「それで、何なのですか天膳? 大切な話とは……」
伊賀鍔隠れ、お幻屋敷。話があると呼び出された朧は、天膳の部屋へと赴いていた。
そこには目を伏せたまま、難しい顔で黙り込む薬師寺天膳の姿。なにやらただならぬ雰囲気を感じ取り、朧は息を呑む。
「事この期に及んで、あれこれと考え申したが……」
苦悶に満ちた声色。そして真剣な佇まいの天膳。
「やはり、有り体にお伝え致す。
心してお聞きくだされ、朧様。」
やがてゆっくりと目を開いた天膳が、真っすぐに朧を見つめ、聞き間違いようも無い程のはっきりとした声で、告げる。
「服部家との間で交わされた、伊賀と甲賀の、不戦の約定。
此度、駿府の大御所、家康さまの命により――」
外は雨が振り続く。
雨雲は伊賀鍔隠れを暖かな光から覆い隠し、冷たい雨で濡らしていく。
「――――解かれ申した」
そして、悲しみを雨音が掻き消していった。
……………
…………………………
「捕らわれの身に迫る、蹂躙と汚辱……。
戦慄の秘術が今、ついに明かされるッ!」
お幻屋敷の塩蔵。
現在お胡夷は、自ら指示した通りに裸にひん剥かれ、そこに縄で繋がれている。
「野生美に満ち満ちた、豊麗なる乙女のこあく……。
凄惨なる蔵の檻に、むつくけき者が転がり……、這う!」
真っ暗な藏の中、お胡夷はどこか芝居がかった口調で、役者のように一人つぶやいている。
「――――そして忍び寄る、“春の夢、破られし時“」(どや顔)
現在、お胡夷は絶好調だ。
「次回ッ、バジリスク甲賀忍法帖ッ。――――『人肌地獄』
…………っと、きたもんじゃあ!!」
「ガッハッハ!」と笑う声が、塩蔵に響く。
「あ~♪ 何度言ってみても良いものじゃて!
これはもうたまらんじゃろう! 前かがみじゃろう!
いわゆる、“パンツを脱いで待機“というヤツじゃ!
おっと、これは風邪をひかせてしまうかのぅ~?」
「ガッハッハ!」と笑う声が、うるさいくらいに塩蔵に響く。素っ裸でルンルンと身体を揺らし、お胡夷はご機嫌であった。大きな胸がポインポインと揺れる。
「へっくちゅん! ……おぉ~さぶさぶ。でもここは我慢じゃて。
“えろす“の為にはこのお胡夷、ひと肌どころか、ただいま素っ裸じゃ!
まさにくノ一の鏡じゃな♪」
ズビビッと鼻をすすりながらも、お胡夷は元気いっぱいである。
「さって、身体も冷えてきとるし、オシッコに行きとうございまするのじゃが……。
聞く所によれば、殿方の中には、そうゆうのが好きなお方もおると聞く……。
ここは尋問だの拷問だのをされておる時、モジモジといじらしく前振りを入れてから、
恐怖のあまりにおもわず『じょわ~……』っというのも……。
可憐な乙女の、妖艶なるおもらしか……」
眉間にシワを寄せ、お胡夷は「……うむむ」と考え込む。
「――――――――よっし!!」
何が「よっし!」なのかは皆目見当がつかないが、とりあえずお胡夷は、満足そうにウンウンと頷く。
「わたし、“恥辱“みたいなんは、けっこう大事じゃと思う」
誰に聞かせるわけでもなく、引き続きお胡夷はウンウンと頷いた。
……………
…………………………
「……さって、そろそろ事が始まる頃合いじゃが、
ここでもう一度、作戦を確認しておくとしようかの!」
ニコニコしながら、お胡夷は今後の事について思いを巡らせる。
バカなのか真面目なのかはよく解らないが、少なくともお胡夷は本気で頑張ってはいるのだ。此度の晴れ舞台に並々ならぬ想いで臨んでいるのは間違いない。
「とにかく……、どれだけえっちぃ事をねじ込めるかが、焦点となってくるのぅ……。
甲賀のくノ一ここにありというのを、伊賀者たちに見せつけてやらねばいかん!
