ガンプラ関連の教育機関において日本で最大の所有面積を誇る萌煌学園は初等部・中等部・高等部・研究生と、それぞれ独立した施設を山岳地帯に設けており目当ての建物を探そうものなら半日以上掛かるほどには広い。
目の前で月光に晒されている施設────研究棟はその白亜の外壁をひっそりと学園敷地内の外れに潜め、多少探すのに手間取ったがなんとか目的地に到着する。
…………学園研究棟をしっかりと見たのは初めてだ。
リュウは3年生になった今年でプロへの試験を合格し、そのまま日本の小さな大会から挑んでいこうと決めていた。多くの同期連中がそうであり、そして全国からプロになるために集ったガンプラファイター達が振るいにかけられ全体の2割程がめでたくプロとして活動する。
しかし中には自分のガンプラ製作技術を高めたり、プラフスキー粒子に興味を持ったり、筐体の仕組みをより詳しく知りたいと思った人間も居るようで、そういった生徒は研究生として加えて2年在籍することが許されている。
研究棟はそのような研究生の学舎で授業は存在せず、学生とプロの技術者が隔てなく共にガンプラを活躍させる技術を昼夜関係なく研究している機関だ。
「ちなみに聞くけど、その保険医ってどんな人か知っていたりするのか?」
「……そうだね、君に似ているよ。ほら、ここが入り口だ」
いまいち少年の言うことが理解できず、
自動ドアは近付いても反応せず代わりにドア手前の機械が赤色に点滅する。見たところ入るには鍵となるものが必要らしいが、リュウの掌には丁度学生証の代わりにもなるデバイスが握ってあり、端末にかざすと緑色の点滅へと切り替わり自動ドアが開いた。中は明かりが付いておらず、また付く気配もない。正直言うと不気味な雰囲気を漂わせる暗闇の通路に尻込みしていると後ろから声がかかる。
「入ってすぐに電源がある」
少年の言葉に従って施設へ入れば、かつん、と。反響する足音はどうやら研究棟が地下にまで届いてる事を示唆しているらしく音が返ってこないあたりかなり広い。
少年に言われた通り壁に目を凝らし電源を探すが見当たらず、もう少し奥の方だろうかと足を進めた、その時だった。
「……は?」
パシュンと、突然のドアが閉まる音に何事かと慌てて振り替える。
少年はまだ外で待機しており、再びドアを開くには自分のデバイスが必要だ。内側からドアロックを解除する機械を探すがそれが見当たらない。
「ごめんごめん! 今なんとかして開けるから! …………あれ!? 内側からドアが開かないって作ったやつ頭おかしいんじゃねぇか!?」
壁も床も、天井まで虫の目で探すが見付けられず、どうしたものかと少年に相談しようとドアを隔てた外を見る。
月明かりが少年の顔を照らし、微笑むような
「って、あ! 君ちょっと!」
上がった口角のままに一礼して見せ、少年は足取り早く森へと駆けていってしまった。
状況を上手く理解できず固まるが今は本当に時間が惜しい、
「ったく子供の悪戯にあうとかツイてねぇ……」
ともあれ彼の身体に大事は無いようで、そこだけは唯一リュウにとって安堵出来る点だった。
振り返れば研究棟の通路は一寸先すら夜闇の影に呑まれて子細を窺う事すら叶わない。
仕方なしにスマートフォンで明かりを付け、一刻も早くここから脱出するため先が見えない通路へ足を踏み出した。