ガンダムビルドアウターズ   作:ク ル ル

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4章13話『ハンプティ・ダンプティ:前』

 空間に自意識が構築(こうちく)されるこの感覚をどう表現して良いか、未だにリュウはその未知の体験に困惑をしながら気が付けば操縦桿を握っていた。

 液体とも粒子とも言えない物に自身が変換され(またた)く間に身体が形取られるとでも例えるべきか、機動戦士ガンダム00で見られる量子化という現象も現実で再現したらこういった形になるのかと、思考をリュウは1度かぶりを振って状況を確認する。

 そして、直ぐに異変を感付いた。

 

「ここは、電脳世界(アウター)の……行き止まり?」

 

 一面に漂う小隕石の数々、見渡せども広がる宇宙(そら)荘厳(そうごん)に、しかし正面モニタ右上に表示されたレーダーマップは戦域に赤線と光る不可視の壁を知らせている。

 ごく(わず)かな曲線を描くよう広大に続く空間の壁は、ここが電脳世界(アウター)の果てということを主張していた。

 

『……“最果て”』

 

「らしいな。レーダーに敵影は無し……、ナナは何か感じるか?」

 

 少女の否定を示す無言に、リュウは目視(もくし)での警戒を始める。

 バトルフィールドがデブリ帯というのは前もってリホから知らされていた事だ。仮に敵がファイターとするならば、既に転移をして何処(どこ)かに潜んでいる可能性も否定できない。

 ふと、デブリから(うかが)える彼方に、先日カレンと戦闘を行った暗礁地帯が見え不意に胸が痛んだ。

 

「もう、隠れて何かをするのはごめんだ……」

 

 後日謝罪をしたいというのがリュウの本音だった。

 プロの試験を受けるための勝率は1度でもラインを満たせば剥奪(はくだつ)されることはなく、後は下がろうが上がろうが関係ない。この戦闘が終わったら酷く当たってしまった皆と、カレンにちゃんと謝ろう。

 操縦桿を握る腕に一層力が籠る。

 

『……っ!? 10時の方向、高速で接近する物体を確認。同調する時間がありません、リュウさん!』

 

「いきなりかっ! ……ぐぅッッ!」

 

 少女の声が終わると同時、警告音(アラート)

 レーダーで物を確認するよりも前に正面モニタが赤く点滅し回避を(うなが)す。空間を横に転がり込む形でHiーガンダムを回避させ、つい今まで後方を(ただよ)っていたデブリが弾け飛んだ。

 勢いを殺さずに()()は更に後方のデブリさえ貫通し、やがて一際大きな粉塵を巻き上げて停止する。

 レーダーを再び確認し追撃が無い事を確証してからアイセンサを未だ立ち込める噴煙へ。

 

 ……それは、黄金の。

 ────暗影の宇宙《そら》でも輝く、黄金の長槍だった。

 

 きらびやかな装飾からの黄金ではなく、塗装による特殊合金の再現だ。刃には歪な返しが見受けられ、機能美の果ての禍々(まがまが)しさを一目で感じられる。

 ビ──……ン、と。突き刺さった両刃の長槍は震え、レーダーに写らない敵の存在に全身が粟立(あわだ)った。

 

「────ナナっ!」

 

 声に反応は無い。

 意識の片隅、じんと熱を帯びた箇所に存在する少女は無言で、数瞬後すぐさま反応が反ってくる。

 なんだ……? 呼び掛けに答えないなんて事、今まで。

 

『すみませんっ、大丈夫です』

 

「……? ────行くぞッ!」

 

『『────リンクッ、アウターズ!!』』

 

 重なる声と共に視界が弾け身体の主導権がリュウから少女へと明け渡される。

 Linkの際リュウが行う事は視界情報を少女に届ける事で、──正面モニタ、デブリから(かす)かに覗ける彼方の景色の中に異様な輝きを確認した。

 彗星(すいせい)の如く尾を引く光明(こうみょう)は花弁にも見える輝きを(ほとばし)らせながらこちらへ直進を続ける。

 光が、一際強く耀(かがや)いた。

 