隙あらば“えろす“をねじ込んでいく、そのくらいの心構えでいかねばっ」
クネクネしながら「あーでもない、こーでもない」と、グラドルもかくやという勢いでえっちぃポーズを吟味していくお胡夷。その瞳は、情熱の炎に燃えている。
「この後は蠟斎の爺さまがあたりがくるハズじゃ。
とりあえず最初はいじらしく、モジモジと無力な少女を装ってじゃな……」
…………………………
捕らわれ、縛られ、裸にひん剥かれ。その愛らしい顔を恐怖に歪めておる可憐な乙女。
それを爺さまは“さですてぃっく“な笑みを浮かべ、じわじわと追い詰めていくワケじゃ。
そこに積んである塩の俵を「えやー!」とか言いつつ破いてみたり、「言わねばお前もこうなるぞ」とか言いつつ、その恐ろしい顔でわたしを脅かしてくるんじゃろうな。
わたしはイヤンイヤンと身をくねらせ、おしっこ漏らしたり、健気に顔を背けたりなんかしながらビクビクと怯える。おっぱいプルプルさせながらの。
そうすれは爺さまは「うっひっひ♪」とか言いつつ、わたしの身体に触ったり撫でたりしとうなってくる。野獣のような目を向けてくるハズじゃ。
じゃが、そうは問屋が卸さんっ。乙女の肌は、そんなに安ぅないのじゃっ。
そこで! わたしは爺さまの肌に「ペター!」っと張り付き、ギューっと抱き着く!
そんでそこから「チュー!」っと血を吸うたるワケじゃ!
これぞ忍法、人肌地獄! 哀れ蠟斎の爺さまは、「ぎゃあ~!」とか「ぬわー!」とか言いながら、あっという間に干からびてしまうという寸法よ♪
「一滴残らず、搾り取ってくれるっ!」……というヤツじゃな♪
今まで散々“いたいけな乙女“といういめぇじの種をまいてきたんじゃから、ここで一気にえろす! えろすたいむ!
これぞ忍法“ぎゃっぷ“というヤツじゃ♪ 米利堅(メリケン)言葉に御座いまするぞ。どんなもんじゃい。
わたしの忍術を見た全国の青少年達は、すべからく『衝撃的な光景に戦慄しながらも、とりあえずお胡夷のおっぱいをガン見する』という、非常にワケのわからん状況となる事じゃろう。
もうパンツ下ろせばよいのやら、上げればよいのやら。
貴重な経験なのじゃから、悔いのないよう好きな方を選べばええと、お胡夷は思いまする。
おかあさんに見られないようにだけ、ちゃんと気を付けるんじゃぞ♡
その後はあのナメクジみたいなオッサンがわたしにエロい事をしに来たり、剛毛の叔父貴がやってきたりするじゃろうから、同じようにえっちく戦っていけばええ。
叔父貴の剛毛の前に、「に、忍術が効かぬ!?」となったわたしが、哀れにも無残にやられてしまうという展開も、ひじょうに美味しゅうござりまするな!
……哀れ美少女くノ一、想い破れ、儚く散りゆき候。
どんな風にえっちく倒れてやるかが、腕の見せ所どころじゃ。
ちなみに、これはまったく関係のない話なのじゃが……。
弾正さま原作の小説「甲賀忍法帖」で、わたしと剛毛の叔父貴との戦闘時の文章に
『まるで乙女が、巨大な猿に犯されているかのような……』的な一文があってのぅ……。
――――あれは正直、キュンキュンいたしました。物凄く興奮いたしました、わたくし。
わたしと叔父貴との取っ組み合いの場面じゃったし、ぼかした書き方じゃったので本当に散らされておったのかどうは、正直わからんのじゃが……。
とにもかくにも、ものすごく読んでいて胸が熱うなった憶えがございまする。
夢を頂きまして、ありがとう御座いまする。この場を借りてお礼を申し上げまする。
何とは申せませぬが、いつもお世話になっておりまする。
かたじけのぅ、かたじけのぅ……。
…………………………
「お胡夷どの……、おられるか?」
なんやかんやといらん妄想に胸を膨らませている内に、塩蔵の扉が空いた。そしてそこから松明をもった蠟斎老が現れ、何故か敬語でお胡夷へと話しかけた。
「…………」
もちろんバッチリと聞こえてはいるのだが、お胡夷は目を背け、それに無言を返す。
もう戦いは始まっているのだ。しっかりと“きゃら作り“にも抜かりはないお胡夷だった。ももを擦り合わせモジモジ。いじらしくいじらしく。えっちくえっちく。
「命を受けました通り、どのように“尋問“とやらをするか……。
あれこれ悩み申したが、腹が決まり申した」
蠟斎は近くの塩俵の隙間に松明を差し込み、手を自由にする。
これから、待ちにまった忍法比べ(?)の幕が、切って落とされるのだ。
(先のあのような展開となれば、まさにくノ一の本懐ッ! 大成功と言えるじゃろう!!
