と身を寄せ合いながら怯える伊賀衆。こんなにも怖い鬼のような人、今まで見た事無い。

 

『 正座じゃお主ら!! 座れぇーッ!! 』

 

 

 

 まるで忍者のような素早さで、伊賀衆5人は正座の態勢となった。

 

 

……………

…………………………

 

 

 

(ええか、伊賀の薬師寺さまよ。鍔隠れの里へと帰ったら、

 このわたしをちゃんと塩蔵へと繋ぐんじゃぞ。もちろん容赦なく裸にひん剥いて、

 なるだけえっちぃ感じで縛るのじゃ。色々食い込むようにの。あぁ哀れ美少女くノ一、

 無念にも敵の手に落ちまして候、という寸法じゃ♪)

 

 

 ひとしきりお胡夷の怒りが天地に木霊した後、お胡夷を含めた伊賀鍔隠れ衆はようやっと里への帰路につく事が出来た。

 着物もちゃんと元に戻し(はだけさせ)、お胡夷は今、念鬼によって手荒く肩へと背負われている。もちろんお胡夷監督の指示によって。

 

(ちょっと難しい話になるのじゃが、こうしておけばこの後の展開がどうなるのかと、

 凄く気になるじゃろう? この哀れな乙女はいったいどうなってしまうのかと、

 すごく続きが見たくなるじゃろう? これぞ忍法“ひき“という物じゃ♪

 陽炎どのの部屋にあるえっちぃ本は、みんなこうなっておるんじゃぞ?)

 

 忍法てれぱしぃの術で延々と“基本“という物を叩き込むお胡夷。聞かされている伊賀衆の顔は、みんなげんなりとしている。

 

 

(よいか? 尋問だの拷問だのをする時はな? 蠟斎のじい様や念鬼どののような、

 出来るだけ汚いおっさんの方が良いのじゃ。

 本来ならば小四郎どののような若い男子が乙女には似合うんじゃろうけどな?

 それではイカン! こちとら遊びでくノ一やっとるワケではないのじゃから!

 麗しい女子と醜い男の対比……。これぞ乙女の美しき肌を際立たせる為の、

 重要な“てくにっく“というヤツじゃ。陽炎どのの部屋にある本は、みんなこう……)

 

 

 声ではなく“てれぱしぃ“ゆえ、耳を塞いでもしっかりと聞こえてきよるわぃ……。

 まったく、“ふぁっく“に御座いまするなぁ。これぞ、米利堅(メリケン)言葉に御座いますれば。

 

 

 降りしきる雨が冷たい。心も寒い。

 早く帰って弦之介さま達のお顔がみたいなぁと思う、伊賀鍔隠れ衆であった。

 

 

 

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