「────ッッ!!?」

 

 高速で飛来する物体はHiーガンダムの横を通り過ぎる軌道だったが、突如機体の上体を()るよう取られた回避行動にリュウは声をあげることもままならない。

 疑問のままモニタを見やればHiーガンダムに隣接(りんせつ)していた小隕石が、寸断(すんだん)狂わず横に真っ二つへと分かれていた。

 

「な、にが……!?」

 

 目視でもレーダーフリップでも認識が及ばない速度域。姿の(はし)さえ捉えられなかった攻撃は、しかし熱源を(もっ)て先程投合された槍にポイントが合わさる。

 まさか、今のは。

 

「今のが、MSの速度、……なのか?」

 

 不意に(こぼ)れた疑問と、粉塵(ふんじん)が巻き上がるのは同時。

 深々と突き刺さっていた長槍をなんの抵抗も無く抜き取り、深紫(しんし)のシルエットの中にツインアイが血の色にも似た光芒(こうぼう)をぎらつかせる。

 逆立つ装甲と、極端に細い背骨を思わせる腰の造形。機体の周囲を無秩序(むちつじょ)にたなびく一振りの大剣と、……胸部に搭載されたエイハブリアクター。

 

 ────レギュレーション600。ガンダムエリゴス。

 

 ぐりん! と頭部がHiーガンダムを向いて、思わず悪寒(おかん)が意識に走る。

 胸が警鐘(けいしょう)を鳴らし、アイツは()()がヤバいと本能が叫んだ。獣じみた挙動で身を(かが)め、こちらを(うかが)う様子に、少女もHiーガンダム左腕からGNタチを解放して掴み、構える。

 

「頼んだぞ────、ナナっ!」

 

 突貫するHiーガンダム、対してエリゴスは迎撃体勢と呼べる物を取っていない。スラスターに火が灯っている様子もなく、クライチングスタートのような姿勢で頭だけこちらを向いている状態。

 先手を取ったと、そう実感した。

 

「えっ────?」

 

 警告音も、センサにも反応は無く。

 意識は目の前の敵機に集中されていた、──その筈だった。

 困惑と共に正面モニタ右上レーダーを見ればエリゴスはHiーガンダム遥か()()。遅れてけたたましい警告音(アラート)(おびただ)しい数の赤い警告が画面を埋め尽くす。

 

 ────右腕損失。右バインダー全壊。

 

 今の、一瞬で────? 

 

 (あわ)てた様子で少女がHiーガンダムを反転させれば、遥か向こうのデブリにもぎ取った片腕を無造作に握り、そのまま圧壊(あっかい)させるエリゴスが背中を向けて(たたず)んでいる。

 この、いっそ笑えてしまえる状況をリュウは体験をしたことがあった。

 覚えているということはこれは苦い記憶か、以前ヴィルフリートと戦闘をした際、張り詰めた神経で目を見開いていたにも関わらず認識が出来なかった刀による一閃(いっせん)

 (けた)外れの機体性能と並外れた操縦技術から来る認識外の攻撃、その時の感覚に良く似ていた。

 

「……いや、だ」

 

 違うとすれば。

 

「いやだ、いやだっ」

 

 Linkを行っている状態で、撃墜されればリュウが死ぬということ。

 今まで絶勝を誇っていた為か、実感が薄れていた事実にカチカチと歯が震える。

 押し寄せる負の感情の中、少女の声が1つ、響いた。

 

『リュウさん、負けたくないですか……?』

 

「あ、当たり前だッッ!! だって、負けたら、負けたら帰れなくなる────何のために今まで俺は頑張ったんだッッ!!?」

 

 臆面も無く叫ぶ声に、意識の少女が(はかな)微笑(ほほえ)んだ気配を(にじ)ませた。

 

『ですよね。────その為にリュウさんは色んな物を犠牲に頑張ったんですから』

 

 声は小さく、自分に言い聞かせるように。

 言葉の意図も分からないままリュウは、呆然(ぼうぜん)とそれを聞き入れた。

 

『だから、私も気が変わりました。────抵抗を、させて頂きます』

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