お胡夷は甲賀のくノ一として、精一杯がんばりまするっ! あぁん、兄さまーん♡)
――捕らわれのくノ一。 その身に今、恥辱の時が迫る。
――――お胡夷は人知れず、ニヤリと口角を上げた。
………………
…………………………
「――――お胡夷どのぉぉー!! どうかお許しをっ! お許しくだされぇぇーーッッ!!」
バシャッ!! バシャン!! バッシャーーンッ!!
「お胡夷どのっ! 降参をっ! 降参と言うてくだされぇぇーーッッ!!」
バチバチッ!! バチバチバチ~~ッッ!!
「……う゛ぶ゛っ! ぶべっ!!…………って、なんでじゃぁぁーーーッッ!!!!」
只今塩蔵では、お胡夷が水をぶっかけられ、豆をぶつけられていた。
「どうか一言、『まいった!』と言って下され!
後生で御座いますお胡夷どの! お胡夷どのぉーーッ!!」
極力お胡夷に近づかないようにして、遠くから矢次に桶の水をぶっかける陣五郎。
その隣では蠟斎が、お胡夷に向かって必死に豆(節分用)を投げている。
「ワシらは人別帖からアンタの名前を消せさえすれば、それでええんじゃ!
どうか降参して下されお胡夷どの! 悪いようにはせぬ! 後生じゃ!!」
「ん゛ふ゛っ! い゛ぃ゛~ッ!! ……い、いたいッ! ……ちべたいッッ!!」
ひたすら必死こいて、水やら豆やらで遠距離攻撃していく蠟斎&陣五郎。「ムキャー!」っともがくお胡夷。
とにかく、お胡夷に近づきたくない。近寄ったら何されるかわからん。
「もう忍法とか、どうでもええんじゃわ!!
陣五郎! 蛍火を呼んで来い! 羽か何かで、お胡夷どのをくすぐらせるんじゃ!!」
「……そ、それはいかんぞ蠟斎! こやつに近寄らせてはいかん! 蛍火が危ないっ!」
『 おっ……、おぬしらぁぁぁーーーッッ!!!! 』
蠟斎&陣五郎が「ビクゥッ!!」と跳ね上がる。マサイの戦士のような膝を使わないジャンプで「ピョーン!」とその場から飛んだ。
『 なんで豆なげとるんじゃ! 痛いじゃろうが!!
水はまぁ、解らん事もないわ! でもなんで、えっちぃ事をせんのじゃッ!! 』
地面にへたり込み、抱き合いながらブルブルと震える蠟斎&陣五郎。こんな鬼のように怖い人、今まで見た事がない。
『 くノ一じゃ! くノ一がやって来とるんじゃろうがッ! お主らの、ハウスに!!
えっちぃ事をッ、せんかぁぁーーーッッ!!!! 』
お胡夷の魂の叫びが伊賀の里に木霊する。雨だと言うのに森から鳥たちがバサバサと飛んで行った。やばいやばいと。
「水かけて! 豆ぶつけて! 参ったと言うて! ……なんじゃッ!!
そんなもんで殿方の情欲が静まるかぁ!! 馬鹿にしとるんか!!!!」
「にっぽん昔ばなしかっ!!」というお胡夷の叫び声に、蠟斎が数珠を握ってナムナムと拝み出す。「堪忍してくだされぇ! もうすぐわしには孫が産まれるんじゃあ!」と、陣五郎が農民のように伏して懇願する。
「ほっっんがぁーーッ!!」ブチブチィ!!
――気合一閃。お胡夷が自力で縄を引き千切る。
もう勘弁ならんと、無駄に胸がポヨンポヨンと揺れる。
「ぎゃあぁぁ!!」という二人の叫び声が伊賀の里に木霊した。またバサバサと鳥たちが飛んでいく。
『 ――――忍法ッ、人肌地獄ぅぅッッ!! 』
「いぎゃぁーーっ!!」と叫びながら蠟斎が、その場から一瞬にしてお胡夷の胸へ飛び込む。
いや、自ら飛び込んだのではない。“吸い寄せられたのだ“
十メートル程はあった距離から、一瞬にしてお胡夷の身体が蠟斎を“吸引“した。
『乙女の肌にはのぅ……、黙っておってもぉ! 殿方が寄ってくるんじゃぁーー!!』
無茶苦茶な事を言うお胡夷。だがそれが彼女の“ねお甲賀忍法、人肌地獄“の威力。
その後すぐ、「チューー!!」「ひぎゃー!!」というほんの一瞬のやり取りで、蠟斎がカラッカラとなって地面へと倒れた。
そのまま、ピクリとも動かなくなる蠟斎。なんとか死んではいないようだが……。
「……おっ、お助けぇぇーー!! 弦之介さまぁぁーーーッッ!!」
『 ――――逃がすか馬鹿者ッ! 人肌地獄ぅぅッッ!! 』
何故かピンチで弦之介の名を呼ぶ陣五郎。なんとか出入り口のふちにしがみつき、洗濯物みたいになりながらも必死で吸引に耐える。ジャッキーチェンもかくやというスタントアクションだ。
「……おい陣五郎。なんぞあったのか…………ってぬぅおぉぉぉぉ!!!!」
『 ――――誰じゃお前っ! 人肌地獄ぅぅッッ!! 』
様子を見に来た念鬼も吸引するお胡夷。出入り口にしがみつくジャッキーチェンが二人になった。大変に豪華なキャストだ。
「念鬼どの、どうかなさいまし……きゃぁぁーーっ!!」
『 ――――人肌地獄ぅぅぅッッ!!!! 』
さらに様子を見に来た蛍火も吸引するお胡夷。女ジャッキーチェンが誕生し、仲間に加わった。
「……いいえ許しませぬ! 卍谷の娘を塩蔵に捕らえておくなど、
わたくしは許しませ……きゃぁぁぁ~~~~~~~っっ!!!!」
「朧さまっ、聞き分けられ……うぉぉぉぉーーーーーーッッ!!」
『 ――――人肌地獄ぅぅぅッッ!!!! 』
恐らくお胡夷を助けに来たのであろう朧、そしてそれを追ってきた薬師寺天膳までもを容赦なく吸引するお胡夷。出入り口がしがみついている人々で一杯になり、こいのぼりみたいになっている。
「…………お胡夷! お胡夷っ! 無事でおるかッッ!!」
「……あっ、兄さまっ!? 『――――よっしゃあ!! 人肌地獄ぅぅぅッッ!!!!(強) 』
そして、必死にここへと駆けつけてきた左衛門(兄さま)を、お胡夷が吸引する。
どうやら対象をピンポイントで吸引する事も出来るようで、「ぬおぉぉーッ!」と叫び声を上げる左衛門が一瞬にして「ポフッ♪」とお胡夷の胸の中へと収まった。
それ以外の面子は全員、重なり合って「ドテェー!」っとその場に倒れる。
――――『 一滴残らず、絞り取ってくれるッ!! 』(意味深)
…………………………
……そしてお胡夷が左衛門の身体を「ギュ~!」っと抱きしめて(何故か気絶させ)、そのまま外へと飛び出し、夜の闇の中と消えていった。
――お胡夷は走る。 どこか静かな、落ち着ける場所へ。
――――くノ一の矜持も使命も投げ捨てて、“乙女の本懐“を果たすべく……。
ちなみに後で兄さまに、今回の事を少し怒られそうになった時……。
「兄さまは変装していらしたゆえ、解りませんでした! えへっ♡」
なにやら凄くツヤツヤとし、とても幸せそうな顔をしたお胡夷は、その一言で全てを済ませた。
あの時、森中に響いていたかと思われた、お胡夷の可愛らしい艶声。
それは雨音が、上手に隠してくれていた。